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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者復活編
72/428

彼女の出現

 同時にしまったと思ったが、もう後には引けない。知り合いということで押し通すしかない。


「お知り合い、だったのですか?」


 カレンが問う。俺は必死に頭を回転させ、説明を行う。


「あ、ああ……実は、俺がああなってしまう前は、一人で旅をしていたんだ。その途中出会った人だよ」


 と、言った所でシアナが俺に近づく。何事かと見守っていると、


「――セディ様!」


 あろうことか、彼女は俺の胸に飛び込んできた。


「うおっ――!?」

「よ、良かったです。もしあのまま戻られなかったら……」


 顔を胸に埋めて言ってくる。ちょ、ちょっと待て、嫌な予感しかしない。


「……兄さん」


 そこでカレンからの声。視線を向けると、なんだか怒りにも似た難しい表情が浮かんでいた。


「その、人は?」

「いや、だから……旅の途中で知り合った……」

「どういうご関係ですか?」


 さっきとものすごい温度差がある……というか、先ほどの態度はどこへいった。


「セディ様」


 そこへ、元凶であるシアナから小声で告げられる。


「私がお姉様との連絡役です。共に行動するようお願いします」


 ――彼女の言葉の瞬間、俺は昨夜行われたエーレとの会話を思い出す。何か思いついた節があったが、こういうことか。


「えっと、シアナさんでしたか?」


 カレンが表情を変えずシアナへ言う。そこへ、シアナは気付いたかのように慌て出した。


「す、すいません!」


 すかさず俺に謝りバッと飛び退く。動作が非常に軽快。普段の態度から考えて、本心からやっているようには思えない。

 先ほどの胸に飛び込んできたのは一連の説明をするためだと思うが……ああしたことを簡単にできるような気性だったか?


「わ、私とんだ真似を……」

「いや、シアナは気にしなくても――」

「兄さん」


 重い声が響いた。その迫力は、エーレと引けを取らないかもしれない。


「話が逸れましたね……えっと、彼女はどういう経緯でここに?」

「あ、えっと、それは……」


 打ち合わせなんて当然していない。これは困ったと思ったのだが、


「私からご説明します」


 きっぱりとシアナが発言。大丈夫なのかと不安になったが、仲間達が視線を集中させたため、事の推移を見守るしかない。


「私はセディ様と出会い……旅の途中、ジクレイト王国でお別れをしました。しかし、その後色々と心配になった部分があったので、大変申し訳ありませんでしたが、魔法を使ってセディ様の下へ来たんです。そして悪魔と遭遇し、牢屋に」

