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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
女神降臨編
62/428

村からの旅立ち

 ――翌日、俺達は屋敷を後にすることになった。


「アミル殿、よろしくお願いします」


 玄関先で見送りをするマザークが、頭を下げながらアミリースへ告げる。


「ええ。お任せください」


 そう言って、彼女は微笑みながら礼を示した。彼女の隣には白い外套を羽織ったパメラが立っている。


 ――彼女には、マザークの記憶を消したという旨と、魔力を治すためにアミリースと共に行動すると言い渡してある。そして事の一切はザイレンや村にいるロウ達にも伝わっており、今回の事件について知るのは俺やアミリースを除けば五人だけとなる。

 これで全てが丸く収まる……とは言い難いが、村の人達に迷惑が掛からないものとしては、良かったのではないだろうか。


 そして記憶を失くしたマザークは、昨日の姿を打って変わって快活なほど良い表情をしていた。魔法使いに関する記憶を失くしたことで憎しみが消えた……それが要因と考えてよさそうだ。ちなみに彼にパメラのことは魔法具の連続使用による異変、という形で説明してある。アミリースが魔法を使用した時、その辺りのつじつまが合うようにされているらしく、彼は疑いもなく納得しているようだった。


「では、これで……パメラさん」

「はい……お父様、言って参ります」

「ああ。気を付けて」


 心配そうに返すマザーク。その顔は親そのものであり、パメラも安堵したのか彼に微笑んだ後アミリースを追い始めた。

 それに俺が続き、村へ繋がる森の道へ入る。今回馬車は無い。村まで使っても良かったのだが、これ以上彼らの世話になるのも忍びなかったのだ。


 俺は前を歩くアミリースとパメラの姿を観察。パメラは昨日あれだけ魔法を使用したにも関わらず見た目は元気。これは戦いの後アミリースが多少ながら魔力を注いだという点も大きい。

 大丈夫そうだな……思いつつ、昨日アミリースから言われたことを思い出す。それは、今回の事件に関することだった。


 結論から言えば、アミリースは今回マザークの研究が何であるか把握していた。だから調査に入り――俺のことが議題に上がった。結果どうしたかというと、神々として俺を見定めるため、今回の事件を任せることにしたわけだ。

 俺にしてみればこんな重要な事件で……と思うのだが、アミリース単独で調べ切るのが難しかったのもまた事実。だからこそ勇者である俺に頼ったという面もあったようだ。


 そして最終的に、俺のことを信用に値すると判断した。抜き打ちで試していたという事実はあまり良い感情を抱かなかったが、これもまた管理のために必要なら仕方ないと割り切ることにした。

 なんだか、丸くなったような気がしてくる。大いなる真実を知った時はずいぶんと悩んだが……これも慣れや様々な事実を知ったことによる変化だろうか。


 考える間に森を抜け村に到着する。直進方向に入口が見え、そこにロウとケイトが立っていた。


「見送りのようね」


 アミリースは呟くと、横にいるパメラへ笑みを浮かべる。


「彼らともお別れになってしまうけれど……良かった?」

「……はい」


 躊躇いがちにパメラは言う。結果として、彼女は戦う目的であるロウと離れることになってしまった。俺としては、その点だけ心残りだ。

 会話はそれだけで、俺達は進み入口に到達。ロウ達は戦う時の装備を身に着けており、なんだか一緒についてきそうな雰囲気。


「パメラ……連絡が来た時びっくりしたけど、本当に行くのか?」

「……うん」


 頷く彼女。するとロウは複雑な顔をした。


「その力……この村じゃ治らないのか」

「うん……」


 返事の後、沈黙。なんだか寂しい空気となり、俺は思わず声を上げようとした。


「ロウさん」


 そこへ、アミリースの呼び掛け。この場にいた全員が彼女に注目し、言葉を待つ。


「ここに来たのなら、丁度良かった。あなたと別れる前に、一つ言っておきたいことがあったから」

「俺に、ですか?」

「ええ」


 頷く彼女。俺は女神なりのアドバイスか何かだと思ったのだが――

 次の瞬間、ロウを見る眼差しがシアナへ真剣に語った時と似ているのに気付いた。


 だから、俺は反射的に呼び掛けた。


「ア、アミルさ――」

「パメラさんのことだけど」


 偽名を呼んだ俺を遮るように彼女は言う。


「彼女、ロウさんのことが好きみたいなの」


 ――その言葉により、俺達は例外なく硬直した。


「え……?」


 ロウが呻く。直後、パメラがアミリースの名を呼んだ。


「ア、アミルさ――!」

「もし良かったら、ロウ君がどう思っているのか聞かせて欲しいの」


 ……アミリース、一体何をやりたいんだ。いや、頭では後腐れないようするつもりだとわかるのだが、いくらなんでも唐突過ぎる。


「あ、あ、あ……」


 パメラは動揺しきっており、最早言葉をまともに喋ることができなくなっている。顔もなんだか青くなっている気が……これ、まずくないか?

