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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者復活編
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暴かれた情報

 彼の言葉に、俺は眉をひそめた……記憶?


「消す? どういうことだ?」

「目覚めて僕がいたことを喋られては、怪しまれるじゃないか」


 あ、そうか。


「セディ、僕ら魔族のやり方に馴染んできたのはいいけど、まだまだ最優先事項が理解できていないようだね」

「最優先事項?」

「ああ」


 リーデスが返事をした後、気絶する山賊の間近に到着。彼は軽く手を振り……動作は終了。これで記憶を消したことになるらしい。


「セディだって、大いなる真実を隠し通すことの重要性は理解しているはず……けど、多くの人は勇者と魔族が協力して戦っている姿を見て、魔族が世界を管理しているなんて想像する様なことは皆無だ。魔族が勇者を操っている……まともな思考なら、そういう結論に至る」

「ああ、うん。それはわかる。カレン達だってそう思うだろうな」

「よって、僕らが何よりしなければならないのは、見つからないことだ。証拠も全て隠滅し、絶対にそこに魔族がいたという痕跡を残さないこと……これが、何より重要となる」


 なるほど……確かに言われると、大いなる真実というのは自らが話し出さない限り露見する可能性が低い。魔王と女神が話し合っているところでも見ればその限りではないが……いや、仮にそういう現場を見たとしても、協力しているなどという発想には至らないだろう。俺だってそうだろうし。

 なら、すべきことは魔族が動いている事実を消すこと。そもそもこの場所に魔族がいた、などという事実が判明すれば話がややこしくなるのは間違いない。


「わかった……今後は気を付けることにする」

「と言っても、基本は僕が処理するから心配いらない。そういう心構えだということだけ認識してもらえればいいさ」


 リーデスは語ると、左右に続く廊下を見回す。


「右に進もう」


 彼はそう言って進み出す。俺は後を追いながら、彼に問い掛けた。


「何か根拠があるのか?」

「気配がそっちにあるような気がしただけ」


 薄い根拠だが……まあ、俺にはわからないレベルなので、彼を信用するくらいしか道を辿る方法が無いのも事実。

 ということで、以後ひたすら進む……途中、敵と遭遇しその度に一撃で倒していく。俺はリーデスから簡単にアドバイスを受けつつ手加減を駆使する。


「悪いな、リーデス」

「下手に殺してしまうと僕が怒られるからね。当然だ」

「……エーレに?」

「ああ。大いなる真実に関する今回の任務では、人を殺すなと厳命されている。彼らを裁くのは、あくまで人間達だ」

「徹底的だな」

「そういう確固たる統率があり、なおかつ実践していないと大いなる真実を知っていてもまとまらないんだよ。信用における者達と言っても、たがが外れればどうなるかわかったものじゃないからね」

「……リーデスもか?」


 なんとなく言及してみる。すると、彼は怪しい笑みを浮かべた。


「どう思う?」

「……今の質問は無かったことにしてくれ」


 視線を逸らし俺は語り……ふいに、一枚の扉を目にして、止まった。


「ん、どうしたの?」


 動かなくなった俺にリーデスが質問。こちらは答えないまま、扉にあるプレートを凝視する。

 それは木製であり『研究室』と書かれていた。どこからか持ってきたような木片であるため、元々扉に無い物であるのは丸わかりだった。


「研究室……?」


 字面を見て、俺は首を傾げる。


「山賊なのに……研究ってどういうことだ?」

「魔法具の実験でもしていたんじゃないの?」


 リーデスが俺を見ながら問う。しかし、納得しきれるものではない。


「いや、魔法具の研究自体相当の知識がいるし……そういう人間がいて、何かしら研究していたということか?」


 なんだか雲行きが怪しくなってきた気がする……俺は気に掛かり扉を開けた。そして中を覗き見て、一言。


「……何だ、これ?」


 研究室ということで、俺は機具なんかが置かれている部屋を想像していたのだが、違った。真四角の小部屋で、中央にある丸テーブルに資料の束が山と積まれ、なおかつ壁際にも様々な資料が置かれていた。

