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Paradise World ~涙を求めて~  作者: 真空
アリカの旅立ち
12/19

レイヴンによるアリカ改造計画

 自分に迫っていた敵を排除したことにより、アリカはやっと本題に入りたかった。そもそも、ここに来たのは自身の権限をグレードアップし、『人間の身体へと成る』方法を閲覧するためである。加えて、レイヴンという思念器(ハート)という存在にも疑問が生じた。なぜ、AIが武器に搭載されている? そして、あの威力は一体なんなんだ……と、レイヴンに訊きたいことは泉のように湧いてくる。

 

 しかし、頭の中に流れた音声は、アリカを唖然とさせた。


『警告。エーテルが大量に流出し、活動限界まで残り三分です』


 気づけば、すでに身体が動けない状態だった。レイヴンによれば、機人族の動力であるエーテルが流出したため、どうやら強制的にスリープモードへと移行するようだ。


「どうしよ……どうすればいい、レイヴン?」


 動けない以上、レイヴンに助けを求めるしかない。

 レイヴンはこの基地の思念器である。それは、基地長がいないときは、基地自体を支配している存在といっても過言ではない。そのため、ある程度の装置ならば遠隔で制御が可能なのだ。

 故に、レイヴンはアリカの質問に対しこう答えた。


『マスターがスリープモードに移行している間、私が身体の修理を致します。……権限がランクAになったことにより、稀少度の高い部品の装備が許可されました。それにより、マスターの要求に十全に応えられると思われます。要求事項を述べてください』


 レイヴンの言葉に、アリカは思考を高速回転させる。

 すでに活動限界まで二分半ほどしかないからだ。

 しかし、よくよく考えれば、アリカは人間の身体を手に入れるためにここまで来たのだ。ならば、この身体は不要ともいえる。それならば、深く考える必要はない。そのため、アリカは軽い気持ちで『こうだといいなー』という思いつきを並べたのだ。


「戦闘能力は今よりも高めで。とくに、弓に特化したスタイルが良いかも。それで、今よりも人族に近づいたフォルムにしてくれると助かるかな。このままだと街にも入れないし。あー……そっか、人相もばれてるんだよね……それじゃ、いっそのこと、容姿もガラッと変えよう。あ、できれば格好良い感じで。あとは声かな? この感じも悪くないんだけど、どうしても違和感が――」


 というところで、彼は活動限界を迎え、強制スリープモードへと移行した。

 

 レイヴンはマスターからの要求事項をすべて正確に記録していた。

 そしてそれに必要な素材と部品の在庫、修理完了までの工程を計算する。

 膨大な量のシミュレーションを終え、ついにレイヴンは行動を開始した。


 暴走していない、制御可能な警邏機獣(けいらきじゅう)を呼び出し、アリカの身体を近くの整備台(メンテナンステーブル)へと運ぶ。それは、第一研究所よりも設備が充実している最高級の整備台(メンテナンステーブル)だった。基地でも限られた権限の機人族しか利用することを許されない場所に、今アリカは横たわっている。そう、Aランクの権限は伊達ではないのだ。


『これより、マスターの修理および改良を開始します』


 誰が聞いてるわけでもないのに、レイヴンはスピーカーより行動の開始を宣言する。それと同時に、六本の腕が天井から現れた。まるで生きてるかのように、それぞれが機敏に自身に振られた役割をこなしていく。


 アリカは深く考えるべきだった。

 自分の権限がAランクへと向上したことを。

 そして、レイヴンは要求事項を完璧に遂行する有能なAIであることを。



△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 アリカが目を覚ましたのは見たのは、既視感がある天井だった。

 あの地下一階にあった第一研究室によく似ている。そればかりか、折り畳まれた六本の腕には見覚えしかない。あれを見るたびに、自分の身体が分解される光景を思い出して戦慄するのだ。


 目を覚ましたということは起きたということであり、スリープモードへと強制移行したことを知る。つまり、今のアリカの身体はレイヴンにより修理が終わり、そればかりか改良作業が滞りなく終了したということだ。


 上半身を起こし、自分の身体を見る。

 その変化にアリカは驚いた。

 