「心配、とは?」


 ミリーが問う。それにシアナは少し俯き、


「旅の中で接している時……黒い魔力とでも形容するような力が、見え隠れしていたんです」

「……どういうことですか?」


 するとカレンが詰め寄る。俺が魔族になったことに関する情報を得られると思ったか、目の色を変えた。


「詳しく、話して頂けませんか?」

「そうは言っても、私も推察しかできていませんし……」


 真剣な眼差しのカレンに対し、シアナは首を左右に振った。


「ただ、接している間に嫌な予感がして……この場所を訪れたことは間違いないです」

「なぜ居所がわかったんだ?」


 フィンが問う。確かにそこをはっきりさせなければ理由としては成り立たない。


「セディ様が持っている魔法具を探知しました」


 しかしシアナは明瞭な返答。するとカレンが首を傾げた。


「魔法具の解析をしなければ追えないと思うのですが……」

「いえ、私からお送りした魔法具を追跡したんです」


 ……げ、そういう理由? 俺が顔を強張らせる中、仲間達は目を丸くした。俺は起きた当初魔法具に関して疑問を抱いたが、単に気付かなかったらしい。


「は、魔法具?」


 フィンはすかさず目をこちらへ向け――気付いた。


「その、黒い指輪は何だ?」

「あ、いや、これは――」

「過去、神々が使用していた魔法具の一種です。セディ様自身だけでなく、他の魔法具についても強化できる優れものですよ」


 シアナがすかさず答えた……のだが、カレンは眉をひそめ、シアナへ尋ねる。


「以前兄さんが着けていた物は?」

「あ、これです」


 質問に、シアナは右手を差し出す。その人差し指には、俺が以前はめていた赤い石の指輪――待て、ちょっと待て。


「……兄さん、なぜこの方がこの指輪を?」

「あ、いや、えっと」


 俺はシアナを一瞥しつつどう取り繕うか考える。というか、シアナ。こちらに視線が注目していることをいいことに、ガッツポーズまでしたぞ。

 その時、俺は閃いた――弁明の言葉ではない。なぜ奥手だったシアナがこうまで色々としているのか。


 十中八九、アミリースのせいだ。そうとしか考えられない。


「私が所望したんです。私はセディ様が身に着けている魔法具を制御できませんでしたが、こちらは制御できたので」


 俺に代わり、シアナが返答した。けれどカレンは納得いかず、シアナがはめる指輪を一瞥しつつ、俺に問う。


「……憧れの勇者から譲り受けた、神々の武具ですよね? だから後生離さず持っていたと仰っていたはずですが」

「……え」


 シアナが呻く。まあ指輪を手にした理由なんかは語っていなかったので、当然と言えば当然。

 実際、シアナがはめる指輪はとある勇者から頼み込んで譲り受けた物だ。装備している魔法具としては古株で、大切にしているというのも仲間内で公言していた。


 ――ちなみにシアナに渡した理由は、仲間達からもらった魔法具を渡すわけにもいかず、なおかつ必要な魔法具を排除したことによる消去法……とはいえ、彼女が大切にしてくれるであろうということを考慮してのものだ。


「まあ……旅をしていて何度か危ない目に遭っていた。だから魔物とも戦えるように強化する意味合いが強かった。さらにより強力な魔法具を手に入れたわけだし、シアナにあげたんだ」

「思い切りましたね」

「思い入れはあるけど……渡すことで自分や他人の命が守れるのなら、その魔法具としても本望だろう?」

「確かに、そうですが……」


 濁した言い方をして返答するカレン。理解はできたようだが、心の内では納得していない様子。


「シアナ、別に返さなくていいからな。その調子だとついてきそうだし、戦うためには必要だろう?」

「え、あ、はい」


 シアナはすぐさま頷く。結果、反応したのはまたもカレン。


「この方を、同行させると!?」

「結構強情だからな、シアナは。たぶんついてくるなと言ってもついてきそうだし……」

「しかし――」

「その辺りのことは、街についてからでいいんじゃないか?」


 なおも言い募ろうとするカレンを遮り、フィンが発言した。


「ここで立ち話もあれだしな……ひとまずセリウス王国の首都へ向かい、そこで結論を出そうぜ」

「そうね。私も同意」


 ミリーが賛同する。けれど瞳はシアナを見て多少ながら強い光を放っている。


「カレン、一旦矛を収めて戻ることにしましょう」

「私は別に怒っているわけでは……」

「はいはい、わかったわよ。それでは戻ることにしましょうか」


 彼女の言葉に俺は短く「賛成」と言う。そこでミリーは近くに来ていた騎士に呼び掛ける。彼らも既に撤収準備は済ませたらしく、戻ると告げると速やかに報告に行った。


「よし、それじゃあ帰りましょう。セディ、早速だけど旅はできる?」

「大丈夫だよ。体も軽い」

「それは何より……けど、シアナさんの言葉も気になるわね。街へ辿り着いたら一度診てもらった方がいいかも」

「そこまでする必要はないと思うぞ」

「当事者は得てして自分のことを大丈夫だと言うものよ」


 まるで俺が平気じゃないみたいに言うミリー。まあ、シアナの言葉で色々不安を抱いたのは事実だろう。なら払拭するために診てもらうのもいいかもしれない。


 やがて、騎士達が集まり俺達の横をすり抜け歩き始める。


「それじゃあ、改めて首都へ出発」


 ミリーが号令を掛け、俺達もまた彼らの後を追うように歩き出した。

 俺の前方にはカレンとシアナ。カレンが俺のことについて色々と訊きたいらしく、指輪の件は置いておいて質問を行っている。その前をフィンとミリーが歩く。両者も雑談をしているようだが……聞きとることはできない。


