17話
ぐふふ、一匹金貨150枚やで。笑いを抑えられまへんな~。
剣歯狐を急遽狩ることになったランドルフ。彼はお金の事ばかり考えていた。
お金があれば武器や魔石を買って色々試してみるんだ~。わくわくが止まりませんな~。
彼はスプモーニの屋敷から帰るときに馬車から街並みを眺めていた。そしてすでに剣歯狐を狩ってお金を得られるつもりの彼は、武器や防具を扱う店、この国の食べ物。魔道具や薬屋など、通りにあるめぼしいものはチェックしていた。
お金があればそれらが手に入る。そう思うと胸のうちの衝動を抑えられなかった。
それに、スプモーニの屋敷に行ったときに、手土産の一つでも持っていったほうが良かったのかと今更ながらに少し後悔していた。船長にはお世話になったのだ。それくらい当然である。
同じ失敗はしない。ならば辺境伯への手土産に剣歯狐を献上するのもいいかもしれない。彼はそう考えた。決してお金だけに目がくらんだわけじゃないと。
日も落ち始めているが辺境伯への挨拶もあるので早いほうがいいだろうと、その日のうちに狩ることにした。北の方角を光の魔法で望遠し。加地棘山を確認すると、ジュレップを探して一言伝えておく。
「ジュレップ様。ちょっとお出かけしてきますね!!」
「なら護衛を付けよう。もうすぐ夕飯だからあまり遅くならないようにね?」
ジュレップはランドルフが初めて人の多い街来たので、浮かれて色々見て回りたいんだなと思っていた。
だがそれは間違いであった。確かにランドルフは色々見て回りたかったのは事実だが、それよりもただお金に目がくらんでいたのだった。
もし彼がそのまま剣歯狐を狩りに行くと知っていたら、今日は無理でも、時間ができた日にちゃんとした装備をさせ、人を集め、狩るための準備をさせたであろう。
「大丈夫です。ちょっとお空で散歩するだけなんで!!」
「ふむ……。まぁ、君の事だから大丈夫だろうが気をつけてね?」
「はい!!それじゃ行ってきますっ!!」
挨拶を済ませると、そそくさとデンに乗って飛んでいってしまった。
ジュレップはそれを見送り、飛んでいった方向を眺めた。……そして彼は気が付いてしまった。ランドルフがどこへ行こうとしているのかを。
今から慌てて準備をして、追いかけていっても間に合わない。加地棘山には馬でも一日はかかる。彼は夕飯には戻ると約束したので大丈夫だろうとは思う。しかし剣歯狐は危険な魔物、もし討伐に行ったのなら……どこか不安は拭えなかった。結局信じて待つしかない。
「はぁ……」
ちゃんと確認するべきだったと思わずため息が出てしまった。
「こちら狼。山の中腹に着いた、次の指示を待つ。オーヴァー。」
「うぉふ?」
ランドルフがわけのわからないことを言ったので思わず首をかしげたデン。今彼らは、山の中腹の岩肌がむき出しの所に伏せて隠れている。
「結構ひんやりしてるね、さっさと倒して帰ろう。デン、匂いで何かわからない?」
ランドルフも探知魔法を使っているが剣歯狐がいる気配がない。仕方ないので少し移動することにする。
「ん~、ぜんぜん見当たらないね。せっかくだから山頂の棘のところ行こうか」
ランドルフは山頂から見下ろす形で探すことにした。何か動きがあればわかるかもしれない。
「は~。本当に岩が生えてるみたいだな~。どうやってこんな形になったんだ?」
棘の部分に恐る恐る乗ってみる。そこに寝転がって観察することにした。
「―――ん~……いたっ!!周りの色と同化しててわかりにくい。しかもまったく動いてないから本当に岩のようだ」
姿を消し、気配を消し、音を消し、匂いを消す。静かに剣歯狐の上空へ進む。こっちに気づいた様子は無い。
他に仲間がいないか探知魔法で探る。すると剣歯狐の首だけがあたりを窺うように動いた。
やっべ、わからないように抑えて魔法使っているつもりなのに察知するのか。警戒心強すぎるな。だがまだこちらには気づいていないな。雷を落とすか?いや、毛皮が焦げ付いたら困るし物理で行くか。
剣歯狐の上に今度は気づかれないように、注意を払いながら静かに大きな石をだす。警戒心が解けるのを待って、高い位置から頭めがけて一気に落とす!!
