12話
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魔道具作成は質問攻めという妨害がひどいので、ほとんど魔法陣の練習ばかりだ。一向に進まない。
その間にも政治や歴史に関する教育を受け、デンと遊び、山へ狩りにいく。不安は多いがなかなかに充実した毎日を過ごせてるのではないだろうか?
その日はデンと組み手をしていた。デンは体捌きがかなり上達していた。最初であったときに投げ飛ばされ、体が大きくなってからも巴投げで飛ばされ学習したのか、あの巨体で動きは猫のように……いや、猫以上に俊敏でしなやかになり、体を丸めて見事な着地をするようになった。狼だけど。
とにかくこちらの攻撃を逸らす、最小限でかわす、その際にタイミングよく一撃をいれてくる。中々に手ごわくなった。さらにあの巨体とスピードである。そして恐れずにこちらの攻撃にあわせて突進してくる。
勝てないことも多くなってきた。次はどんな対処をしようかと考えるとわくわくする。そんな時声を掛けられた。
「ねぇ、ランドルフ君ちょっといい?」
「はい、なんでしょう?」
いつ見てもベネディッタさんは綺麗だな~。近づくと香る森の匂いと言うか、エルフ臭というか。なにかで保存したい。
「ここ一月ほど西を川沿いに森の入り口までと広い草原。北の山の方を調べたんだけどね。特にめぼしいものはなかったの」
「報告は聞いていますが……、やっぱり残念ですね」
「それで道を北に進むと沼があるでしょ?その奥に山があって、さらに奥に大きな山があるじゃない?あそこにいってみたいの」
「はぁ……?それで?」
勝手に行けばいいじゃん……。協力はするって言ったけど俺調査員じゃないし、行っても足手まといだし。
「沼の敵をなんとかして」
「え?」
「沼の敵を「それは聞きました!!」じゃあ何とかしてっ!!」
「エルフって魔法の腕がいいんじゃないんですか?兵士の皆さんもいるわけですし」
「何言ってんのよ!!あんなの無理よ!!本気で言ってんの!?……本気ね。あなた普通じゃないし」
「さりげなくディスらないでください。へこみます」
「でぃすら?なにそれ?」
この人俺の扱いほんとひどいよね?泣きそう。
「とにかく強い魔物がいて調査にいけないから手伝って」
「沼を通らなくでも山沿いに行けばいいんじゃないですか?」
「あの岩山沿いに行けっての?もう信じられない!!あなたずっとここに住んで……いえ、あきらめたわ。沼の敵はあきらめた」
「はぁ……、じゃあもういいんですね?」
「違うっ!!調査はあきらめてないっ!!」
なんでこの人こんなに怒ってんの?残念美人かっ!!怒った顔も可愛いから許す。
「とにかく連れて行って」
「わかりました」
家に戻ってパティスさんに調査を手伝う事になったと言ってでかける。
「準備は取り合えず食料と……食料ぐらいか?」
ベネディッタさんと合流すると、呆れた目で見られた。
「山に行くっていってるのに、いつもの服装でなんて……。もういいや、さっさと行きましょう」
何がいるとか聞くべきだったか~!!教えて欲しかったな!!
「兵士の方達は?」
「彼らがいても無理ね。対処できないわ」
「え、でもあれくらいは倒せないと北西の森の調査なんて無理ですよ?」
「っ!!……っていうかね!!あなたが最初にどんな敵が出るか教えてくれればよかったの!!何が『たいした敵はいない。動物ばかりだ。草原では生き物をみたことがない』よ!!かっこつけてんの!?」
「でも砦から北の魔物は本当に「もういいっ!!わかったからっ!!」はぃ……」
「……とにかくお願いね?頼りにしてるわ」
言い過ぎたと思ったのか最後にやさしく声を掛けてくれた。……デレですね?違う?
「で、どうやって行くんです?」
「え?」
「ん?」
「飛んで連れて行ってくれないの?」
「ああ!!調査しながら進むんじゃないんですね!!」
「そう言ったじゃない!!大きな山だけ調べられればいいのよ!!」
これは俺が悪いな。すまんかった。
デンに二人で跨りすいすい飛んでいく。ベネディッタさんは少しおどおどしながらしがみついてくる。
もっとくっついてもええんやで?
「空って結構気持ちいいね!!」
「そうですね~」
「感動が薄い!!もっとはしゃぐとかしないの!?」
「慣れましたんで~!!」
「うぉふ!!」
「お、でっかい鳥がきましたよ!!」
「あれってズーガントじゃないの!?早く逃げてー!!」
デンが教えてくれたので辺りを見回すと、黒茶色の体に目つきと爪が鋭く、大きく素早い鳥が近づいてくる。デンに負けないくらいの大きさだ。
さすがに初めての二人乗りでびゅんびゅん旋回し、回避しながら逃げるのは怖い。ここで倒してしまおう。雷を落としてやる!!
