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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
首都動乱編
92/428

勇者二人

 俺の声に反応し、険悪な男性達はすぐさま声を上げる。


「何だ? お前はこいつと知り合いなのか?」

「ああ、そうだよ」


 オイヴァが即答――そして、男性達へ告げた。


「もし戦うというのなら容赦はしない」


 ――彼の言葉の直後、スキンヘッドの男性が舌打ちをした。


「……ふん、行くぞ」


 そして言葉と同時に店を出る……そこで、俺はオイヴァへと改めて視線を移し、


「……何を、しているんです?」


 質問をした。

 海を想起させる深い青髪に碧眼――格好は前のような貴族服ではなく、染色されていない茶褐色の革鎧。腰には飾り気のない長剣を差し、両手には腕輪を身に着けている。


 ――先ほど聞き覚えのある声だと思ったが、当然だった。何せ相手は、


「こうしてオイヴァとして会うのは初めてだったね」


 ――エーレの弟である、ディクスだった。


「訊きたいことはたくさんあるだろうけど……そうだね、とりあえずギルド登録を済ませたらどうだい?」

「……そうですね」


 彼の提案に俺はカウンターに目を向け、記載事項を書き終える。


「……セディ=フェリウスか」


 カウンターにいる人物は書類を一瞥すると、俺の名前を読み上げる。


「あの勇者セディで間違いないのか?」

「はい」

「……有名な勇者がこの場に二人揃うというのは、いかにも出来過ぎた話だな」


 どこか他人事のように呟く男性……というか俺も、ディクスが突然登場し、内心驚いているんだが。


「これで書類は受理だ。もし仕事を請けたければ、街中にあるギルドでこれを提示してくれ」


 説明の後、男性は俺へ手のひらに乗るくらいの大きさをした薄い金属プレートを渡した。正方形の表面には『ウォルバスギルド所属』と書かれている。


「この街にはいくつも支部があるからな……混乱しないよう所属者を明確にするべく、こうした物を渡すようにしている。お前さんの名前は各支部に連絡しておく。これを提示し名前を名乗れば仕事を請けられる。ただしそいつを失くせば再発行だ」

「わかりました」


 頷いた俺はプレートを懐にしまい、歩き出した。


「ディク……じゃなかった。オイヴァさん、話が――」

「わかっているさ。それじゃあ適当な店にでも入ろう」


 言いながら彼は先んじて建物を出る。それに続き俺は外へと出て、


「あ、それと一つ言いたいことがあります」


 ディクスは以前出会った時の口調に戻し、俺へと告げた。


「私のことはタメ口で構いませんよ。姉上やシアナがそうして接しているのに、私だけ敬語というのも変ですし」

「……なら、俺の方も遠慮はしなくていいさ」

「そう? なら遠慮なく私も話させてもらおうかな」


 ディクスは途端に口調を崩し、言った。どうやらギルド内の口調が地のものらしい。自分のことは「私」と言うのは以前と同じだが……一聴するとリーデスと口調が似ていなくもないのだが、まとう雰囲気が優しげかつ格式ばったものであるため、ずいぶんと印象が違う。


「店でゆっくりと事情を話すよ?」

「構わないが……当てはあるのか?」

「もちろん、ここを拠点にして長いからね」


 ディクスは告げる……というか、拠点というのはどういうことだ?


「その辺りも、説明するよ」


 言って、彼は俺に案内を始めた。






 ――辿り着いたのは、一見するとかなり上等な店。傭兵姿の俺達が入るような店ではなかったのだが、ディクスは常連客であるためか店員は嫌な顔一つ見せず、席まで案内した。

 通された場所は個室だった。まだ昼食には時間があったのだが、とりあえず軽食でもということで、俺の目の前にはサンドイッチと紅茶が置かれている。


「食べながら話してもいいかい?」


 ディクスが確認。俺は頷いてからサンドイッチを一口。うん、高級感のある店の通り、味は結構なもの。

 ディクスもなんだか嬉しそうに食べる……こうして見ると、とても魔王の弟とは思えない。


「……さて、まず私のやっていることから説明しようか」


 ディクスはサンドイッチを飲み込むと俺に言った。


「以前セディに、神界との折衝という役目があると伝えているはず」

「言っていたな、確か」

「これ以外にも、他にやることがある……というより神界との交渉事が無い場合、私は基本的にこちらの世界に来て、勇者として活動している」

「その目的は?」

「世界がどのようになっているのか……現地調査だ。魔族幹部は基本、定住が多いから常に動き回る魔物の捕捉も限界がある。それを解消するべく、私は色んな場所に赴き実地調査を行っているというわけだ」


