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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
女神降臨編
54/428

勇者達の関係

 戦いの後、疲弊しているロウを俺が支え、気絶したケイトをパメラと(気絶したふりから目覚めた)アミリースが運び、砦の外へと出た。魔物の姿は皆無となり、障害もなく門から出た。

 俺は念の為周囲に魔物がいないことを確認し、それからアミリース達へ指示を送りケイトを地面に寝かせ介抱。さらにロウ達の怪我も確認。かずり傷はあったが、大きな外傷はなくほっと一安心する。


「彼女が目覚めたら、村へ帰ることにしよう」


 提案に誰もが頷く。そこで俺はアミリースにケイトを任せ、残り二人へ視線を送った。

 ロウは俺達に背を向け、地面に座り込みながら砦を眺めている。その横でパメラが膝をつき彼の顔を窺っていた。風が吹き双方が無言という状況……様になっていると言えなくもない。


 彼の背中を見て、俺は砦を呆然と眺めているのだと察する。魔族を倒したことがまだ信じられないのだろう。それは仕方のないことだ。

 横のパメラはそんな彼を心配そうに見つめている……そうした状況下、俺はパメラに口を開く。


「パメラさ――」

「すいません、ロウさん」


 こちらの声を阻むように、パメラの声が響いた。


「私……最後の最後で」

「何でパメラが申し訳なさそうな顔するんだよ」


 対するロウの言葉は、ずいぶんと朗らかだった。


「おいしいところは自分が取ってしまった、なんて言うつもりなのか? まあ、ケイトなら文句の一つでも言ったかもしれないけど」

「……あの」


 ロウの言葉に、パメラは不安げに呟く。

 その時、ロウは笑顔を伴ってパメラへ視線を移した。二人は見つめ合い、そして、


「ありがとう、パメラ」


 ロウから発せられた礼の言葉に、彼女はびっくりしたのか目をまん丸にした。


 ――なんとなくだが、俺も構図は理解した。きっと彼女の能力が稀有でなおかつ突出しているため、色々と言われてきたのだろう。ケイトはその辺りが面白くないと感じているのかもしれない。

 あくまで主役はロウで、パメラはケイトから色々言われ戦う力を制御している……そんなところか。確かにパメラの力を目の当たりにすれば、ロウより彼女に目を向けるのは必定だ。勇者以上の能力者がいて、主役を食う立ち位置の役割はあまりよろしくないので、目立たないよう言うのは無理もない。


 ただその辺りは、ロウが武器を手に入れたのだから大丈夫だとは思うのだが――


「怒ったり、していませんか?」

「そんなわけないよ。あれは、最善の策だった」


 ロウは再度パメラへ笑い掛ける。すると彼女も嬉しそうに笑い返した。


 ふと、彼女の表情を見て俺は気付く。笑顔を伴う顔を見るのは二回目。しかもそれはロウに関すること。なんとなく、パメラがロウに付き従っている理由がわかった気がする。

 そしてケイトはパメラに対し色々と注意を払っている……この辺の事情を勘案すると、もしかしてこのパーティー三角関係なのか?


「う……」


 考えていた時、ケイトから声が。すかさず俺は駆け寄り、彼女の顔を確認した。

 遅れてロウやパメラが顔を覗き込んだ時、ケイトが目を開ける。最初状況がわからないのか俺達を見て――少しして、目を大きく開いた。


「あ、あの魔族は……?」

「倒したよ。今は砦を出た所だ」


 ロウが答える。ケイトはそこで息を呑みつつ、ゆっくりと上体を起こす。


「そう……どう、やったの?」

「パメラの力を剣に集めて……かな」

「……そう」


 と、ケイトはチラリとパメラへ視線を送る。


「パメラの力は、魔族に通用することも証明されたわけだね」

「あの、その……」


 途端に、パメラは口ごもる。怒られるとでも思っているのか。

 けれど、彼女に対しケイトは息をついた。


「さすがにこんな所まで来て出しゃばるな、なんて言わないわよ。それより良かった……全員無事で」


 言うと、彼女は静かに立ち上がった。そして俺とアミリースを一瞥し、


「すいません、心配させてしまったみたいで」

「構わないさ。それより、動けそうか?」

「はい。どうにか」

「なら、戻るとしようか……ロウ君、大丈夫?」

「なんとか動けます」


 ――というわけで俺達は、一路元来た道を引き返し始めた。隊列としては疲れ切ったロウやケイトを後方にして、俺とパメラが前。そしてアミリースを最後尾。

 そうした隊列で魔物を警戒しながら進んだのだが、やはりというかなんというか、フラウが消えたことによって影も形も見えなくなった。


「本当に、倒したんだ……」


 ロウが事態を再確認するように発言する。俺は「そうだ」とはっきり答え、首だけ振り向きつつ彼に言った。


「俺が抜かれる日も近いな」

「いえ……そんなことは」


 ブンブンと首を振る彼。俺は笑いつつ……ふいに、エーレ達は今どうしているのか気になった。


 フラウが倒されるとは予想外も甚だしいだろう。とはいえやることは以前ベリウスを倒した時のように別の魔族がやって来て、砦を占拠することか。それが誰になるのかまでは俺にもわからないが。

