表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者復活編
68/428

次の一手

「待て!」


 俺が叫ぶ。途端、ファールンや悪魔達の動きが止まった。


「そうだな……せっかくカレン達が来たんだ。こんなところで決着をつけるのはもったいない」

「……ベリウス様?」


 ファールンが問う。やや不満げな顔を伴い――無論、これも演技――首を向ける。


「退かれると?」

「そう口を尖らせるな。決着なら、存分に砦でつければいい」


 俺はそう言うと、呆然とするレジウス達へ視線を移す。

 その時、俺の聖炎が途切れた。途端に周囲は月明かりだけとなり、凛とした夜の空気が包み始める。


「ここからまっすぐ進めば、俺のいる砦へと辿り着く。そこで決着をつけよう。精々、元に戻す方法を探しておいてくれ」


 発言した時、ファールンが横手に来た。するとレジウスが我に返ったようで慌てて俺に駆け寄ろうとする。


「ま、待て――!」

「それじゃあレジウスさん。砦で」


 告げた瞬間、俺の足元に魔法陣が浮かび上がる。瞬間光に包まれ――俺は、砦の玉座に舞い戻った。


「これで最初の戦いは終了ですね」


 ファールンが淡々とした口調に戻る。俺は「そうだな」と短く呟いた後、彼女へ言った。


「ところで、あれだけノリノリなのはかなり無理しているのか?」

「……現在の性格が地だとはお伝えしたはずです」


 ちょっとだけ憂鬱に彼女は言う。まあ、元々女王の側近を務めていた人だ。無理もない。


「ちなみにですが、上手くできていましたか?」

「ああ、大丈夫だよ。見知った俺でさえ、あれが演技だとは思えなかった」

「……結構、大変なんですけどね」


 嘆息するファールン。けれどすぐ表情を戻し、俺へ尋ねる。


「ところでセディ様? 大丈夫でしたか?」

「え、大丈夫って?」

「体にずいぶんと力が入っているように見受けられます」


 言われ、俺は気付く――剣を握る右手に、ずいぶんと力が入っている。

 自覚すると共に、力を抜く。同時に先ほどの戦いが脳裏をよぎり、背中から嫌な汗が出てくる。


「……正直、かなり怖かった」

「でしょうね。仲間達と戦ったわけですし」

「けど、加減をしていたのはわかったし……少なくとも、殺されるようなことはないと思う。そこだけは安心してよさそうだな」


 と、そこまで言った時一つだけ気になることがあった。


「……俺が元に戻る兆候くらい見せた方が良かったかな」

「兆候、ですか?」

「ああ。もう元には戻せないなんて思ったら、ここには来ないかもしれないだろ?」

「その辺りは問題ないと思いますよ。お仲間の雰囲気や、セディ様を見る眼差しからして……間違いなく、元に戻そうとしてここを訪れるでしょう」

「……そう、かな」


 俺は呟きつつ、剣を鞘に収めた。そこで右手に痛みが走ったが……我慢だと思いつつ、これからの予定を思い出す。


「で、次からファールンに任せることになる。大丈夫か?」

「お任せください」


 彼女は慇懃な礼を示し、俺へ応じる。


「戦況は、上手く作ってみせます」

「わかった。それじゃあ俺は少しだけ休むよ」


 俺の言葉にファールンは再度頭を下げ――ふと、


「セディ様、本当に大丈夫ですか?」


 確認の問いが来た。


「玉座で決戦することになるでしょうけど……」

「大丈夫だよ。心配ない。それに――」


 と、俺は頭をかきながら言った。


「この戦いは悲しいものだけど……それを乗り越えれば、カレン達にとって良い未来が与えられる。そう思うと作戦を成功させないとって思う」

「そう、ですね」

「まあ、なんというか……最初からこんなことをしないのが一番良いんだろうけど……管理のためだ」

「ありがとうございます」


 そこでファールンは礼を述べた。俺はそれに苦笑し「必要ないよ」と答え、


「何かあったら連絡してくれ」


 言い残し、歩き出そうとする。


「あ、セディ様。一つだけ」


 しかし、背後から彼女の声が聞こえた。


「こちらは準備を始めますから……、多少なりともお仲間の観察をお願いします。もし何か懸念事項があれば……ご報告を」

「わかった」


 俺は彼女に背中を向けたまま頷き、改めて玉座を出た。






