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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
首都動乱編
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ギルドの騒動

「傭兵ギルドに行けば、情報が手に入る可能性は高いと思う。ただこの街はかなり広いし、ギルドといってもいくつか支部があると思うよ」


 と、カレンはシアナへ視線を移した。


「そこでまずは、シアナさん。以前話していた方についての情報を聞かせて。住んでいる場所とかがわかれば一番良いけれど」


 ――瞬間、シアナは「はい」と答え、膝に置いていた両の拳をぐっと握りしめた。所作はテーブルの下で行われたため、カレンからは見えない位置。けれど俺にはきっちり見えた……やっぱり、考えてなかったな。


「はい、まずはその人物の詳細ですね」


 しかしシアナは怪しまれないよう必死に言葉を紡ぐ……こればっかりはフォローできないため、任せるしかない。


「まず、名前ですが……えっと、リーデスと、いいます」


 そして、彼女の口から出たのは俺達を見守る魔族の名――咄嗟に浮かんだ名前がそれしかなかったのは仕方ない。けれど、それは限りない悪手。でも言い出した以上、それで押し通すしかない。

 そこからシアナは容姿なんかを説明する……俺はこの事象がどう転ぶか思案してみる。


 正直、懸念しか感じられないのは事実。けれど無茶苦茶なことを言えばカレンが怪しむのは間違いないので、事なきを得るには、こうする他なかったのも事実だろう。


 ただリーデス本人と引き合わせるのは、リスクがあるのでやめたほうがいいだろう……いざとなればリーデスが山賊に施したように記憶を、というやり方もゼロではないが、できればやりたくない。魔力を多大に持ち魔法を使うカレンの場合だと、何かのきっかけで戻ってしまう可能性が高い――というのも、魔力に日常接することで抵抗力ができてしまっているのだ。


 ということで、できればカレンに何かをすることなく穏当に誤魔化したい……結局、シアナのやるように見知った存在を想像しながら嘘をつくのが一番だった。

 まあ、リーデスが出てくるというプラン自体存在していないので、やりようはいくらでもあるか……考えていると、シアナが話に一区切りつけた。


「特徴などは以上です。ただ、住んでいる場所ですが……そこまではわかりません。手紙には転居した、という風には書いてあったのですが」

「となると、やっぱりギルドに行くしかないと」


 カレンの意見に、シアナは頷く。


「はい……ギルドのどこかにいるのは間違いないと思いますが」

「なら、明日から捜索を――」

「待った」


 そこで、俺はカレンを制する。


「ギルドには、俺一人で行くよ。カレンとシアナは街の観光でもしていてくれ」

「……どうして?」


 首を傾げるカレン。顔に険しいものは感じられなかったので、純粋な問い掛けなのだと理解できた。


「傭兵ギルドというのは、ほら……ガラの悪い連中の集まりみたいなところだからな。カレンみたいな人間が行くと、それだけで厄介事が発生する」


 そうしたことを考慮に入れた意見だが――本音は、下手に調べられてウソがばれるのがまずいから。


「……ガラ?」

「ほら、カレンやシアナみたいな女性が行くと、絡まれる可能性が高いんだよ」

「私なら大丈夫だけど……」

「騒動起こしたら出禁になるかもしれないだろ? まだ仕事もしてないのに出禁なんて、シャレにならないぞ」


 俺の言葉にカレンは「確かに」と呟き、


「それじゃあ、兄さん……任せた」

「ああ。二人は休んでいてくれ」


 そう言って俺は笑みを浮かべる――二人は、俺のことを見て小さく頷いた。






 と、いうわけで翌日、早速調査……のフリをするべく一足先に宿を出た。


 任務の詳細についてはリーデスから多少なりとも聞いている上、山賊に関わる貴族の存在もある――つまり、資料にあった勇者を探すか貴族の調査をすればいい。

 できれば資料を見直したかったのでリーデスと合流したかったのだが、なぜか彼は外に出ても俺に話し掛けて来ようとしなかった。なんとなく通りを歩いて少し待ってみたのだが、やはり現れない。


「何かあったのか……いや、心配するだけ無駄か」


 呟きつつ、暇になってしまったのでなんとなく行く必要もないギルドへ足を向けることにした。まあ、ここに少し留まるならギルド登録くらいはしておいてもいいか、などと考えつつ宿から一番手近な場所へと入る。

 中は閉め切られているせいか空気が悪い。俺はそれを我慢しつつ奥にある受付へと歩む。その間に視線を周囲に送ると、新人だと一目でわかったためか、幾人かがこちらを見て訝しげな視線を向けていた。


