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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者復活編
80/428

怪しむ妹

「山賊?」


 情報収集から戻り夕食を食べに行った折、料理を待つ間に俺はカレン達に告げる。無論、マヴァストで行われている捕り物との関連性については、怪しまれる可能性があるので話さない。


「また面倒なことに首を突っ込もうとして……」


 カレンは困った顔で俺に応じる。対するシアナは少しばかり興味を抱いたのか、問い掛けた。


「山賊は、どこにいるんですか?」

「北西にある山の中」

「マヴァストの国境付近、というわけですか」


 シアナはうんうんと頷く。俺が成敗しに行くと言えば、喜んで従いそうなな勢い……というか、俺がこう言い出した以上彼女はエーレ達から連絡を受けたのだと解釈しているのかもしれない。


「小国である以上、軍隊を派遣して討伐というのも難しいから、野放しにしているみたいだ」

「賊である以上、多くの人に迷惑を掛けているんでしょうね」

「調べたところによると、村を襲撃したりはしているみたいだ」


 ここは俺が調べた結果。さすがにリーデスからの情報だけでは心許なかったので、あれから調べたわけだ。

 そこでわかったのは、山賊達は東西を分断するこの山脈で色々と活動しているということ。実際西側から来ようとした商人を襲う他、シアナに言ったように農村を襲撃するケースもあるらしい。


「……しかも、中には魔法具を所持している者もいるみたいだ。だからこそ、今まで国も思うように対処できなかった、と見ることもできる」

「奪った物を使っている、ということか」


 カレンは言うと、はあと小さくため息を漏らす。


「兄さん……こういうのは国の人達に任せた方が――」

「それは、そうなんだけどさ……首を突っ込むのには理由がある」


 俺は前置きをしつつ、カレンを説得するべく口を開く。


「ほら、俺達はこの国の王様や騎士の助けを借りたわけじゃないか。で、王様は礼は必要ないと言ってくれたわけだけど……」

「恩返しがしたいと?」

「そういうことだ」

「その気持ちは私も理解できるけど……でも山賊相手なら、さすがに大丈夫かな?」


 呟きつつ、カレンは腕を組み思案を始める。こちらの戦力を分析し、なおかつシアナを見つつ、難しい表情を見せた。


 ――俺達は基本、魔族や魔物を相手にするため、山賊など人と戦うケースは非常に少ない。といってもゼロではなく、故郷に戻った時山賊討伐に協力してくれと請われ、参戦した経験もある。

 その時は正規軍が活躍したため、俺達の出番はあまりなかったわけだが……少なからず経験はあるので、どうにかなるだろう。


 けれど戦う前に、対人戦で一番面倒な点を解決しておかないといけない。


「一つ懸念があるとすれば、倒した山賊達をどうするか、だな。さすがに全員殺すわけにもいかないし」


 頭をかきつつ俺は語る。カレンもそれには同意なのか俺を一瞥すると、再度目を伏せ考え始める。そんな彼女に、俺はなおも話す。


「倒したはいいがきちんと捕まえないと意味は無いからな」

「近隣の兵士達を集めるというのは?」


 今度はシアナ。俺に視線を向けつつ、さらに続ける。


「倒した人々を牢屋に入れるために、人員が必要ということですよね? なら、周囲の街から兵士を数人ずつお借りして、集めておけば問題ないと思いますが」

「そこが関門だろうな……果たして人が集まるかどうか」

「セディ様の威光は多少なりとも把握しているでしょう。それを利用すれば集められるような気もしますが」


 シアナは言う。それに俺は小さく肩をすくめた。


「まあ……人員が確保できる公算はあるかもな。で、実際山賊と戦う場合だが……魔法具を持つ相手に鉄装備だけの兵士を戦わせるわけにもいかないから、俺達三人だけで討伐することになるだろう」

「何か問題でも?」


 シアナが逆に尋ねる。俺はそれにもう一度肩をすくめた。


 ――相手の力量の程はわからないが、魔法具を所持していない山賊は敵ではない。二人に言った通り、問題は魔法具を所持する相手なのだが……まあ、現状の戦力ではさしたる問題にはならないかもしれない。女神の武具を装備した山賊であれば話は別かもしれないが――