 まず、関節部分が球関節では無くなっていたのが目に見てわかる大きな変化だった。いや、厳密には球関節なのだろうが、それを装甲が上手に隠しているのだ。その装甲にしても、無駄な装飾が外されて、よりシャープな身体へと変わっている。座ったままの姿勢ではわかりにくいが、身長が低くなったようにも感じる。自分で確かめるよりも、前のようにレイヴンに自分の身体情報を映し出してもらう方が早いと感じ、アリカはレイヴンを呼び出すことにする。


『マスター。おはようございます』


 声に出して名前を呼ぼうとしたとき、それを遮るかのように頭の中からレイヴンの音声がした。以前の、基地内に設置されたスピーカから聞こえたノイズ交じりの音声ではなく、毅然とした女性を思わせる美しい声だ。

 アリカは周囲を見渡すと、研究室内の制御機器と思われる端末の上に、レイヴンは横たわっていた。弓が横たわるとはおかしな表現であるが、放り出されたかのようにただそこに置かれていたのである。

 

 レイヴンの姿を視認したアリカは、挨拶を返す。


「ああ、うん。おは……よう」


 つい、自分の首元に手を添えてしまう。

 今までの拙い合成音声とは違い、今のアリカの声はレイヴンと同じように人そのものなのだ。まだ、平坦な声しか出ないが、それはこれからの訓練により変わっていくだろう。気になるのは、なぜか女声の耳に残る高めの……そう、俗に言うアニメ声だったことだが、アリカは言及しなかった。 


「えと……修理ありがとう。それで、何がどう変わったのか知りたいんだけど……」

『承知しました。視界情報に映し出します』


 そして、アリカの視界に自分の立体映像が映し出された。

 前回の縮小された映像とは違い、今回は等身大の姿で直立している自分が整備台(メンテナンステーブル)の脇に立っていた。

 そして、今の自分の姿を見て、再び唖然とする。


「レイヴンさんレイヴンさん」

『はい、マスター』

「僕、格好良い感じでお願いしたと思うんだけど」

『申し訳ありません。私に人族の感性は理解できないため、判断出来ませんでした。そのため、マスターの言動の記録から算出した人格データ、および要求事故に応えられる最も適切な身体と顔に設定しました』

「それが……これなの?」


 アリカは自分の目の前に立っている自分自身の姿を見る。

 まず、髪が伸びた。

 以前は肩口まであったその黒髪は、いまは腰辺りまで伸びている。それにより、耳元のヘッドホンのような機人族の特徴である通信機を隠すことが可能になった。幼い顔つきにあまり変化は見当たらないが、吊り上がっていた赤い瞳がやや垂れ下がり、その目元から優しい雰囲気を醸し出していた。加えて、睫毛が長くなり二重瞼になったために、より瞳が大きく見える。

 そして、アリカが唖然とした大きな理由はその身体にあった。

 まず、小柄な体躯がさらに小さくなり、それは小学生高学年ほどの身体になっていた。仮に身長を計測すれば、百四十後半の数字を示すだろう。前の身体が百七十後半であることを考えると、いっきに三十センチほど身長が低くなったことになる。金属の身体に変わりはないが、子供らしく柔らかい身体を想像できるような形状だ。


 つまり、中世的な男性から可愛らしい少年の姿になった。

 人によっては女の子にも見えるかもしれない。


「説明を要求する」


 身体を見れば、自分のアニメ声にも納得がいってしまうが、そんな些細なことはどうでも良いとアリカは思った。たしかに、AIに対して『格好良い』などという、人間にしかわからない表現をしてしまったのは自分の落ち度だ。しかし、それでなぜ少年の姿を選択したのか理解できなかった。


 頭の中に、レイヴンの声が響く。


『人族に近づいた身体、容姿、およびそれに伴った音声の変化を反映した結果です』


 その返答に、アリカは何も言えなくなる。

 いや、言いたいことはあるのだが、それをレイヴンに言うのは間違いだとわかっているからだ。彼女は、与えられた命令を実直に遂行しただけであり、何も悪くない。結局のところ、適切な指示が出来なかった自分に非があると認めるしかなかったのだ。


