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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
首都動乱編
95/428

屋敷潜入の準備に際し――

 それから俺達は各々行動することになった。ディクスは俺達と同じ宿に部屋をとり、準備のためか早速外へ出かけている。

 カレンとシアナも同様で……俺はと言えば、やりたいことがあったのでやはり外に出ていた。


「本屋、本屋……」


 呟きつつ大通りを進む。以前探し求めていた本を購入するために、本屋探しをしていた。

 きっと作戦が始まったらそんな余裕もできなくなる……そう思ったのでここぞとばかりに探し、発見。


 そこへ駆け込み早速当該の本を探す――あった!

 流れるように本を購入し、店を出る。よし、これで完璧だ――


「何をしているんだい?」

「うおっ!?」


 驚いて振り向く。そこには旅装姿のリーデスがいた。


「なんだ、リーデスか……驚かすなよ」

「毎度毎度思うけど、そんな風に驚かないでもらえるかな? 普通に声を掛けているだけじゃないか」

「悪い……で、何の用だ?」

「いや、何だか慌てている様子だったから、気になって見に来たんだけど」

「本を買っただけだ」


 言いつつ本を見せる。リーデスは一目見て「ほう」と呟いた。


「『女神の剣』か……僕も全巻読んだよ」

「……何で魔族が読むんだ?」

「人間のことを学べと言われ、陛下から渡された」


 ああ、なるほど……というか、これって冒険活劇だし、この本を読んで人間のことを理解しろというのも難しいのでは。


「よりわかりやすく言うと、人間が魔族に対しどのようなイメージを持っているのか……それを理解するためだ。こうした物語に従うように、魔族は人々と接触し恐怖に陥れるわけだ」

「ああ、なるほど……確かに俺達は、こういう本から魔族のイメージを勝手に想像しているから、本から学ぶのは効果的かもしれないな」


 そう言われると理解できる……そんな風に思っていると、


「ちなみに読んだらハマりこんで、気付いたらファンになっていたよ」

「……そうか」


 勇者の話に傾倒する魔族……よくよく考えたらエーレだって勇者の物語を読んでいた。リーデスがそういう見解を抱いていても不思議ではないが……違和感は、残るなぁ。


「で、だ。ディクス様がやって来たんだけど、どうするかの方針は決定した?」

「あ、そうだ。その辺を説明しとかないといけないな」

「じゃあ場所を移そうか。前みたいに雑貨店にでも入ろう」


 ――ということで俺達は移動。そして前と同様適当な店に入り、リーデスが魔法を使用し誰にも見咎められないような処置を施す。

 そこから俺が説明を加える。伝えたことはこれからディクスと共に起こす行動と、シアナがリーデスに関する説明を行ったこと。


「……というわけで、カレンに対してはどうにか誤魔化しておくから、迂闊に出くわさないようにしてくれ」

「わかったよ……けど、君に大いなる真実の詳細を話した時なら、光に包まれる寸前だったし、姿を見られていないと思うけど」

「もしかすると、という可能性もゼロじゃないからな」

「それもそうか……それじゃあ僕は、セディの言葉に従おう」

「それで、今回の作戦についてリーデスはどう思う?」

「資料が見つかるかどうかはわからないな。情報をかく乱しているのは事実だけど、それが通用していないと、既に資料は闇の中だろうね……ま、それを確認するには入り込まないといけないわけだけど」


 言って、リーデスは肩をすくめた。


「けれど、逃げおおせることはできると思うよ。ま、その辺りの心配はしていない……というか」


 彼は俺に一つ、提案する。


「君の手持ちに、気配消しの魔法があっただろ? それを使えばいいんじゃないのかい?」

「その案も最初出たよ。けどディクスによると、ジクレイト王国のように、神々の武具を用いて監視魔法が掛けられているらしい。ディクスの場合は事前に情報を得て自分なりに解析しているから、それを潜り抜ける魔法を使える……俺の魔法に転用できないか提案してみたが、無理だそうだ」

「そうか……で、君の妹にはなんて説明したんだい?」

「カレンには、そうした魔法を王から渡されたと説明してある」


 そこまで語ると、俺は両手を広げやれやれといった仕草を示す。


「低レベルなら、どうにかなるかもしれないと思ったが……当該の貴族が用いる監視系魔法はかなりレベルの高いやつらしく、使用した魔法の魔力を解析し、保存することもできる」

「ほう、珍しい機能だね……というか、神々の武具にそんな機能が?」

「おそらく事件首謀者の研究を応用したんじゃないかな……ここまで仕込んでいる以上、やはり怪しいよな」

「そうだね……しかしそうなると、中で迂闊に魔法は使えないのか」

「ああ。その辺りの対策もディクスがやってくれるみたいだ……で、魔法が使えないとなると危険度が跳ね上がるのはリーデスもわかるはず。だから無理をしないようにとディクスには言われていて……資料が手に入らない可能性も十分ある。その時は、リーデスの資料を活用して貴族を捕らえるべく動く算段だ」


 そこで一度言葉を切り……頭の中を整理し、さらに続ける。


「俺達の目的は敵の首謀者を見つけ出すことだが……それ以上に騒動を未然に防ぐべきだというのが、ディクスの考えみたいだ」

「ま、そうだろうね。魔族の体を用いた武具を使わせないようにするのが、最重要だ。それには武器を提供している貴族を捕らえるのが一番……もっとも、証拠は隠滅されるだろうし、敵は引っ込んでしまうだろうけど」


 リーデスは俺に言い聞かせるように解説を加えると、懐に手を突っ込んだ。


「ま、こちらが王を介し上手く立ち回れば、潜入するより確率は低くなるけど、資料を手に入れることも可能かもしれないな……もし資料の奪取に失敗したら。これを使うといい」


 そう言って彼は資料を取り出す。


「僕もあの屋敷近くで見張って、もしもの時に備えるよ。で、状況に応じてセディ、もしくはディクス様に資料を渡す、ということでいいかい?」

「……カレンに怪しまれないよう資料を手に入れたと主張するには、それしかなさそうだな。頼むよ」

「了解。それじゃあこれで話は終了だ」


 にこやかにリーデスは言うと、魔法を解除した。


「ちなみに、この件についてはまだ陛下に報告していない。資料が手に入って相手が動き次第、報告するかを考えることにするよ」

「わかった」


 頷くと同時に彼は背中越しに手を振り、店から出て行った。

 残された俺はしばし店の入り口を眺め……やがて我に返ると、歩き出した。


 同時に屋敷潜入について不安が体を襲う。けれど、仲間達は全員ディクスに賛同し事を起こす構え。


「……覚悟、しないとな」


 小さくため息をつく。屋敷へ侵入するのに消極的なのは俺一人。

 ディクスやシアナは行動に移す気満々だし、カレンだってディクス達の出方を窺うために策に乗る様子……そしてリーデスは傍観者。この状況で異を唱えたとしても、覆ることはないだろう。


 なら、覚悟を決め気合を入れ直さないといけない――心の中で断じた時、店を出た。


「……けど、今は本でも読んで落ち着こう」


 零しつつ宿へと歩き出す。数日後来る屋敷襲撃を色々と懸念しつつ……今は現実逃避でもするように、本に没頭する気でいた――


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