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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
女神降臨編
60/428

天使と勇者

「っ……!?」


 彼女は胸元に手を当てると、突如うずくまった。挙動に俺は声を上げようとして――


「パメラ、目の前の彼と戦え」


 冷酷な、マザークの命令が聞こえた。

 刹那、パメラは突如立ち上がり俺に向かって腕をかざす。


「くっ!」


 操られている――即断した俺は右手から逃れるように身を捻った。


「光よ」


 続いてパメラの声。瞬間光弾が俺の目の前を通り過ぎ、横手にある資料の束を打ち抜いた。


「パメラ、資料は気にするな」

「了解しました」


 声を聞きながら、俺は後退する。目標は入口――


「逃がさんよ」


 マザークの声――直後、パメラが何事か呟き魔法を放つ。

 聞きとることはできなかったが、光弾が生じ、俺に迫る。先ほどと似たような魔法であるという認識と共に、回避に移った。


「入り口を封鎖しろ」

「了解しました……光よ」


 さらに指示とパメラの声。光弾が繰り出され、俺はそれを剣で弾くが、


「光よ――飲み込め」


 続いて放たれた言葉と同時に、数十個の光弾が出現した。

 俺は注視しつつ、剣を構え直す。このくらいは今までの戦いを考えれば想定内だ。


「やはり百戦錬磨の勇者殿は冷静ですな」


 正面にはパメラ――その横にマザークがやって来て、俺と視線を交錯させる。


「少しは驚いてくれるかと期待したのですが……さすが、といったところでしょうか」


 ――彼が呟いた直後、光弾が一斉に飛来した。


 俺は即座に剣で光弾を防ぎにかかる。しかし半数以上は俺を狙わず横を通り過ぎようと動く。

 先ほどのマザークの言葉を考慮に入れれば、入口を破壊する気なのは明白だった。俺は光弾をまとめて切り払おうか一瞬考えたのだが、刀身に魔力を入れた瞬間パメラが身じろぎするのを見て、やめた。


 光弾に集中する間に魔法を使うかもしれない……そう考え、俺は向かってきた光弾を打ち払うに留めた。

 結果、向かってきたものについては防ぐことができたのだが、通り過ぎた光弾により後方で爆音が轟き、ガラガラと崩れる音が聞こえてきた。


「これで、逃げることはできませんね。もっとも、崩れた部分を破壊すれば突破は可能ですが――」


 そうマザークは語り、嘲笑しながら続けた。


「ここは地下ですからね……さらに破壊を加えれば、崩れるかもしれない。生き埋めになりたくなければ、やめておくことです」

「……わかったよ」


 俺は吐き捨てるように答えつつ、マザークを(にら)んだ。


「で、もし俺を倒したらどうする?」

「どうもしませんよ。ただし、今回の件については記憶を消させて頂きますが」


 彼は笑みを収めると、俺にはっきりと宣告した。


「あなたにはより多くの魔族を倒していただかなければなりませんから」

「……そうか」


 魔族を憎む姿勢は、こんな状況でも変わらないというわけだ。

 視線をマザークからパメラに変える。操られているため無表情で腕をかざし、俺に目標を定めつつ、出方を窺っている。


「さて……パメラ」


 そんな中、マザークが発言する。


「力を使い……彼を倒せ。ただし殺すな。そのくらいの加減は、できるな?」

「お任せください」


 無機質な声が響いた――直後、彼女の魔力が一気に膨れ上がる。フラウを倒した力が、今発動した。


「セディ殿、確かにあなたは強い」


 魔力が室内に満ちる中、マザークは告げる。


「しかし、此度の戦い、全力であなたは戦えない……パメラには魔法具によって組み込まれた絶対的な魔力の調整能力がある。そんなものを持たないあなたが、果たしてパメラを殺さず倒すことができるのでしょうか?」


