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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
首都動乱編
98/428

帰還後

 ――危機を脱した後、俺達は途中人目のない所で着替えを済ませ宿へと戻った。一応宿の人には見つからないよう魔法を使っての配慮。これで、大丈夫のはず。


「それで、結果は駄目だったと」


 俺の部屋に集まり、カレンが言う。位置は例によって俺がベッド。二人が椅子。


「ああ……怪しい場所もあったしそれらしい資料も見つけた。けど、詳細な資料を探していたら襲撃された」

「作戦は失敗というわけですか」


 シアナは小さく嘆息。けどリーデスの資料があることを考えれば、半ば演技に近いものだろう。


「こちらも色々と回ってみましたが、資料は見つからず……セディ様の訪れた場所が、正解だったのでしょうね」

「……やってしまったか」


 頭を抱えつつ、俺は言う。


「まあ、敵にこちらの正体が露見するようなことはしていないし、ここに踏み込まれるようなことにはならないと思うけど――」


 そこまで言った時、俺はシアナが複雑な表情をしているのに気付いた。何か考え込むような所作に、思わず声を出す。


「シアナ……何か気になることが?」

「……セディ様、最後に遭遇した人物ですが」

「え? ああ、後方にいた人物はモーデイルだよ。名前を呼んでみたら反応したし間違いない」

「あの場に用心棒としていたということか」


 カレンが言う。俺はそれに小さく頷く。対するシアナはさらに質問を重ねた。


「もう一方の騎士みたいな方は?」

「……国の騎士じゃないのか? それとも、何か心当たりが?」


 シアナがそんな顔をするということは、何かあるのだろうか――


「……いえ、たぶん気のせいだと思いますから」


 歯切れの悪いシアナの返答。対する俺は気になり声を掛けようとした。その時、

 ノックの音が聞こえた。どうやらディクスが帰って来たらしい。


 俺はすぐさま立ち上がり扉を開ける。そこには予想通りディクスの姿。パーティに出席した以上正装していたはずだが、どこかで着替えたのか今は革鎧姿。


「ただいま」

「ああ。気取られなかったか?」

「大丈夫だよ。尾行をつけられるような真似はしていない」


 言うとディクスは入室し、扉を閉めた。


「首尾はどうだった?」

「……怪しい資料は見つけたが、奪うことはできなかった」

「そう」


 端的に告げた瞬間、彼は目の光を少し強くした。


「リーデスが監視していたため、事情はある程度把握しているよ」


 小声で俺に言う。把握――なら、ディクスがカレン達にどう説明するか予想できた。


「……話していなかったけど、屋敷には結構な人数用心棒がいた。だから資料を奪取できない可能性も危惧していた」


 そう言いつつ、彼は懐を探る。そして中から取り出した物は、


「襲撃者となれば、君達を追い回すだろうと予想をつけていた。だからこそ、こうして私が上手く立ち回ることができたわけだ」


 ディクスは述べると、テーブルに近づき資料を置いた。それは、リーデスが保有していた資料の一部。山賊に関わる念書。


「これは……」


 カレンは文面を目でなぞり、口元に手を当てた。


「よく、見つけましたね」

「偶然だよ。さすがに念書なんて見つかると思っていなかった。けど、これは大変重要な証拠だ。何せ、国に対する明確な反逆だからね」


 ――残念ながら資料を掠め取ることはできなかった。けど悔やむ間に先に手を打ち、別の手で資料確保を行わなければならない。


「今から城に行き、このことを報告する。念書を提示すれば例え夜でも騎士団は動くだろう。これを見つけられたのは君達のおかげだ。本当にありがとう」

「俺達はただかく乱しただけで、ほとんどオイヴァの功績だけどな」


 俺が言うと、ディクスは笑みを浮かべた。


「卑屈にならないでくれよ。ともあれこれで情報は手に入れた。今から行ってくるけど、念の為警戒を続けてくれ」


 そう言い残し――彼は俺達の返答を待たず部屋を出た。

 残された俺達はしばし扉を注視し……やがて、


「……仮眠でもとる?」


 カレンが口を開いた。


「交代で休めば眠れるけど」

「私は大丈夫ですよ」


 すかさずシアナが言及する。


「魔法を使えば、疲労を抑え込むことは可能ですし」

「……そう? 兄さん、どうする?」

「お言葉に甘えさせてもらおうかな」


 俺は疲れた声で言うと、息をついた。屋敷における行動は短い時間であったが、疲労が全身に存在している。

 同時に屋敷の出来事を思い返す。最後に遭遇した相手――シアナも何か懸念があるようだが、あの男と対峙した時、本能的に体が苦戦を予想した。そしてあの場で使用できる力を出し切った。結果、相手は俺の剣を防いだ。


