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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者復活編
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事後処理

 その後、後続の兵士達がやって来て、山賊達を捕らえ始めた。


「兄さん、私は少し彼らと今後のことを話してくる」


 カレンはそう言って俺やシアナから離れた。で、残る俺達は砦の一室を借りて兵士達の動きを窓から眺めているような状況だった。


「ひとまず、全員捕まったようで何よりですね」


 シアナが笑いながら語る。それにこちらは小さく頷きつつ……一つ、言っておかなければならないと思った。


「……シアナ。最後、カレンを庇ったことだけど」

「あれですか? あ、えっと、ちょっとばかり打算的な考えがありまして」


 と、苦笑いを浮かべる。


「ほら、カレンさんはずっと警戒しているみたいですし、私が上手くフォローできれば、少しは関係が改善するかなと思い――」

「シアナ」


 そこで、俺はやや強い口調で呼び掛けた。結果、彼女の口が止まる。


「あの攻撃は、カレン自身も結界を使って防ぐことができたはずだ……で、シアナは明らかに防御が間に合わなかったよな? それとも、わざと結界を使わなかったのか?」

「……もしかして、怒ってます?」


 シアナは窺うように尋ねる。それに俺は――はっきりと、頷いた。


「ああ、怒ってる」

「……えっと、あんな攻撃くらいで私は平気ですよ? あ、もしかして打算的な考えがあったから――」

「違う」


 切って捨てた俺に、またも彼女の口が止まった。


「確かにシアナにとってみれば取るに足らない一撃だったかもしれない。けれど、あの剣……何か強力な力があってもおかしくなかった」

「魔族幹部ファナードの、剣ですね」


 断定口調でシアナが話す。


「それについては把握できていましたし、私はなんとも――」

「シアナ」


 もう一度名を呼んだ――直後、俺は息をつく。


「ごめん……イライラしている風で」

「いえ……あの、よくわからないんですが」


 シアナは困った顔で頬をポリポリとかきつつ言う。


「私……何かしました?」

「全ては結果論だけどさ、場合によってはシアナが怪我をしていた可能性があるだろ?」

「それは、まあ」

「もし今後共に行動するとしたら、ああした無茶な行為は控えてもらいたいんだが――」


 まあ、彼女が平気なのは俺だって理解できているけど……ヒヤリとしたのは事実だったので、そう言及した。

 結果、シアナは「わかりました」と応じ――ほんの少しだけ微笑を浮かべた。きっと、心配してもらっていることが嬉しいのだろう。


「今後、無理はしません」

「よし、それじゃあ――」

「おーい、セディ」


 と、今度はリーデスがやって来た。突然の声に俺は驚き、シアナが先んじて声を上げる。


「あ、リーデス」

「シアナ様、お疲れ様でした」

「私はほとんど何もしていないのですが……ところで、どうしてここに?」

「はい……セディの仲間が戻って来るまでに、話しておこうと思いまして」


 リーデスは慇懃な礼を示し、語り始めた。


「この戦いの中で資料が見つかり、今回の山賊討伐が任務と関係あることが判明しました」

「もしかしてファナードの剣のことですか? それならこの目で確認しています」

「知っていましたか。どうやら遅れて戻ってきた賊が、マヴァストの宝物を荒らした人物達のようです」


 そこでリーデスは俺を一瞥して、笑み。


「最後の戦いより少し前、宝物庫を襲撃した賊が持っていたと思しき資料を発見しました。これが、その一部です」


 そう言いつつ、うやうやしくリーデスは資料をシアナへと渡す。

 彼女はそれを一瞥し、小さく頷いた。


「わかりました……けれど、私やセディ様が持っているとカレンさんに見つかる可能性もあるので、とりあえず資料はお姉様に――」

「そこです、シアナ様」


 リーデスはふいにシアナの言葉を止めた。


「ここからが本題です。許可なく行動を起こしましたが……現在、賊の一人を逃がしました」

「……え?」


 シアナは目をぱちくりとさせる。と、同時に俺は目を剥いてリーデスに詰問した。


「リーデス!? お前、一体何を――」

「話は最後まで聞いてくれ」


 彼はこちらの言葉を止めると、なおシアナへ話す。


「その人物の記憶を探った所、山賊と内通していた貴族の部下らしき人物と逐一連絡をとっていたようなので、彼の下へ行くよう意識させておきました。またその賊には、資料に関することや漆黒の剣について討伐隊が認知していないと記憶を改変しました……この討伐自体も、お二人と関わりの少ない兵士達が倒したことになっています」

