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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
女神降臨編

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深まる疑惑

 俺達はパメラの転移魔法により村へと戻り、入口近くにいた村人へ戦勝報告をした。

 途端、昨日と同様またも喝采に包まれる。祝福された時、魔族を倒した証なんかを取って来るのを忘れたと気付いたのだが、俺やアミリースが証人ということで真実と認識されたようだ。


 時刻は昼を過ぎたくらい。つまり畑仕事をしていた人達が昼食のため家に戻ろうとしている時であり、そうした人々と衝突したのが大いにまずかった。結果ロウ達は揉みくちゃにされ、混乱が収まるまでしばらくかかりそうだった。

 俺とアミリースは可哀想だとは思ったが退避。そこで二人になったので、彼女と話をすることにする。


「アミリース。天使の魔力だとは、気付いていたのか?」

「それに近いものだとは思っていたけれど、断定することはできなかったから」


 アミリースは肩をすくめ返答した。


「正直、間近で見て驚いている……最後魔族を倒した全力は、紛れもなく天使の力そのものだった」

「それを魔法具で……できるのか?」

「天使の力を伴った魔法具があれば十分可能だと思う。けれど、それはあくまで勇者に渡す武具にだけ備わっているもののはずで、彼女のようにいくつも身に着けているのはおかしい。おそらく天使の力を解析して魔法具に込めているのだと思うけれど……そんなことをできる可能性は、武器の扱い方も知らない人が魔王を倒すのとどっちが高いでしょうね」


 それだけ低いと言いたいようだ。女神である彼女が言う以上、不可能と思ってもよさそうだが――


「そもそもそうした魔法具を作ろうにも、魔力を細かく解析する必要がある。それをするだけでも人が一生かかってできるかどうかというレベル……」

「つまり、どうあがいてもあり得ないというわけだな」


 俺が呟くと、アミリースは深く頷いた。

 偶然似た、という可能性もゼロではないが……何か裏があると解釈した方がよさそうだ。


「なら、マザークがなぜそれを知ったのか切り込むのが先決だな」

「そうね……その役目はセディが?」

「ああ。勇者である俺の方が良いかもしれない」

「わかった。お願いね」


 アミリースの言葉に俺は深く頷き……やがて、ロウ達のいる周辺が落ち着きを取り戻し始めた。

 タイミングを見計らって、俺とアミリースはロウ達と合流。そこで、俺達を呼ぶ声が響いた。


 現れた人物から、怪我は無いかと問われる。俺は大丈夫だと応じたのだが、念の為怪我の有無を確認した方が良いと言われ、従うこととなった。その場所はどこかというと――


「絶対、落ち着かないと思うんだけど」


 話を聞きつけ屋敷からやって来た馬車に乗りつつ、ケイトは零す。俺も内心同意したが、こうなるのは予想できたのでとやかく言わなかった。

 ザイレンが御者となり、俺達は屋敷へ馬車によって赴くこととなった。ロウやケイトはクタクタだと思うので休ませるべきだとは思うのだが……こうなってしまっては馬車が止まることはないだろう。


