15話
港から見たコラプッタの街並みはにぎやかで、レンガでできた建物が歪だが、段々畑のように横にずらりと並んでいる。山間にうまくなじむように作られているといった印象だ。
人、獣人、ドワーフなど様々な種族が入り乱れていて活気にあふれている。
人族の割合が少し多いだろうか?街の端が見えないくらいずっと長く商店が立ち並んでいて、一列を全部見て回るだけでかなり時間をとられそうだ。
「まずは宿を取って準備を整えよう。先にスプモーニ商会へ行くよ。先触れを出しておいたから、相手の予定次第だけどきっとすぐに会うことになるはずさ」
「えっ?辺境伯にお会いするのでは?」
「なんか色々と話したらそうなっちゃったみたい」
「はぁ……?」
「ジュレップ様、ランドルフ君。私はここで失礼します。ランドルフ君、また一緒に研究しよう」
「ご苦労だったなフォラス殿、何か成果があれば必ず知らせるように。結果が出れば追加資金は出すよ」
「ありがとうございます。ご期待に応えられるようにがんばります」
もともとこの街に住んでいるフォラスさんとはここで別れることになった。彼は研究員として配置換えになったそうだ。
「また会いましょうフォラスさん」
「ランドルフ君元気でね。今度会うときはランドルフ様かな?」
「あなたの事は師匠だと思っています。今までどおりで結構です」
「そう言ってもらえるとうれしいよ、それじゃまた」
「またお会いしましょう」
握手をして去っていくフォラスさん。
また必ず会いましょう。
やってきた泊まる宿は、何処と無く高級感が漂う、街から離れた場所にある木に囲まれた、いい感じの大きい宿だ。玄関に絨毯がしかれており、シックなインテリアが並べられていて、部屋も綺麗に統一されている。外見はレンガのお家だが中はぜんぜん違っておどろいた。
ガラスってあるんだな~。照明は魔道具っぽいな。これは一体……。何でこんなに綺麗な曲線が……。魔法のおかげで文明度合いがさっぱりだ。
色々見て回っているとジュレップに声を掛けられた。
「衣装を買ってきて、身だしなみを整えてね。お金はメイドに持たせてるから仕立ててきてね」
「やっぱりこの格好じゃまずいです?」
なんだかんだいって結構便利なんだよなこの服。汚れないし、自動で修復される。島はずっと暖かかったけど、この格好なら着てるだけで普通は汗かくはずだけど……。それなのに比較的快適だったし、きっと温度調節機能もあるんだろう。
下着はもちろん。ブーツにジーンズにTシャツの上にジャケットを着ている。この国の衣装に興味はあるが、今までずっと来ていたため愛着がある。着替えてどこかに売り飛ばされても困るのである。
「確かに綺麗で立派なめずらしい服であることには違いないけど、正装ではないのはちょっとまずいかもしれないね」
「これって大声では言えないすごいものなんですよ。人の手に渡ったりして万が一なんてことがあったら困るんですけど」
「ほうほう。どういったものか興味はあるが、そこは信用してくれと言うしかないね~」
「……わかりました」
渋々了承することにする。馬車で案内してもらった服屋で、メイドさんに似合う色の布を見繕ってもらい、サイズを測って衣装を仕立ててもらう。店員に着ていた服についてあれこれ聞かれたが知らぬぞんぜぬを通させてもらった。完成は二日後とのことだ。
結構早くない?
「急ぎですので特急料を支払っております。この街では有名な店なので腕は確かかと」
メイドさんが答えてくれた。
ならいいんだけどね。俺の服は厳重に保管してよ?
「重々承知しております。おまかせください」
うむ。苦しゅうない。
出来上がるまで街を探索したかったが、離れるなというお達しがあり、船の生活であまり体を動かしていなかったので、デンと組み手などトレーニングをして過ごす。
ジュレップはこの街の偉い人に会いに行ったり、書類仕事をしたりしている。
そんなこんなで服が出来上がり、スプモーニ商会へ行くこととなった。何の話をするんだろ?
