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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者復活編
65/428

仲間達の動向

 フラウの部屋は玉座の裏側。そこは雑貨の類が所狭しと置かれ、結構散らかっている。

 玩具とか目に入るので、この部屋は見られたらまずい……思いつつ、中央にある丸テーブルに地図を広げ、俺とファールンは会話を始めた。


「ファールン、どう動く?」

「迎え撃つ場所としては、どこでも構いません。転移魔法が使える以上どんな状況でも応じることができますし」

「カレンには聖炎があるけど」

「私は直撃しても持ちこたえられますし、セディ様にはそもそも通用しないので大丈夫かと」


 ファールンが言うなら別にいいが……待てよ、聖炎か。そういえばシアナの魔法具により俺も使えるようになった。牽制目的で使っても良いかもしれない。


「わかった。で、現在位置は……」

「先ほど彼らが進んでいる地形から察しはついています」


 そう言ってファールンは砦と直線状にある場所を指で示す。


「地形的にこの辺りかと」

「よくわかるな」

「セディ様がここにいらっしゃる間に、偵察は済ませていますから」

「……改めて思うけど、有能だよな。ファールンって」

「褒めても何もでませんよ」


 無表情で答えつつ、ファールンは話を進める。


「それで、どのようにしますか?」

「色々とやり方がありそうだな」

「はい。演出の事例としては、相手を罠にはめつつ動揺を誘うやり方。仰々しく悪魔達を率い力を誇示して敵愾心を加えるやり方。後は、そうですね……最初からお姿を晒し、そこを衝くやり方というのもありますね」

「その中から好きなのを選べと」

「はい。どのようにしても結末は変わりませんが……お仲間がどのように反応するかを見極めて選択する必要があるでしょう」


 ――もしかして魔族が人間達を迎え撃つ時、こんな感じで話しあっているのだろうか? そう思うと大変なのかぶざけているのかわからないな。


「どうしますか?」


 ファールンが再度問う。俺は思案を始め、腕を組んだ。


「うーん……罠を組んで、というのは気配察知能力が高いカレンがいる以上難しいだろうな。そして最初から姿を見せるよりは、顔を隠し途中で見せた方が衝撃も大きいだろう」

「なるほど。この辺りは英雄譚などの物語を参考にしても良いかもしれません」

「そうだな……とりあえず、顔を隠し戦うってことで」


 とはいえ、過剰に演出すると胡散臭くなる。その辺りの配分に注意を払う必要がありそうだ……ん、ちょっと待て。


「ファールン。一番重要なことがある」

「はい、何でしょうか?」

「俺は一度ジクレイト王国を訪れ事件を解決している。このことから多少なりとも勇者として復帰したという経緯はできてしまっているわけだ……その辺りの設定、どうしようか?」

「最初、魔王に力を与えられこの世界に戻された……しばらくは異常もなくジクレイト王国の件にも関わった……けれど、ある時魔王の命令を思い出し魔族化した……こんなところでよろしいかと」