 再び少年となった自分を見つめる。

 可愛らしい顔をしているというのに、その表情は全く動かせず無表情のままだ。試しに、手を使って口角を吊り上げることで笑った顔や、両瞳の外側を下に引っ張って悲しそうな表情をつくるが、手を離せばすぐに元に戻る。

 身体はより人族に近づいたために、そのシルエットだけを見れば人族と大差ない。しかし、実際には白銀に彩られた金属の腕、脚、胴体だ。光が照らせば、金属光沢により光を反射する機械の身体だ。見る人によっては、その身体を芸術品のように美しいと評価するかもしれないが、アリカにとっては忌み嫌う身体だ。


 そこで当初の目的を思い出した。

 自分の身体の変化に驚いて忘失していたが、本来はこの身体を捨てるために来たのだ。

 アリカは、レイヴンに本題を切り出す。


「レイヴン、『人間に成る方法』の情報を閲覧したいんだけど」

『少々お待ち下さい』


 常に率直な返答だったレイヴンにしては珍しく、時間を要するようだった。

 暇を持て余したアリカは、テスタメントのメニュー画面を開いて、装備の項目に触れる。身体部品が換装された今であれば、装備とスキルも変わっていることだろう。人間に成ろうとしている今、この身体について知る必要ないのだが、アリカの暇つぶしにはちょうど良かった。


 まず、すべての部位に防具と武器の名前が記載されていた。

 以前は腕、胴、脚の三ヵ所だったの対し、今は頭と腰、そして右手と左手には武器として〈戦機弓レイヴン〉の名前があった。すべての装備のスキル構成も変わっており、そのスキル名を読むだけでも自身の身体が強化されたことがわかる。

 機人族は、種族スキルの影響でスキル成長が望めない。そのため、装備変更によって自身を強化するしかないのだ。アリカは、それを機人族の大きなデメリットと捉えていた。しかし、実際には一度の装備変更でこれほどまでに強化されるのであれば、デメリットではあるが、大した問題ではないといえる。それに、基地内の機獣には苦戦したが、前の装備でも地上の魔物たちを圧倒したのだ。それならば、現在の装備は過剰戦力だろう。


 スキルに触れてそれぞれの項目を確認しようかと、アリカが指を動かしたたときに、レイヴンの声が聞こえた。

 そして、それは意外な一言でもあった。


『現在の権限では閲覧することができません』

「えっ………」


 つい、整備台(メンテナンステーブル)から立ち上がり、驚きの声を挙げてしまう。

 レイヴンがいる端末まで詰め寄り、彼女を手に取った。その手に入る力が強いのは、当然のことだろう。ここまで彼が、自分の身体を顧みずに戦ってきたのは、人間に戻るためだ。それなのに、それを信じて来たというのに、突然の裏切りである。


「どういうこと?」

『マスターが希望する【機神体】の情報は、Sランク権限のみが閲覧できる秘匿情報です。現在のAランクでは閲覧できません。権限をグレードアップさせる必要があります』


 レイヴンが説明した内容を反芻し、アリカは考える。

 つまり、まだ終わりではないということだ。

 

「Sランクになるためには、どうすればいいの?」

『複数のSランク権限の思念器から認証を得る必要があります』

「……レイヴンはAランクだったよね? それじゃ……他の思念器を探すしかないのかな……」


 レイヴンから返答が無いのは、アリカの発した言葉が彼女に対する質問ではないからだろう。しかし、その沈黙こそが、アリカには肯定に思えた。というより、現状ではそれしか方法がないのである。


 他の思念器を探すということは、それはつまり、この基地から出て世界を旅することに他ならない。周囲がアリカを敵だと認識している世界を、孤独の世界を旅するのだ。

 それがアリカにとって過酷な旅になることは、容易に想像できる。


「西部第三基地から最寄りの基地まで案内できる?」

『……ヒューミ大陸西部にある基地ならば、位置情報の記録があります』

「なるほど。じゃあ、Sランクの思念器がある基地がどれかはわかる?」

『……申し訳ありません。記録が見つかりません。しかし、Sランクは、大型の基地を統括する役目を与えられるため、基地の規模を比較することでいくつか候補を挙げることが可能です』