 どうやら俺が想像していたものとは異なり、資料を精査する研究のようだ……が、さらに疑問が生まれる。


「山賊が、資料を集めて何をしたいんだ?」

「……ふむ」


 ここに至りリーデスが興味を抱いたか、俺を押し退け中へと入る。そしてテーブルの上にある資料へ目を通し――


「ああ、なるほど。そういうことだったのか」


 彼は呟く。資料の内容を見て何かを理解した様子。


「セディ、僕はここの山賊とマヴァスト王国の賊が関係あると話したかと思う」

「ああ、言っていたな」

「その根拠としては、山賊の幹部同士が話し合っている光景を、配下の悪魔が見たからなんだけど……どうやらそういうことじゃないらしい」

「何?」


 聞き返した時、彼は一枚資料を手に取り、それを見せつけた。


「……見取り図?」


 俺は内容を見て一言。そう、どこかの建物の見取り図――


「捕り物だと言っただろう? おそらくこれは、今回襲撃したマヴァストの城……宝物庫に関する資料じゃないかな」

「ってことは、ここの山賊もグルだったってことか?」

「ああ。ここの山賊は一枚噛んでいたわけだ」


 語るリーデスは、さらに別の資料を漁る。


「ふむ……他に魔法具に関する資料があるな。どうやら専門的な人間が奪った魔法具の調査をしているようだ」

「……その人物は、どこから湧いて出たんだ?」

「さあね? もしかすると今マヴァストで追われている面々の中にそういう知識を持つ人がいるのかもしれない」


 肩をすくめたリーデスは、さらに資料を見て……笑みを浮かべた。


「なるほど……どうやらここは宝物庫へ侵入するための資料を仮置きした場所のようだ。国に対し仕掛ける以上、アジトも足がつくと考えたんだろうね。だから本来無関係と思しきこちら側の山賊に資料を渡した」


 そう言うとリーデスは、さらに別の資料を見せた。


「ほら、見てくれ。貴族が城の内情を教えることを確約した念書まであるよ」

「……おいおい、スキャンダルもいいところだぞ」


 単なる山賊討伐が、おかしな方向に転がり始めた。どうやら一連の事件は、俺達が想像する以上に根深いらしい。


「ふむ、これは結構厄介な事例だな……ひとまずここは資料を押収して、国側に対応を願うことにしよう」

「それが一番だろうな……」


 同意し、先に進もうと提言しようとした、その時――


「き、貴様ら――!」


 山賊の声。しまった!

 見ると部屋にいる俺達を見て驚愕する山賊――


「ほっ」


 それにリーデスは声を上げつつ、ナイフくらい大きさを持った光の刃を投げつけた。山賊は動く暇もなくそれを額に受け、破裂音と共に崩れ落ちる。

「セディ。目の前の物事に集中するのもいいけど、周りに気を配ることを忘れないように。ここは戦場だからね」


「ああ、悪い」


 俺は返答すると気絶する山賊に目を向ける。


「で、倒したし先に進むのか?」

「いや、ちょっと待ってくれ」


 リーデスはさらに書類を漁り始める。何か気になることでもあるのか?


「まだ何か?」

「いや、ここからは僕の勝手な推測だけど――」


 言い掛けた時、手の動きが止まりまたも笑みを浮かべる。自身の予想が確かだったと確信した様子。


「やっぱりか……ほら、セディ」


 言って、俺に一枚の資料を渡す。受け取ったそれに目を通すと、黒一色の長剣が描かれていた。


「剣……? これも魔法具か?」


 呟きつつ長剣の詳細を眺める。何やら専門用語が書かれているため理解できない部分が多い。けど、剣で言うところの根元――鍔の部分が、堕天使の翼でも模したようなデザインで、やけに目を引く。


「魔剣の類、か?」

「当たらずしも遠からずといったところか」


 リーデスが語る……そこで、俺は以前彼が語った話を思い出す。


「おい……まさか」

「そうだ。そのデザインと研究内容を一読すればわかる。それは、魔族幹部の一人であるファナードが生み出した長剣だ」


 ――そこもまた、繋がっていたということなのか。


「陛下が任務を出した勇者の件と、これが関係している可能性は……間違いないと考えてよさそうだ」

「といことは、ここに来て正解だったということか」

「そうだね。けど、一つ問題が生じる」


 リーデスは語る。俺はそれに小さく頷き、先んじて口を開いた。


「この山賊討伐をきっかけにして、相手が引っ込む可能性がある、ということだな?」

「それもあるし、あるいはこちらに何かしらちょっかいを掛けてくる場合もある。それについてはシアナ様やセディのことだし大丈夫だとは思うけど……勇者と接触する前にこちらが色々と動いているのがわかってしまう。任務に支障が生じるかもしれない」

「まあ、仕方ないんじゃないか? 俺達だってまさか、ここの山賊が関係しているとわからなかったわけだし」

「だろうけど……そうだ」


 リーデスは突然声を上げると、先ほど気絶させた山賊に目を向ける。


「こうなったら仕方ない。彼を利用しよう」

「利用?」

「ああ。まあ、この辺は僕に任せてくれよ。ここにある資料もどうにかしておく」


 そう言って含みのある笑みを浮かべるリーデス。なんだかよからぬことを考えた様子。


「……訊いちゃだめか?」

「詳細は後で伝えるよ。ほら、頭目を探さないといけないだろ?」


 リーデスは急かす。ここからは俺一人で行けと言いたいようだ。


「……わかったよ。ここからは別行動だ。目立つような真似はしないでくれよ」

「わかってるよ。ま、頑張ってくれ」


 リーデスは陽気に告げ、俺に向かって手をパタパタを振る。こちらは歎息しつつ部屋を出て、気絶した男を越え先へと進み始めた。


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