「……勇者として復帰した後、どの程度語るか考慮しないといけないな」


 そう零しつつ、俺は頭の中で話し合ったことを反芻。さらにファールンへ告げる。


「では、そういう段取りでやっていく……他に解決すべき問題はあるか?」

「とりあえずありませんね。では、少しばかり彼らの様子を観察しておきましょう」

「観察?」

「先ほどの魔法を応用すれば会話などを聞くこともできるのですが……どうしましたか?」

「そういうのって、常日頃やっていたりするのか?」

「ここは転移魔法関係の設備が整っているのでできるだけです」

「……そうか」


 だからどうというわけではないのだが……常に監視されているとなると、あまりいい気分はしなかった。


「では、聞きますか? どうしますか?」


 ファールンが確認。質問の意図を察し、嫌ならばしなくても良いと言いたいに違いない。

 そこでまた逡巡する。覗き見しているようで気分は良くないが……けれど、多少なりともカレン達の動向を把握しておくべきなのは事実。


「わかった。ファールン、頼む」

「はい」


 俺の言葉にファールンは頷き――魔法を使用した。






「しかし、夜に来なくても良かったんじゃないか?」


 月明かりが照らす山の中で、仲間の一人――フィンが声を発する。姿は以前と一切変わっておらず赤い鎧姿。見ているこちらが懐かしく感じてしまう。


「いえ、夜であっても兄さんがいるとわかっている以上、援護に行かないと」


 答えるのはカレン。彼女は山道がきついのか多少疲れた声でフィンへ応じた。


「けどカレン。探査魔法の使い過ぎで多少なりとも疲労しているだろ? 無理は――」

「大丈夫です」


 フィンの言葉にカレンはきっぱり答える。押しの強い言葉――それに反応したのは後方にいるミリーだった。


「ま、ここはリーダー代理を務めているカレンの指示に従いましょう。それに皆も同じことを思っているはず……セディが危ないなら、助けるべきだって」


 その言葉に、残りの面々は一様に頷いた。


 ――会話から、ある程度状況を推察することはできた。カレンは探査魔法を使い俺の居所を探り、見つけた結果魔族の砦方向であったため無理をして突き進んでいるようだ。

 で、カレンがリーダー代理……きっと自分がやりますと強弁したのだろう。他の面々はそれを聞いてたじろぎつつ従った、という姿も容易に想像できた。


「ま、奴のことだから無事だろう」


 続いて陽気な声――師匠のレジウスだ。


「しっかし俺としては驚いたんだがな。まさかジクレイトで仕事をしたとは。せっかく一人になったわけだから、もうちょい羽目を外して女遊びでも――」

「レジウスさん」


 と、カレンが声を発する。トーン自体は先ほどと一切変わらないものだったのだが、底冷えする空気が魔法を通して見ている俺にも認識できた。


「兄さんはそんなことしません」

「そんな怒るなよカレン。美人が台無しだぞ」

「……これから戦いだと言うのに、もう少し気合を入れてください」


 追撃するカレンにレジウスは「はっはっは」と笑う。酒でも飲んでいるような陽気さだが、人目がない時はこんな感じだ。


「けど、一つ気に掛かるのよね」


 次に言ったのはミリー。右手で髪を適当にいじりながらカレンに言う。


「砦にそろそろ近づいてきたわけでしょ? 戦っているのなら、物音くらいしてもおかしくないと思うけど」

「休憩しているのかもしれません。砦に近づいたら魔力の捕捉を再度試みます」

「しっかし、こんなところで渡した魔法具が役に立つとは」


 ミリーは頭をかきつつ嘆息する。エーレの言った通り、俺が身に着けている魔法具を探知して来たらしい。


「けどまあ、あれだけ装備しているなら並の魔族には負けないと思うけど……フィンのも渡したんだっけ?」

「ああ。ミリーのも受け取り、カレンが作った奴もだ」

「完全武装ね……ま、もし再開したらボコボコにしてやりましょ。心配させた挙句こんな所にいるわけだから」


 うげ、これは普通に再開すると飛び蹴りを食らうコースだ。とはいえ今からやるのはそれとは違う。その場合どう反応するか――想像して、少しばかり緊張する。


「なあ、お前らセディが消えたと知った時どうだったんだ?」


 ふいに、レジウスが問い掛ける。それに残りの面々が彼を注視した。

 その中で、代表してカレンが質問する。


「なぜそんなことを、今更訊くんですか?」

「いや、セディと再会できるということで少しばかり気になっただけだ。あいつはこのメンバーの精神的支柱だっただろ? よく平気だなと思って」

「そりゃあ、時間も経てば立ち直るわよ」


 ミリーが呆れた様子で返す……が、小さくため息をついた。


「一度いなくなった状況であれだから、最悪のケースも考えた」

「カレンなんて三日くらい身動きすらできなかったよな」

「フィンさん、言わないでください。レジウスさんが茶化します」

「しないっての……まあ、大変だったんだな」

「その一言で片づけてしまうのもどうかと思いますが……今は、どうにか」


 カレンはしっかりとした表情で答える。けれど同時に彼女から苦悩の色を見て取ることができた。


 一度魔王の下へ行って帰って来た時の慌てぶりから考えれば……やはり、大なり小なりあったのだとは理解できた。特にカレン……三日、か。


「後悔していますか?」


 横にいるファールンが問う。俺は彼女を一瞥し、小さく肩をすくめた。


「……悲しませたことについては、もうちょっとやり方があったと思う。けど、これは俺が選んだ道だから」

「そうですか……では、仕掛けるということでよろしいでしょうか?」

「ああ……やり方は一度魔族として姿を現し、戦いの中で正体を現すような感じにしよう。まあ、すぐにバレるだろうけど」

「会話を聞く限り、ショックを受けるでしょうね」

「そこも利用しよう。カレン達には悪いけど、ここで失敗は許されないからな。確実な策をとることにする」

「了解しました。それでは準備します……地形は、ここで」


 と、ファールンはテーブルに目を落とし一点を指差す。そこは岩壁がカレン達の行く手を阻む場所で、迂回が必要となる。


「真っ直ぐ進めば彼らはここに辿り着きます。岩壁の上から月を背にして立てば、様になるでしょう」

「……ファールンも、結構ノリノリだな」

「そうですか?」


 至極冷静に返答した……が、口の端がほのかに笑っていた。


 ――魔族達はこんな風に部下と話し合い、恐怖を抱かせるため万全の体勢を整え、勇者を迎え撃つのだろう。

 作戦を立てる魔族の中には面白がる者もいるかもしれないなと思った……今の俺は胃が痛くなりそうだけど。


「それでは私は一度退席しますが……何かご質問はありますか?」

「いや、今の所は……ん、ちょっと待った」


 と、すかさず手で制する。


「転移魔法の準備はどうするんだ?」

「事前に長距離転移できる手筈は整えます」

「今からやるのか。気取られないように注意はしてくれよ」

「無論です。前のような失態はしません」

「前のような……それはジクレイト王国の話? それとも俺達に見つかった時の話?」

「両方です」


 決然と答えると、ファールンは怪しい笑みを浮かべ短距離転移により姿を消した。

 ……彼女は元人間だが、魔族としての考え方がしっかり根付いているようだ。


「俺もそうなるのかな」


 零しつつ、これからどうしようか考える。準備が整えば後はファールンの魔法により交戦に入る――考えつつ、テーブルの隅にある仮面を見た。先日勇者ロウと戦った時正体がバレないよう使った仮面……まさか、二度も使うことになるとは思わなかった。


「けど、バレるのが前提だからな……使うのもこれで最後か」


 呟きつつ、この戦いの後どうなるのか想像する。まず俺が勇者として復帰して……何かしらの形で連絡を受け仲間達と共に任地へ向かうことになるだろう。

 連絡係とかどうするんだろうか。ファールンは面が割れているので使えない。とすれば他の堕天使が行うのだろうか?


「……その辺りはエーレも考えているだろう。大丈夫か」


 そんな風に言いつつ、俺は仮面を手に取った。そして地図を確認し、一度深呼吸をする。

 今回の戦いは勝利するためのものではない。いかにして怪しまれず仲間の下へ帰るかという戦い……考えると、本当に胃が痛くなってきた。


「まあ、きっとなるようにしかならないと思うけど」


 ここでグチグチ考えても仕方ない――そう思うことにして、俺はファールンの帰りを待つことにした。

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