 フラウの部屋に戻ると、一度息をつき魔法でカレン達の観察を始める。やはり覗き見みたいでいい気分はしない……けど、作戦だ。仕方ないと割り切る。

 最初に見えたのは、座り込んでいるカレンと、それを介抱するミリーの姿。残るフィンとレジウスは辺りに視線を送り、警戒している。


「どうする? 一度戻るか?」


 レジウスが一行に確認をする。けれど、カレン達は反応しない。

 俺はカレンの態度が気になり、魔法を操作して彼女に接近。すると、肩を僅かに震わせ、俯き顔を覆う姿が目に入る。泣いている――


「……城に連絡して、討伐隊を組織してもらうか?」


 さらにレジウスが問う。敵もわかったので、本来ならここで退却してもいい。しかし、


「レジウスさん。俺は先に進むべきだと思う」


 反論をしたのは、フィンだった。


「セディが……魔族に変じてしまったことはショックだ。その状況をつぶさに報告して、緊急事態とし勇者を集めるのも一つの手だが、懸念がある」

「懸念?」


 聞き返すレジウス。それにフィンは頷き、


「俺達とセディが接触したことは魔王にすぐ伝わるだろう。となれば、奴らはセディを引っ込めるかもしれない」

「しかし、セディは砦で待つと言ったぞ?」

「魔王がどんな判断をするかだが……一つ言えるのは、魔界に引っ込まれたらどうしようもないということだ。それに――」


 と、フィンはカレンを一瞥した後さらに続ける。


「こちらの探査魔法の存在もバレたかもしれない……魔法具を外されてしまうか、何かしら処置されれば、魔界に逃げなくともどこにいるのかわからなくなる」

「ここで追わないと、居所が掴めなくなる可能性が高いと」

「そうだ……たぶん、城に戻って報告するような時間はないだろう」

「……砦に戻って、すぐという可能性もあるんじゃない?」


 ミリーが声を出す。それにフィンは反応し肩をすくめた。


「そうかもしれないな。けど、セディがいる可能性も十分ある」

「……そうね。私もフィンの意見に賛成する」


 同意して、ミリーは静かに立ち上がった。


「カレン。フィンの言った通りよ。ここでセディを追わないと……もう二度と会えなくなるかもしれない」


 彼女の言葉に――カレンの動きが止んだ。同時に手を顔から外し、俺の目に泣き顔が見えた。


「……兄さんは、戻るでしょうか?」

「それは誰にもわからない。けれど、今行かないとその可能性はゼロになるかもしれない」

「……わかり、ました」


 ローブの袖で涙を拭くと、カレンは立ち上がった。


「先に、進みます」

「よし、その調子」


 ミリーは安堵したように声を上げ、今度はレジウスに顔を移す。


「レジウスさん。申し訳ないけど先導してもらえる?」

「いいだろう。お前達が行くと言うのなら、俺も従うまでだ」


 ――ここでもし引き上げるつもりなら、俺達は悪魔を使って追い立てる予定だった。けれど色々と推測を立てて、砦へ向かって来てくれるらしい。

 ひとまず、玉座の決戦は確定だ……俺はカレン達を見据えながらファールンが行う次の一手を思い出す。散発的に魔物をけしかけ、行く手を阻む――思っていると、空間の奥から狼の遠吠えが聞こえた。魔物だろう。


「やはり、素直に進めるわけじゃないか」


 レジウスは呟きながら剣を構えた。合わせてフィンも臨戦態勢に入る。

 彼らにとっては苦労するレベルの相手ではないはず。ここに来るのも時間の問題だろう。


「カレン! 行くぞ!」

「……はい!」


 レジウスの言葉に、カレンは明瞭に応じた。先ほどまでの態度は消え、俺を救うべく強い意志が宿っていた。


 ――正直、皆を騙しているようでなんだか申し訳ない気持ちになる。とはいえ、大いなる真実を仲間達に話すわけにはいかない以上、仕方ない。

 同時に、あれだけ泣かせてしまったカレンに謝りたくなった。けれどそんな顔を出すわけにはいかない……これは、勇者として皆の所に戻る時までしまっておくことにしよう。


「ともかく、まずは目の前の戦いに集中だ」


 今はしっかりと作戦を成功させなければならない。俺は余計な感情を捨て交戦を始めたカレン達を眺める。フィンとレジウスが襲い掛かる魔物を倒し、さらにカレンの魔法が悪魔を倒す。


 兄さん、待っていて――そういう心の声が聞こえてきそうだった。俺は無意識の内に小さく頷き、仲間が戦う光景を眺め続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