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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
首都動乱編
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資料を見つけ出す方法

 カレンの態度を見てディクスは、改めて話し出す。


「では話そう……私が依頼を請けたのは別の貴族から……王家と縁のある人物からだ。オイヴァの名声により、依頼をしたんだと思う……で、その貴族のやっていることだけれど、どうやら強力な武器を用いて国に対して武力を見せ、地位の向上を図ろうとしているらしい」

「クーデタとかではないのか?」


 俺が問うとディクスは「さあ」と肩をすくめる。


「どこまで考えているかはわからないから、ひとまず依頼内容をそのまま話している……調査した所モーデイル達がその武器を用いて色々と活動している。魔物ばかり倒すのなら見過ごしても良いのだけど、人を殺したなんて噂もあるくらいで……正直、良い話は聞かない。その上――」


 と、ディクスは意味深な笑みを浮かべた。


「君達は知っているかどうかわからないけど……マヴァスト王国で先日起きた捕り物騒ぎ。あれにも関与しているのではと、噂もある」

「相当厄介な事例のようですね」


 カレンが零す。ディクスは「まさしく」と首肯する。


「犯人達は結局、宝物庫から物を奪うことはできなかったようだけど……逃走中で、結局捕まえられなかった。貴族がそんなことまで関与しているとなると……敵も何か、大々的な計画しているのでは……そんな風に考えていた」


 ――ちなみにその捕り物を行った山賊は、隣国のセリウス王国で俺達が倒したし、討伐に協力した人物、エクトルと話をつけている。あの場からリーデスがわざと逃がした山賊達の情報によるかく乱もあるし、少なくとも俺達の存在が露見する可能性は低い。


 考えていると、ディクスがさらに話を進める。


「その貴族が国を相手にして何かをやろうとしているのは、間違いなさそうな状況……ただ行動するにしても、ここまで話が大きくなると単独はまずいと思ったため、協力者を探していた。けれど騎士に協力を仰いだら危険だ。貴族が敵に回っている以上、騎士達の中にその貴族の息のかかった者がいる可能性が高い」

「もっともですね」


 頷くカレン。俺も同意だ。


「勇者に協力を仰ぐというのも無理だ。モーデイルのケースがある以上、難しい。というわけで色々と悩んでいたところに、君達が現れた」


 そこまで述べるとディクスは微笑を浮かべた。


「シアナと共にいる方々……それが勇者セディとくれば、私も安心できる」

「……なるほど、事情は分かりました」


 カレンは言うと、俺に顔を向けた。


「どうやらかなり大変なご様子……それに、貴族が秩序を乱そうとしているのを、放っては置けませんね」

「だな……オイヴァ。俺達は喜んで協力するよ」

「ありがとう。でも、一つだけ無茶をしなければいけないけど……覚悟はある?」


 無茶――どうやらここからが本題。ディクスは肩をすくめ、俺達に続ける。


「簡単に言うと、私が調査した段階でも確たる証拠は見つかっていない。状況証拠と依頼主が調査した情報から、間違いないないはずだが……城に訴え貴族を捕まえるためには、物的な証拠が絶対に必要だ」

「当該の貴族の屋敷へ、潜入ということですか?」


 今度はシアナが問う。それにディクスは頷いた。


「そういうこと……何か資料を見つけ出さないと、訴えるのは難しい。何せ――」


 と、ディクスは俺達を一瞥し、述べた。


「その事件首謀者の父親が、この国の大臣だからね」

「……おいおい」


 俺は思わず呻いた。そこまでは聞いていなかったので、素で驚いた。

 カレンも大臣と聞いて目を見開き、シアナは「なるほど」という様子で神妙に頷いている。


 次いで、ディクスは俺に一瞬含んだ笑みを見せた――一瞬何のことかわからなかったが、ふとリーデスのことを思い出し、悟る。

 山賊に関連する念書がリーデスの手元にある。それがある以上、屋敷に潜入して資料が見つからなくとも、それを使えば糾弾できる。だからまあ、最悪形だけの潜入でも構わない。