「ゴッ」っと鈍い音がした。どうやらうまく命中したようだ。
「くそっ!!まだ生きてるっ。デンッ、獲り押さえて電気ショック!!」
「うぉふ!!」
いきなり頭に大きな石をぶつけられ、フラフラになりながらその場から逃げようとする剣歯狐。
しかしデンの巨体に上から圧し掛かられ、それと同時にランドルフはデンから飛び降り、角から放たれた電気によって剣歯狐はビクビクと痙攣し、やがて動かなくなった。
「ふぅ、結局電気で倒してしまった。やっぱ魔物ってのは思った以上にしぶとい。頭蓋骨砕くぐらいの勢いで落としたつもりだったんだけどな……」
死んでいるのを確認して、大きさを見る。
「デンッ、ナイスな反応だったぞっ!!よくやったなっ!!」
デンを撫でて褒めるのも忘れない。まだ電気が残っているのか、少しピリピリとするがお構いなしに撫でる。尻尾を振ってうれしそうだ。
でっかい牙だな~、確かに魔力を感じる。これでいい武器を作ったりするんだろうか?毛皮も頑丈そうだし個人的にも狩って装備作ってもらおうかな?尻尾も結構魔力が含まれているし、高い理由がわかる気もするな~。魔石も期待できそうだし。
大きさは大型犬ほどだが、見た目よりももっと重そうな感じがした。引き締まっていて筋肉がすごいのだ。きっと良い獲物だったに違いない。
検分を済ませ、日も暮れてきたので帰ろうと、仕留めた獲物を浮かせて持ち運ぶ。
上空からさっさと帰ろうと浮き上がったところで、同じ大きさほどの剣歯狐をもう一匹発見してしまった。先ほどの戦闘音にキョロキョロと警戒していた様子だったが、それがアダとなった。
せっかくなので同じ要領で近づき仕留める事にする。
先ほどは勢いよくぶつけたつもりだが一撃では倒せなかったため、もう少し強めに落とす。
今度はうまく倒れてくれた。だが近づいて確認すると気絶しただけでまだ息があった。電気ショックで心臓を止めて息の根を止める。
むぅ~、しぶとすぎて加減がわからないよ~。あまりやりすぎると頭破裂させちゃいそうで怖い。わざわざえぐいのを見たいわけでもないし、うまい倒し方を考えないとな。窒息させてみるか?でもなんかかわいそうだしな……やるなら一思いにやってあげたほうがいいか。次はさらに強くぶつけてみよう。
こうして二匹の剣歯狐を仕留めて持ち帰ることができた。
「ただいま~」
剣歯狐を浮かせ持って、上空からいきなりランドルフが帰ってきたのがわかると、門番は慌てて中に入ってジュレップを呼びに言った。
「やあ、ランドルフ君。無事に帰ってきてなによりだよ」
ジュレップはランドルフのそばに置いてある獲物をチラリと見るも。すぐに目の前の子供に視線を戻す。
うわ~、ニコニコ笑顔の裏に黒いオーラが見える気がする~。
不気味な威圧感に思わず一歩下がり、たじろぐランドルフ。デンも心なしか怯えてるように見える。
「ちゃんと出かけてくるって言いましたよね?了承したじゃないですか!?」
「そうだね~、でも私はてっきり街を見て回るのかと勘違いしちゃってたよ。ごめんね?」
「謝罪とは裏腹にものすごい威圧感を感じるんですがそれは」
「いや~、威圧感だなんてそんな。ただ私は前に言った事をちゃんと理解していなかったのかな~?なんて思っちゃったりしてね?どうやら説明の仕方が悪かったようだね」
威圧感が増し、また一歩後ろに下がってしまう。デンはもう宿屋の門の入り口に隠れてしまっている。
「ち、違うんですっ!!スプモーニ商会のときは船長にお世話になったにもかかわらず、手土産も持たずに挨拶にいっちゃったから、辺境伯への挨拶の時は折角だしこいつをお土産にしようかとっ!!ジュレップ様にはお世話になってますし!!」
これならどうだっ!!いい訳だが一応筋は通せてるはずっ!!いつ辺境伯に会うかなんて教えてもらってないんだし許してよっ!!
