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僕はいたって平凡で、何も起こらない。
帰り道好きな女子と二人になる事もストーカーをして気づかれる事もない。
ただ一つだけ、変わっている。
僕の好きな人は、病気だ。
特に動悸があるなど、命にはかかわらないが、彼女はそれをとても嫌いにしている。
それでも、好きなんだ。
彼女と、知り合いたい。
知り合いたい知り合いたい知り合いたい知り合いたい。
「今だ、今なんだ!」
そう、今が一番のチャンス。
運がない、俺にようやくのチャンスが到来し、今、彼女とすれ違おうとしている。
彼女は一人!
俺も一人!
周りにはギャラが数名!
いける、いけるぞ!
俺は静かに、目の前に立った。
「え、なんですか?」
そのツインテールをなびかせ、彼女は可愛い声をだした。
「あ、あの…!」
「あ、えっと…」
これは!!!言えないパターンの奴だ!!!!!
どんどん心臓の鼓動はあがる。
ようやく開いた口は、くちゃっと唾の汚い音をだし裏声が顔をだした。
「付き合ってください…」
返事はもちろん、考えさせてください。
あんな告白に考えてくれるなんて優しすぎる。
やっぱり彼女が好きだ。
いつ、返事くるのかな。
一週間後
「こない!!!!」
俺は反射的に言葉と共に机を拳でたたいた。
昼休みのため、この怒りは女子の高笑いと男子の馬鹿騒ぎによってかき消される。
「ふざけんなよ、マジで…」
絶対忘れるかなんかしてんだろ…
もう、会うしかない!!!
緊張して、彼女の名前を忘れる。
もしかしたら、元々知らなかったのかもしれない。
クラスの前には来ても、何を言い出せばいいのかわからない。
と言うかのぞくことすらできない。
詰んだ気がする。
「ぼ、僕に告白された人、いまへんか…」
小さい声でリハーサルをするも、噛んでやる気をなくす。
こんな時に、俺に勇気があるならば、と理想を語る。
漫画みたいな、理想的な恋がしたい。
ようやく、教室の扉を開き、注目の的になりながらも彼女を探すが、彼女はいない。
「あ、あれ…?」
すでに緊張で汗だくの身体はさらに汗をかきはじめた。
も、もう、無理だ!
俺にあきらめろと言っているようなもんじゃないか????
「あ!」
後ろから声がきこえた。
俺はその声に安心感と絶望を覚えた。
後ろを振り向くと、彼女が購買で買ってきたであろうパンを手に呆然と立ち尽くしてた。
やらかした、と言わんばかりの彼女の顔。
うん、わかってる、次に言う言葉くらい。
『…忘れてた。』
屋上で、風に吹かれながら日陰に二人で話す事にした。
「ほ、本当にごめんなさい、あの後考えたんだけど全然わからなくって…しかも塾のテストで頭がいっぱいだったから、忘れちゃってたみたい…本当にごめんね??」
彼女はありったけの言い訳と共に可愛く舌をだしてみせた。
よし、許す。
「で、返事は…」
彼女はツインテールの先を指に絡ませ、視線を下に落とした。
いるだけで、存在するだけで絵になる。
夏なのに長袖なのは、きっとあれを隠すためなのだろう。
顎から首にラインをなぞりしたる汗に、興奮する。
「そう、だなぁ…」
「ごめん、急かして…でも、今決めて欲しいんだ。」
ただでさえ、二人きりのこの空間。
俺の緊張と汗はピークに達する。
「うーん、じゃあ、いいよ?」
「…え!?いいの!?」
あまりに意外な答えで、目が点になる。
信じられない。
「う、うん、でも、私あなたの事、何も知らない。」
そう、俺もきみを知らない。
「だから、あなたが悪い人なのかもしれないと疑ってしまうわ。」
なんとなく、トゲのある言い方に聞こえた。
「ぼ、僕はそんな人じゃ…!」
そう、言い切れるのだろうか?
彼女にとっての、悪い人は、何なんだろう。
「私、自分が大好きなの。」
「え?」
「例えば、ツインテールの似合うこの、顔立ち、目。そして、程よいバストに男の抱きやすい体と身長、さらにこの可愛い魅惑のボイス、きちんと整理されたなかみ。」
彼女はペラペラと自分について話しはじめる。
それはもう楽しそうに。
でも、それは突如止まった。
「でも、私自分が大嫌いなの。」
いきなり空気が凍りついた。
彼女は演劇などがうまそうだな、と思った。
「この圧倒的にモテる身体を引きずる、手。長くて長くて気持ち悪いわ。おかげで肌を見せる為にある夏は長袖のままだし、だしたらだしたで気持ち悪い手があらわになるだけなの。」
俺には、彼女にどうゆうふうに対応すればいいのか、わからない。
俺も、彼女を知らないから。
「僕は、わかんない。」
「僕は君の事、わからない。正直見た目で好きになった部分があるんだ。
だけど、きっと僕は君に恋をした、それだけは確かな事…だったりするんだ。」
ありったけに考えた言葉を並べる。
彼女を口説き落とすのが、俺の目標だ。
「あぁ、そう。」
へ?
それ、だけ?
すごく心に響く言葉を言ったつもり、だった…ん、だけ、ど???
「やっぱりあなたは悪い人かもしれない。」
「そ、そんな!!」
何も悪い事は言ってないハズ、なのに…!!
「私、そうゆうこと平気で言える人大嫌いなの。」
あぁ、から回った。
確実に嫌われた。
あの反応は、ダメだ。
やっぱりあきらめるしかないのか、そうなのか。
気をとりなおして、帰りは本屋に立ち寄ろう。
校門に彼女がいる事に気づいた。
なんとなく、気まずい。
友達でも待ってるのか、スマホに目を向けている。
自然な感じに通り過ぎよう。
彼女の前を通ろうとした瞬間、彼女がスマホから目をはなし、こっちを凝視してきた。
身体がびくっとなる。
彼女は僕の手をつかんだ。
「えぇ!?」
「遅いよ!男は彼女のくる五分前にはいるものでしょ??」
「え!?」
彼女…??
「僕、ふられたんじゃ…」
「そんなわけないじゃない、あの言葉すごくカッコ良かったんだもん!」
彼女はニコリとわらってみせた。
「ほら、帰ろう?」
彼女が手をひっぱった。
確かに感覚を持ってひっぱってるこの質感。
俺の手に熱がこもる。
手汗かきやすいのになぁ。
彼女は僕を見ないまま、しゃべりだした。
それは、俺にはとても文には見えず、ただ言葉と言うものを吐き出してる様な気がした。
「僕なら、君を守ってあげられるよ。」
何故か、そんなくさい言葉がでた。
無表情な顔がこちらを見た。
こんな顔からあんな楽しそうな声を出していたのかと思うとつくづく彼女を疑う。
「僕は、君から逃げない、絶対に。」
彼女からの返事はこない。
嫌われたのかもしれない。
しかし、別れ際に彼女はこう言った。
「期待してるよ!!!」
確かに、笑って。
「よしっ!頑張るぞ!!!」
とりあえず、名前なんなんだろう。