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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
首都動乱編
96/428

混乱の中で

 そして、俺達は屋敷襲撃を行った。算段としてはディクスがパーティーに出席し、魔法を使い大混乱に陥れる。次いで俺達が侵入し調べ回る。黒ずくめかつ仮面を装着しているので、余程のことが無い限り露見することはない……と、思いたい。


 ――ちなみにだが、依頼主云々というのはでっちあげで、ディクスが単独で調べているらしい。まあ王から調査の確約をもらっているのは間違いなく、今回も王の許可を得て行われるみたいだが――しかし、危険な行為を容認する王も相当だな。それほど今回の貴族が危険だという判断なのか。

 また、ディクスの調査により屋敷の簡単な見取り図くらいは見つかった。それを基に、パーティー会場から遠い、端から侵入する予定だった。さすがに手に入れた見取り図に地下などの情報は載っていないので、侵入してからは勘を頼りに調べ回ることになる。


 で、俺達はカレンの魔法により敷地内へ。女神の武具を応用した魔法感知は屋敷内とその周辺だけらしく、門の周りではこのように魔法が使える。室内に入れば使用できないため、混乱する間に調べるにしても、できるだけ見つからないよう行いたいところだ。

 俺達は一気に歩を進め――やがて、予定の場所に到達。窓を開けると、鍵はかかっておらず入ることができた。


「よし」


 この窓をディクスが開ける予定だった。見事その役目を果たしたようだ。

 俺は誰かに見咎められない内に部屋の中に入る。中は暗いがすっかり夜に慣れきった目は、部屋の輪郭くらいはおぼろげにつかむことができた。


「兄さん」


 ここでカレンが言う。ここからはどうするか算段してある。二手に分かれ――具体的には俺は一人。カレン達二人で行動する。

 分け方についても理由がある。というより接近戦で後れを取るであろうカレンにはシアナとペアを組ませ、対応できるようにしただけの話だ。


「気を付けて」


 仮面を被りながら気遣うカレンの声。俺は「そっちも」と応えると、先んじて部屋の扉を開け、廊下に出た。

 使われていない場所であるためか、廊下は暗い……が、最低限の明かりはある。視界確保には十分だが、逆を言えば見つかる可能性が高くなる。注意しないと。


「では」


 シアナの声。振り返ると俺とは逆方向へ進、い二人の姿。俺は彼女達に小さく頷き、移動を開始した。


「さて……」


 ここからは勘と運だけが頼りだ。最悪リーデスの資料があるため、見つからなくても貴族の行動を抑えることはできるのだが、何としても武器に関する情報を奪いたいところ。


「よし」


 気合を入れ直して廊下を進む。俺は周囲に注意を払い、人が来ないかを確認しつつ――

 と、そこで正面から足音が。


「いきなりか」


 手近にあった部屋の中へと入る。中は暗いが、窓から漏れる月明かりから客室なのだとなんとなくわかった。

 足音は扉の向こうで近づき、俺は扉が開いた時扉の裏側になる場所に立った。人数が一人なら最悪気絶させて、というやり方ができなくもないが……複数なので、やるとなると一気に片をつけないといけないだろう。


 魔法が使えない状況なので、少しばかり不安になったが……俺は静かに剣を抜いた――今身に着けている装備はディクスからの餞別であり、特に剣は魔力を帯びた金属を利用したもの。これで戦えば普通の武器しか持たない人物に対しては圧倒的優位に立つことができる。