 屋敷に戻ったら状況を確認しないといけないだろう……考えながら、横を歩くパメラのことを確認した。


 先ほどロウに色々と言われたせいなのか、ほのかに表情が明るく見える。嬉しかったようだ。そうした表情を見ながら、俺は先ほどの戦いを思い返す。

 フラウはパメラの力が解放された時、天使の力だと言っていた。彼が語った以上それは紛れもない事実だろう。そして、不可解な点がある。

 山中で戦った時と同様に、魔法具の力が発動していなかった。この事実だけを考慮した場合、彼女自身が天使の力を保有しているという結論となる。


 ここで疑問が二つ。天使の力を持っているのであれば、魔族を嫌悪する領主が大々的に公表しないのは変ではないだろうか。天使の力を持っている事実が広まれば勇者も集まるだろうし、魔族討伐もよりスムーズにいったはずだ。

 そしてもう一つの疑問だが、なぜ領主は天使の力を魔法具の力だと偽っているのか。


「パメラさん」


 考えている中、後方からアミリースがパメラへ呼び掛けた。声音がやや重たかったため、呼ばれた彼女は立ち止まる。

 横顔が一気に険しくなる。反応から、どのような質問が来るのか予期し、覚悟している様子だった。


 俺やロウ達も合わせて立ち止まる。そうした中、アミリースが発言した。


「いくつか質問したいのだけど、いい?」

「……どうぞ」

「あの魔族はあなたの持つ力を天使の力だと言っていたけど……」


 彼女の言葉に、ケイトは驚愕の視線をパメラへ向けた。どうやらその事実は知らなかったらしい。

 ロウも同様の反応を示した。フラウの言葉を聞いていたはずだが、それでも驚いている様子。


「それは、魔法具の効果です」


 パメラの答えはそのようなもの。どこか事務的で定型句のようだが、


「でも先ほどの攻防で、魔法具が稼働していたようには見えなかったけど?」


 突っ込んだ質問。そこでパメラは答えることができず、


「……それは」

「私はあなたのお父様のことはよく知らないけれど、少なくとも魔物や魔族を強く憎んでいることは知っている。天使の力を持っているなら、それを公にして勇者に力を貸してもらえばよかったはずよね?」


 俺の抱いていた疑問を、ここぞとばかりに追及するアミリース。パメラはとうとう無言となり、口をつぐみ俯いてしまった。


「何か、話せない理由があるの?」

「……それは」


 彼女は視線をロウやケイトへ送る。ここに至り、二人は話を聞こうとする構え。


「その……」

「パメラ、何か秘密があるの?」


 今度はケイト。どこか詰問したような雰囲気であり、慌ててロウがフォローを入れる。


「ケイト、そんな言い方――」

「終わりよければ全て良しなんて話題じゃないよ」


 ケイトがピシャリと返答。ロウも言葉を失くし、パメラの味方がいなくなる。


「私はパメラが協力してくれて魔族を倒せたのは良いことだと思う。けど、もし何か隠しているなら話すべきだよ。私達は仲間でしょ? 隠し事はなしにしようよ」

「……それ、は」


 パメラは呻くように呟く。何一つ理由を話せないのか、決して語らない。

 やがて誰もが言葉を発さなくなり、山を撫でる風の音だけが耳に入る。パメラは何度か話そうかと顔を上げそうになるが、どうしても最後まで到達しない。


 そんな態度に業を煮やしたのか、ケイトは険しい顔をとなり叫びそうな態度を見せる。怒鳴るようならさすがに止めないと――思った時、


「……魔法具の、能力です」


 絞り出すような声が、パメラから発せられた。


「その、私には皆さんから見えない場所に魔法具がはめられていて……その力により他の魔法具の魔力を吸収して、力を収束させているんです。その効果により、見た目上他の魔法具は発動しないので、変化がないように見えたんだと思います」


 正直、かなり無理矢理な説明だ。俺でも嘘だとわかる。ケイトも同じように思ったらしく、顔の険しさを一切変えなかった。けれど、


「……わかった。これ以上は何も訊かない」


 あきらめたようで、追及することは無かった。

 とりあえず、喧嘩にならず一安心。パメラは小さな声で「すいません」と言い、ロウの顔を窺った。


 見えた瞳は少しばかり涙目となっていた。何か胸に抱えているようにも見えるのだが……話すことはなく、さらにロウ達が歩き出したため、彼女は無言で進み始めることとなった。

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