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時間

作者: 秋雨 玲翔

時計の音が鳴り響く。

今日もまた1日が始まるらしい。

1人、寂しいこの世界が始まりを迎える。

僕はそう思って起きた。

この世界は不思議だ。1人なのにケータイもある。そしてテレビには人がいる。この世界の他にもいろいろな世界があるようだ。そして目線の先には人がいる。決して届かない人が。

いつものように下に降り洗面台に行き顔を洗う。

そして、リビングへ行き時計を見る。

11:25を指していた。

「…はぁ!?」

俺は時計を二度見した。

そう、自室にある時計は7:00を指していた。なのにこの部屋の時計はその4時間25分後を指している。

「…リビングの時計壊れたのかな。」

そう思うことにしてリビングへ戻りテレビをつけた。

すると、テレビの左上にある時間も異なる時間を指していた。

16:40

「どうなってる!」

俺は絶叫した。

時計が一つずれたならわかる。ずれ方も大きいが壊れたのだと思う。が、2つずれるのはおかしい。しかも違うずれ方をしている。

俺は慌ててケータイの時間を見る。

3:04

「…どうなってる。」

もうこれでいつにもない異常に気がついた。ケータイはネットを介して合わせる確実性のある時間を示す。テレビも確実性がある。なのにずれている。

「何が起きているの。」

僕にはどれが本当の時間だなんてわからなかった。

外を見ると朝日が差している。

「となると、僕の目覚まし時計が少なからず正解に近いのかな。」

時計は必ず正確な時を刻んでくれる。そう思っていたが一度狂うと僕たちを狂わせる。

「とりあえず出かけてみようか。」

今の現状はどこまでのものなのか知りたくて僕は目覚まし時計を片手に外に出た。


結果を言うならどこも違う時を刻んでいた。しかもどれも夜、夕方、昼、夜中を指していた。どれも朝を指すものはない。

「僕のこの目覚まし時計はもしかしたら正確な時を刻んでるのかな。」

今のところこれが一番正確かもしれない。そう思い、抱きかかえるようにして大切に扱うようにした。

そして、外を歩いて思ったのが外に出ている人の格好も目的も違うこと。

時計の周辺にはその時間にあった目的を持って人が行動している。

夜を差している周辺では晩御飯を作り晩飯を食べている。

昼を指すところでは昼飯を食べたり昼休憩を取ってるOLや学生が見受けられた。

違和感があるのが、全員が何の疑問も感じないで過ごしているということ。

少なからず100メートル程度先には違う時間を過ごしている人たちがいるのに何も気にしていない。

「どうなっている…。」

これだけ見ると僕は時間の中を歩いてるかのような気分になる。みんなより速く。もしくは遅く時間を過ごしている。

「この目覚まし時計が示す時間はなんなのだろう。」

今も時間を刻む俺の目覚まし時計。それは多分正確などではなく俺の時間を刻んでくれている、目印のようなもの。

「そろそろ気がついてくれないかな?」

「!?」

誰かに呼びかけられた。僕に呼びかけられるってのは僕と同じ時間を過ごす誰かということだ。

「ね、時を司るあなたはその時間を選んだの?」

「誰?!どこ!?」

「どこって、手に大切に持ってるじゃないか。」

「!?」

…この目覚まし時計からか?

「ね、この時間を基準とするの?時の神様。」

「何を言ってるの!?どういうことさ!?」

「気がついて。貴方が目覚めた時がこの世界の時になるんだから。」

「どういうこと…。」

「周りを見てわかったと思うけど周りはいろんな時間を刻んでる。今この世界には時間というものに決まりがない。だから、この世界は時計というものを基準にして生活している。この世界に正確な時間なんてものはないの。」

「なら、あそこにいる人とあそこにいる人はもう別空間ってことなの?」

時計台がある近くの人と電波塔の近くにいる人を指差した。お互い時計があり違う時間を過ごしている。

「そう。ここはいくつもの時間が重なり合い誰も交わることなく時間を過ごしている。もし腕時計がある人はその人だけの世界になるね。」

「それは…。」

「だから貴方を呼んだ。貴方もここの住人だったけど貴方が願ったんだよ。時間を共有したいって。」

「…昨日の話か。」

そう、昨日僕は言った。この1人しか居ない世界で僕みたいな人に出会えるのならこの時間を共有して寂しい思いをしたくないと。

「願い事を叶えてあげる。貴方の望む時間を基準としてこの世界は回りだす。その代わり、貴方が時間の支配者になってもらう。」

「時間の支配者?」

「そう。貴方はもう死ぬことも時間から逃げることもできない。時間を巻き戻すこともできない。貴方は進む時間の中でひたすら時間と向き合って生きてもらう。進む時間を調節しながら永遠に生きてもらう。」

「それは辛いこと?」

「1人は辛かったかもしれないが、人が増えると次は別れる時の辛さを味わうことになる。しかも貴方は永遠に生き続ける。永遠に別れを見続ける。それは死ぬより辛いことだ。」

「けど、それをすれば僕みたいな人は1人じゃなくなるんでしょ?」

「そうだね。もう1人で時間を刻むことはなくなる。」

「ならなるよ。僕が時間の支配者に。」

「そう言ってくれると思ったよ。なら時間の基準を決めてほしい。今日からその日がこの世界にとって時間というものがスタートする。」

「時間に合わせて景色も変わる?夜なら夜に。」

「合わせるさ。私は全てを支配してるんだから。」

「なら何で時間くらい支配しないの…。」

「誰も望まなかったからな。時間の統一なんて。貴方だけさ。そんなことより時間を決めなよ。」

「…決めたよ。0:00をこの世界の最初の時間とする。1日は24の時間で時を刻み、60の分を刻む。そして60の秒を刻むことにする。」

「自分のいた世界の時間を使うんだね。」

「他の世界は違うの?」

「1日が32時間とか12時間とかある。」

「…もしかして、世界の時間がずれたんじゃなくて僕が世界の時間を呼び寄せたの?」

「そうだね。だってよく考えてよ。まわりの世界はずっと同じ時間しか過ごしてなかったでしょ。いや、周りなんて気にしたことなかったでしょ。昨日まで。外にいる人なんて、テレビに出てた人なんて、貴方が孤独と感じるまでは。」

「そういうことか…。」

そう。矛盾していたのだ。全てが。この世界は1人と知っていたのに。周りが違う時間を過ごしていたのに僕は今日初めて違う時間を過ごしていると感じた。今日初めて周りや自分の周りの違いに気がついたのだ。そして、周りが変わったのではなく自分の時間が周りと絡み合ったのだ。

そして、違和感を感じたんだ。おかしいと思ったんだ。


"1人なのにケータイもある。そしてテレビには人がいる。この世界の他にもいろいろな世界があるようだ。そして目線の先には人がいる。決して届かない人が。"


届かない人なのに今日は届いた。何気なく外に出て届いた。それが特別な今日を迎える一歩だった。


「じゃ、そろそろ始めようか。」


「始めよう。この世界に平等を与えるために。」


僕が目覚まし時計の針を0:00にセットする


「時間を与えよう。全ての人に平等で永遠に変わらない時間を。」


これでもう誰も寂しくない。

この時間が全ての人と繋がっている道標。


時間を大切に。そう願う。

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