13話
島を出てから数日。辺境伯と王様に会うために俺は今、ジュレップの乗ってきた豪華な装飾が施してある船に乗っている。
交代でやってきた軍船が到着し、指揮権を引き継ぎ護衛を兼ねてパンターナ領へ戻る。
島には今、新たにやってきた軍船二隻が駐留している。他にもパティスさんが連れてきた文官や、メイドさん達、ベネディッタさんも島に残っている。
ジュレップとパティスさんは共に帰ることになった。
「気持ちのいい天気だねぇ~。絶好のお昼寝日和だっ!!」
「うぉふ!!」
頭を撫でるとパタパタと尻尾を振るデン。デンを連れて行くのか置いていくのか迷ったが連れて行くことにした。
なんでもすごいペットを飼いならしているというのは、一種のステイタスになるかららしい。
『俺すごいんだぜ?』って自慢でもするのかな?きっとそういうことなんだろう。
でも王様が見たいって言ってたらしいけど本当に城に連れて行くの?怒られないのかな~?ペットの抜け毛とか服につくと気になるもんね~?デンの毛は抜けないけどねっ!!むしろ電気を纏うと鉄のように頑丈になるし。
デンはさらに成長して放電量が上がると電気を纏うことができるようになった。
電気を纏うと毛が硬くなる。他にも綺麗好きなデンらしい効果があって、まず虫が寄り付かない。
濡れても電気分解してるのか、すぐに水が乾くし汚れも落とす。なんて便利なんだ。
「そんなわけで甲板で昼寝をしよう。いい天気だししょうがないよね~」
「うぉふ~!!」
デンに寄り添い寝転がる。気持ちいい。
程よい眠気が襲ってきた頃、お邪魔虫が現れた。
デンッ!!電気を纏え!!虫を寄り付かせるなっ!!
「ランドルフ君!!寝てる場合じゃないよ!!この魔方陣を見てくれ!!」
「フォラスさん、見てのとおりお昼寝中なの。また今度にしてください」
といいつつも、差し出された魔法陣を手にとって見てしまう優しい私。
「……火玉を出す魔法陣ですか?これだと出ませんよ。別のが出るかもしれませんが……。『火王』ではなく『火玉』です」
「いや~、そうだったか『、』をつけるかつけないか忘れてしまってね、どっちか迷ったんだ」
「わざわざ参考書作ったんですから、それを見てくださいよ~」
「見なくても理解できるようになろうと頑張ってるんだよ。完成したから確かめてもらおうと思ってね」
そうなのだ。あまりにもしつこいので、五十音と小学校1年程度の漢字を書いた。どういう意味があるのかも砕いて説明したものを書かされた。あの時はほとんど寝ていなかった。
まだ子供だよ!!身長は伸びてないけどきっと成長期なんだよ!!なのに寝かせてくれないの!!
「それとね?威力の高い火玉を出せるように挑戦してるんだけどさ。すごい奴は嘘か真か青い火が出るっていううわさがあってね?炎の極意らしいんだけど。それを今、実験しようとして」
「ちょっと待って!!えっ!?何?船の中で何やってるんですか!!燃えたらどうするんです!!」
「大丈夫。周りは海だから何もないし、燃えても広がらないよ」
「違う、そうじゃない!!燃えたらみんな海に飛び込まないといけないでしょーがっ!!」
「君がいるんだから大丈夫だよ」
「いや、そもそも燃やす前提でやらないでください。ってか燃えるようなことをしないでください」
この人どんどんおかしくなってない?しがない修理屋はどこに行ったんだと……。
「わかったよ。で、何処まで話したっけ……。あっ、青い火なんだけど、その魔法陣でできると思わない?」
「確かに『青』とは書いてありますけど……。これだと燃費悪くないですか?出るのは出ると思いますけど」
「やっぱり青い火玉を出すことができるんだね!?だとしたらすごいことだっ!!論文にして大学に~……」
「……?大学に提出するんじゃ?」
「それはだめだ」
「えっ?」
「君と約束したからね。日本語は秘密にするって。発表したらきっとそれは叶わない」
別に秘密にすることでもないと思うんだけど。論文を書いて提出するほどってことは、間違いなくめんどくさいことになるってことだよね。その設定のままでいこう。ぶっ飛んできてるけど律儀なんだな。
「まぁ、やってみましょう。今までと同じなら出せることは出せるはずです」
「ああっ!!」
なんだかんだ言っても、俺も興味あるしなっ!!
