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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者復活編
64/428

襲来する仲間達

『……そうか。仲間達か』


 一連の報告を聞いたエーレは、極めて冷静に返答した。対する俺は表情を硬くし、背中に嫌な汗が流れ始めている。

 歪んだ空間の奥には腕を組むエーレと、心配そうな顔をするシアナがいた。そして俺の横にはファールンが控え、複雑な表情をしている。


 向かってくる一行が誰なのか認めた俺達は――すぐさまシアナへ報告した。結果、彼女には判断できなかったのかエーレを呼び、彼女にも事情を話した結果、先ほどの声が返ってきた。


『実を言うと、近くに来ているという情報はあった。けれど、魔族を倒しにやって来るとは思いもしなかった』

「近くに来ていた?」

『ああ……ジクレイト王国の騒動があっただろう? どうやらセディが離れた後すぐに訪れたらしい。そして彼女達はまるで図ったかのようにセリウス王国に急行した。セディがいるという情報は伝わっていないはずなのだが――』


 と、エーレはふいに口を止めた。


『そうか……セディが身に着けている魔法具の魔力を探知しているのだろう』

「え……となると、これらを身に着けているから来たってことか?」


 俺は両腕をかざし指輪や腕輪を見ながら問う。


『セリウスに急行し、なおかつピンポイントでこの砦に向かっているのならば、そうなのだろう』


 ――最悪な状況だった。けれど嘆いていても仕方ない。現在仲間達は俺のいる砦まで向かって来ている。どうにかして対処しなければ。


「エーレ……俺はどうすればいい?」

『そこなのだが……難しいな。今の時点でセディが砦付近にいることはわかっているだろう。今から魔王城に戻してもいいが……ここで図ったかのように魔力が途絶えれば、大いなる真実を知らなくとも怪しまれるだろう」


 そう言って、エーレは一つため息。


「ならば他の魔族を呼び狂言……だが、城で仕事をしていたリーデスやフラウも外に出てしまっている』

「とすると、俺以外の魔族がここにやって来るのは――」

『難しい』


 きっぱりとした声に、俺は頭を抱えた。


 ――現状を整理すると、魔王に弟子入りする前の仲間であったカレン達がここへ向かって来ている。で、俺は魔族として今いる砦を介し周囲の魔物の監視などを行っている。

 そして他の魔族は来ない……詰んでいるような気がする。


『それでセディ。一つ疑問があるのだが』


 考える間に、エーレが質問をした。


『詳細を聞くと四人だな……その内三人は以前ベリウスと戦った者達だな? 残りの一人は誰だ?』

「外見から一目でわかったよ。俺やミリーの師匠だ」


 そう告げた直後――エーレの目が細くなった。


『師匠……セディの?』

「ああ。以前俺の郷里に帰っているという情報があったはずだよな? その時カレン達が同行を頼んだんだ」


 ――師匠の名はレジウス。年齢は四十ちょっとのはずだが相当若作りしており、場合によっては三十前後に見られることもある。

 スラリとした体格に加え洗練された剣筋は多くの魔族を屠ってきた剛の者……なのだが、街に行けばどこかの酒場で酒を飲んで酔い潰れるという、どうしようもない人に変わる。小さい時俺やミリーはその二面性に辟易したものだが、現在は人間味を感じ親しみやすくする大きな特徴だと認識し、憎めないキャラとして定着している。


 ……もっとも、酒の飲み過ぎで散財するのだけは勘弁願いたいのだが。


『とすると、仮に素顔を隠しても露見するだろうな』


 エーレが言う。それに俺は深く頷いた。


「それ以前に魔力や太刀筋で俺だとわかるはずだ」

『それもそうか。となれば、セディが偶然砦にいたことにするしかないか』

「いや、それもまずいんじゃないか? もしロウ達のいた村か、村の人達と会えば……怪しまれる可能性があるだろ? 大いなる真実を隠すには、怪しまれる可能性も排除したいんじゃないのか?」