スプモーニは静かに怒りを覚えていた。
協議では確かにこちらへ先に連れてくることになっていた。だが島へ直接辺境伯の息子であるジュレップが行くなどと考えつかなかった。
先に連れてくる事で商会と懇意になって、その凄腕を十分に発揮してもらおうと思っていた。
だがジュレップが島に行って先に会っていた。連れてくるのは確かにこちらが先かもしれないが、会うのは向こうが先になってしまった。
ジュレップめっ!!親は考えが無い馬鹿なのに息子は厄介だっ!!狩人の失敗の事もあるし、何か呪でも掛けられているのか!?
もし辺境伯が良い印象を与えていたらこちらになびくことは難しいかもしれない。先に約束事をされていたら?向こうを優先されてすべてが後手後手になってしまう。
しかも、調査だ教育だと3ヶ月以上向こうに滞在しているっ!!このままでは上手く利用することができないかもしれない。
くそっ!!何とかこの懇談で上手く引き込まなければっ!!
そうしてランドルフを迎える当日になるまで、ザンテから聞いた事を頼りに贈り物などを考えて用意することにした。
二日後。ランドルフは馬車でスプモーニの屋敷へ向かっていた。なぜかジュレップも一緒だ。
パティスさんは一泊したあと、すぐに王都へ報告に戻ったそうだ。
馬車ってっ、やっぱりっ、お決まりのっ、ようにっ、跳ねる、んだなっ!!
お尻が痛い。しゃべると舌を噛んでしまうほど危険だ。誰も一切しゃべらない。
なので魔法で車体を少し浮かせて衝撃を少なくした。
衝撃が少なくなった事に気が付いたジュレップの質問攻めが早速始まった。
喋れるようにするんじゃなかった。スプモーニに会うだけでも嫌なのに勘弁してほしいよ。
屋敷へ着くと。ザンテ船長となんとスプモーニ自身が出迎えてくれた。
「ようこそ御出で下さいました。ジュレップ殿、そしてランドルフ殿」
「やぁ、久しぶりだねスプモーニ殿。来る予定は無かったんだけど一応保護者として同伴させてもらうことにしたよ。すまないね~」
何が来る予定は無かっただっ!!白々しい。それにしても保護者だと?確かに寄り子になるとは言っていたが……もうそこまで気を許すほど親密になったということかっ!?
スプモーニはジュレップが来る報告も受けてはいたが、迎えたときに呼ぶ名前を先にランドルフからにしようと考えた。
だがやめた。ランドルフとは仲良くしたいのは確かで、あなたに興味がありますよアピールをしたかったが、辺境伯との仲の良さを印象付けることを優先した。そうでなくても当然の事なのであまり印象には残らなかったかもしれない。
「はじめまして。ランドルフと申します。本日はお招きいただきましてありがとうございます」
「これは丁寧なご挨拶を。凄腕の魔法使いとの事で、お話させていただくのを楽しみにしておりました。ささっ、立ち話もなんですので中へどうぞ」
やっべ~!!ちゃんと挨拶できてたっぽいなっ!!よかった~。心臓ばくばくだよっ!!
流石は豪商の屋敷。清潔感があって広々としている。よくわからない石像や、壷など、きっと高いものなんだということぐらいしかわからないものが飾られている。だが見る人を飽きさせない楽しさがあった。
案内された部屋で運ばれてきた紅茶を飲んで、ザンテ船長の事や物資などのお礼の挨拶もほどほどに話が進む。
「ところでランドルフ殿は凄腕の魔法使いとか」
「凄腕かどうかはわかりませんが。周りの人からはおかしいとよく言われます」
軽い笑いを浮かべながら答える。
「何でも街をお一人で造った腕前だと聞いておりますぞ?ご謙遜召されますな」
「まだスカスカで空きが多い街ではありますが、移住希望者がいつこられても良い様にはしています」
「もしよろしければ、我が商会でご協力させてもらえないでしょうか?」
おっ?本題かな?
「ご協力というのは?」
「移住希望者を募る協力をさせていただければと。他にも物資の支援などもさせていただきますぞ」
「そこまで親切にされても、私には何もありません。ご迷惑かと」
「いえいえ、何でもランドルフ殿は貴族になられるとか。であれば、これから色々と物入りもあるでしょう。我が商会と懇意にしていただくことで、色々と融通もできますし悪い話では無いと思いますが」
「まだどうなるかはわかりませんが、国王陛下のお心次第としか申し上げることはできません」
「私どもの商会は様々なものを扱っております。ぜひご入用の際は我が商会をご利用下さいませ」
「はい。そのときはぜひよろしくお願いします」
こんな感じでいいのか?余計なことは言わず当たり障り無くお互い儲けを出せればってね。商会に顔があるってだけでも収穫だ。
「……それと、魔法の腕前を信用してお願いしたいことがございまして」
ほらきた。そんなうまい話は無いよって思ってたよ?でもあからさま過ぎじゃない?