「しっかし、衝撃的な展開ばかりが続くな」


 そして俺の横にはレジウスが。時折こちらに視線を送りつつ、告げる。


「弟子との再会は、もう少し良い形にしたかったんだが」

「……レジウスさん、改めて訊くけどなぜカレン達と一緒に?」

「愛弟子が色々あったとあれば、立ち上がらなければいかんだろ? だから俺はセディの穴埋め役だ」


 レジウスは言うと、俺に笑みを向ける。


「高位の魔族を倒した実績がある以上、純粋な戦闘能力はお前の方が上だろう。だから代理だったのだが結構骨だった」

「レジウスさんなら、パパッとできそうな気がするけど」

「簡単に言ってくれるな。大変だったんだからな」


 彼は答えると肩をすくめた。とはいえ本心からのものではなく、冗談を大いに含んだ言葉というのはわかった。

 こうしたムードメーカー的役割に、仲間達もさぞ助かったことだろう……思えば、この人は昔からこういう立ち位置ばかり。損な役回りかもしれないが、それでも彼は嫌がることなく引き受けている。


「街へ行ったら飲もうぜ」

「また酒か……レジウスさん、いい加減やめるべきだと思うけど」

「お前、俺から酒取ったら死んじまうぞ?」

「……大袈裟だな」


 言うと、レジウスは豪快に笑った。


「ああ、それとレジウスさん」


 この辺りで話しておいた方がいいだろう……俺は、彼に口を開く。


「お? どうした?」

「最初交戦した時、俺に言ってくれた言葉があったじゃないか」


 口に出すのはなんとなく気恥ずかしかったので遠回しに言う。けれどレジウスは察したらしく「あー」と間延びした声を出した。


「ああ、あれか……まあ、その、なんだ。忘れてくれ」

「あ、恥ずかしいんだな」

「当たり前だろうが。まったく、こんなことになるなら言わなきゃよかったぜ」


 頭をガリガリかきながらレジウスは言う。よし、当分これをネタにしよう。よく酒絡みで騒動を引き起こしていたささやかな復讐だ。


「お前が元に戻って良かったが……これで、懸念もできたんだよな」

「懸念?」

「俺達の魔法により、お前を元に戻した……おそらく、魔王にマークされるはずだ」

「ああ……確かに」

「で、だ。魔王を見たんだろう? どんな姿だった?」

「……カレンにも伝えたけど、その辺の記憶が曖昧なんだ。きっと、こうなっても情報が漏れないように処置をしていたんだと思う」

「そうか。もしかするとまだ何か潜んでいるかもしれない……要注意だな」


 硬い表情を見せつつレジウスは語る。俺は同意のため小さく首肯しつつ、仲間達を見回した。

 昨日までの深刻な表情は和らいでいる……しかし、時折俺を見ては注意を払うような仕草を見せる。俺が消えないよう警戒しているのかもしれない。


「とりあえず、酒はともかくたらふく美味いもんでも食おうじゃないか」


 そうした中レジウスがまとめる。俺は「そうだね」と小さく答えつつ、頭の中に「作戦成功」という言葉が浮かび上がった。

 ひとまず予定通り行動することになりそうだ……安堵すると共に、今後の展開がどのようなものか気になった。指示を受けるのはいいが、それを仲間内で納得させるにはしかるべき名目が必要となる。


 その辺りはエーレも考えていると思うが……色々と思慮に耽りながら、俺は仲間と共に首都へ向かうべく歩み続けた。

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