「ふ~む、確かにそういう配慮を覚えてくれたことはうれしく思うし、父もこれほどの剣歯狐を献上されたとなると、加工すれば良い物ができると喜ぶだろう」
仕留めた剣歯狐を見ながら話すジュレップ。
「でしょう?なら「でもっ!!」はい」
ジュレップにしては珍しく大声で話を遮る。
「それとこれとは別。君が加地棘山の方向に飛んでいった時の私の気持ち、わかるかい?いくら君が強いっていってもね?本来、剣歯狐はベテランの狩人達が討伐隊を組んでも仕留められるものじゃない。ぜんぜん見つからないし、むしろこちらがやられることのほうが多いんだ」
それは聞いたけど、ガチガチの重い装備で行ったらさ、ガシャガシャ音なんて立てて見つからないんじゃないの?って思ったんだよな~。
こっそり近づけば倒せる……、とは思ってても今は言えない。
実際に剣歯狐はかなりの警戒心だった。普通に探していても見つからないはずだ。
「これから父だけでなく陛下への謁見もある。謁見前に君にもしもの事があったら私は最悪首を刎ねられるかもしれない。君は爵位を授かる予定の人間で凄腕の魔法使いだからね。だが何より私個人としてもね?君と同じくらいの子供がいてね、重なる部分があってとても心配したんだよ」
そう話すときに、ふと威圧感がなくなった。
「すみません……。でももう少し私を信じてもらってもよろしいのでは?」
「ほほぅ?そういうことを言うんだ」
うっかりと思ってしまったことを口にしたとたん、無くなっていた威圧感が先ほど以上に膨れ上がった。
「やはり君にはもう一度じっくりとお話しする必要があるようだ。おい君、その剣歯狐は解体するから人をお願い。あとスプモーニ商会への連絡も頼むよ」
「はっ!!」
「さてランドルフ君。部屋へ行こうか」
頭をわしづかみにされて引きずられる。
「デンッ!!たしゅけて!!電気ショック!!ジュレップ様に電気ショックだ!!」
「ほほぅ?」
勇気を振り絞ってランドルフを助けようとするデンを、ジュレップは一睨みした。
「わひゅん!!」
睨まれた瞬間。デンは情けない声を上げて馬小屋へ去っていった。
「デンッ!?デ~~~ンッ!!アッーー!!」
翌日、こってりと絞られたランドルフは挨拶もそこそこに、懲りずに剣歯狐を狩りに来ていた。
昨日狩った剣歯狐は一匹はスプモーニに届けられ、その日の夜に感謝状が届いていた。後日報酬について話し合いたいと書いてあった。
もう一匹は解体され、辺境伯への土産として予定通り献上されることとなった。
「ということは自分の分がないじゃないじゃな~い。先立つものはいるんだよ!!」
本当であれば気を利かせたジュレップが、一日街を案内できるようにと、予定を空けた日であった。なので昼時までには帰り、午後から案内してもらう予定だ。
その時までに資金は増やしておきたいしね、さっさと狩って帰ろう。
昨日と同じく、上空から観察し、獲物を探す。
探知で岩だと思っていた奴をよく見てみれば結構数は多いな~。わかりずらいってレベルじゃない。狐は夜行性だから昼間はこうやって擬態して寝てるのか。
岩陰にいるのだが、普通の丸い岩のように見えてなかなか気づきにくい。
目を凝らしても近くに寄らないとはっきりとわからない。それほどに隠れるのがうまかった。
でもこうして見えなくしてやれば近づいて気づかれないよね~。
すっかり慣れてしまったランドルフは、姿を消した状態で剣歯狐の目の前までやってきて、そっと触れた瞬間に電気を流す。
暗殺者にでもなった気分だ……。こうすれば楽だけど狩りすぎは良くないよね。
結局近くにいた3匹を狩って帰えろうとしたとき、ふと山頂を見上げると、ひと際大きい剣歯狐がいた。恐らくこの山の主だろうか?その剣歯狐がふとこちらを見た気がした。
まさか、こちらは隠れているしわかるはずがない……、っ!?レジストッ!!
見られたと思った瞬間ゾクリとした。その後一瞬頭に痛みが走り眩暈がした。
「あっぶね……。デンは大丈夫か?」
「うぉっふん!!」
問題なさそうだ。こちらはまだ少し頭がクラクラする。
きっとあれが幻惑魔法かな?視覚からの攻撃とは……やってくれる。きっと警告のつもりなんだろうな。隠れてるのに見破って的確に目を捉えるとは……。油断だったな、気をつけないと。
宿に帰ってきたランドルフはジュレップにそのことを報告した。
「ふむ。主がいるとは聞いたことがないが……、だが君が言うんだ、きっとそうなんだろう。組合にも情報を流しておくよ」
「お願いします。それでこの剣歯狐なんですけど」
「そうだね。折角だし、その組合に持って行って買い取ってもらえば?それも勉強だよ」
「そうですね、わかりました」
組合か~、どんなところだろうな~。
お読みいただきましてありがとうございます。