 パメラは口が動かないせいかロウを見て……そして、今度はケイトを見る。そこで、視線を合わせたケイトが静かにため息をついた。


「……はあ、やっぱりね」


 彼女はなぜか肩を落とし――突然ロウの背中を思いっきりはたいた。


「いてっ!」

「ロウ、言ってやんなさい」


 叱責するような口調。ロウはケイトを一瞥し……少しして、小さく頷いた。

 一連の態度俺は訝しんだ。特にケイトの反応……あれ? これってまさか――


「……え、えっと。パメラ」


 考える間も会話は続く。対するパメラは胸に手を当て倒れそうな雰囲気を見せながらも、言葉を待った。

 そしてロウは彼女の目を見て、言った。


「……俺も、パメラのことが好きだよ」


 その一言で――パメラの瞳が大きく揺らいだ。


「……え? え?」

「その、言ってなかったけどさ……俺は村を守るべく勇者となったわけだけど……そうなった理由の一つは、パメラを守りたかったってところもあったというか……」


 頬をかき、やや濁しながらロウは語る。傍観者的に見る俺としては、安堵するような内容だった。


「その、戦いに参加するって時、心底不安になった。場合によってはパメラが……そんな風に思って、もっと強くならないといけないって思って、必死になって……」

「……本当に?」


 パメラが小さな声で尋ねる。瞳からは、ポロポロと涙が零れていた。


「本当に、私で……?」

「ほら、あんたがグダグダしていたから誤解していたじゃない」


 と、今度はケイトが横槍を入れる。するとロウは戸惑い、彼女に訊く。


「ご、誤解って?」

「ロウは私のことが好きじゃないかってこと」

「え……あ、ああ、そういうことか」


 理解したのか、どこか申し訳なさそうにロウは弁明する。


「えっと、その……そういうことは無いっていうか……」

「ロウはちっちゃい頃からパメラ一筋だもんねー」

「ケ、ケイト!」


 叫ぶロウ。ケイトは「はいはい」と答えつつ、肩をすくめた。

 それによりロウは黙り……少しして、アミリースが提案する。


「二人とも。私達はまだ時間があるし、少し話をした方がいいわ。待っていてあげるから思いのたけを全部話しちゃいなさい」

「……わかりました。ありがとうございます」


 ロウがすぐさま頭を下げ、パメラを手招き歩き出す。彼女はそれにぎこちなく応じ、村の中へと向かっていく。


「これで、ひとまず一件落着かな」


 残ったケイトは呟き、俺達に体を向けた。


「パメラのことを。よろしくお願いします」

「ええ」


 アミリースが答える。そしてケイトは再度小さく頭を下げた後、村へと歩き出した。


 それを見送り――やがて、俺は声を出した。


「どうなることかとヒヤヒヤしたよ」

「私は彼らの心情知っていたから」

「……そうなのか」

「事情を把握していたなら、解決するべきでしょう?」

「それならまあ納得できるけどさ」


 と、返答した所でパメラのことが気になった。


「アミリース。パメラについてなんだが……改めて訊くけど、どうするんだ?」

「私としては、天使として仕事を任せたいと思っている」


 返答に俺は驚く。まさかそんなことを考えているとは。


「それに、彼女は策謀の一端をその身に受けた……こういう言い方はセディにとって良くないかもしれないけど、そうした力に触れているからこそ、色々と任せることもできる」

「大いなる真実に関する仕事をさせるということか?」

「ゆくゆくはそうしようかと思っているわ……すごく良い子だし、教えるのが楽しみね」

「そうなると、いずれ世界の真実についても話すことになるのか。驚くだろうな」

「そうね。もしかするとセディと仕事をすることになるかもしれない」

「なら話した後、俺がよろしく言っていたことくらい伝えてもらえると嬉しい」

「わかったわ」


 アミリースはにこやかに告げる。とりあえず、この村でやるべきことは全て終わったようだ。


「それじゃあアミリース。話題を変えるけど、一連の事件をどう考えている?」

「天使の力を取り込むという技法は、私達神々の力であるのは間違いない。そのことから、今回の敵は神々と魔族の力を同時に扱うことができると推測できる」

「敵は魔族か神々、どちらなんだろう?」

「あるいは、その両方かも」

「神々と魔族が協力を?」

「私とエーレが話している事実を鑑みれば。あり得るんじゃない?」

「それもそうか……となると、敵は――」


 言い掛けて、アミリースはコクリと頷いた。


「魔族と神々の混成……そして魔王だけでなく、私達神々すら脅かそうとしているかもしれない」


 予想以上に深刻な結論。けれど、そうした可能性を考慮して事態に当たるべきだと思った。


「セディ、押収した資料についてはエーレに渡したわ。こちらからも真実を知る者を動員し調べる予定となっている」

「そうなのか。となると、俺は一度戻って指示を――」

「そこだけど、資料を渡した時言伝を頼まれたの」


 彼女の言葉に、俺は首を傾げ聞き返す。


「エーレに? 何て言っていた?」

「資料整理のため、少しばかりフラウやリーデスに仕事をさせる。ついては、あなたにやってもらいたいことがあるって」


 フラウとリーデス……彼らの名前が出てきたことで、何をするのかはっきりと理解することとなった――

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