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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者復活編
73/428

本来の姿

 その後、騎士団は一足先に首都へ向かうこととなり、俺達だけで移動することになった。ちなみに仲間が増え周囲を警戒しながら進んだため、途中で野宿を一回した。

 その点については魔物も出て来なかったため問題は無かった……放置しておくと、自然発生する魔物が跋扈し始めるだろう。その辺りの対策についても、機会があればエーレに訊いておきたい所だ。


 そして翌日、早朝から移動を始め、俺達はとうとう首都へ辿り着いた――セリウス王国首都ナークレイジは、表立った観光資源も無く人の往来も大都市と比べ少ない。ただこの小国の中で唯一の都市と言えるため、人口自体は結構多い。

 構造としては山を背にして純白の城と街がある。俺達は城の背後に当たる山岳地帯から近づいたのだが、見下ろした景色は中々のものだ。


「この国は白がフォーマルカラーなのか」


 街に入る寸前となり、俺は呟く。山を下り街道に入って、やや遠回りながら城門に辿り着くところだ。


「見下ろした景色は壮観だったな」


 フィンの意見。俺はそうだなと思いつつ、


「けど、景色を見るために上り下りするのは辛いな」

「そのくらい頑張れよ」


 彼はやれやれといった様子で応じた後、俺に改めて切り出した。


「で、ここからなんだが……一度宿をとって休むか?」

「いや、まずは礼を言った方が良いような気がするけど」

「王に?」

「ああ。早い方がいいだろう」


 純白の城へ視線を送り、俺は言う。


「ひとまずフィン達は宿を探してくれ。で、その間に俺が騎士派遣のお礼を言いに行くから――」

「私も行きます」


 すかさずカレンが手を上げる。即座の反応に、俺は首を傾げた。


「いや……ただの謁見だぞ? いいのか? 緊張するぞ?」

「行きます」


 なんだか決意が固い様子……と、ミリーが笑っているのに気付いた。


「ミリー? どうした?」

「セディ、カレンは城に向かった結果あんたがいなくなったから、トラウマになっているのよ」

「ああ、そういうことか」


 俺はカレンに首を向けつつ、大丈夫だとアピールする。


「カレン、今回はただ謁見に行くだけだし、なんともない――」

「兄さんはもう少し警戒してください。いつ何時魔族に襲われるかわからないんですよ?」

「いや……街中だしさ」

「以前だって街中で騒動が起きました。私は行きます」


 強弁するカレン。困ったな。

 いつもなら一人でこういうことを済ましている。理由は、仲間がいると余計に神経を使う気がしてたまらないからだ。


 とはいえ、一度行くと決めたカレンを説得する術も思いつかない……仕方ないか。


「そこまで言うなら、カレン――」

「あ、セディ様。私も行ってよろしいですか?」


 なんとそこでシアナが手を上げた。予想外の言動だったので、俺は驚いた。


「え? シアナも?」

「はい。お城の中に興味があって」

「……観光に行くんじゃないぞ?」


 そんな風に言った時、シアナの目が僅かに揺らいだ。まるでそこに行くことに意味があるような素振り。

 あ、そうか……そういうことか。


「……えっと、どうする?」


 シアナの意図を理解し、ひとまずカレン達へ確認。ミリーやフィン。そしてレジウスはどちらでもよさそうな雰囲気だったが、カレンだけは露骨に嫌な顔をした。


「……必要ないのでは?」

「それを言ったらカレンだって」

「私は必要なんです」


 根拠なき主張を行うカレン。ああ、駄目だ。こうなったらどうしようもない。


「えっと、シアナさん。旅でお疲れでしょうからひとまず休まれては?」

「私は平気です」


 そう言ってシアナはささっと俺の背後に隠れた。そして俺の着る衣服の裾を掴み、カレンに尋ねる。


「……なんだか怒っているようですが、どうしましたか?」


 カレンの表情は変わらなかった――けれど、彼女の立つ周囲の空気が一瞬だけ沸騰した気がした。おそらくだが、カレンからは挑発しているように見えただろう。

 これは止めないとまずそうだ……判断し、声を上げる。


「あ、おい、カレン――」

「シアナさん、謁見については私と兄さんが伺います。是非休んでください」


 カレンはこちらの言葉を遮り、強い口調で言った。しかし、


「いえ、私はセディ様と行くつもりなので」


 シアナは一切退かない。彼女もまた強情……というわけではないだろう。おそらく、任務の話だ。


 シアナに直接連絡を寄越すのでは、露見する可能性がある。となればやり方としては一つしかない。すなわち、大いなる真実を知る王から情報を伝達すること。

 俺のことを伝えた上で指示するのか……それとも他に理由をつけて指示するのかわからないが、王から何かしらの要望があれば流れ的に従わざるを得ないし、仲間達だって納得するはず。シアナが行きたがっているのは……彼女もまた何か情報を受け取りたいのかもしれない。