 それで、十分だよ。

 と、アリカは言った。


 人間へ戻る。

 自分がそれを望んでいる。

 自分の中の昌という少年が、昌の感情が、強く願っている。

 それならば、この仮初の身体がどれだけ傷付こうとも構わない。自分の望みを邪魔する敵は排除する。例え、それが魔物であろうと、この世界に生きる住人であろうと、そして同じプレイヤー同士であってもだ。


「レイヴン、この基地を出て……旅に出るよ。ついて来てくれる?」

『私の存在理由はマスターを助け、導くことです。マスターが望むことは、私の望みでもあります』


 わかりきっていた返答に安堵しつつ、アリカは旅支度を始めることにした。

 まずは、この身体の装備を改めて確認する必要がある。

 忌み嫌う身体ではあるが、これからの困難を考えれば自分に何が出来るのかを正確に把握しておかなくてはならない。恐らく、機人族という種族の立場上、戦闘を避けることは出来ないだろう。


 そうして、もう一度テスタメントのメニュー画面を開くと、メールボックスのアイコンがおかしな挙動をしていることに気づいた。


 箱いっぱいに手紙が詰め込まれ、苦しそうに小刻みに震えているのだ。その上の受信したメールの数を見れば、太い赤字で『99』と表示されている。

 なぜこんなにもメールが来ているか、アリカにはわからなかった。そして、アリカにメールを送って来る人物など一人しかいない。街で出会ったバンジとはフレンド登録を交わしたものの、目の前で登録を解除されてしまった。それ以外のプレイヤーで、アリカのメールアドレスを知るものはいない。つまり、このメールはすべて『運営』からのものだ。


 アリカは溢れだしそうなメールボックスに触れて、その中身を確かめる。

 すると、視界には運営からのメールと思われる九十九通以上のメールの一覧が表示された。予想以上の件数に圧倒されるが、落ち着いて画面に手を触れてスクロールし、一番古いものを確かめる。


 アリカは、件名よりもまず、その右に記載されている文字に目が行った。

 件名の横には、『28日前に受信』と書かれていた。


 二十八日前?

 つまり、四週間前?


 アリカは、左手に握っているレイヴンを見て言う。


「レイヴン、僕の換装作業にかかった時間って……どのくらい?」

『約2,592,000秒です』

「えっと……?」


 アリカは、レイヴンから教えられた数字を頭の中で暗算する。不思議なことに、その計算はすぐに終わった。何度か検算したが、すべてが同じ答えに至るために、自分が眠っていた時間の長さを知って震えることになった。


「ぼ、僕……三十日も寝てたんだ……」


 一ヶ月という時間は、アリカを世界の急激な流れから孤立させるのに十分な時間だ。

 恐らくは、そこはアリカが全く知らない別世界へと変貌しているに違いない。

 人間関係。種族間の情勢変化。交易。同盟。争い。

 様々なことが起きただろう。

 しかし、それでもアリカがやるべきことは変わらない。

 長い時間眠っていたことには驚いたが、それだけだ。


 まずは、この小さな身体の感覚に慣れなくてはならない。

 アリカはレイヴンを手にしたまま部屋を出た。





 アリカが眠っていた一ヶ月の間、世界は平和だった。

 小さな争いこそ生じたものの、大規模な戦争は勃発せず、多くの人が悲しむようなことはない。

 

 しかし、その静かな水面に一石が投じられることになる。

 機械仕掛けの人形が、平和な世界へとその一歩を踏み出すことを決めたのだ。

 まるで波紋のようにその存在は周囲へと影響を与え、それが全種族を巻き込む騒乱の幕開けでもあった。 


本文中であると、どうしても話が進まなくなる気がしたので、ここで一応現在の装備について書いておきます。各スキルの内容は後々本文中で説明が入る……と思います。

*ミスを発見したので修正しました。


右手:機戦弓レイヴン 【情報支援】【電子書庫(データバンク)

頭:戦機弓専用送受信機【高速処理】

胴:機人装甲 射手型  【物理耐性】【火炎耐性】【氷結耐性】【電撃耐性】

腕:機人腕甲 射手型 【物理耐性】【高速装弾】

腰:戦機弓専用ベルト 【自動補給】

脚:機人脚甲 射手型 【物理耐性】【近接戦闘の心得】


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