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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者復活編
84/428

根城への潜入

 見張りをしている人間は、俺が間近に来るまで気付かず――こちらに目を向けた時には、攻撃を仕掛けていた。

 俺から見て右にいる見張りをまずは倒す。続いて左。相手は狼狽えながら懐から何かを取り出そうとし――その前に俺の剣戟が直撃し、気絶した。


「よし」


 呟くと同時に、気絶した相手の手から何かが落ちるのを目に留める。確認すると、小さな笛だった。警笛か何かなのだろう。

 鳴らされなくて良かったと思いつつ、俺は後方にいる兵士達を手招く。すかさず森の中からエクトルを先頭とする一団が飛び出し、門前に陣取った。


「彼らは私達が拘束をしておきます」


 そしてエクトルは俺に向かって発言する。


「あと、ここを開けないといけませんが……」

「その必要はありません」


 彼の言葉に、俺はそう切り返す。同時にカレンとシアナが森から出て、移動を開始した。

 空中浮遊の魔法を使用し、いずれ潜入することになるだろう――考えつつ、俺は門に剣を振るった。木製であるため容易に破壊斬ることができる。


 大きさは、人がどうにか通れるくらいのスペース――とはいえ、入り込むには十分な大きさ。


「それじゃあ、行ってきます」


 俺はエクトルへと声を掛ける。


「門はおそらく裏側から開閉するタイプだと思いますが……もし開いたら、山賊達に攻撃を仕掛け、出さないようにしてください」

「お任せください」


 エクトルは首肯し、左腕をかざした。その手には腕輪。魔法具であり、例え相手が魔法を使っても大丈夫だと、言いたいようだ。

 俺はそれを一瞥した後改めて「お願いします」と告げ、中へ侵入した。斬った時の音は大きくなかったので、中にいる山賊に気付かれず、周囲は静寂極まりない。


「さて……」


 俺は周囲に目を向け、見張りがいないかを確認。けれど気配はおろか人影すら見えない。

 外の警備くらいはいると思ったのだが……そういう人員も確保できないだろうか? 見立て通り二十人くらいの一団ならば、それも仕方ないように思えるが。


「……とりあえず、中に入るとするか」


 俺は呟きつつ門正面にある両開きの扉に目を向ける。結構重厚な木製の扉は、侵入者を拒むような雰囲気を漂わせていた。

 その時、上部からトン――という音が響いた。目を向けるが人の姿は無い。けれど理解はできた。おそらく、カレン達だろう。浮遊し城壁の上に辿り着き、そこからさらに崖の道へと飛んだ。


 あっちは大丈夫そうだ――思いつつ、俺は室内に続く扉に手を掛けた。けれど開かず、門と同様破壊して突破することに決める。


「さすがに、これで敵もわかるよな……」


 呟きつつも剣を振り、扉を破壊。両開きの内右側が吹っ飛んだ。


 そして、奥を見る。するとそこには――


「な……?」


 入り口を見て驚愕する山賊の姿。やはりか。


「あ、どうも」


 とりあえず挨拶をしてみた……すると、山賊は突如顔を険しくし、


「――侵入者!」


 叫び、砦の奥へと走った。


「よし、追うか」


 俺は言うと、室内に入る。廊下が続き、奥にさらなる両開きの扉があり、山賊はそこへと入って扉を閉めた。

 気配を探りつつ、足を進める。中は結構広く、扉と扉を繋ぐ道は白く、他は肌色の石が使われている。そして天井は結構高く、道の左右にはそれを支える白い柱が一定間隔で立ち並んでいる。


 そこでふと考える。このまま入口付近で待てば、敵が来るだろう……迎え撃つか、それとも自ら行くかで悩む。先に進めば迷う可能性もあるため、突撃するのは危ない。さらにいくら能力に差があろうとも、一人である以上不意を突かれるのは避けたいところ。


「とはいえ、悠長に構えているのもまずいかな……逃げるれかもしれないし」


 退路は断っているのでその辺りの心配はないと思うのだが、逃げに徹されるとカレン達はともかく、エクトル達は突破されるかもしれない。ここは俺が突っ込み混乱させ、逃げる機会を失くさせる方が得策だろうか――