 もしや、魔族なのか……? シアナに訊こうにも、カレンがいる手前まずい。ここはひとまず飲み込み、休息に努めた方が良いだろう。


「カレン、どちらが先に休む?」

「兄さんの方が疲れているみたいだから、先に」

「わかった……悪いな」


 答えると、俺はベッドで横になる。


「何かあったら起こしてくれ」

「うん」

「わかりました」


 二人の言葉を受けると、俺は目を瞑る。屋敷に潜入しただけにも関わらず、体は休息を欲するべく、あっさりと意識を手放した――






 次に目が覚めたきっかけは、またしてもノックの音だった。

 目が自然と開き、天井が目に入る。上体を起こすと、机に突っ伏して眠るカレンと、扉を開くシアナがいた。


「失礼するよ」


 そして入って来たのはまたもディクス。そちらに目を移すと同時に、窓の外が僅かながら明るいことに気付く。夜明け前、といったところだろうか。


「休息は済んだかい?」


 ディクスは部屋に入り俺に問う。体の感触を確かめ、体力が回復していると悟ると頷いた。


「ああ。というよりシアナ。起こしてくれても良かったのに」

「私は平気ですよ。魔法で体の維持はできます」


 魔族故に――そこまで言わなかったが、文脈で察した。俺は「わかった」と答え、ディクスへ尋ねる。


「戻ってきたということは、何か進展があったのか?」

「ああ。しかも悪い方向に」


 悪い――彼の言葉に俺は眉をひそめる。


「あの爆発で要人が死んだとか?」

「そんなヘマはしていないさ……屋敷の主が、突如動き出した」


 言うと、ディクスは扉にもたれかかった。


「さっきも言った通り、かなり悪い方向で」

「詳しく聞かせてくれ」

「雇っている傭兵や勇者をかき集めはじめた。しかも、パーティーの面々を追い返して」

「それって……?」

「こちらが資料を提示して……というにはいくらなんでもタイミングが早すぎる。話によると屋敷の主は怯えた様子を見せていたと言うし、別な理由があるのだろう」


 怯えた……? 俺としては首を傾げる他なく、シアナも同様の顔を見せている。


「ところで、カレンさんは寝ているのかい?」


 ふいにディクスが問い掛ける。カレンは机に突っ伏し寝息を立てているのだが――


「……お兄様、何かしでかす気ですか?」

「そんなことしないさ、悪い」


 ジト目のシアナにディクスは落ち着けとばかりに手をつき出す。


 ――もしかすると、寝ていたらこの場で作戦会議を始めたのかもしれない。けれどシアナはカレンがこの場にいるということで警戒し、ディクスの主張を断った、といったところか。


「で、今は様子見といったところだな。王に報告して、深夜にも関わらず騎士が動いている……が、相手の動きが性急すぎて、それでも追い付いていないというのが現状」


 語ると、ディクスは肩をすくめた。


「ここで、一つ仮説を立てた……怯えていたという証言から考えるに、もしかすると彼は勘違いをしているのかもしれない」

「勘違い?」


 聞き返したのはシアナ。それにディクスは頷きつつ、言及を行う。


「おそらく武器を提供している貴族本人が、武器提供者を恐れ警戒しているのでは、ということだ」


 ――武器提供者。この場合だと、大いなる真実を知る、事件首謀者か。


「セディの話によると、敵は武器に関する研究を行っていた節がある。だとすると、貴族は武器提供者には無断で武器に関する研究を進め、それを確認もしくは警告しに襲撃された、とでも考えたのだろう」

「なるほど……ただ籠城し始めたとなれば、厄介だな」


 俺は呟く。今はまだ兵を集めている段階だろう。このまま人員が揃い雲隠れされるのが一番厄介だ。


「……なら、私達はどう動けば?」


 そう問い掛けたのは俺やシアナではなく、カレンだった。のそりと顔を上げ、ディクスへ問う。


「いつから起きていた?」

「戻ってきた時から意識はありましたよ」


 そう言って小さく欠伸をする……危なかった。


「敵が勘違いしているのであれば、ここに踏み込まれる可能性は低そうですね」

「だろうな。今は様子見で、王の要請に従い派遣された騎士と睨み合っている状況だろう。念書が手に入った以上、王も許すことはできないはずで、籠城しても時間の問題だと思うが……」


 肩をすくめるディクス。確かに彼の言う通りなのだが……ここで、俺は相手の動向について思案を始めた。


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