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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者復活編
86/428

砦の広間で――

 以後、散発的に賊が出現し、全て一刀のもとに斬り伏せる……無論、殺してはいない。人数は大雑把にしか数えていないが、リーデスが倒したのを含めると大方倒したはず……合わせて兵士が後で捕まえるために、どの辺に倒した人がいるのかくらいは記憶する。


 で、動いているのが俺一人である以上砦は非常に静かとなる。頭目達が逃げ出せば当然兵士かカレン達との戦闘音が聞こえるはずなので、まだ退却してはいないだろう。


「しかし、マヴァストの捕り物と関係ある一団か……」


 ふいにリーデスから聞かされた内容を思い出す。どのくらいの結びつきがあるのかわからないが、リーデスの配下が見た話し合う光景とは、ここに資料を置かせてもらう交渉だったのかもしれない。

 とはいえ『研究室』なんて部屋がある以上、ここに魔法具の研究をしている人物がいる可能性もある……気を引き締める必要がありそうだ。


 考えていると、俺は開けた場所に出た。広い空間に高い天井。訓練場らしい。

 そこに、三人の人物が俺を待ち構えるようにして立っていた……どうやら、戦闘準備は済ませているようだ。


「お前が頭目か?」


 剣の切っ先を向けながら問う。三人の内中央――頭一つ抜け出た身長と肩幅の広い体躯を持つ、角刈りの男がいる。

 相手は何も答えない――しかし反応は示し、腰の剣をゆっくりと引き抜いた。


 そこで装備を確認。見た目の上では、魔族の体を利用した武器ではなさそうだ。身に着けている藍色の鎧も、山賊にしては高そうな物を着ている程度の印象だけで、さして懸念を抱く要素は無い。だが俺は男の左手に似合わない宝飾の腕輪があるのを目に留めた。間違いなく魔法具だ。


 続いて左右にいる人物に目を向ける。右にいるのは彼の側近とでも言うべき、無骨な鎧を着た戦士風の男性。身長は俺と同じくらいで、険しい顔をしているものの中々の美形。獲物は槍と腰に差した剣で、場が場なら勇者と主張しても認めてもらえそうな雰囲気。


 そして、最後に左……白いローブに加えフードを被り、顔には眼鏡が見えた。さらに両腕には頭目らしき男性と同様宝飾の腕輪――もしかすると、彼が先ほどの『研究室』を使っていた人物かもしれない。


「待ち構えていたのはなぜだ? どうして逃げなかった?」


 俺は三人を見回し問う。けれど全員が黙し、頭目は剣を、右の男性は槍を。そして左の男性は腕をかざすことで応じた。


「……まあいいさ。やることは結局変わらないからな」


 俺はどこかあきらめたように呟き――走った。戦闘開始。

 それに応じたのは右の人物――戦士。頭目の前に出て俺の進路を阻む。加えて左の人物――魔法使いが魔力を収束し始めた。


 戦士が時間を稼ぎ、魔法使いによって攻撃する……基本中の基本というスタイルだが、数で優位がある以上、有効な戦法と言える。

 ただし、俺の実力が彼らと拮抗していればの話だが。


「――おおっ!」


 刹那、俺は剣に魔力を注いだ。無論そのまま相手に叩きつければ死ぬ。これは、威嚇の意味を込めたものだった。

 果たして――俺を阻んだ戦士が目を見開いた。想定以上と顔に出ていたが、それでも退くような真似はしなかった。むしろ敵愾心を抱いたか、怒りにも似た顔つきを見せ、


「――おおおっ!」


 吠えた。こちらの魔力に対し、烈気で応じようとする構えのようだ。

 そして鋭く放たれた刺突。刹那、刀身から僅かながら魔力を感じた。どうやら彼の武器自体が魔法具……考えながら、魔力を引き出した剣で力任せに槍を弾く。


 結果、槍の先が吹き飛んだ。武器の威力という点においても、俺の方にアドバンテージがある。


「っ――!?」


 戦士は呻き、即座に後退しようと足を動かした。俺は追撃しようとしたが、魔法使いの収束具合を見てそちらを警戒する。


「焼け――炎の精霊!」


 そして魔法使いから放たれた魔法。旋風を伴った業火だった。

 生身のまま直撃すれば全身大火傷――下手すれば即死の魔法だが、俺は左手を掲げることで応じる。


「守れ――女神の盾!」


 言葉と同時に結界が発生。それに魔法は阻まれ、確実に防ぐ。


「くっ!?」


 強敵――魔法使いの眼は、俺をそう認識した様子。

 さらに頭目の目の色も変わる。一筋縄ではいかないと判断し、顔を険しくさせ、戦士に視線を送った。


 対する戦士はそれを気配で感じ取ったか、槍を投げ捨て腰にある剣を抜く。その間に魔法使いの攻撃が終了し、俺は結界を解いた。

 そこへ戦士が再度突撃。同時に魔力が剣から淡く生まれる。それもまた、魔法具か。


 俺はそこで、どうすべきか思案した。戦士の武器を破壊して、というのもアリだが、魔法使いの攻撃が来るだろうし、さらには頭目も向かって来ようとする気配。最悪結界で全て防ぐことはできるが、膠着状態に陥る可能性はある。