 調査……つまり、管理に必要な情報なんかを、こちらの世界に来て集めているということか。


「それ、ディクスだけがやっているのか?」

「信頼できる魔族幹部……特に人間の技術を保有している幹部が動いている。グランホークのことは憶えているだろう? もし大いなる真実を教えることになっていたなら、この仕事をさせていたはずだ。槍術という人間らしい技を所持していたからね」

「なるほど……で、その調査のリーダーがディクス?」

「基本は姉上の指示で動いているよ。他の幹部の動向は知らないし、私がこうした活動をしているのを把握しているのは、魔族幹部の中でも姉上に近しいリーデスやファールン達くらいだ。魔族が勇者をしているなんて知れたら、厄介なことになるからね」

「そうか……で、勇者か。オイヴァという名前は知っているよ。というか、かなりの有名人だな」

「調査の折、結果的に魔物を討滅したりしているからね。結果的に、有名になってしまった」


 苦笑する彼――魔王の弟が勇者となって世界各地を回っている。奇妙なことこの上ないし、誰かに話しても信じてもらえないだろうな。


「それで今回、私は偶然マヴァストに来ていた。で、監視作業をしているリーデスを発見し事情を訊いた。その後セディがギルドに入っているところを発見し、さらにトラブルに巻き込まれそうになっていたから馳せ参じたわけだ」


 ああ、ディクスと話していたからリーデスは現れなかったのか。


「シアナには会っていないのか?」

「まだ会っていないよ……このまま情報を交換して素通りしようと考えていたんだけど……リーデスからの話を聞いて、協力してもらおうかなと考えたりもしている」


 と、彼は小さく笑みを浮かべた。


「実は、セディ達が欲しい情報を私は持っている……というか、そのことを調べていたりするんだ」

「何?」

「君達が山賊討伐で手に入れた資料の中にあった念書……あれとは違うけど、似たような誓約の書かれた念書を偶然発見し、大いなる真実に基づく管理に支障が来すと判断。その貴族に取り入って、色々と情報を集めているわけだ」

「ちょっと待て。それって大丈夫なのか?」


 思わず俺は声を上げた。


「敵は大いなる真実を知る相手である可能性が非常に高い。ディクスが調べているとなると、わかるはずでは――」

「敵は私を調べている形跡はないよ。それに、もし私がいると判断したなら、とっくの昔に攻撃を受けているか逃げているさ」


 ディクスは断じると、紅茶の入ったカップを手に取り、一口飲んだ。


「それをしないということは、敵が私の姿を見たことが無いか、誰かから情報をもらっているだけで私がここにいることに気付いていないかのどちらかだ……私としては、後者だろうと推測している」


 カップを置いたディクスは、次に俺と目を合わせ、続ける。


「私の現状はこんな感じだ……続いて、貴族の情報だ。こちらもわかっていることがある」

「わかっていること……?」

「その貴族は、君達の任務で調べようとしている勇者とも関わりがあるんだ」


 告げたディクスは、俺に肩をすくめた。


「セディがリーデスから報告を受けた、モーデイルという人物がその筆頭だ。彼は度々その貴族の屋敷に招待されている」

「となると、怪しさ満点だな……貴族を調べた方がよさそうだ」

「リーデスが情報を上手くかく乱してくれたみたいだし、敵はまだ油断しているはず……証拠を手入れ易いだろう」

「おい、ちょっと待ってくれ」


 不穏な言動をするディクスに、俺は待ったを掛けた。


「もしかして、屋敷に潜入しようとか考えているのか?」

「それが一番確実性の高いやり方だと思うけれど?」

「そうかもしれないが……リスクが大きすぎやしないか?」

「そうかな?」


 首を傾げるディクス。顔には「僕らの能力なら余裕じゃないか?」と書いてある。それはそうなのだが、そういう意味じゃない。


「いや、勇者二人がそんな屋敷に潜入したとわかれば、対外的にまずいだろ?」

「こっちには策があるから大丈夫だよ。それに、リーデスや私が手に入れた念書があるだろう? それを大いなる真実を知るここの王様に見せ話をつければ、失敗したとしても国側からフォローしてもらえるさ」

「……つまり、今回騒動を起こしたのは国側の密偵だということにするのか?」

「そういう方法もあるね。けど私が考えているのは別の手段……ともかく、敵はリーデスのかく乱によってこちらが何も把握していないと思っているだろうし、そのアドバンテージは利用しないと」


 笑みを浮かべるディクス。確かにそれなら危険も少ないのだが――俺は一つ懸念を抱いた。


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