「ええと…」
ちらりとジュレップのほうを見てしまう。静かにうなずいただけだ。任せるってことだろうか?
「お話だけでも伺いましょう」
「おおっ!!ありがとうございますっ!!」
本当にうれしそうだ。よっぽど困ってたんだな。
「北から街を出てまっすぐ道を進むと。加地棘山という、山から岩の棘生えてるように見える山ががございまして。その山の中腹に剣歯狐という魔物がいます。そいつを一匹しとめてきてほしいのです。なるべく体と牙が大きい方がよろしいのですが、お願いできますでしょうか?」
「剣歯狐という魔物を私は知りません。どのようなものか教えていただいても?」
「私が説明しよう」
ジュレップがいきなり説明しだした。なんでも狐に大きな牙が生えた生き物で、尻尾と毛皮と牙が高値で取引されているとか。特に魔力が多く含まれている牙は貴重だとか。
群れていることは少ないが、数が多く山を占拠しているので度々討伐隊が組まれるが、狩られることは稀だという。
肉食で、すばやくて狡賢い。色も周りに同化しているのでわかりにくく、足音も聞こえない。
主に一撃離脱でこちらを一人一人倒して混乱させ、さらに幻覚を見せる魔法を使ってくるのだとか。エサを求めて山を降り、森に来る時に人と遭遇してしまう事件も少なくない。
「火は吐きませんか?」
「ん?そういうのは聞いたこと無いね~」
狐と言えば火だ、とちょっと期待したけど、本当にただの狐に牙が生えてるだけなのか~。幻覚は厄介だけど先に見つけたら一撃で吹き飛ばして勝ちだな。聞く限り勝算はある。
「もちろん見返りはさせていただきます。先ほどの支援の件ですが、すべて私共がしっかりと受け持たせていただきます」
「えっ?もしかしてタダって事?」
「ええ、喜んでやらせていただきます」
マジで?一匹狩るだけでやってくれるの?いや、まて。
「どの程度の支援をお約束していただけるので?」
「魔道具に家具、食料など、島で100人が一月は暮らせる程度は最低限保障させていただきます」
マジかよ。裏がありそうで怖いんだけど。
すると俺が悩んでいるのを見てジュレップが答えてくれた。
「大き目の剣歯狐一匹の価値について悩んでると思うけど。一匹丸々綺麗な状態でしとめたやつだと、売値で大体金貨150枚はするだろうね~」
「えっ!?」
狐一匹、日本円で1500万だと?ぼろ儲けじゃないか。
儲けがでか過ぎてうろたえている俺を見て、うろたえていると勘違いしたのか。「危惧するのはわかるけど。君ならできると思うし、いい条件なんじゃないかな?」と言ってきた。
ぜんぜん危惧してないっす。うますぎてよだれがでそうなだけっす。
「是非ともやらせて下さいっ!!」
「おおっ!!やっていただけますかっ!!ありがとうございますっ!!」
近づき、俺の両手を握って上下に振ってくる。
「すべて狩ってしまっても構わんのだろう?」
「―――は?……あっはっはっ!!なるほど、これは頼もしい!!すべて狩ろうなどと冗談がお上手ですな!!」
上機嫌に笑うスプモーニに対してジュレップは困ったように頭を掻く。その視線はほどほどにしておけと言っている様に見えた。
仕留め次第持ってくる来るということを約束し、お土産を持たされて宿に帰宅した。
「ああ言ったけどさ。あんな約束しちゃって本当に大丈夫なの?」
「安心してくださいっ!!倒しますからっ!!」
ランドルフの頭の中はすでにお金の勘定の事しか考えていなかった。
ジュレップの心配をよそに剣歯狐を狩りに行くことになったのである。
お読みいただきましてありがとうございます。