 けれど、貴族が保有する武器に関する資料……こちらは是非とも調べたい。そしてそれは、王に上訴すれば手に入らない可能性が高い。なぜか――リーデスの資料を使い城側が動き出せば貴族だって気付くだろうし、証拠隠滅される可能性が非常に高いからだ。

 ならば、屋敷に入り資料を掠め取る……上手くいけば、首謀者に関する情報を手に入れることができるかもしれない。


 どちらにせよ、一つ言えることは……今ここで、屋敷に潜入することがリスクはあれど大きなリターンがあるということだ。


「今回私は権力を持つ人間と戦う必要があるというわけだ。そして計画だが……実は数日後、その屋敷に招かれている」

「勇者ということで?」


 シアナが訊くと、ディクスは頷いた。


「より正確に言うと、その貴族の屋敷でパーティーが行われることになっている。で、私の依頼主が出席できるように取り計らってくれた」

「つまり、俺達も同じように出席し、資料を探すと?」

「いや、もっと良い方法がある」


 ディクスは俺に怪しい笑みを浮かべた――それは、どこか悪戯っぽい笑みを見せるリーデスに似ている。


「敵だって見つかり易そうな場所に資料を置いていたりはしないだろう……だから、地下とか金庫とかを見つける必要がある。現在屋敷の見取り図なんかを依頼主に調べてもらっているが、秘密の部屋なんかを見つけるのは難しいだろう……さらに、平常時でも見張りがわんさかいるらしく、普通に潜入しても多大な混乱を起こさなければ屋敷を歩き回るのは難しいらしい」


 ディクスはそう語るとやれやれといった雰囲気で肩をすくめた。


「だから、強硬な方法を取らせてもらう」


 強硬――密かに潜入し、資料を探るといった手段だと思っていたのだが、違うらしい。


「私が魔法でパーティーを無茶苦茶にする。要人を襲うと見せかけ屋敷を荒らし、見張りをパーティー会場に集中させることで、資料がありそうな場所を調べ回るというわけだ」

「……おい、ちょっと待て」


 思わず声を上げた。いくらなんでも予想外の言葉だった。


「つまり、俺達が襲撃者となって屋敷を襲うってことか?」

「そうだ」


 頷くディクス……それは、大丈夫なのか?

 先ほど出会った時の話し合いで策ありと言っていたが、まさか露骨な襲撃とは……というかそれは、王がフォローしきれるものなのか? パーティー会場を荒らして貴族に怪我でもさせようものなら、取り返しがつかないぞ?


「まあまあ。一応手はあるよ」


 俺の言及にディクスは手を振りつつ答える。


「私の依頼主も結構上の地位にいる人だからね。襲撃に関する事案も、情報を知り武器を盗もうとした賊、とか言いたてることができる」

「なるほど、わかりました」

「……おい、カレン?」


 なんだか乗り気のカレンに、俺は不安げに呟く。


「今の話を聞いて、賛同するのか?」

「手としては、悪くないと思う。こっちはこっちで変装すればバレるようなこともないだろうし……」


 と、カレンは僅かながらディクスへ目を光らせた。

 ああ、そういうことか……今回の事件について、何か怪しい言動があればすぐにしばき倒す、という気概なのだろう。


 ある意味、カレンがディクスやシアナを見定める良い機会なのかもしれない。ディクスが本当に貴族の野望を阻止しようと動いているのならそれでよし。もしそうでなければシアナもとろも叩き潰す――という考えだ。

 屋敷の中で罠を張られていたらという可能性もあるにはあるのだが……カレンとしては「跳ね返せる」と思っているのだろう。実際、その実力もあるし。


「私は、お兄様の言葉に従います」


 続いてシアナが言う……ディクスの提案が任務に関するものであると察したのは間違いないようで、彼女が否定する材料は見当たらない。


「で、残りは君だけ……どうする?」


 ディクスが俺に顔を向ける――空気的に、言える答えは一つしかなかった。


「……わかった。それでいこう」


 告げると、ディクスは「ありがとう」と答え、


「準備に関しては、全てこちらが行う。パーティーは二日後だから、それまでこの街でゆっくりするといい――」


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