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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者復活編
83/428

山賊討伐

 ――結論から言えば、山賊の根城に辿り着いたのは夕方前。予定通りというわけだが、行程自体は非常に順調で早く着く可能性もあった。けれど兵士との合流で多少手間取ってしまい、時間が掛かってしまった。


「けど、結果オーライかもしれないな」


 俺は根城を見ながら呟く。傍らにいるカレンやシアナも同意。そして後方にいる十名近くの兵士も、小さく頷いた。

 今俺達は、森――山賊の根城が見えている場所を陣取り、茂みに隠れ砦を窺っている。結構大きな砦で、おそらく国が防衛のため建設したものなのだろうという推測できた。


 根城は山の中にありながら三方向は断崖絶壁に囲まれ、入口付近は森に覆われている。さらに崖上に行けるように岩壁には道が一本作られている。山岳地帯を容易に移動できるよう、崖をくりぬいて作ったみたいだ。

 で、この砦は使われなくなって山賊が住み着いた、といったところか。


「私達が生まれるより前の話ですが、人間同士の戦いで西側の国が山を越え攻撃を仕掛けようとしたことがあります」


 根城を見ながら、カレンは唐突に語り出す。


「目の前にあるこの砦は、その一つなのでしょう……結果的に放置され、彼らが使用していると」

「取り壊しておくべきだったんだろうけど……念の為に残し、忘れ去られたという可能性が高そうだな」


 俺がコメントすると、カレンは「はい」と返事をした。


 視線を入口に向けると、綺麗な木製の門。あの辺りはここを根城にして以後新調したのだろうと思いつつ――数にして十人程が、根城の入口に立っていた。

 剣や槍、斧……そうした武器を持ち歩く男性達。外見もバラバラで統一感が無い……まあ、当然か。


 ――俺が結果オーライと言ったのは、ああした一団が帰って来たのをしかと確認できたためだ。もし昼間到着し攻撃を仕掛けていたら、外に出ていた面々が根城に戻らず逃げてしまうかもしれなかった。今回は偶然森の中を迷い遅れたせいで、ああして戻ってきた山賊達を確認できたわけだ。


「敵の大半は、戻って来たと断定していいでしょうね」


 シアナが呟く。俺は小さく頷くと、改めてカレン達に段取りを確認する。


「見た所、砦は城壁に囲まれ、なおかつ門は一つ……崖上に繋がる道はあるけど、そこまで回り込むのに時間が掛かるし、上から攻撃するのは非現実的だろう……どう動く?」

「今回の目的は山賊の殲滅だし、正面突破でいいんじゃない?」


 カレンからの提言……それはもっともなのだが、俺は首を左右に振る。


「単に門をたたき壊して侵入しただけなら、逃げられるかもしれないじゃないか」

「見た所門を封鎖すれば退路は崖上に続く道だけ。そこを封鎖しつつ、門の方は兵士の方々にお願いすればいい」


 と、カレンは後方にいる兵士に目を向けた。

 合わせて俺も視線を送る。画一的に腰に剣、そして槍を握り無骨な鉄鎧を着込んでいるのだが、先頭に立つ人物だけは異なっていた。装備は他と変わらないのだが、着ている鎧に青い帯がついているのが特徴。


 カレンの話によると詰所の副所長らしい。名をエクトルといい、二十代半ばの、サラサラとした茶髪を持つ人当たりの良さそうな人物。カレンが主立って交渉したのが彼だったため、随伴したというわけだ。

 さらに一つ付け加えるとしたら、彼は魔法具所持者……この国において副所長以上の階級は魔法具を所持しているらしく、他の詰所から来る人の中にも魔法具を使用する者が来るらしい。俺達としては、心強い限り。


