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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者復活編
89/428

両者の心意

「どうした?」

「いえ……一つだけ、セディ様に謝っておかなければならないことが」

「謝る? 何を?」


 俺が首を傾げると、シアナは苦笑する。


「今回の任務が厄介な事例であるのは間違いありません。そして調査をすれば、間違いなく大いなる真実に触れることになる……そこでもしもの場合に備え、カレンさんのことをどうするか考えるため、見定めていたのですが……」

「もしかして、カレンに真実を話すってことか?」


 先読んで尋ねると、シアナは小さく頷いた。


「はい。あくまでもしもの場合、ですけど」

「……カレンが知ったら、どうなるだろうな」


 不安しかないんだが……いや、俺がなぜ魔王に協力しているのかを話したら、納得してくれるだろうか。


「けど、今はやめておいた方がいいだろうな。魔族化の姿を見せてしまった手前、魔族に対して神経過敏になっているし、何より俺がまだ操られて……という可能性を考えかねない」

「そうですね」

「……で、シアナとしては話しても良いと思ったのか?」


 ――もしそうなら、シアナとしてもカレンを信用したということ。それは少しばかり嬉しいのだが、


「保留ということで」


 ドライに、彼女は答えた。


「正義感が強く、セディ様想いなのはよくわかります……ですが、少し猪突猛進な態度が気に掛かります」

「……誰かに似て、な」

「セディ様はほら、難局を切り抜けられる……もとい、お姉様を打ち破れる力をお持ちである以上、大抵のことは平気でしょうし」

「そうだといいんだけどな……」


 エーレとの戦いだって色々重なって結果、到達した領域なわけで……いや、不毛な議論になるような気がするし、やめておこう。


「わかった。とりあえず保留だな」

「はい。私達のことと同じく」

「……ああ」


 ちょっとだけドキリとした。けどまあ、シアナとしてもその辺りのことは気になって当然か。

 結論を出さないといけないのは俺もよくわかっているけど……いや、これだって考えても仕方ないな。うん、そうだ。今は任務に集中しよう。


 そこで、靴音が聞こえた。カレンが戻ってきたようだ。


「さて、そろそろここを引き払う頃合いか。シアナ、準備はいいか?」

「はい、もちろん」


 答えると同時にカレンが顔を覗かせる。そして砦を出るという旨を聞き――俺達は、出口へと歩き出した。






 後続の兵士によって砦内や最後に倒した山賊達を捕らえ終えた時には、すっかり夜となっていた。


「宿は最寄りの町で既に手配しております」


 エクトルの言葉により、俺達は森を抜け町へ向かうことにする。彼は案内を買って出たのだが、俺達は賊の取りまとめをした方が良いと提言し、三人で移動を開始した。


「兄さん、なぜあんなことを言ったの?」


 道中、俺の隣を歩くカレンが声を掛ける。


「あんなことって……俺が今回の討伐に参加したことを話すなってこと?」


 ――ちなみに、リーデスの策に乗っかるためにエクトル達には俺がいたことを伏せてもらうように言い含めておいた。いずれ主犯者にも山賊達がやられたことが伝わるはずだが……リーデスが情報をかく乱しているので、大丈夫のはず。


「ほら、あんまり目立つのもまずいだろ?」

「まずい……のかな?」

「可能性は低いけど、王様の語っていた人物達と山賊とが関係あるかもしれないし」


 苦しい理由ではあったが……カレン自身思う所があるのか「わかった」と答え、口を閉ざした。

 後はひたすら森の中を進む。道はカレンが生み出した明かりがあるため、視界確保に困るようなことはない。


 周囲には俺達が移動する音だけが響く……その状況を破ったのは、


「……シアナさん」


 カレンの言葉だった。


「はい、なんでしょうか」


 後方を歩くシアナは穏やかに返答する。

 そこで、カレンが立ち止まった。俺も合わせて足を止め、二人が対峙する姿を視界に捉える。


「……最後の戦闘の時、攻撃をその身に受けたけど」

「ああ、平気ですよ。きちんと結界による防御はしましたから」


 シアナはにっこりとしながら答える……が、カレンは何か引っかかっているようで、


「でも、あの山賊の所持していた剣……かなり強力だったようだし、わからないところで変調があるかもしれない」


 と、カレンはシアナを凝視する。


 おそらくカレンは山賊の所持していた漆黒の剣が強力なものだと見当をつけ、だからこそシアナが防ぐのはおかしいのでは――という風に考えたのかもしれない。


「それは、私が防いだことがおかしいと?」


 対するシアナはやや強い口調で聞き返す。俺から見ると演技なのだろうと察せられたのだが、カレンは多少慌てたようだった。


「そういうことじゃなくて……無理はしていない? ということなんだけど」

「平気ですよ……それに、お疑いであるならそう言えばよろしいのでは?」

「いや……だから……」


 と、カレンは肩を落とし俺を見た。


「……自業自得じゃないか?」


 俺はそう返答するしかなかった。実際今までカレンが疑い続けてきたわけだから、シアナがそういう風に言及するのは根拠がある。


 ――その時、カレンの見えない所でシアナの表情が微笑に変わった。それでなんとなく察しがついた。きっと、からかって楽しんでいる。

 そんなことをするような性格ではないはずだが……いや、もしかするとこういう行為を見て、カレンに大いなる真実を話すか検討しているのかもしれない。そして、今回は微笑。果たして良かったのか悪かったのか――


「……わかった」


 やがて、カレンがあきらめたように呟く。けれどすぐさま表情を戻し、


「シアナさん、これだけは言っておくよ」

「はい」

「……援護してくれて、ありがとう」


 礼を述べた。それに対しシアナは「はい」と返事をして――会話が途絶える。


 後は移動を再開し、一路町へ。そこでカレンとシアナの表情をそれぞれ窺う。カレンは多少なりとも警戒を解いた様子だったが、それでも時折鋭い視線をシアナへ送っている。

 対するシアナはそんなカレンを生暖かく見守るような態度。けれど彼女から事情を聞き、品定めする様な雰囲気を帯びているような気がした。


 表面上は仲が改善したように見えるが……結局の所、腹の探り合いが続いている状況。これは何を言っても直らないだろうし、俺は早々にあきらめた。間違いなく双方が納得するまで終わることは無いだろうし――果たして、納得する日が来るのかどうかも怪しい。


「……難題ばかりだな」

「何か言いましたか?」

「いや、何も」


 シアナの言葉に首を振り、ひたすら歩く――やがて森を抜け、街道が現れる。加えてやや距離のある場所に明かりが漏れる建物が見えた。


「今日はこれからゆっくりと休んで明日、改めてマヴァストへ出発だな」

「うん」

「わかりました」


 カレンとシアナは双方頷きつつ――町へと歩き出す。そんな二人の姿を見つつ、俺は小さく息をついた。


 シアナが相当な下手を打たない限りは魔族であるとバレるようなことはない。しかしカレンは彼女の行動に首を傾げる部分もあったし、注意するに越したことはないだろう。

 カレンの方は、礼を告げて多少ながら仲が改善した……という風に解釈することもできるが、相変わらず疑義を抱いているのは間違いない。それが完全に氷解するか可能性は低いだろうし、何よりシアナと俺が共に行動する点を良しとしていないので、今後トラブルが発生する可能性がある。


 考えてみると、本当に難題ばかりだ……とはいえこのメンバーで任務を行う必要がある以上、どうにかこうにか対応していかなければならない……限りない不安を抱えつつ、俺は町へ向かって歩を進め続けた――


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