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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者復活編
69/428

元に戻すために

 仲間達がいよいよ、というところでエーレから連絡が来た。今度はシアナを介してではなく、彼女から直接だ。


「そっちからでも連絡できたんだな」

『ああ。報告に使う魔法具の詳細はこちらも把握しているからな。それを利用すればこういうこともできる』

「そうなのか。けど、そっちから連絡するのは危険なんじゃないのか? もし俺の近くに人がいたら……」

『ファールンが連絡を寄越してきたため、あなたの傍に誰もいないことは了承済みだ。事情はある程度ファールンから聞いている……辛いか?』


 どうやら俺のことを慮って連絡したらしい。どこか悲しそうな瞳を向け、俺へさらに言う。


『本来は、大いなる真実が露見しうる可能性は排除しておきたい。しかし、重大な事件が発生し、なおかつ頼める魔族もいないため、セディに頼るしかない』

「エーレが気に病む部分じゃないさ」


 彼女に対し、俺はしっかりと答えた。


「それにこれは作戦だからな……きちんとやるさ。後は、合流してからバレないよう、今以上に気をつけるよ」

『そうか……だからといって神経を使い続けるのはよくないぞ』

「わかっているさ。ところで、シアナはどうした?」

『現在他に仕事をさせている。あなたのことも心配していた』

「問題ないと伝えておいてくれ」

『了解した』


 答えると――ふいに、エーレは笑った。


『セディ、城に戻ってきたらお茶でもしよう』

「お、労ってくれるのか?」

『ああ……仲間と行動する以上、長期任務になるだろう。もし戻れば、少しばかり休みも与える』

「ずいぶん優しいな。何かあったのか?」

『失敬だな』


 問いに対し、エーレは不服そうに言い募る。


『同士として動いてくれていることを感謝しているだけだ』

「……俺は弟子入りしたつもりなんだけどさ」

『私としては、同士だ』


 他の魔族が聞いたら飛び上がりそうな発言だ。とはいえ、信頼してくれているのはわかる……結構嬉しい。


『それに、シアナもあなたのことが気に入っているからな。ずっと離れたままにしておくと、忘れられそうだ。気を付けるべきだな』

「……えっと」


 その点については非常に返答しづらい。困った顔を示すと、エーレは破顔した。


『ああ、すまない。別に茶化しているわけでは――』


 言い掛けた時、突如エーレは笑いを収め、何かを思いついたような顔をした。


『そうか……その手があったか』

「ん? どうした?」

『いや、こっちの話だ。ではセディ。作戦の成功を祈っている』

「ああ、わかった――」


 言って、俺は作戦後どのように動くか指示を仰ごうとした。けれどエーレは手を振り、空間が正常に戻ってしまった。


「……遅かったか」


 呟きつつ、どうしようか考える。ついでに、最後思いついた顔をしていたのも気になる。


「まあ……いいか」


 エーレのことだし心配はいらないだろう。そんな風に思いつつ、俺は一度伸びをした。

 その時、部屋にファールンがやって来る。


「セディ様。お仲間が砦に到達しました」

「ん、そうか……門辺りで戦っているのか?」

「はい。鉄門は開いているので、彼らは直に城内へ入るでしょう」

「わかった。それじゃあ予定通り城内に敵は出さないようにして、玉座に入れてくれ」

「了解いたしました」


 ファールンは頷き、短距離転移で消えた。


「よし、準備するか」


 俺は言いながら傍らに置いてある剣を手に取る。準備、といってもそれほど多くない。装備の確認と、これから行う作戦について再度振り返るくらいだ。

 ただ、ここからが重要……絶対に演技をしているとバレてはならない。


 考えると、体に力が入る。何しろ作戦のために戦う相手は気心の知れた仲間達。玉座で俺を戻そうと一挙手一投足を観察するだろう。その中で、毛ほども違和感を与えてはならない。