 ……そういう戦いに持っていくのか、こいつは。まあでもやり方としては正解だろう。

 こちらは暴走する虎を素手で抑えるようなものだ。俺の全力ならば目の前を虎を倒すことは容易だが、彼女が死ぬのは間違いない。


 できれば無傷で倒したい……そうした俺の意図をマザークは読み、先ほどのセリフを放ったわけだ。


「パメラ、やれ」

「はい」


 マザークが号令を掛け、パメラの魔力が収束し始める。その場所は、両腕。

 以前見せた槍か、それとも門を破壊しようとした魔法か……どちらにせよ、この状況なら防御するしかない。


 左腕をかざし、結界を構築する体勢をとる。すると、マザークが笑った。


「終わりです」


 告げた直後、パメラの両腕に魔力が集まり、荒れ狂い始めた。空間自体を軋ませ、僅かながら背筋が凍る。


「滅べ――魔王の聖域!」


 パメラの瞳がかっと見開き、両腕を俺に差し向けた。直後、数えきれない程の槍が雨のように俺に降り注ぐ――


「守れ――女神の盾!」


 対抗する俺は防御魔法。仲間達やシアナからもらった魔法具の力を結集し、全力で結界を展開する。

 直後、槍が降り注ぐ。物量で押し切るような攻撃に俺は思わず呻くが……耐えきれると悟る。


「――おおっ!」


 疲労した体に鞭打ち、結界を強化。なおも断続的に降り注ぐ魔法の雨を結界によって弾く。けれど中々終わらない。

 結界は維持時間が長ければ長い程効力が減っていく。もしこれが延々に続くとしたら、この結界でもいずれ耐え切れなくなる――俺は嫌な想像をしながら、それでもじっと耐え続けた。


 やがて、少しずつではあるが槍の本数が少なくなっていく。俺は押し切れると断じ、結界の維持に努め――魔法が、終わった。

 素早く結界を解除する。目の前にはなおも笑い佇むマザークと、肩で息をするパメラ。


「さすが、ですね」


 強力な魔法を防がれたにも関わらず、マザークの表情に動揺は見られない。


「けれど今のは想定内ですよ。むしろ、この程度耐えて頂かなければ」

「……言ってくれるな」


 俺は睨みつけながら相手に言う。同時に、牽制目的で相手に剣の先を向ける。


「決着はつけないといけないようだが……彼女は、そう長く持たないだろう?」

「ええ、そうでしょうね」


 冷淡にマザークは答えると、パメラに指示を送った。


「パメラ。まだいけるな?」

「はい」

「ならば、命を削り奴を倒せ」

「はい」


 何……? 瞠目した瞬間、魔力が両腕に集まり始める。けれど先ほどよりも明らかに強力だった。


「くっ!」


 同時に地を蹴った。このままではパメラがもたない。魔法を避け、彼女に一撃を――


「もし魔法を避ければ、この地下室は崩壊するでしょうね」


 そこでマザークの声。途端に、俺は呻き立ち止まる。それと同時に、パメラは収束を終えた。


「攻撃を受け、大半を殺さなければこの地下室もタダでは済まないでしょうな」

「……お前」


 声が震えてしまった。対するマザークは妖しい笑みを浮かべ、俺に決然と告げた。


「そういうことですよ、セディ殿。パメラを倒すには向かうしかありませんが、それをさせる隙を与えず断続的に魔法を与えればいいだけの話。もしかわした場合、この地下は間違いなく崩壊する……あなたは無事で済むかもしれませんが、無防備なパメラや私は無事では済まないでしょうね」


 こちらに殺意がないことを利用し、自分達の身を盾にした。俺は奥歯を噛み締め、大きく距離を取る。

 そして腕をかざし、


「防げ――女神の盾!」

「滅べ――魔王の聖域!」


 俺とパメラの言葉が同時に発せられた。

 同時に生じたのは、先ほどよりも強力な光の雨と、先ほどより強固に形成した、全力の結界。二つが衝突し、結界が槍を完全に押し留める。


「っ……!」


 けれど、体力的に限界間近。もしかすると破壊されるかもしれない――そういう負の感情が湧き上がりながら、どうにか耐えた。

 魔法が発動し終え、俺は結界を解除する。左腕に力を入れ続けたせいか、痛みが走る。次来られたら、痛みにより結界の維持ができなくなるかもしれない。


 その間に、パメラは三度目の放出へ向け魔力を一気に収束させる。彼女を観察すると、生気が消え失せたように顔が白くなっている。マザークの言葉通り、命を削って魔法を使っている――


