プロローグ
風が吹いた。
人生最悪の日だった。
人生最後の日だった。
「 」
誰かが何かを叫んでいたが、聞き取ることはできなかった。外国語だったのだ。
成田空港発、シアトル国際空港への飛行機。それは――風を纏い空を往く最中で、翼を失った。
乗務員ですら、何が起きたかわからなかったようだった。
エンジン・パワーの調節を繰り返しているのだろうと誰かが言った。僕のバスケットチームを束ねる監督だった。
しかし、そんな努力も空しく、機体は揺れるばかり。乱気流に吞まれるよりも、ずっと激しく。
――バスケットボールを始めたのは、単に背が高かったからという理由であった。また、僕の中学校では、部活動に所属することを全生徒に奨励していたため、いずれかを選ぶ必要があったことも、それを後押しした。
二年も経つ頃にはすっかりバスケにのめり込んでいたが、それは結局、周囲の期待に流されていただけなのかもしれない。死の迫る中で、そう思ってしまった。
僕らを乗せた飛行機は、太平洋へと墜ちていく。
風の吹くままに舞う紙飛行機よりも、ずっとずっと儚く。
初めてレギュラーになり、試合に出場したあの日。僕は、風になりたいと思った。先輩のように滑らかに動けるようになりたい。相手チームのキャプテンのように走り抜けたい。
そうして頑張るうちに、それなりに評価もされた。両親も、俺を応援してくれた。
高校二年のある日――すなわち、半年前。本場アメリカの試合を観に行かないか、と監督が誘ってくれた。だから僕は、この便に搭乗し、太平洋を渡ろうとしていたのだ。
走馬灯というやつなのだろう。直感した。それで、諦観した。
紙飛行機は、風を失って水底を目指す。
不思議なことに、死は破壊よりも早く訪れるのだと気付いた。
飛行機が崩壊するよりもずっと早く、僕の意識は吹き飛んだからだ。
だから僕は、飛行機がどうなったのか知らない。
ただ、この世にこれ以上留まることはできないと――確信した。
――その瞬間、風が吹き上げた。