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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
首都動乱編
90/428

作戦開始と首都到達

「……あのさ、一ついいか?」


 夜、月の明かりもそこそこの暗がりで、茂みに隠れ俺は周囲にいる面々に呼び掛けた。


「何?」


 聞き返したのはカレン。格好はいつもの法衣ではなく、黒装束。さらに長い髪を後ろで綺麗に束ねまとめ、なおかつ舞踏会で使うような仮面を被っている。

 仮面のせいで表情は確認できなかったが、首は一方向を見続けているのはわかる。


「本当に今さらだけど、やめておくべきだという意見は浮かばなかったのか?」

「王家の血筋の人が勇者に依頼をしたのだから、国に関わる重要な問題でしょう? 踏み込むのは当然だと思うけど。きちんとした証拠が無いと揉み潰されるとあの人も言ったわけだし……それに兄さんも同意したじゃない」


 それはそうなんだけど……俺の頭に後悔が生まれる。


「もうあの人が潜入しているわけだし、今更引き揚げようとは言わないよね?」

「……最悪、まだ引き返せるような気がするんだが」


 その時――ドォンという爆発音が、夜空を斬り裂いた。


「始まりましたね」


 声はシアナのもの。カレンと同様黒装束かつ、似たような仮面をつけている――そこで俺は彼女に首を向け、


「……シアナ」

「こうなった以上、仕方ありませんよね」


 同意を求めるような声音――俺はそこで深くため息をつき、


「……そうだな。突入しよう」


 告げると同時に、茂みから飛び出した。

 続いてカレンやシアナが続く。そして俺の目の前には、黒く塗られた鉄柵が見えた。


「――飛べ!」


 カレンが叫ぶ。同時に俺の体は宙を浮き、柵を一気に飛び越え――屋敷の敷地へと潜入する。

 そう、屋敷――屋敷だ。暗がりで見えにくいが非常に豪華な庭園と、四階建てという絢爛な佇まいの屋敷。けれど今は断続的に続く爆発音によって、悲鳴らしき声が聞こえる状況となっている。


「……派手にやっているなぁ」


 俺はどこか傍観者的に呟く。いや、今からこの屋敷に潜入しなきゃいけないわけなのだが……ちょっと現実逃避してしまった。


「兄さん、進もう。手筈通りに行けば、潜入場所は手薄になっているはず」

「……ああ」

「もし敵に囲まれたら逃走ということで」

「わかったよ……しかし、本当にバレないんだろうなぁ……?」


 不安になりつつ、俺は懐から仮面を取り出し、被る。格好は彼女達と同様黒一色。しかも剣まで別の物に変えてある……色んな意味で、不安だ。

 とはいえ、グチグチ言っても始まらないことは確か――俺はやがて覚悟を決め、所定の場所へ向かって走り始めた。






 ――ここで、話は数日前に遡る。俺達は通行できるようになった国境を抜け、マヴァスト王国の首都へとうとう辿りついた。

 首都の名はウォルバス――西側の交易地ということで小国にも関わらず首都の大きさは目を見張るものがあり、西側へ行く山へ到達する前の平野に、広大な街を構えている。


「大きいですね」


 シアナが感嘆の声を漏らす。俺は「そうだな」と同意しつつ、カレンに目を移した。


「さて、ここまで来たのはいいが……とりあえず、宿を探そうか」

「そうだね……で、それからシアナさんの知り合を探そうよ」

「ああ」


 と、答えた所で一つ気付く――そういえば、知り合いを探すってどうするつもりなんだ?