 と、色んなことを考える間に、突然くぐもった重い音が聞こえた。たぶん、爆発音……って、ちょっと待て。


「爆発って……」


 俺はなんとなく耳を澄ませてみる。すると、またも爆発音。方向を特定するのは難しいのだが、とりあえず俺が侵入して何かが起こっているのは間違いない。

 ひょっとして内輪もめ――などと考えたのは一瞬。俺は意を決し駆け始める。そして山賊が消えた扉を抜け――左右と正面に通路が続く廊下に入った。


 三方向の道はどれもすぐに曲がりくねっており、先が見えない。どれが正解なのか少し思案し……右方向から爆発音が聞こえた。


「とりあえず、言ってみるか」


 この時点でなんとなくどういう状況になっているのか理解しつつ、足を右に向ける。角を曲がると上に続く階段があり、それを上ると広いホールが姿を現し――


「ああ、セディ」


 と、山賊の一人に手をかざすリーデスの姿を捉えた。やっぱりか。


 潜入開始する寸前、あさっての方向を見てシアナに気付かせたのは彼の存在だった。十中八九彼も追随していると悟ったので、たぶん協力してくれるだろうと思ったわけだ。


「来るのが遅いよ。既に十人以上吹き飛ばしたよ」

「十人……半分くらいか?」

「そうだね。実は先んじて砦の様子を窺っていたんだけど、人数は二十三人だ」

「そうか……ま、逃げられると厄介だし、助かった」

「どうも。けど、油断しない方がいいよ。僕が倒したのは全部魔法具を持たない連中だから」


 そう言って、彼は気絶した山賊に目を向ける。このホールにいるだけで五人倒れている。


「ここにいない人達は魔法使って眠ってもらい、拘束の魔法は使ってある。あと、観察していて魔法具を持っていたのは三人……頭目らしきいかつい奴と、彼に付き従う人物二人だ」

「わかった。で、ここからどうする?」

「分かれて行動してもいいけど……ああ、さすがに色んな場所で爆発を起こしていたら怪しまれるかな。とりあえず、共に行動しようか」

「了解……しかし、この勢いなら俺が来なくても、リーデスが独断で倒して良かったんじゃないか?」

「君がいるということが何より重要なんだよ。僕が単独で倒したら、山賊が原因不明の壊滅をしたということで、怪奇現象扱いされるじゃないか」

「……ごもっとも」


 俺は答えつつ、通路を確認した後……手をかざす。


「捕らえよ――精銀の鎖」


 言いながら、手を倒れている山賊に向ける。生じたのは、光によって作られた青い鎖。拘束用の魔法で、効果は半日ばかり続く。

 それを用いて、俺は全員を拘束する。これで仮に目覚めても、彼らはここで動けない。


 その作業を全員分終えた時、リーデスに問い掛ける。


「で、リーデス。敵がどこにいるか、といったことはわかるのか?」

「この砦は魔力を拡散する建材でも使われているらしく、広域の探査魔法を使うと弾かれてしまうね。だから僕は僅かな気配を頼りに進み、見つけた奴を片っ端から倒しているわけだけど」

「そうか。なら、適当に進むしかないな」


 断じつつ、どう動くか考える。既に半分近く倒した。けれど頭目他魔法具を持つ三人を倒さなければ、意味が無い。


「相場としては、一番奥にいる可能性が高いけど……」

「でも僕が荒らしたから、移動している可能性もあるんじゃないかな」

「……そういえば、何でわざわざ爆発系の魔法を使ったんだ?」

「え? だってそうすることで相手は警戒するし、人が固まるだろ?」

「……一網打尽にするためか」


 場合によっては逃げられるんじゃないのか?


「退路は塞いでいるんだから、大丈夫だと思うけど」

「……シアナ達はともかく、兵士側が気になる」

「そう? けど見た所、大した使い手じゃないと思うんだよね」


 呟くリーデス。彼の判断ならば間違ってはいないと思うが――


「わかった。とりあえず砦の中を散策しよう。で、もし入口付近で交戦する様な気配があれば、そちらに急行する」

「了解。僕は耳を澄ませることにするから、セディは周囲の警戒よろしく」

「ああ」


 ということで結論を出し、俺達は改めて行動を開始……そして適当に入った廊下で、山賊三名と遭遇した。


「ぐっ……てめえら!」


 山賊は叫び、突撃を開始。獲物は長剣だが、見た所魔法具ではない……ハズレだ。


「――ふっ!」


 俺は僅かな呼吸と共に、剣に魔力を込め一閃。それにより発生したのは風の刃――無論、加減は大いにしている。

 瞬間、三人が同時に吹き飛んだ。さらに空中で風の刃に触れ苦悶の声を上げる。そして廊下の奥の壁に叩きつけられ……気絶した。


「容赦ないね」


 リーデスが感想を述べる。それに対し、俺は彼に言及する。


「他に良い方法があるのか?」

「もちろん。相手に怪我を負わせることなく、気絶させる手段がある」

「……何でそんな技が必要なんだ?」

「大いなる真実を知る幹部は誰もが使えるよ。陛下がそういう技術を僕達にくれるからね。無用な殺生をしないために」


 ――つまり、人間達を不用意に殺めないようにする措置か。なるほど、極力人を殺さないよう動く大いなる真実を知る幹部達は、手加減のエキスパートなわけだ。

 俺はなんだか納得しつつ先ほどと同様に拘束の魔法を使用する。その時、


「さて、記憶も消しておこう」


 リーデスは呟き、気絶した一行に歩み寄った。


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