 目的もあるし、ここは俺が領主に応じるべきだろう。


「俺が、領主と話をするさ」


 一行へ告げる。するとケイトは一瞬驚いた顔を見せたのだが、


「……お願い、できますか?」

「二人の頼みなら」

「お願いします」


 続いてロウが頭を下げた。彼の態度に俺は苦笑しつつ、


「俺はひとまず外傷ないことにして、領主と話すことにする」

「……本当に、セディさんは大丈夫ですか?」


 そこでロウは心配そうに言った。


「罠によって孤立したこともありますし……」

「あ、ロウ君。申し訳ないがその辺りのことは言わないようにしてくれよ。俺が事情を説明する時、格好つかないからな」

「え? あ、はい」

「それに、俺は本当に平気だから心配しなくていい」


 さらに俺は続ける。ロウはこちらの態度に疑わしげな視線を投げたのだが、


「魔族との戦いもロウ君達が来てくれたからね。まあ、無理そうだったらきちんと言うからさ」

「……わかりました」


 なおも続いた俺の言葉にロウは承諾。さらにケイトが改めて「お願いします」と言い、話は終わった。

 やがて馬車は屋敷へ到着。ザイレンの指示に従い俺達は降り、建物の中へと入った。


「まずは、怪我の確認から致しましょう」


 ザイレンが言う。俺は「お願いします」と言いつつも、彼へ提言した。


「ですが、マザーク殿はすぐにでも話を聞きたいことでしょう。私は体調的にも大丈夫ですし、お話しようかと思います」


 と、俺はロウ達を一瞥しつつ言う。つまり、俺が矢面となってロウ達の負担を軽減させる、という意味合いを込めた。

 ザイレンは僅かに目を細め――こちらの言いたいことを察したか、小さく頭を下げた後廊下を手で示した。


「では、ご案内します」

「はい」

「それとパメラ様」

「わかっています」


 彼女は答え、俺達に小さく頭を下げた後、異なる方向へ歩み視界から姿を消した。


「では、参りましょう。ロウ様を含め三人の方々は侍女の案内に従うようお願い致します」


 パメラがいなくなった後ザイレンはさらに言い、俺を先導し廊下に入る。


「パメラさんの怪我の確認は?」


 なんとなく話を向けてみると、ザイレンは僅かに身じろぎした。


「魔法具の調整を含め行なわれることでしょう」

「そうですか」


 娘ということで特別ということなのだろうか。それとも天使の力に関係している事なのか――


 それから少しして、俺は赤く染色された扉の前に到達。ザイレンがノックをして、返事が聞こえると僅かに扉を開け、彼あ隙間から中にいるであろうマザークへ話し始めた。

 会話の内容は上手く聞き取れなかったのだが……ザイレンが「はい」と承諾した後、俺に向き直り、


「お入りください」


 言いながら扉を開けた。俺は従い部屋へと入り、後方にいたザイレンも中へ入ると扉を閉めた。


「わざわざすみませんね、セディ殿」


 部屋の中央に、マザークがいた。黒いテーブルに備えられた椅子に腰かけ、茶を飲んでいる。


「いえ、こちらも色々とお伺いしたいことがありましたから」

「パメラのことですね?」


 先んじてマザークが尋ねる。俺は首肯しつつ、手で向かい合う席を示す。


「座っても?」

「ええ、どうぞ。ああ、お茶を用意しないと」


 マザークは俺の後方に目配せをすると、音がした。ザイレンがお茶の用意のため動いたのだろう。


「では、事情を訊く前に今回の戦いについてお話しましょう」


 席に着き、開口一番マザークへ言う。彼は期待を込めた顔で、俺と目を合わせた。

 そこから、魔族との戦いについて説明を行った。罠にはまった部分なんかは削ったので、説明自体それほどかからず……魔族との説明へと移る。そうなるとマザークの瞳が子供のように輝き、


「ふむ、魔族の攻撃を、しっかり耐えたわけですね?」


 こちらが逆に質問攻めとなった。彼が訊くのは主にパメラの行動について。


「ええ……もっとも、彼女の力だけではありませんが」

「女神の剣も大いに役立ったと……ふむ、なるほど」


 興味深そうに彼は何度も頷く。そこで質問が途切れたので、今度はこちらから水を向けることにする。


「それで、あの魔族はパメラさんの放つ力を天使の魔力だと解釈していました。心当たりはありますか?」

「ふむ、そこですね……わかりました。お話しましょう」


 マザークはまず、両手を大きく広げた。そしてにっこりと笑みを浮かべ、話し始める。


「とはいっても、大きなタネはありませんよ。純粋に、魔法具を複数使用することにより天使の力を生み出し、強化しているだけです」

「とすると、天使の魔力というのは疑似的なものなのですか?」

「ええ。そうです」

「……お伺いしますが、どこで天使の魔力をお知りになったのですか?」

「天使の力を封じ込めた武具から。それを他の魔法具に転化させて使用しています」

「となると、魔法具の解析も行ったと?」

「はい、そうです」


 女神であるアミリースが不可能に近いと断定した内容に、マザークは同意する。裏があるとしか思えないのだが……とりあえず、話を進める。


「そうですか。で、強化だけであれ程の威力を?」

「そこはパメラの訓練の成果と、何より魔法具の調整によるものでしょうね」

「調整……それはマザーク殿が?」

「ええ」


 腕を組み、応じる彼。うーん、やはり嘘をついているようにしか思えない。


「……しかし、戦闘中所持している魔法具が反応している様子がありませんでしたが」

「ん? ああ、そこですか」


 マザークがよくぞ気付いたと言わんばかりに声を上げた。


「これも訓練の成果です。わかりやすく言えば、気配を断つように魔法具の発動させ、見えなくしているわけです」


 ……パメラと言っていることが違う。まあ彼女も誤魔化すために言ったのだろうから仕方ないとは思うのだが。

 そこを言及してもよかったが、パメラに負担が回る可能性があるので俺は話を合わせることにする。


「気配を断つ……魔物に攻撃を悟られないように、ということですか?」

「ええ。興味ありますか?」

「そうですね。もし魔力の収束を気取られないようにできるなら、魔族との戦いもかなり楽になるでしょうし」

「もっともですね。とはいえこれは実験段階であり、私が所持していない魔法具に転用するのは難しいのです」

「そうなんですか……一般的に使えることを祈っています」

「はい、ありがとうございます」


 柔和な笑みを向け語るマザーク。予想以上にガードが固い。


 ここで問答していてもあまり情報は出て来ないと悟る……そうなると密かに調査するしかないのだが、パメラの目があるので秘密裏に調べるにもリスクがある。

 魔法を使っている状況で露見してしまうと言い逃れは出来ないし……どうしたものか。


「セディ殿?」


 ふいに、マザークが俺に問う。しまった、考え込んでしまった。


「ああ、すいません」


 俺は取り繕うように声を出した。


「あれほどの技術があれば……おそらく、より強力な魔族とも対抗できるでしょう。個人的には協力を仰ぎたいくらいで――」


 褒めるような言い方で誤魔化そうとした時、マザークの目が大きく見開かれた。こちらは言葉を止め、視線に多少驚き声を上げる。


「あの……?」

「対抗、ですか」


 俺の言葉を咀嚼するように呟く。表情は、感無量とでも言えばいいだろうか。


「パメラに使用している技術を使用すれば……他の魔族にも対抗できると?」

「え、ええ……パメラさんは戦い始めてまだ間もないのでしょう? これから経験を積めば、さらに強力な魔族も――」

「魔王は」


 突如、彼は俺の言葉を遮るように発言した。


「魔王を倒すことは、可能とお思いですか?」


 ――天使の力を使って、魔王を倒すつもりなのか。


「そこまでは、さすがにわかりません」


 俺は首を横に振らざるを得ない。頭の中で分析してみるが……その境地には至っていないと思う。フラウを倒した実績はすごいが、魔王に到達できるかというと、難しいだろう。

 ここで確信できたのは、彼はあの力で魔王を倒そうと目論んでいること。その心意気は評価したいが、大いなる真実を知り世界の管理に身を置く俺としては、よろしくない。


 俺が行うのは、パメラに使われた技術の調査……頭の中で断定しつつ、残念がるマザークをなだめ、会話を重ねることとなった――

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