表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
首都動乱編
93/428

兄妹再会

「王が敵側に加担していた場合を考えると、まずくないか?」

「それは心配いらないよ。私が魔族だと公言しても全然反応していなかったし」


 ……おい、今とんでもないこと言わなかったか?


「公言って……ここの王様と話をしたのか?」

「現地調査をする段階で、大いなる真実に関わる案件として王様には話を通しているんだよ。それで反応が無い以上、ここの王様が敵に加担している可能性は無いとみていい」


 確かにそれなら、頷けるものがあるけど……釈然としないのは、彼が勝手に話を進めているからだろうか。


「で、ここからの話だけど……偶然を装いシアナ達と合流するということでいいかな? で、私が色々と情報を持っているということにして、屋敷に潜入する」

「いや、待て。屋敷潜入については即答できない」

「それは君の妹さんにも話さないといけないし、わかっているよ……で、これから向かうということで構わないかい?」

「……その前に、話しておくべきか」

「何を?」


 ――そこで、俺はシアナがカレンに伝えた件を話す。


「なるほど、リーデスか。妥当だと思う」

「ひとまずディクスも彼と知り合いで、今回の件と合わせ探しているという設定でいいか?」

「それでいい。シアナについては、会話の流れで把握するように仕向けてみるさ。私の活動内容は承知しているし、すぐに理解できるだろう」


 そう言ってディクスはにっこりと微笑んだ。


「さて、そうと決まれば早速行動を開始しようか」

「ああ……よろしく。しかし、まさかシアナに続いて魔王の弟と共に戦うことになるとは思わなかったよ」

「その内、姉上が直接出張ったりしてね」

「いや、それはないんじゃないか? というか、魔王城を離れるわけにはいかないだろうし」

「けど、現状を鑑みるに出てきそうな雰囲気ではある」

「……どういうことだ?」

「敵が大いなる真実を知っている可能性が高いのはセディもわかっていると思うけど……敵はあくまで、それを公表しないよう活動しているのが不気味だ。それと自身のあずかり知らぬところで滅ぼそうとする存在が前からいたとわかれば……姉上も、よくは思わないだろう」