 やがて足音が近づく。緊張の一瞬だが――音は、あっさりと遠ざかった。


 素通りらしい。一瞬カレン達のことが思い浮かんだが、二人だしシアナもいるから見つかったとしても逃げ切れるだろう。俺は息を整え直しつつ剣を鞘に収め、廊下に出た。

 とにかく、見つからないようにしながら迅速に動かなければならない。かなり厄介だと思いつつ、俺は廊下を進む。


 爆発はまだ続いている……というより、初期の頃と比べて爆発の間隔は大きくなってはいる。けど断続的に続く轟音は、多くの人に恐怖を与えているのは間違いないだろう。

 俺は音を耳にしつつ……かつ、何も関係の無い出席者に詫びを入れつつ、探索のため足を動かし続けた。






 怪しいと踏んだ場所に辿り着いたのは、それから程なくして。爆発音が生じた場所に兵士達は急行しているのか、あれ以降一度も出会わなかった。


「ここ、か?」


 俺は屋敷二階を探索し、奇妙な扉を見つけた。見た目は他の場所と何ら変わりは無い。けれど神々の武具による監視魔法が備わっているはずの屋敷で、魔力が感じられた。

 といってもそれは非常に微弱で、俺が気付けたのもほとんど偶然。


「鍵は……」


 呟きつつドアノブに手を回す。残念ながら施錠されている。


「仕方ない」


 俺はどうしようか悩んだが――剣を抜き、扉下部に剣を突き立てた。

 先端は木製の扉をあっさりと貫く。うん、この剣なら破壊できるようだ。


「よっと」


 僅かながら力を入れ、横に一閃。扉を両断するように斬り込みを入れ、足で蹴った。

 結果、扉の下半分が床に倒れ、それをくぐるようにして中へと入る。刹那、部屋中から魔力が感じられた。


「……で、反応はなしか」


 漏れ出た魔力が監視系魔法に引っ掛かるかと思ったが、そうはならないようだ。


「監視する魔力の選択もできるのか……? まあいいや、検証は後にしよう」


 呟きつつ、俺は両断した下半分を扉に無理矢理合わせる。ついでに近くにはテーブルや椅子があったので、それで簡単にバリケードを作っておく。


「敵が来たら、その時考えよう」


 呟きつつ部屋を見回す。ベッド近くの台には魔法の明かりがついていて、全体を照らす程ではないが視界の確保はできた。

 見た目は、兵士を避ける時侵入した客室のような内装の部屋。けれど床には本がいくつも積まれ、魔力も感じられることから何かがあるのだと理解はできる。


「屋敷に滞在する魔法使いか……?」


 推測しつつ、適当に本を手に取りパラパラとめくる。けれど専門用語ばかりで理解できない。


「……駄目だな。武器に関する物なのかもわからない」


 となれば、決定的な証拠を探すしかないか……俺は意識を研ぎ澄ませ、部屋に怪しい物がないかを探す。

 その間にもまた爆発が一つ……同時に遠くから喚声らしきものが聞こえた。ディクスはどうやら上手くやっているみたいだ――


「……ん?」


 俺はふと、床の絨毯が僅かにめくれ上がっている箇所を見つけた。普段なら気に留めないレベルなのだが……なんとなく、歩み寄りそれをめくってみる。


「おっと」


 するとそこには、まるで図ったかのように扉が一枚。


「地下への入口か、それとも床下の収納庫か」


 絨毯がめくれていたのは、油断なのかパーティーで慌てていたからなのか……色々考えながら、俺は剣を使って問答無用と言わんばかりにこじ開けた。

 結果、現れたのは収納庫。そこにはどっさりと資料が入っていた。


「ここから探すのか……面倒だな」


 感想を漏らした後、俺は資料に手を突っ込む。数枚確認してみたが、先ほどの本と同様、欲しい情報なのか見分けがつかない。


「全部持っていくのも難しいしなぁ……」


 けど、ここが怪しいというのはなんとなく理解している……なので、俺は入口に時折視線を向け、耳を澄ませながら資料を調べ始めた。

 さすがに一枚ずつ確認するのは骨が折れるので、大雑把に。以前山賊の砦で見つけた資料と同様、絵か何か書いてあると一発でわかると思うのだが――


「……ん? これは……」


 そこでふいに怪しい物を見つけた。取り出し観察すると、それは槍の詳細が描かれたものだった。

 俺はひとまずそれを保留にしつつ他の資料を漁る。結果、弓や剣といった武器に関する資料をいくつも発見する。


「大当たり……か?」


 とはいえ資料の詳細は詳しく調べてみないとわからない。それに、どうやらこれは武器の特徴を列挙しただけで、魔族の名なんかは登場していないようだ。


「もっと確実な資料が欲しい所だな……」


 呟きもう少し調べようとした――その矢先、


「……お?」


 男性と思しき呟き。しまった、気付かれたか。

 明かりも少ないし、破壊した扉も誤魔化せるかと思ったのだが……俺はとりあえず適当な資料をひったくって懐に収めようとした。しかし、


「――弾けろ」


 声がした。それが明確な魔法だと察した時、俺は資料を投げ出し回避に転じていた。

 瞬間、光弾が扉やバリケードを貫通し、部屋の中に飛び込み、着弾した。刹那閃光が部屋を包み、


 爆発が、部屋を襲った。


「ぐっ……!?」


 呻きつつ俺は仮面を被る顔を抑えるようにして床に伏せる。まさかいきなり攻撃――さすがにこんな展開は予想していなかった。


「侵入者、だな」


 そして魔法が炸裂し、部屋の中に粉塵が漂う中……廊下から男の声が聞こえた。


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