「正念場というやつか……」


 呟きつつ、変な戦いだと改めて思う。戦いに勝つのではなく、バレないよう仲間の所へ戻る、というのはずいぶんと奇妙だし、さらに神経を使う。


「けど、これが終わればとりあえず楽できるかな……」


 少なくとも精神的負担は減りそうだ。それに、仲間達とまた旅ができるというのも、悪い気はしない。

 思うと自然に頬が緩む――と、いけない。すぐさま思い直し、一度両頬を叩いて気合を入れた。


「こういう顔は今回の作戦が終わってからだ……行くぞ」


 自分に言い聞かせるよう言って、俺は部屋を後にした。






 そして――いよいよ玉座にカレン達が訪れる。


「待っていたよ」


 玉座に座り、表情を作りながら扉を開けたカレン達へ告げる。先頭で入って来たのはフィンで、俺に対し苦笑を見せた。


「……ずいぶんと、似合っているじゃないか」

「俺も魔族としての威厳が出始めたということか?」

「嬉しそうだな」

「これで、より陛下に気に入ってもらえるだろうからな」


 返答に、フィンは顔をしかめる。同時に静かにため息をつき、中へと入る。

 遅れてレジウス、カレン、ミリーと続く。その誰もが固い表情を示し、それでいて俺を真っ直ぐ見据えている。


「覚悟はある、というわけだな」


 ゆっくりと――俺は玉座から立ち上がる。そして立てかけてあった剣を手に取り、鞘から抜き、構える。


「陛下は言っていたよ。もし仲間が来たなら、殺せと」


 俺の言葉に、誰もが沈黙し言葉を待つ。


「そして過去を断ち切り、忠誠を誓えと言っていた……それが早くも到来して、幸運だとさえ思っている」

「減らず口はそれだけか」


 フィンが言う。悲哀はない。俺に対し、憤怒の表情だけを見せている。


「後悔させてやるぜ」

「できるものならな……来い!」


 叫んだ瞬間――フィン達の背後、扉の前にファールンが出現した。カレン達はそれにすぐさま反応し、散開する。


「決着をつけるぞ!」


 俺はファールンに叫んだ瞬間、彼女の黒炎が玉座への道を貫く。しかし左右に逃れたカレン達は無傷で避け――レジウスが叫ぶ。


「手筈通りに行くぞ!」

「ええ!」


 彼の言葉にミリーが反応し、ファールンへ斬りかかった。同時にレジウスも軸足を彼女へ移す。

 加え、こちらにはフィンとカレンが向かい始めた。なるほど、ファールンの存在があった以上、二手に分かれて戦う算段を立てていたのか。


 二人の内、フィンを先頭にして走る……最中、カレンが告げる。


「兄さん! 絶対に――元に戻します!」

「やれるものならな! 来い!」


 俺はカレンの言葉に応えると階段を一足飛びで駆け下り、真正面から突撃するフィンに対し剣を薙いだ。

 彼はそれをからくも受け流す。けれど威力を殺しきれなかったか苦悶の表情を浮かべ、数歩後退した。


「ちっ! やっぱ力は上か……」

「元々俺の方が上だろ。無理するな」

「言ってろよ!」


 フィンは叫び、再び切り込む。対するカレンは俺達と距離を取って立ち止まる。俺は笑みを浮かべながらカレンに視線を送ると、ほんの僅かに悲しそうな顔を見せ……すぐに表情を戻した。

 同時にフィンの剣を弾く。突撃していながら、隙が生じないよう動いているのがわかる。カウンターを狙っているのか……それとも、フィンが俺を食い止める役目を担い、動かないカレンが何かやるのか。


 ここからは、作戦の読み合いとなってくる。俺を元に戻すというのが前提ならば、必ずカレン達は作戦を組んでいるはず。そこを上手く利用して元に戻る、というやり方もできなくはない。

 要は相手の計に乗っかる――口で言うのは簡単だが、それを違和感ないようにするというのは、かなり大変だ。


 できればとっかかりでもつかめればいいんだが……心を乱してボロを出させるか? いや、理性を取り戻したカレンの所業だ。隙は決して見せないだろう。

 そんなものを期待できる程、生易しい相手じゃない。


「おらっ!」


 自らを鼓舞するように叫びながら、フィンはなおも突撃する。カレンはまだ来ない。俺は必死に笑みを作りながら、フィンの剣を受けた。

 当然ながら、フィンも必死だ。けれどその瞳にはカレンを信頼し、俺を元に戻そうとする意志が窺える。けれど、フィンが何か仕掛けを施すとは思えない……ここは時間を稼いでいると見てよさそうだ。


「やあっ!」


 今度はミリーの声。視線を移すと彼女がファールンへ横薙ぎを決めている光景。けれどファールンは上手くいなし、僅かに後退する。

 大丈夫そうだ……思いつつ、俺はフィンの剣を防ぐ。正直、表情を変えないままいるのがしんどくなってきた。


 さらに相手の手を待つのは精神的に疲労する……そんな風に考えた時、カレンが動いた。目を閉じ、魔法具に魔力を収束させ始める。

 相当精神を集中させ、魔法具に魔力を集めている。あのカレンがここまでのことをしないといけないレベルの魔法――


「気になっているみたいだな!」


 フィンの声。俺はすかさず視線を戻し、放たれた斬撃を防ぐ。


「普段のカレンじゃないからな……何をするつもりだ?」

「話すかよ!」


 フィンは叫びながら追撃。こちらはそれを余裕で弾くと、反撃しようと動く。


「ちっ! 深追いは厳禁か!」


 彼はすぐさま後退。そしてカレンを庇うように立ち、剣を構え直し俺を睨みつける。


「この上なく厄介だな……お前の魔法具は」

「魔法具が無ければ、俺に勝てるとでも言いたげだな」

「技量は俺の方が上……とは、言えないな。以前決闘して、決着はつかなかったな」

「ならここで雌雄を決すればいい」

「いや、それは……お前が元に戻った時のためにとっておくさ!」


 叫び、なおも俺に攻撃。首筋には汗が噴き出て、肉体的に限界が近いことを俺は肌で感じ取ることができた。

 長期戦ではなく、短期決戦の構えらしい……もしカレンの魔法が通用しなければどうするのか気になったが、フィンはそういう心情を飲み込み、彼女を信じ俺と戦っているようだ。


「――おおおっ!」


 気を奮い立たせ、フィンは一閃する。一目見て、今まで以上に鋭く重い一撃だと理解できた。

 防ぐか、それとも避けるか――考える中で体は勝手に動いた。その一撃を剣に衝突させ、動きを鈍らせた瞬間後方に跳ぶ。


「残念だったな」


 俺は嘲笑に近い顔を示しながらフィンへ言う。しかし、


「ああ。けど、それで良かったのさ」


 フィンは、笑った。時間稼ぎ完了――そういう顔。


「……ありがとうございます、フィンさん」


 沈黙を守っていたカレンの声。俺はすぐさま彼女に視線を移し、問う。


「ようやく戦う気になったのか?」


 俺は余裕を持たせた顔で尋ねる。すると、


「ええ……これで、終わりです!」


 カレンは叫び、両腕を掲げた。


「浄化せよ――悠久の悪魔!」


 言葉の直後――彼女の両手から溢れんばかりの白い光が生じた。

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