「マザーク……!」

「申し訳ありませんが、聞く耳は持ちません」


 マザークは俺の言葉を遮るように告げると、パメラに視線を移した。


「パメラ、やれ」


 冷徹な指示を送る。刹那、俺は怒りと共に剣に魔力を注いだ。

 結界はもう使えない――判断した俺は光の槍を攻撃により相殺し、なおかつ彼女へ近づき片をつけると決める。


「そうなるでしょうね」


 マザークは言う……これも予想通りの行動だと言わんばかりに。

 態度に嫌な予感を抱きながら、剣に力を集める。パメラもまた収束を終え、両腕をかざす。


「滅べ――魔王の聖域!」


 魔法が発動する。三度光の雨が襲来し――俺は、地面に剣を奔らせた。

 使用したのは、幾度も使ってきた白波の剣。けれど今回は真正面に長く留まるような衝撃波を生み出し、光を飲み込み全てを消そうという意図があった。


 俺の技と彼女の魔法が正面から激突し、轟音が地下全体を震わせる。視界が衝撃波によって遮られ、光の槍が来ないことを祈るしかない。

 二度の魔法と魔力収束具合を確かめ放ったつもりだった。完全な肌感覚でしかないが、今まで戦ってきた経験を信じ、技を使った――結果、どうにか光の槍は相殺できている。


 それと同時に俺は直感する。もしパメラに近づくなら、今しかない。マザークの思慮がどこまで及んでいるか不安だったが――これがおそらく、最後のチャンス。

 やがて光の槍を受け続けた衝撃波は力を失くし、槍の魔力も途絶え――足に魔力を加え、跳んだ。


 まだ残る衝撃波や槍の中を突破し、俺はパメラへ一気に近づく。


「それもまた、予想通り」


 マザークの声がした。視界の端で、口の端を大きく歪ませているのがわかった。けれどこっちは止まれない。行くしかない――!

 パメラの両腕がかざされる。四度目の魔法。けれど先ほどまでの規模は無かった。おそらくこちらの動きを予測し、収束を中断して対応した結果だろう。


「滅べ――魔王の聖域」


 そして魔法が炸裂する。光の雨。生身の俺なら受け続ければきっと倒れるだろう。しかし、

 俺は、左腕に魔力を収束させ、顔を保護することで応じた。


「――何!?」


 マザークが初めて驚愕の声を上げる。同時に炸裂した光の槍が、俺の体に直撃し始めた。

 衝撃が、衣服を通し体に伝わる。けれど収束した魔力が少ないためか衣服を貫通することはない。なおかつ顔の部分は腕によって防御し、槍の中を俺は突っ走る。


「くっ! パメラ!」


 マザークは指示を送ろうとしたが――躊躇う。その間も俺は槍を受け続け、体が軋む。直接的でないにしろ連続で衝撃を受け続ければ体がやられる。視界が歪み、意識が飛びそうになる――けれど、


 俺は、とうとうパメラの下に到達した。


 次の瞬間、右手を振りパメラに一撃を入れる。それにより彼女の体は崩れ、魔法の発動が止み倒れ伏した。


「っ……!」


 俺は意識が飛ぶ寸前でどうにか踏みとどまる。次いで剣を握り締め、そして――


「……マザーク!」


 肩で荒い息をしながらもマザークを見据える。


「ぐっ……!」


 相手は切り札を失ったためか動揺を見せた。

 俺は一歩彼に足を踏み出した。けれど思うように進まない。疲労と、限界ギリギリまで攻撃を耐えきった結果だ。


「どうやら、満身創痍のようですね」


 こちらの様子を見て、マザークは喜悦の笑みを浮かべた。そして傍らに置いてあった、一本の剣を手にする。


「その様子ならば、私でもいけそうだ」


 答えながら剣を一気に抜く。所作から、多少なりとも剣を心得ているようだ。

 俺は応じようと腕を動かす。しかし、思うように動けない。舌打ちしそうになるのを堪え、マザークを注視しどうにか彼の剣に応じようと強く握りしめた。


「……殺すのは惜しいが、こうなっては仕方あるまい」


 秘密を露見させまいとする行動――俺は奥歯を噛み締め、マザークが放とうとする刃を見つめる。

 回避、しないと……思いながらゆっくりと動かし始めた体に激痛が走る。


「死ね」


 彼の斬撃が来た。俺は倒れ込んでも良いから回避に転じようとして……足が、まともに動かない。

 その時だった――ふいに、床に倒れるパメラの姿を認める。もしここで俺がやられたならば、彼女はなおも実験に晒されるだろう。


 そんな風に思った時、体が最後の力を振り絞るかのように動いた。マザークの放った剣をまずは受け止め、逆に押し返す。


「何……!?」


 驚愕の声を彼は発する。同時、俺は足を前に出し間合いを大きく詰めた。

 さらには獣のような叫びを出しながら、彼の体へ縦に剣戟を決めた。マザークはほんの僅かに呻いた後、数歩たたらを踏み血を吐くように口を大きく開ける。


「が、は……っ!」


 そして膝から崩れ落ちる。斬撃により出血はしていない。あくまで俺は、相手の戦意を喪失するために魔力で刀身をコーティングし決めたためだった。

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