『確かにそうだが……ふむ。とはいえ他に派遣できる魔族もない……となると』


 エーレはそう呟くと沈鬱な面持ちとなった。


『……やれやれ、予定外のことばかりだな。これはもっと後にするつもりだったのだが』

「ん、何か手があるのか?」

『手、というよりは予定していたことを繰り上げて実行しようと思っただけだ』


 エーレは心底不服そうに言う。なぜそんな顔をするのか――


『セディ、グランホークの件から判明した一連の事件調査のため……あなたには勇者として行動してもらいたいと思っていた』

「勇者として……?」

『今まで事件を見てきたケースは三通りだが、それぞれが異なったパターンだった。最初が魔族。続いて人間と魔族。そして最後が天使と人間。その中で魔族と天使……神々に関与していることについては対応することが可能だ。けれど、人間側はそうはいかない』

「それを、俺にやらせると?」

『そういうことだ。本来は大いなる真実を知る王達にやらせるのがベストなのだが……領主までが取り込まれていたことを考えるに、下手に要望すると調査していることが相手に伝わる恐れがある。それだけは避けなければならないし、何より王達に依頼をして騎士達に調査させる、というのも変だ』

「だから俺か……うん、そういうことなら俺も納得できるけど、今回の件と関係あるのか?」

『勇者として行動するとなれば、いくらなんでも仲間達を避け続けることはできないだろ?』

「……なるほど」


 つまり元の仲間達の下へ帰り、活動するというわけか。


「俺としてはその案でいいと思うんだが……それをやることに良い感情を持っていないようだな。なぜだ?」

『もう少し情報をまとめてからにしたかった。とはいえ怪しい情報も色々と入っている。まずはその辺りから調べてもらうのもありか』

「怪しい情報?」

『それは追って説明することにしよう……今はあなたの仲間についてだ。さっきも言った通り、調査のために仲間と共に行動するべきだ。あなたが砦を制圧したことにして合流すれば表面上は問題ないが……あなたが言った通り、村の話と矛盾する』

「ああ、そうだ。魔族を倒した情報は周囲に伝わっているはずだし、それで誤魔化そうとするのも無理がある」

『ならば、矛盾なく話を作る必要がある。その場合、一番良いのは魔王の指示を受けこの場所に新たな魔族が現れ砦を占拠した。そして、魔族は勇者一行が向かっていることに気付き戦闘を仕掛ける……そういった流れが最も無理がないな』

「だからそれをやったらバレる……」

『そこだ、セディ。例えば魔族となってしまった仲間が戦いの中で元に戻ったのなら、劇的な再会であり信じ切るとは思わないか?』


 そうきたか。なるほど、それなら確かに怪しまれないかも。


「……エーレ、どういう風に仕掛けるのかプランはあるのか?」

『まずセディが先手を打ち攻撃を仕掛ける。その時バレるだろうから、砦で待ち構えるといったことを話し、玉座で決戦。そこでセディは人間に戻り合流……これで完璧だ』

「演出するなぁ」

『しかしこれが最も確実でスムーズなやり方だろう。それとファールン』

「はい」


 エーレの言葉に頷く彼女。


「何でしょうか?」

『転移魔法でセディに協力してやれ。場合によっては加勢してもいいだろう。面が割れているため、ファールンを見たならセディが魔王に操られているか、魔族となったという風に解釈する手助けとなるはずだ』

「承知致しました」


 即座に了承するファールン。彼女の助けも大いに借りる必要があるな。さすがに一人で四人相手はキツすぎる。


『大体のプランはできたな……よし、こちらもできる限りのフォローはする。頑張ってくれ』

『セディ様、お気をつけて』


 エーレの言葉とシアナの励まし。俺は「ああ」と答え深く頷いて見せた後――空間が正常に戻った。

 残ったのは果てしない静寂。けれどそれは俺の大きなため息によって破られた。


「……今回も、しんどそうだな」

「できる限りサポートしますから」


 ファールンが言う。俺は彼女に礼を言いつつ、一つ質問をした。


「じゃあどうする? 早速戦闘準備をするか?」

「そうですね。まずは作戦会議といきましょう。フラウの部屋に周辺の地形地図がありましたから、それを見ながら話すことにしましょう」


 ファールンは提案し、俺は「わかった」と答え――二人してフラウの部屋へと歩き始めた。

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