「だから直接エーレが出てくる、と言いたいのか?」

「そんなところ……とはいえ魔王城もシアナがいなくなって管理が大変だろうし、余程のことが無い限りは来ることはないと思うけど」


 言って、ディクスは立ち上がった。


「さて、話はこのくらいにしてシアナの所に行こう」

「ああ……それと、俺はディクスのことを聞いていて、偶然出会ったのを機に妹に会いに来た、という感じで頼む。もちろん、俺の妹についても注意してくれ」

「わかっているさ。その辺りは任せてくれ」


 自信満々に答える彼。なんだかその表情が逆に不安……まあ、魔族だとわかれば作戦どころではないし、彼だって気を付けるだ折る。

 俺は再度「頼む」と告げ、店を出た――ちなみに、会計はディクス。勇者として結構活動しているせいか、所持している財布は結構分厚かった。






 ひとまず宿に戻り、シアナ達がいないかを確認する。けれど出かけているのかその姿はなかった。


「待つことにしようか」


 ディクスは提案し、二人して俺が使っている部屋へと入る。


「結構良い部屋じゃないか……ところで、シアナは今の所怪しまれてはいないのかい?」

「カレン……俺の妹は価値観の違いで怪しんだことはあったようだけど、魔族だと看破されているわけじゃないな」

「そうか。なら兄がいると知れば少しは警戒も解くかな」

「……そうか?」

「魔族に血縁者がいるなんて、中々発想できないだろ?」


 言われてみればそうだな。確かに人間っぽい感じがする。


「実際血縁者なわけだし、ボロが出ることはないと思う」

「……シアナが焦って本名で呼んでしまう、という可能性はないか?」

「シアナは私を兄としか呼ばないし、大丈夫だろう」


 そこまで言った時、廊下へ続く閉められた扉の奥で足音が聞こえた。さらにそれは扉の前まで来て、コンコンとノックを叩く。


「兄さん、戻っていますか?」


 カレンの声。いよいよかと思いつつ、俺は応じる。


「ああ。入ってくれ」


 直後、扉が開きカレンが姿を見せる。緊張の瞬間。

 カレンが俺の近くにいるディクスへ目を留め、眉をひそめた。


「その方は――」

「――お兄様!?」


 続いて、カレンの後方にいるシアナが声を上げた。


「どうしてここに!?」

「彼がシアナと行動していると聞いて、会いに来たんだよ」


 語り笑うディクス。俺は小さく頷き、困惑するシアナへ口を開いた。


「ほら、シアナから話は聞いていただろ? 彼はここを拠点として活動していたみたいで、偶然ギルドで会ったんだ」


 ――訪れたギルドですぐに出会うというのは出来過ぎかなと思いつつ、俺は言葉を紡ぐ。


「……シアナさんの、お兄さん?」


 一人戸惑った表情を伴いカレンが問う。俺はそこでディクスを手で示し、説明した。


「勇者オイヴァと言えば、わかるだろ?」

「オイヴァ……!? あの『退魔の勇者』という異名を持つ……?」

「その二つ名は好きじゃないな」


 と、ディクスは苦笑した。


「えっと、その当人で間違いないよ。で、さっき言った通り妹のシアナがここにいるとわかり、挨拶をしに来たわけ」


 言った後彼はカレンに小さく頭を下げた。


「妹がお世話になっています」

「ああ、はい、どうも……」


 カレンは戸惑いながらも頷き――そして、俺に首を向けた。


「……勇者オイヴァの妹さんであったなら、なぜそれを説明しなかったの?」


 ――もっともな質問。けれどそれの回答は頭にできていた。


「いや、再会した状況で話したら、さらに怪しまれるじゃないか……」

「……う、まあ、そうとも言うけど」


 否定はしなかった……というか俺も設定を生やしただけなので、深く追求されると困る。


 けどカレンはそれ以上質問はせず……じっとディクスを見据えた。ここまで疑り深かった彼女のことなので、「実は彼も仕込みか何かで、勇者オイヴァというのは嘘」という可能性を考えているのだろう。それを払拭するには、俺達がこれから上手く行動していく必要がある。


「で、シアナ……ここには何の用で来たんだ?」


 次にディクスがシアナへ尋ねた。


「もしかしてリーデスに会いに来たのか? だとしたら私も探しているくらいで、おそらく会えないと思う」


 お、ここでリーデスの話題を持ってくるか……するとシアナはピクンと体が跳ねた。その辺りの事情は把握済み――彼女は、そう認識したに違いない。


「お兄様、リーデスさんはなんだかよくないことに加担している雰囲気があるのではと思い、ここに来たのですが……」

「そうか……私も同じような見解で、色々と事件を調査している間に探しているんだけど、見つからない」

「……その事件とは?」


 カレンが問う。対するディクスは肩をすくめた。


「関係の無い話……と言いたい所だけど、実を言うと、ここに来たのはあなた達に協力をお願いしたかった。シアナと共に行動する二人なら、こちらも信用できる」


 説明するディクスの表情は深刻なもの。それにより何かを感じ取ったのか、カレンは俺を見た。


「兄さんは、その辺りのことは聞いているの?」

「それについてはシアナが来てから訊くことにしたんだ。ひとまず、再会を優先した」

「そう……兄さんは、協力する気でいるの?」

「シアナ達の知り合いの件で来た以上、協力すべきだとは思っているよ。けど、内容次第かな」

「わかった」


 カレンは言うとシアナを部屋に入れ扉を閉め、ディクスへ顔を向けた。


「話を聞かせてください」

「はい」


 ――彼が頷くと同時に、俺はベッドに座り込み、二つある椅子はカレンとシアナが座る。で、ディクスは立ったままだったのだが……特に気にする風もなく、話し始めた。


「まず……このマヴァスト王国で、かなり面倒な勇者がいる。名をモーデイルといい、リーデスも少なからず関係している人物だ」

「その勇者が悪さをしているのか?」


 俺がディクスへ問うと、彼は「まさしく」と返した。


「けれど、彼だけじゃない……というより、彼は尖兵と言った方が良いかもしれない……彼らに、武器を提供している貴族がいる。その貴族を調査するべく、私は動いている」

「貴族、ですか……」


 カレンは応じると口元に手を当てつつ、質問を行う。


「その人物の名は?」

「……名を話すには、君達が仕事に協力してくれないことにはまずい。まずは概要を話すから、それを聞いて判断してほしい」


 ディクスの言葉にカレンは「わかりました」と答え、沈黙。承諾と見て間違いないようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