「それは、どういうことですか?」

「私の意見ですが……もし陛下に詳細が伝わった場合、内通者がいればこの場の状況が露見し、敵が雲隠れする恐れがあると思いまして」

「つまり任務を続行するため、偽の情報を与えて放したと?」

「はい」


 にべもなく頷くリーデス。うーん、確かに記憶を操作して情報を惑わせる、というやり方はあながち間違っていないと思うけど、果たして目論見通りうまくいくのだろうか。


「仮に魔王城に内通者がいるとすれば……私達が何かしら活動をしているという事実は把握しているでしょう。けれど陛下と連絡をとっていない現状では、私達の詳細な活動はわからないはずです」


 さらにリーデスは続ける。俺やシアナは解説を聞き続ける。


「なら情報源となるのは、力を与えた面々からくらいでしょう……よって、ここで討伐を行った者達が私達と関係の無い勢力だと聞き、なおかつ資料を見られていないとわかれば、敵も捨て置いて大丈夫だと判断するはず。これで十分かく乱できるかと」

「……わかりました。事は既に動いているようですし、ひとまずそれでいきましょう」


 シアナは決する……というか、リーデスが全部やってしまったのでそれに乗るしかないような形だ。


「それで、リーデス。残りの資料は?」

「はい、それですが」


 と、彼は笑いながら話す。


「全部、燃やしました」

「……はあっ!?」


 今度こそ、俺は素っ頓狂な声を上げた。


「お前、いくらなんでも――」

「戦いの最中に燃えた、ということで記憶を改ざんしてある。それに資料が残っていればセリウス王国の面々が押収し、事実が公になってしまうだろう? だから――」


 彼は残った資料を俺に見せつけながら言った。


「こうして確定的な情報だけを抜き出して、懐にしまっているわけだ」


 ――その資料は貴族の念書や、黒い剣の詳細。そして城の見取り図といった類のもの。なるほど、必要な情報は抜き取っているわけか。


「シアナ様、それで当面の間陛下にもお伝えしないようお願いします。敵は内側にいる可能性もありますし……何より」


 彼はそこで、意味深な笑みを浮かべた。


「もしかすると情報を得るために、相手側から接触してくるかもしれません」

「……魔族側の内通者をあぶり出すという意味合いもあるわけですか」


 シアナは歎息し――どこか憮然とした面持ちを見せながらも、頷いた。


「わかりました。ひとまずその策を使いましょう」

「はい」


 元気よく返事をするリーデス……なんとなく怪しいと感じるのは、俺だけだろうか。


「お、その顔だと僕を疑っているね?」


 彼は俺の心を読むように話を向けてくる。


「まあ、この辺は信用してもらうしかないけど」

「……もしお前だったら、俺の本気で一刀両断するだけだ」


 軽口を叩きつつ、俺は話をまとめるべくリーデスへ言った。


「とりあえず、これで方針は決まったな。で、リーデス。他に話はあるのか?」

「とりあえずこれだけだ。じゃあ僕は、監視作業に戻ることにするよ」


 言って彼は腕を振り――一瞬発光したかと思うと、次の瞬間姿が消えていた。


「結果的に、任務の前哨戦になってしまいましたね」


 リーデスがいなくなり、シアナが語る。確かに彼女の言う通り。


「ですが、逆に良かったとも言えます。もしここに赴かなければ、マヴァストの事件は永遠に解決できなかったでしょうから」

「そうだな……ついでに、これを利用して色々と動けるかもしれない」

「……マヴァストの王様に、報告を?」

「そういうこと。任務に支障をきたすなら、逆に言わない方がいいかもしれないけど、どうする?」

「そうですね……」


 シアナは口元に手を当て考え込む。


「ひとまず、この場にいる兵士の方々に私達の名前は伏せて報告してもらうようお願いしましょう。加え、捕らえた山賊達については……兵士達に任せますが、マヴァストとの繋がりに関する証拠は全てなくなってしまっているので、放置しておいても大丈夫なはず。一応、エクトルさん辺りに軽くその辺の事情は話しておきましょうか」

「なら、カレンにも目立つのはまずいと言い含めておくか……で、マヴァストへ行って何かそれらしい情報を手に入れたと演出して任務を行うことにしよう。もしマヴァスト王国の協力が必要になった場合は、リーデスの持っている資料でも提示すればいいだろう」

「はい、それでいきましょう――」


 シアナはそうまとめると、小さく笑みを浮かべた。それはひどく含みのあるものだったので……俺は気になって問い掛けた。


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