「門付近の封鎖をお願いできますか?」

「お安い御用です」


 俺の要望に彼は首肯。そして、後方にいる兵士達を見回す。


「私達の能力では、山賊自体を倒すというのは非常に難しいのですが……」

「構いませんよ。手筈通り、私達が山賊と戦います……それで」


 と、俺はカレンに提案する。


「二手に分かれるか」

「二手?」


 カレンは目を瞬かせて、こちらを見返す。


「どういうこと?」

「崖上に続く退路を断つ役目と、砦の中に入り殲滅する役目。これなら逃げられずに済むだろ?」

「そうだけど……」

「で、カレンとシアナは退路を断つよう動いてくれ。俺は山賊達を倒すように動く」

「大丈夫、ですか?」


 問い掛けは、シアナから発せられたもの……どうやら彼女も、一人になるということで不安を覚えたらしい。


「大丈夫だよ。それに一人の方が動きやすいし」

「不安しか感じないんだけど……」


 カレンもまたシアナと同様の見解を示す。が、彼女は少しばかり事情が違うようで、


「その、もしものことがあったら……」


 後方にいる兵士に聞き咎められない程度の小声で呟く。おそらく、魔族化のことがあるので、目を離したくないという思いなのだろう。

 そしてシアナは孤立してしまうこと自体に不安が……といったところか。この二つの不安を払しょくするのは難しい――


 と、思った所で一つ思いついた。


「……カレン、もし異常があれば一度俺は退くことにするよ」

「わかった……気を付けて」

「ああ。それとシアナ。心配いらないさ。山賊相手に後れをとるようなことはないから」

「そう、ですか」

「それに……」


 と、俺は苦笑しつつあさっての方向――森を見た。そこに誰かがいるということではない。けれど――

 シアナの顔が納得する。理解したようだ。


「わかりました。お気をつけて」

「ああ」


 頷いた俺は、エクトルへ声を掛ける。


「では、先ほど言った通りの手筈でお願いします」

「はい……勇者セディ、此度の討伐参戦、ありがとうございます」

「いえ、当然のことをしたまでです……では、行きましょう」


 そう言って、俺は砦の門へ視線を移す。先ほどの一団は既に門の中。見張りの人物が門の両脇に控え、退屈そうにあくびをする様子がここからでもわかった。


「……カレンとシアナは、魔法を使って城壁を超え、退路を塞いでくれ」

「わかった。兄さんは?」

「エクトルさん達と共にまずは門前に急行。そして付近を制圧した後、俺一人で中に潜入する」


 そこまで言うと、俺は肩をすくめる。


「さっきも言った通り、一人の方がやりやすい……心配は無用だ」

「うん……気を付けて」

「よし」


 俺は応じると、剣を静かに抜いた。そして呼吸を整え……山賊の根城を見据える。


 かなり大きい砦だが……おそらく、山賊の数はそう多くはないだろう。先ほど帰ってきた一団で十名近くだが、そこに見張りを含め多少の色を付け……多くとも二十人前後といったところか。五十や百人いたならさずがに国も重い腰を上げるだろうし。

 なので、一番の問題は広そうな砦の中で迷うかもしれないこと……まあ、そう複雑な構造というわけではないと思うし、入ってからどう対応するか決めよう。


「……エクトルさん、ひとまず俺が先行します」

「はい、わかりました」

「それじゃあカレン。俺が交戦を開始し敵の気を引いている隙に、道を封鎖してくれ」

「わかった」


 承諾の言葉を聞き、俺は速やかに移動を開始。茂みに隠れつつ、できるだけ接近する――注意力が散漫になっているのは一目見てわかるので、隠れていれば見つかるようなこともないだろう。


「……さて」


 ギリギリまで近づき、俺一度門前の様子を窺う。後方にはエクトルが控え、兵士達の緊張した気配が背中越しに伝わってくる。

 今回の戦いは、敵を逃がさないようにし、なおかつ全員を捕らえることが重要。退路を断つことはそれほど難しくないので、後は俺の立ち回り次第……少しばかり、緊張してしまう。


 すぐさま俺は、緊張をほぐすべく肩を軽く回す。あまりに力んでしまうと人を殺めかねないので、加減が必要になってくる……その辺りは不安だが、まあなるようにしかならないだろう。


「……ん?」


 そこで、ふいにエクトルが声を上げた。一瞥すると、横に視線を向けている。


「どうしました?」

「あ、いえ……誰かいたような気がしまして」


 誰か? 俺は彼が向く場所に視線を送る。森の中なのだが、人影は無い。


「気のせいでしょう」


 エクトルは言うと「すいません」と言い小さく頭を下げた――本来ならここで山賊に気付かれているのでは、と懸念するところなのだが、俺は別の回答を導き出していた。

 これは、先ほど思いついたことと関係している、すなわち――


「では、先行します。俺が見張りの二人を倒したら、門へと近づいてください」

「はい……お気をつけて」


 エクトルは承諾し、俺は頷き返す。そして改めて門へと視線を送り、一人が俯き、もう一人が空を見上げている様子を見て、行くしかないと悟った。


「――それでは、攻撃を開始します」


 エクトルへ小さく宣言。そして――俺は一人門前へと駆け、戦闘を開始した。


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