 マヴァスト王国へ行くために、シアナは嘘をついたわけだが……彼女に視線を送ってみると、ほんの僅かに目が泳いでいた。考えていなかったらしい。

 考える時間はあったはずなのだが……まあ、そこを追及しても仕方ないか。とりあえず、折を見てシアナと相談することにしよう。


 俺達は会話をしつつ街の入口へと近づく。平地に存在する街は城壁に覆われ、中々の迫力を示している。


「西側の攻撃から民を守るために建造した、城壁だったかな」


 カレンがふいに呟く。その時俺も思い出していた。ここは、東側の大陸における最終防衛ラインなわけだ。

 だからこそジクレイト王国とも交流が深く、小国であるにも関わらず軍隊も存在している。先ほどまでいたセリウス王国と雲泥の差だが、この城壁がそのまま戦乱の歴史であり発展の証であると考えれば、果たして人々にとってどちらが良いのか――


「どうぞ、お通り下さい」


 門番をする兵士から声を掛けられ、俺達は門を抜ける。最初に見えたのは土をしっかりと固められて作られた目抜き通り。通りを真正面に進めば城へ辿り着くが、ジクレイトの首都なんかと比べ城自体はそれほど大きくないため、周囲の建物に目がいく。


「これなら簡単に宿は見つかりそうだね」


 カレンは言いながらずんずん先へと進んでいく。その後を俺とシアナは追いつつ……ふと、周囲を眺めた。

 歩いていると時折、太い道が横へと伸びている――おそらく、この街は今歩いている通りを中心として、道が伸びているような構造らしい。木で例えれば今歩く場所がしっかりと根を張る太い幹。そして横へと伸びる道が、枝のように分かれている、といったところか。


 露天商の呼び掛けなどを聞きつつ、俺達はひたすら歩く。宿らしき場所を発見することはできるが、カレンは料金表などがのっている看板なんかを見て唸りつつ、先へと進む。


「……適当に入ったらいいんじゃないか?」


 俺がなんとなく提案してみるが、カレンは首を左右に振る。


「当分の拠点となるんだから、できるだけ節約しないと」

「……長居しそうな雰囲気だし、仕事でもするか?」

「それも、ありと言えばありだけど……」


 カレンはふいに立ち止まり、腕を組みつつ考える。俺やシアナも合わせて足を止めつつ、カレンの思考が終わるのを待つことにする。


「情報を集めがてらなら、いいかもしれないけど……仕事に集中したら、本末転倒だよ?」

「わかっているさ。とりあえず資金的にはまだ余裕があるし、逼迫してから考えよう」

「……それじゃあ遅いと思うんだけどな」


 カレンは言いつつもとりあえず同意したのか、近くにあった大きめの宿を指差す。俺はそれに頷き、そこへ入った。

 値段や質的なものはほどほどといった場所。部屋は二人部屋しか空いておらず、とりあえず部屋を二つとって、案内され部屋の中へ一人入った。


 簡素なベッドとテーブルと椅子二つ。そして大通りを見ることのできる窓が一つ。日当たりもそれなりで、入った感触としては悪くない。


「さて……」


 俺は荷物を床に置き椅子に座り込んでから、シアナの知り合いについてどうするか考える。当の彼女は策が無い様子。ならば、彼女の言う知り合いを適当にでっちあげるしかない。

 一番の有力候補は、隠れて俺達を見守るリーデスなのだが……俺がリーデスと初めて遭遇した砦で、カレン達もリーデスの存在を一目見ているはずだった。それは一瞬のことだったかもしれないが、もし遭遇して見覚えがあるなどと言われればかなりまずいことになる。とすると、彼と引き合わせるのは危険だ。


 なら、エーレに頼んで別の魔族……というのは、リーデスの策もあるしやりたくない。


「手が無いな……」


 ここにきて、そうした事実に気付く。一番あり得そうな選択としてはリーデスに変装させることだろうか……けど、リーデスとしても俺達を見守ることが任務である以上、率先して出たくはないだろうし。


 色々と悩んでいると、ノックの音が。呼び掛けると扉が開き、カレンとシアナが姿を現した。


「とりあえず、これからの方針を決めておこうかと」

「ああ、いいよ」


 俺は席を立ち、二つしかない椅子を明け渡してベッドに座り込む。二人は空いた席に相次いで座ると、先んじてカレンが口を開いた。


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