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ささやかな幸せを

作者: 有部理生

 時は26世紀初頭、人類は外宇宙への飛躍をまさに始めんとしていた……


 そんなある日、生命の揺りかごたる地球上、日本列島の相模湾に面した砂浜にて……


 サクラガイを拾い上げようとしたのだが、指先についてきたのは濡れた桜の花びらだった。本当によく似ている、と彼女は残念半分感嘆半分でため息をつく。こんなに似ているから、貝の方がサクラガイと名付けられたのだろう。


 彼はぼーっと海を眺めている。今日はやや曇っているが、晴れていれば富士山がよく見えることだろう。今日の海の色に合わせてか、彼の体色もどことなしかぼやけて暖かな灰色を帯びている。


 彼女の名前は千葉明子、この列島出身の惑星生物学者。


 そして彼女のパートナーたる彼の名は光(ひかり、と読む)。五爪青竜を象ったマキナビオスである。


 外宇宙を航行するのに必要な技術より、人や他の生物を再現したロボットが創られるほうがずっと早かった。


 人工知能と人工生命の研究が組み合わされ、生まれたそれらはもはやロボットというには余りにも生命を感じさせ、いつの間にかマキナビオスというくくりが与えられる。


 マキナビオスたちに、ヒトのかたちを与えるのは初期のうちは、欧米を中心にためらうものが多かった。かわりにかれらはヒトの夢の結晶である知恵持つ獣―幻獣や神獣の姿をとることが多くなる。


 そんな歴史の先に彼と彼女は生まれた。


 彼と彼女は共同研究者として各惑星の大まかな調査をしつつ、乱開発を防止すべく企業や各種企画に報告と意見を提出している。


 今日は久しぶりの地球。命の気配が溢れる海に思わず頬がゆるむ。


 ついこの間まで不毛な小惑星にいたからか、潮風がことのほか気持ちいい。

(因みに生息するかもしれない微生物の調査だった)


 彼の髭が風と波しぶきにくすぐられる。


 彼女はそういえば春は彼の季節だった、と目を細める。


 山で藤が咲くころには、次の調査に向けて用意を始めねばならないだろう。


 だから今は少しだけ、故郷の春を楽しみたい。


 


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― 新着の感想 ―
[一言]  ムラツです。 他の作品も含めて拝読させてもらいました。 独特の風合いを持った上品な文章が心に残りました。 まず設定ありき、とは違う作品への取り組み方に興味を持ちました。 いつか、物語…
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