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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者復活編
66/428

正面衝突

 ――そして俺とファールンは、月明かりの下で彼らを待つ。


「いよいよ、ですね」


 仮面を着けた俺を見てファールンは言う。こちらは頷き、改めて自分の姿を確認する。

 全身を黒衣で包んだ格好。それに加え真紅の髪に翡翠の瞳――これは魔族の姿。とはいえ顔立ちが露見すれば一発でわかるだろう。


 そのわかった時こそが、俺やファールンにとって戦いの始まりだ。


「……来ました」


 やがてファールンが言う。俺はじっと暗さに慣れた目を凝らし、正面から複数の人影が進んでいるのを認めた。

 途端に、心臓が跳ねる。監視するために一度仲間達を見ているとはいえ、いよいよ真正面から向き合うこととなる。反射的に剣を握り締め、呼吸が僅かに乱れる。


「大丈夫ですか?」


 それを察したファールンが問う。俺は深呼吸をして、さらに左手を胸に当て目を瞑る。

 殺し合いをするわけじゃない。もちろん、最初仲間達は俺を倒しにくるだろうけど……俺は、作戦通り動けばいいだけだ。


 そう自分に言い聞かせ――少しずつ落ち着きを取り戻し、


「……ああ、大丈夫だ」


 ファールンへと答えた。


「いつでもいける」

「では、一度見えない所まで引き下がりましょう。崖の正面に来た時姿を現し、そこから私が彼らの目の前に転移させます」

「わかった」


 承諾し、俺は大きく下がる。ファールンもまた下がりつつ視線はじっと前を向く。

 そこから少しして――土を踏みしめる足音が聞こえ始めた。


「行き止まりだな」

「迂回しないといけないみたいね」


 フィンと、ミリーの声。肉声であることによって僅かながら緊張が体の中を抜ける。けれど、先ほどよりはずいぶんとマシだった。


「……待ってください」


 そこで、カレンの声。どうやら気付いたようだ。けれど、こちらはまだ戦闘態勢には入っていないはず――


「気付いていただいたようですね」


 続けざまに、小声でファールン。俺はそれに疑問を呈する。


「何をした?」

「魔力を流しました」


 なるほど、わざと勘付かせたわけか。


「あえて私固有の魔力ではなく、別人の魔力を流しました。私であるとバレてはいないはずです」

「そうか……でも、これで――」

「気配がします」


 カレンの警戒を含めた声。けれどファールンのことについては言及なし。彼女なら一度戦った相手の魔力は憶えているはずなのだが――どうやら、ファールンの言葉通りそこまではわかっていない様子。


「セディ様」


 そしてファールンは俺に呼び掛けた。ここからは言われなくてもわかっている――俺はゆっくりと、足を前に踏み出した。

 足音が周囲に響く。そうして現れた崖下……そこに、四人の人影があった。


「何……?」


 最初に口を開いたのはフィン。彼らから見れば、俺は黒衣に身を包んだ赤髪の剣士という風にしか見えないはず。


「早速お出ましってわけね」


 続いてミリーが言う。剣を抜いて臨戦態勢となり、フィンやレジウスも同じように剣を抜く。

 同時に――周囲に潜んでいた人間型悪魔が俺の周囲に現れた。


「待ち伏せされていた、というわけですね」


 カレンが言い、腕をかざす。今回の戦いの中で、一番注意しなければならないのは彼女だ。魔法はとかく強力であり、食らうのはまずい。


「とはいえ気配としてはそれなり。数だけの烏合の衆って感じだな」


 最後にレジウスが言った。まあ、その辺は同意する。正直あの四人にとって俺の取り巻きは雑魚以外の何者でもない。なおかつ俺は魔力が露見しないよう気配を断っているので、必然的にそうした評価になる。