 けれどこちらは無視しつつ、受付にいる男性に声を掛ける。


「すいません」


 新聞に目を通す相手は、けだるように俺へと目を移す。


「……新入りか?」

「はい」

「なら、最初は登録してくれ」


 彼は横にある木製デスクの引き出しから紙と羽ペンを取り出し、こちらへ渡す。紙は登録申請書と書かれており、俺は「どうも」と答え、ペンを使って名前を書き出す。

 ついでに資料で確認した勇者について訊いておくべきか……ふと思い、ペンを走らせながら声を出した。


「この街に、モーデイルという人物はいますか?」


 ――その声を聞いて、男性の眉が僅かに動く。


「……お前、奴の知り合いか?」

「色々と噂が入っているので多少気になって」


 口から出まかせなのだが……男性は心当たりがあるのか、小さくため息をついた。


「やれやれ、新人の耳にも入るくらいか」


 どうやら、トラブルメーカーらしい……俺は話を合わせるように口を開く。


「噂通り、厄介事を抱えているようですね」

「厄介事どころか、奴はこの街で疫病神になりつつある――」

「おい」


 会話をしていると、後方から声。ペンを止め振り返ると、革鎧を着たスキンヘッドの男性が一人、腕を組み立っていた。


「お前、あの人にケチをつける気か?」


 ……どうやらモーデイルという人物の支持者か何からしい。俺としては三枚あった資料の内、一人の名前を適当に呟いただけなので、これほどの戦果は当たりと言えば当たりだ。

 けどまあ、厄介事に巻き込まれる、という点では大外れという見方ができなくもない。


「いや、ケチつけるとかそういうことじゃないよ」


 俺は苦笑し、男性に返答する。


「ただ、ほら……俺としてはモーデイルという人に迷惑にならないよう、最大限努力しなきゃいけないわけで」

「……ほう、迷惑、か」


 卑屈な言動に男性はニヤリと笑う。対する俺は誤魔化すような笑いを見せ、とりあえず、上手く対処できたと思った――


「なるほどな。だが噂を聞いて厄介事を抱えているようだと判断しているお前には、制裁を加えなきゃならないだろうな」


 ――結果は失敗。そこで俺は苦笑し、


「できれば、穏便に取り計らってくれると嬉しいんだけど」


 男性は何も言わない。代わりに腰に差してある剣の柄に手を掛ける。


「穏便に、か……おい、どうする?」


 そして彼は後方に呼び掛けた。見ると、男性の取り巻きと思しき目つきの悪い傭兵が三人ほどニヤニヤしながら椅子に座っていた。

 これは、心底面倒だ……思いつつ、誤魔化すような笑みを見せたまま――無論、これは演技――口を開いた。


「いや、その……別にたてつくわけではありませんし」


 いざとなれば目の前の面々を実力で叩きのめすことも考えないといけないだろうけど……そんなことをすれば、最悪出禁になる。いきなりそんなことになってしまえば元も子もないし、できればここは騒動を回避したい。

 最初に因縁をつけてきた男性の取り巻きが立ち上がり、ゆっくりと近づく。彼らは俺の退路を断つべく、囲むようにして歩む。


 魔法を使うにしても、こんな建物の中ではまずい……無理矢理突破して逃げるのが良いだろうか。けどそれだと彼らと因縁ができるだけで、ギルドで情報を取得するにも支障が出る。

 八方塞がりかもしれないと思いつつ、俺はさらに口を開こうとした――その時、


「おや、また面倒事を起こそうとしているのかい?」


 入口から、明瞭かつ澄んだ男性の声が耳に入った。

 聞き覚えがあるような気がした。けれど姿は男達に阻まれ見えない。一方の男達は明確に聞き覚えがあるのか、険悪な顔つきを見せつつ振り返った。


「オイヴァか……性懲りもなく喧嘩を吹っ掛けるつもりか?」


 オイヴァ……? 俺はそこで聞き覚えのある名前だと思い、記憶から探り出しすぐに思い出した。


 勇者オイヴァ――確か諸国を放浪し各地で魔物と戦い人々を救う勇者だったはず。俺のように魔族幹部を倒すという功績が無いため地味な勇者だと言われているが、そこかしこで功績を聞くことができる程度に、有名な人物であるのは間違いない。

 俺も勇者として旅をしていて幾度となく耳にしたことがある。彼はどうやら、この街を拠点にしており、男達とも知り合いらしい。


「言っておくけど、俺は君達と戦いたいわけじゃないよ」


 オイヴァは述べつつこちらへ近づく。するとスキンヘッドの男性が一歩前に出て、取り巻きの面々がオイヴァへと近づく。

 俺はすかさず体を傾けてオイヴァの姿を確認。そこで、彼と目が合い――


「は……?」


 間の抜けた声を上げてしまった。


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