魔石をセットせずにやってみることになった。一応何かあったときのために、すぐに抑えられるように心構えはしておく。
「いくよ?んんっ!!」
青い火の玉が魔法陣の上でふよふよと浮かんでいる。成功だ。
ドサッ
フォラスさんが倒れた。あわてて近づいて原因を確かめる。
……魔力臓器が弱々しい。魔力切れだな。
供給する魔力がなくなったため、青い火の玉も消えた。
フォラスさんの胸に手を当て、俺の魔力を体内に浸透させるイメージで動かす。
少しずつ伝わっていってるのを感じる。一分ほどだろうか?フォラスさんは目を覚ました。
「実験は?」
「一瞬ですが成功しましたよ。フォラスさんは魔力切れで倒れてました」
「やった!!倒れたということはやはり消費が激しいんだな~。これでもそこそこ魔力量はあるつもりだったんだけど」
「それよりも体調は大丈夫ですか?」
「なんともない。むしろ調子がいいよ」
ちょっと送りすぎたか?ってかこの人一応魔法使いだったな。魔道具ばかりいじってる印象しかないから、すっかり忘れてたわ。
俺も発動させてみる。
「おおっ、綺麗な青色だ……」
「これやっぱり燃費悪いですね」
「君はなんともないんだね」
「今も結構吸い取られてますけど、大丈夫みたいですね。でもこれは無理やり青色になるように温度上げてるって感じでだめですね。やっぱりちゃんと――」
「ん?温度って……。何で青色になるのか知っているの?」
「ええまぁ」
「な、何で炎の極意を……」
「ん~?内緒です。それより今まで試した人がいたんだと思いますが。どういうやり方だったとか知ってます?」
「えっと…―――」
火が出るという魔法陣に、さらに同じ魔法陣を何枚も重ねていって発動したけど、ついにできなかったとか。魔力の供給量を上げても火の玉が大きくなるだけで青くはならなかったとか。
風を送る魔法陣を追加したり、今回の実験のように単純に『青い火の玉がでる』と書いた魔法陣を書いたが、あまりにも燃費が悪すぎて、出るより先に魔法使いが先に倒れたとか。試行錯誤がんばっていたようだ。
温度を上げるという発想がなく、『炎は熱いもの』だという認識でしかなかったと推測する。
1に1を掛けるとか足すとか、水道の蛇口を全開にするようなことを繰り返していたということがわかった。
「なるほど、それは厳しいですね」
「僕も日本語を知らなかったらきっとやろうとは思わなかったよ」
せっかくなので俺も魔法陣を作ってみる。
『炎』『球』『酸素』『完全燃焼』っと……。
できたので早速魔力を流す。
「……!?私の書いた魔法陣より綺麗な丸い形。力強く淡い青……。まるで吸い込まれてしまいそうな火の玉だ……」
「詳しい原理までわからないのでこれでもまだ燃費悪いと思いますけど、これならフォラスさんでもいけるんじゃないですか?」
「わ、わかった、やってみる」
手をかざして魔力を流す。やや苦しそうだが倒れることもなく10秒ほど維持できたところでやめた。
フォラスさんが倒れることなくできたことよりも俺は別の事を考えていた。
ふむ。さっきの魔力譲渡はちゃんとうまくいってたようだな。我ながらゲスい事をした。
「はぁはぁ。で、でき…た…」
できたところ悪いけど、せっかくの極意ということなのでこの魔法陣はなかったことにする。
ファイヤー!!
「ああっ!!せっかくの魔法陣がっ!!なんで燃やしたの!?」
「極意なんで?」
「ぐぅ……それを言われると……。でもできるということがわかったっ!!研究するぞー!!」
しんどそうだったのに、元気に走って部屋に帰っていった。
「やっとお昼寝できる。ふわぁ~~~」
だが当然、船員達はその一部始終を目撃していた。そしてある人物に報告がいくわけで。船員が申し訳なさそうに、寝ている俺を呼び起こす。
「ジュレップ様がお呼びだよ」
あっ、『にこにこぷんぷん』ですね、わかります。
「やぁ、ランドルフ君。なかなか面白いことをやっていたみたいだね」
お腹痛くなってきた。
「いくら船の外とはいえ、火を使うのはいけないね~。特に青い火の球なんてさ」
吐きそう。エチケット袋はどこじゃ。
「教えてくれるよね?」
その笑顔は既にトラウマになってるんですけど……。
所々で黙秘権を行使したが、日本語や極意の部分以外はにこにこぷんぷんに屈してしまった。
「あの~、フォラスさんは呼び出さないんですか?」
何で俺だけ~、道連れじゃ~!!
「彼は時間があれば常に研究をしている。向上心のあるいい職人だよ」
あっ、はぃ
「君はもう少し自重するということを覚えたほうがいい。例えば、君自身は何気ないことだと思っているかもしれないけど、わかる人が見ればよからぬ事をたくらむかもしれない」
ごもっともでございます。もっと常識というか空気を読むというか、考えないとな。
「君は自身を守れるかもしれない。でも周りは?巻き込まれた人がいたらどうなるの?怖い思いをさせるの?」
「すみませんでした、まだ常識を理解できていないので」
「別にやったらダメといってるわけじゃないんだよ。でも場所とか時間とかさ、もう少し考えて?」
「はい…」
常識を理解できてないとかいい訳だったな…、反省。
とぼとぼと落ち込みながら部屋を出ようとすると、ノックする音が聞こえてすぐにドアが勢いよく開けられた。
「失礼しますっ!!ジュレップ様っ!!敵襲ですっ!!」
にこにこぷんぷん
お読みいただきましてありがとうございます。