 これ以上戦闘を繰り返し、勝ちの目がないと判断されれば敵は逃亡する可能性がある。バラバラに逃げられれば一人で追うのは難しいし、三人の腕から兵士と交戦した場合、もしかするとという不安があったので、俺としてはここで決めたかった。


 ならば――俺は踏ん切りをつけ、戦士と打ち合うべく進み出る。応じる戦士。かなりの速度で襲い掛かる。

 こちらは、先ほど以上に魔力を加えそれに応じた。双方の剣がぶつかり鍔迫り合いとなり……相手の剣は多少耐えていたが、やがて俺の剣が刃に食い込んだ。


 戦士はそれを見て取り、一度剣を引いた。俺は追いすがり、再びその剣へ一閃する。

 攻撃により剣は破壊。今度こそ戦士は苦悶に近い表情を浮かべ、大きく退こうとする。


 すかさず追撃を行う。武器が破壊された戦士の身に入り――倒れた。

 出血はしていない。魔力を込めた斬撃で、体の中に衝撃を与えただけだ。


「焼け――」


 続いて魔法使いの声。俺は半ば反射的に剣をすくい上げるように放った。刀身の先から魔力が流れ、風の刃となり魔法使いへ向かう。


「くっ!」


 頭目は気付いたか慌てて剣を魔法使いに向け防ごうとした。けれど一歩遅く、風の刃が魔法使いに衝突。体重の軽そうな小柄な体は宙に浮き、魔法も中断した。


「――かはっ」


 彼は僅かな声と共に床に倒れ、動かなくなる。戦士同様出血は無い。けれど気絶し戦闘不能に陥った。


「……あくまで、俺達を捕らえるつもりなのか」


 魂胆を理解したのか、頭目が発する。重く尖った野太い声音は、俺に対し怒りを含んでいるようにも感じられた。


「虐殺は、性分じゃないんで」


 俺はそれだけ答え、剣を構え直す。こちらが優勢なのは間違いないが、手は抜かない。というより加減するのに全力を注いでいるので、余裕はあまりない。

 頭目はそれ以上声を出さず、腰を落とした。剣は彼の体格に合わせているのか通常の物よりも長く、間合いだけ見れば俺より広い。


 その分懐に飛び込めば有利だが……いや、ここは風の刃を用いて、遠距離主体に攻めるべきか?


「――いくぞ」


 考える間に頭目は告げ、突撃。彼もまた戦士同様、正面からの打ち合いを選択した。

 間合いに到達すると、豪快な一発を放つ。やはり俺よりも攻撃範囲は広い。なおかつ魔力が十二分に込められている。兵士相手なら、軽く四人は吹っ飛ばしたかもしれない。


 だが俺は、剣でガードすることを選択した。こちらから見て左から来る刃を、剣をかざして防ぎ――

 轟音が鳴り響いた。剣が衝突する甲高い音、などという生易しいものではない。金属が軋み、周囲の大気が震えるほどのもの。


 けれど、その結果待っていたのは、


「ぐっ……!」


 頭目が呻く。俺は、その一撃を正面からしかと受け切り、耐え切った。魔力強化による結果だ。。

 すかさず反撃に転じる。剣を押し返した後接近し、上段からの振り下ろし。


 頭目はそれに対応――する寸前に、こちらの剣が体に入った。途端彼は呻き、苦悶の表情と共に俺を見据え、恨むような視線を投げかけた後、倒れ伏した。


「……よし」


 俺は息をつき、すぐさま拘束魔法を使用し全員を縛る。これで大きな障害は消えた。後はカレンやエクトル達に状況を報告して、終了――

 その時、轟音が響いた。


「……え?」


 俺は驚き周囲を見回す。ずいぶんとくぐもった音……これは、外か?

 まだ戦いは続いている……? またリーデスかと思いつつ、状況を把握するべく移動を開始する。


 そこでさらに轟音。やはり外のようだ。とりあえず砦の外に出ようと思い、廊下を早足で進み始めた。


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