 けれど、戦い始めてすぐさま気付くだろう。間違いなく驚愕するだろうし、それを利用して上手くかく乱させるのが、作戦だ。


「……ファールン」

「はい」


 言葉に頷く彼女。そして、


「ご武運を」


 告げた瞬間、俺の足元に魔法陣が出現した。光が溢れ、崖下にいる四人も気付いたかこちらを注視する。

 同時に悪魔達が咆哮を上げ、突撃を開始。そこでカレン達は、月明かりの下最大限の警戒を示す。


 その時、俺の視界が白く染まった。手順は既に決めてある。ここから俺は足を一歩踏み出し――

 転移した瞬間、レジウスの眼前に出現し、剣を薙いだ。


「なっ!?」


 まさか目の前に出てくるとは思わなかったのだろう。レジウスは明確な驚愕を示し、咄嗟に防御しようとする。

 遅れてカレン達も反応。しかし悪魔と俺の存在とを天秤にかけ、対応が遅れる。


 その短い時間で俺は魔力を解放した。右腕に力を結集させ、渾身の一撃を放つ。


 膨らんだ魔力に、レジウスは目を見開く。しかし剣をかざし、俺の剣戟を受け止めようという動きはした。

 そして剣が衝突。結果レジウスは大きく後退――どころか、吹き飛んだ。


「うおおおっ!?」

「レジウスさん!」


 カレンの声。しかし悪魔が襲来したことによりそちらに意識を持っていかざるを得なくなる。


「くっ……! 光よ!」


 生み出したのは光弾。間近に迫ろうとしていた相手へ放った。しかし、悪魔はそれを腕によって弾く。


「なっ!?」

「このくらいの魔法は通用しないってわけか!」 


 フィンが叫びながらフォローに入る。横薙ぎを繰り出し、悪魔はそれを防御した。

 これも防御できるか――そう思ったのは一瞬のこと。剣戟が腕に当たると、耐え切れず体ごと両断されて、消滅する。


 やはり悪魔では太刀打ちできない……思っていると俺の真正面にミリーが接近する。


「やっ!」


 掛け声と共に剣を振る。俺としては知れた剣戟であり――ここで彼女の癖を見極めれば悟られるのは理解しつつ――防ぎにかかった。


 ミリーには独特の癖があり、鋭い斬撃なのだが剣が衝突し振り抜く寸前で一瞬だけ力を抜く。無論相手に押し返されるほどのものではないし、打ち合ってすぐにわかるものでもない。これはレジウスの指導により彼女と剣を打ち合い続けた俺だけが理解していることだ。

 剣が噛み合う。そして案の定彼女の力が一瞬だけ、緩む。そこを狙い、俺は押し返した。


「っ……!?」


 途端にミリーは驚く。押し返された、という決然とした顔ではない。それは言わば、癖を突き押し返されたのだと直感した表情。


「今、のは……!?」


 ミリーは呻きつつ後退しようとする。そこへ、俺はすかさず追撃を掛けた。

 刀身に魔力を僅かに込める――無論、俺が使うのは女神の力。先ほど奇襲同然に使った時は混乱でわからなかったかもしれないが、今度はさすがに理解するはずだ。


「っ……!?」


 いの一番に反応したのはミリーではなく、悪魔と交戦していたカレン。俺にも聞こえるレベルの呻き声を発し、同時に視線を感じ取った。

 けれどそれを無視しつつミリーへ仕掛ける。薙ぎ払いの一撃で、ミリーと打ち合っている時よく使っていた攻撃だ。


 彼女は所作を見て確信を伴ったはず――実際顔を強張らせつつ防御に転じたので、間違いなかった。

 双方の剣が再び衝突する。ミリーはさらに後退し、俺は前進しようと足を向ける。


「ミリーさん!」


 そこでカレンが叫ぶ。うん、これだけやり取りした以上さすがに察しただろう。


「ミリー! 俺がやる! 一度退け!」


 そうして次にやって来たのはレジウス。吹き飛ばしただけなので外傷は無く、ミリーの横をすり抜け俺に近づこうとした。

 対するこちらはどうするか一瞬逡巡し――大きく跳ぶように後退する。距離を取り四人と相対した時、それぞれの表情を確認した。


 ミリーとカレンが何かを察したような顔。そしてフィンは周囲の悪魔を倒したためか息をつき、レジウスは戦いを細かく見ていなかったせいか、警戒の視線を送っている。


「何か、気付いたのか?」


 そうした中でフィンがカレン達へ問う。


「……フィンさん。魔力がおかしいことに気付きました?」

「魔力……まあ、魔族が放つ刺々しい気配は無いな」

「あれは、女神の力です」


 断定的な口調。フィンが眉をひそめ、レジウスがさらに警戒の度合いを高める。


「となると、操られた勇者といったところか?」

「だと、思います……けれど……」


 カレンは呻き、口を堅く結んだ。ふむ、まだ無言に徹して戦っても良いかもしれないが……ある程度理解しているようだし、話してもいいか。

 というか、正直これ以上やると胃が痛くなって戦えなくなりそうだった。


「……まあ当然、気付くだろうな」


 声を発した――瞬間、カレン達の体が大きく震えた。全員が硬直し、俺を凝視する。


「……その声」


 乾いたカレンの声が俺に届く。魔族はこうした時内心で笑うのかもしれないが、あいにく俺には無理だった。


「露見しないよう仮面を着け抵抗してみたが、やはり無駄だったようだな」


 さらに言葉を重ね、俺はゆっくりと左手を動かす。その間に呼吸を整え、表情を作る。

 この辺りはファールンに言われていた。演技をする間は絶対に不安な顔は見せるなと。


 カレン達は誰もが動かなくなり、視線を俺に集めるだけ。中でもカレンは小さく首を振るのがわかった。信じられないという所作だろう。


 ――正直、結構くるものがあったのだが……俺は構わず仮面を脱ぎ捨てた。


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