「……しかし、兵士か。俺の名を出せば少しは効果あるかもしれないが、すんなり引き受けてくれるだろうか?」

「交渉してみないとわかりませんね」


 シアナは俺の呟きに対し律儀に答えた。まあ、やることもないしやるだけやってみることにするか。


「よし、それじゃあ明日はそうした交渉をしてみる、ということで」

「……仕方ないか」


 カレンはそこで息をつき、俺を真っ直ぐ見据えた。


「交渉については、私がやるよ」

「いいのか?」

「少なくとも兄さんがやるよりは、成功率高いと思う」

「……本人いなくて大丈夫か?」

「そういう交渉の場で、本人がいたことあった?」

「あんまりなかったな……ま、そうだな。説得とか説明とか、俺の苦手分野だからな」


 頭をかきつつ答えると、カレンはクスリと笑った。


「わかった……それじゃあ私がまずこの町のお役所に行って、話をしてみる」

「門前払いだったらどうする?」

「その時は別に手段を考えようよ」


 ――という感じで決議し、明日から行動を開始することにした。その後食事を終え宿へ戻り、俺は部屋に入ると椅子に座り息をつく。


「山賊か」


 人間相手に戦うことは、非常に少ないため神経を使う……魔族や魔物相手では一切加減する必要などなかったのだが、今回はそういうわけにもいかない。


「……マヴァストでも人間相手だろうから、予行演習にはなるかもしれないな」


 そんな風にも思う……人間相手の戦い方をおさらいするには、良いかもしれない。

 とはいえ、ひとまず人員確保ができてから……考えていると、ノックの音が聞こえた。


「はい、どうぞ」


 部屋を訪ねてくるのはカレンしかいないので――というか、シアナ一人ではカレンの監視があるので来れない――体の力を抜いたまま返事をすると、扉が開き予想通りカレンが姿を現した。


「カレン、どうした?」

「少し、お話が」


 どこか窺うような態度……何か懸念でもあるのか?


「どうぞ」


 俺は彼女の表情に眉をひそめつつ、空いている席へ促す。カレンは「失礼します」と告げ席に着くと、俺を覗き見るような仕草を見せた。

 ……普段なら、シアナに関することが主のはずなのだが、今回は違うのだろうか――


「で、話とは?」

「……シアナさんのことで」


 話題は同じらしい。とはいえいつもは、こんな風に深刻な顔をすることはなかったのだが。


「今日一日、彼女と接していて少しばかり気になったことが」

「気になった?」

「うん……その、言動がとても変わっているというか……あ、だからといって魔族だとか、そういうことを疑っているわけではないよ」

「わかっているさ。で、どの辺が気になったんだ?」

「その……」


 カレンはどこか困った顔で、俺に言ってくる。


「普通、妙齢の女性というのは服とか装飾品とかに興味を抱くよね? 私が何気なく話を振ってみてもまったく関心がないようだった。じゃあ、魔法具とかに興味を持っているのかな、と思っていたんだけど」

「……ああ」

「今日情報収集のために歩いていて、本屋に立ち寄ったの……それで彼女、予算計画とか節約術とか、そんな本ばっかり手に取って必死に読んでいたんだけど」


 ……なんというか、必死だな。シアナ。


「えっと、質素倹約とかそういうのが趣味じゃないのか?」

「最初そう考えたんだけど、そこに触れるとなんだか言葉を濁すし……少々気になって」


 節約云々について話し出すと、うっかり魔王城のことが出てしまうかもしれない。だからシアナも直接的な言及を避けているのだろう。


「しかも建物の外観がどうとか、門がどうとか……何やらブツブツ呟いているのを見て、気になって」


 ……墓穴掘る寸前じゃないか。


「えっと……俺もシアナの個人的なことについては詳しく知らないから、どうとも言えないな」

「……そう」


 カレンは歯切れの悪い返事をする……どうするか。


「カレン、一つ言いたいんだけど」

「はい」

「その、カレンはどちらかというとシアナについてあまり良い感情は持っていないだろう?」


 婉曲的に言及。するとカレンは「そうだね」と頷く。


「それがどうかした?」

「もうちょっと歩み寄れよ……まあいい。そういう態度である以上、個人的なことは語らないんじゃないか? いつもニコニコしているけど、彼女だってカレンを見て言動には注意するだろう」

「……そうだね」


 カレンは歎息すると、小さく伸びをした。俺の回答に納得しているかどうかは……イマイチわからない。

 ただこの時点で一つ言えるのは、接していて怪しんでいるということ。まあ、四六時中行動しているのだから当然と言えば当然なのだが……ふむ、これは放っておくとまずいことになりそうだ。


 とはいえ、カレンがシアナから目を離すという状況は……非常に難しい気がする。それをやるにはカレンが彼女のことを信頼する必要があると思うのだが、果たしてそういうことが今のカレンに起こるかと言えば――


「兄さん?」


 ふいに呼ばれる。しまった、考え込んでしまった。


「え? ああ、何?」

「どうにかして、私とシアナさんを仲良くさせないと……とか、考えているの?」


 見事に言い当てられる。これ、正直に答えると不機嫌になりそうだな。


「いや、山賊のことを考えて――」

「嘘」


 ぴしゃりと、カレンは応じる。それに俺は黙り込み、彼女と視線を合わせた。


「それなら私に相談あってもいいじゃない。兄さんがリーダーで、私が参謀みたいなものだから」

「……いや、俺だって一人で考えることはあるぞ?」

「それにしたって、シアナさんの話題だったのに急に山賊の件とか言われても、嘘としか思えない」


 うーん、正確に読まれているな。


「兄さんは、シアナさんのことを考えていると肯定すれば、私が不機嫌になると思っているんでしょ?」


 こちらの考えを、全面的に把握している。これには俺も頷く他なかった。


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