 となれば俺はシアナを拒絶することができない。ただここで彼女の味方をするとカレンが怒るに決まっている。そういうわけで静観以外選択しようもなく――


「兄さん、少しどいてもらえませんか」


 カレンからの要望。面と向かいあって話すつもりのようだ。俺は視線をシアナへ向ける。

 表情は変わっていなかった。けれど心なしか青が強張り、服を握る手が少しばかり震えているのがわかった。


 怖いのを我慢しているのか……などと考えはしない。今俺の後ろに隠れていろいろやっていることに緊張しているのだろう。これもまた、アミリースの仕業だと俺は断定する。


「……シアナ」

「はい。わかりました」


 名を呼ぶと彼女は淀みなく答え、俺の前に出てカレンと対峙する。こちらは少しハラハラしつつ引き下がり、他の仲間達の近くへ。


「シアナさん。旅をするのであれば確認しておくことがあります」

「はい」

「私達は共に行動する以上、規律を乱さず動く必要があります。わかりますか?」

「はい。けれどそれと今回の話、何か関係があるのですか?」


 カレンがたじろぐ――なんというか、カレンも相当無理矢理な理由を作っているな。


「必死だなぁ、カレン」


 興味深く観察するフィン。完全に他人事なので、彼は傍観者的な立ち位置を確保している。


「……ですから、今回だって謁見に三人も必要ありませんし、人数が多ければ粗相をする可能性も高くなりますよね?」

「ならカレンさんが引き下がればどうでしょうか?」


 言葉に、さらにカレンがたじろぐ。


「セディ様を見張るというのなら、私でも十分かと思いますが」


 ――臆面もなく話すのは、やはり魔王の妹なのだろうなと思った。俺に見せる態度はどこか少女っぽいものだが、魔王城の運営などを行う以上、きっちりと意見を言うことはできるようだ。


「すごいな、あの子」


 レジウスが感嘆の声を漏らす。他の仲間を見ると、彼の言葉に同意している様子。


「それとも私では信用できない、ということでしょうか?」


 そんな中、シアナの言葉はさらに続く。


「思っているのなら、はっきり言ってください」

「いえ……そういうわけでは」

「なら、信用して頂けますか? それなら、私とセディ様だけでもいいですよね?」


 ……結構えげつない攻撃だな、シアナ。対するカレンは一方的に言われるとは予想外だったのか、俯く。

 けれど一瞬だけ俺に視線を送った。助けを請うような目――けれど、大変申し訳ないが黙殺した。カレンもすぐに視線を逸らす。もし信用できないと言ったなら、俺に何を言われるか……そんな態度が見て取れる。


 完全に劣勢の中、シアナはさらに追撃を行う。


「カレンさんもセディ様と同行したいとお考えなのですよね? なら三人で行けば良いと思います。それがみんなが納得する案のはず――」

「……駄目」


 一言、カレンから漏れた。あ、まずい。


「ん?」


 聞き咎めたかレジウスが呟く。さらにフィンやミリーも訝しげな視線を送り、同時にシアナが声を発した。


「カレンさん、何か言いましたか?」

「今回は、私と兄さんだけで行く」


 カレンの口調が、変わった。途端に、フィンが眉をひそめる。


「……雰囲気が、変わったか?」

「地が出た」


 俺は小さく息をつく。これはかなりまずい――


「なぜそこまで二人にこだわるんですか?」

「あなたには関係ない」


 シアナの質問にカレンはぴしゃりと答える。とはいえ、雰囲気や声音がいつもの大人びた空気から一変し、少女に近いものになる。


「私としては、是非理由をお聞かせ願いたいのですが――」

「理由がなければいけないの!?」


 あ、とうとう爆発した。


「必要ないって言っているでしょ!?」

「……え、えっと?」

「今回は私と兄さんだけで行くから! あなたは来なくていいから!」

「……久しぶりに見たわ。カレンが素に戻っている所」


 ミリーが言う。俺も小さく同意し……カレンの口上はただひたすらに子供が駄々をこねるようなものに変化する。対するシアナはそれでも至極冷静で、なんだか滑稽に見えてしまう。


「あれが素なのか?」


 そこでフィンが質問。さらにレジウスもイマイチ状況を把握しきれていないのか、俺に説明を求めるような視線を投げる。


「レジウスさんも知らなかった?」

「お前に剣を教えている時でも、カレンとはあまり関わりがなかったからな」

「そう……」


 俺はカレン達に視線を送りつつ、説明を加える。


「まず、カレンのいつもの口調は母親の真似で、昔からしていた。で、家族といる時だけは普段の口調に戻っていたんだが……勇者として活動し始めた時、粗相がないようにということで丁寧な口調に統一したんだ」

「でも、激昂すると元に戻るのよね」


 ミリーの捕捉。それに俺は深く頷く。


「まあ、普段怒るようなこともないから……フィンを含め旅の途中で知り合った人は驚くかもしれないな。今回は、余程気に障ったんだろう」


 そんな風に評しつつ、俺はなおも叫ぶカレンに注目する。極めて冷静なシアナに感情的に叫ぶ姿を見て、止めた方がいいと思いつつも足が動かない俺であった。

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