ドゴーンッ!!
「っ!?な、なに!?」
「気絶しただけか?でかいだけあってしぶとい。倒しても持って帰れないので近くの山に置いていきますね?」
攻撃してこないなら無駄に殺生はしない。
「えっ!?何をしたの!?」
一瞬の事だったのでベネディッタさんにはわからなかったようだ。
「雷を落としました!!」
「かみなり……雷!?ほんとでたらめね……」
それからは何事もなく、「襲われると生きた心地がしないからできるだけ早くお願い!!」と言われたのでかっとばして1時間もしないうちに北東の山に無事到着した。マッハは出てたんじゃないだろうか?
「早くとはいったけど、野宿するつもりできたのにこんなに早く到着するなんて……」
「休憩してから調査します?」
「なのにあなたはぜんぜん平気な顔をするのね。はぁ……」
小休止してすぐに調査を開始したベネディッタさん。つるはしで岩を砕いたり、水に浸したり。地面に手を付いて魔力を流してるのがわかる。
ふむ。地面に魔力を通して調べる……か。空間を把握できるようになってから全然やってなかったな。使わなくなったし必要性がなかったのでやってこなかったが久々だし……。やってみるか。
―――ここは活火山だったようだ。細く深く根を張るように魔力を伸ばしてみると深くない位置にマグマの動きを感じる。だが噴火は別の場所……東側の海……海底火山かな?ってことは温泉あるかな?……水源は……ある。だが場所が悪い、後々考えるか。
「何かわかった?」
「えっ?」
「私の真似……してたんでしょ?」
集中して気づかなかったが、ずっとこちらを見ていたようだ。
「美人に見つめられると照れますね」
「何言ってるのよ」
「ふふっ」と軽い笑いを浮かべるベネディッタさん。
素敵な笑顔だわ~。いつも怒らずに笑って。なんて言うとそれこそ怒られそうだな。
「それで?何かわかったの?」
「いぇ、素人のやることなので」
「その割には随分集中してたと思うんだけど?」
「勘弁してくださいよ」
「そうね~、でもちゃんと見張っててよ?」
「大丈夫です、デンがいますから」
「うぉふっ!!」
「ええ、頼りにしてるわ。ランドルフ君よりもっ」
「むむっ」
やさしく頭を撫でてもらうデン。パタパタ尻尾を振って気持ちよさそうだ。
おぃ!!ちょっとそこ代われっ!!
邪魔にならないように少しはなれたところでもう一度やってみる。赤土……かな?海側だな。見せてもらった剣の成分とほぼ一緒だ。鉄は取れそうだな……。だが採掘する場所がこんなところでは問題が多い。
「デン、ちょっと他の近くの山も調べてみるから、何かあったら放電して音鳴らして」
「うぉふ!!」
「ベネディッタさんっ!!ちょっと近くの山も調べてみますねっ!!」
「えっ、ちょっと!?」
「デンがいるから大丈夫ですっ!!」
他の場所にもあるにはあるが……。場所が険しい山中だからなぁ~。採掘は厳しい。海沿いに道を伸ばしてここまで繋ぐか?温泉になりそうなものはあるわけだし。この島は何もないから観光地にするのがいいかもしれない。
「ただいま~、もどりました~」
「おかえりなさい、今日はもう帰りましょう。暗くなってきたわ」
「わかりました」
何事もなくあっさり帰宅。夕飯に招いて、一緒に食べながら今日の調査について話し合いをする事となった。
カチャカチャ
俺はお箸で肴を食べているが、ベネディッタさんはナイフとフォークで野菜と一緒に綺麗に食べている。ワインを一口飲んだ後、口を開いた。
「結局何かわかったの?」
「えっ?いや、その~……」
言ったらまた何か怒られそうだよな~。
「気にしないし怒らないから言ってみなさい」
「先にそちらがわかったことを教えてください」
「……まっ、いいわ。石灰と鉄が取れるかもしれないということがわかったのだけど、他に有用そうな鉱物はなかった。場所も悪いしね」
石灰か、まだ触ったことなかったけど白いのがそうだったのかな?むき出しになってたけど。
「こちらも同じです」
「本当に?他にわかったことはないの?」
嘘は言ってないぞっ!!
「他というと……海底火山があるって事くらい?」
「そこまでわかったのね、さすがだわ」
あれ?またやりすぎたとかじゃない?その程度はわかってらっしゃる?普通だったって事?
「島への影響は恐らくないでしょう。もとからずっとそうだったみたいだし」
「そうですか、よかったです」
「本当にそれだけだったみたいね?」
「そういってるじゃないですか。素人なんですから、詳しくはわかりませんって」
「普通は簡単に深くまで調べることはできないわ。それにあなただから気づくこともあるかと思ったの。ごめんね?」
そうだったのか。なんだかジュレップに質問されたときのような感じだったぞ。
「ご期待にそえず申し訳ありません。以後気をつけます」
「ちょっと、いきなり何よっ!!なんで畏まったの!?」
「イイエ、ワタシガワルイノデス」
「へんな事言うのはやめてっ!!いじめてるみたいじゃないっ!!」
「失礼しちゃうわっ!!」と文句を言い、グラスに入っていたワインを一気に飲み干す。
「はい、すみません」
悪乗りしちゃったけど、いつも怒られてるから警戒しちゃってナーバスになっちゃったな~。
「言い過ぎだって事はわかってるの」
「はぁ……?」
「あなたは悪くないのよ。ぶっ飛んじゃってるところがあるけど、そうだってわかってないから仕方ないって思うところはあるの」
「でしたらなんで?」
「前にも話をしたと思うけど、エルフってのは持ってる魔力も多いし、扱いもうまいの。でもね?それって生まれ持ったものがあっても、それなりにみんな研鑽を積んだの。しかも長生きだし人より余計にね……」
お酒のせいなのかしんみりした話になってきた。
「わかります、それでベネディッタさんは何歳なんです?」
「殴るわよっ!!真面目に話してるのっ‼」
「要するに、嫉妬ですか?よくある話です」
「…簡単に言えばそう…なんだけど。というか、よくある話ってあなたずっと一人でこの島に住んでたんじゃないの?」
「ええ、そうですけど」
「あなた本当に子供?何百歳といきてるとかじゃないわよね?実は魔族なの?」
「見てのとおり子供ですし、たぶん人間だと思いますよ?」
「度々、一般的な子供だと理解できないような言葉で話ししてるけど理解してるしね~?」
自分が何者かだなんて俺自身一番知りたい。
「やっぱりあなた…変よ…」
「美人のエルフを嫉妬させるくらいには?やきもち?」
「こんのっ!!そういうところが子供っぽくないって言ってんのっ!!」
「子供の癖に変な気を使ってんじゃないわよっ!!」といいながらワインを注いで一気にあおる。
それから何気ない話をして、ベネディッタさんは帰っていった。泊まっていくか聞いたが、まとめたいことがあるらしい。
べ、別に期待してなんていないんだからねっ!?
「―――ということがありまして。後は島の西側だけなのですが、ランドルフ君の話によると凶悪な魔物ばかりということなので、調査の継続は困難かと……」
翌日。ベネディッタさんがジュレップに報告をしている。結構飲んでたはずだけど二日酔いした様子はなさそうだ。そしてなぜか俺までご一緒だ。ジュレップがこちらを見る。
「北西の森は私も行ったことはありませんが、以前空の上を通ったときには、ズーガントでしたっけ?あれに似たような怪鳥が襲ってきましたので。それに山岳には翼竜と思われる存在もいますし。他にも危険な奴はいるかと」
そういえばゴブリン村の存在をすっかり忘れてたな~。行かないようには言ってあるけど。
「なるほど、ご苦労さまです。後主なところは。せめて湖の調査はお願いしたいんだけど、そろそろランドルフ君も陛下に会わないといけないし、一旦保留かな。ランドルフ君がいないと厳しいでしょ?」
「そうですね、わかりました。比較的安全な西の森の入り口付近の調査を優先することにします」
「それでいいよ。で、ランドルフ君。この後魔法について聞きたいことがあるので残ってね」
「げっ」
無言でニコニコするのやめてもらえますかね?
「それでは失礼いたします」
ベネディッタさんが出て行った。慈悲はない。
「まず。ズーガントを落としたって言う雷の事なんだけど―――」
あれこれと根掘り葉掘り追求されたが、説明もめんどくさいし、絶対これだけじゃ終わらないだろうと思い、ところどころ「わかりません」「秘密です」「黙秘します」と端折ってやった。案の定これだけで終わらなかった。今度は魔道具の事について等々―――。
「―――という訳で今週中に行くから予定しておいてね」
「えっ?」
「私の父に会ってもらうから。パティスからも、心構えはともかく形だけはできてると聞いているからね」
「ご両親に挨拶?結婚報告ですか?」
だから無言でニコニコしないでっ!!ちょっとした冗談でしょ!!
「あっと、スプモーニ商会の事忘れてた。スプモーニ商会にも会ってもらうから。それから国王陛下に謁見ね」
とうとうその日が来てしまったか……。
数日後。交代の軍船がやってきて、現在駐留している船が帰るのに合わせて行くことになった。
はてさて、どうなるやら。まっ、考えてもなるようにしかならないか。楽しんでいこうっ!!
※ベネディッタさんは普段は優しく温厚な方です。
お読みいただきましてありがとうございます。




