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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
女神降臨編
53/428

勇者一行の決戦

 その後、ロウ達は順調に砦の奥へと進み続けた。時折魔物と遭遇し交戦に入るが、ロウの攻撃とケイトの援護によって事なきを得る。一方のパメラは疲労の回復に努めているらしく、二人に協力はしなかった。

 やがて、彼らはフラウと俺のいる玉座前の廊下に到達。門の向こう側で緊張する姿を、歪んだ空間の奥で俺は観察する。


「用意はいいかい?」


 フラウの声。最初見た、真紅の鎧に鉄仮面を着けた姿だった。声はまだ変わっていない。ロウ達がやって来た時変えるはずだ。


「ああ。開けたと同時にやるぞ」


 俺は静かに答える。既に元の姿に戻り、剣を握り締め構える。今からやるのは狂言。ロウ達をしっかりと騙さなければならない。

 そして、歪んだ空間の奥でロウが扉のノブに手を掛ける。同時に映像が消え、後方から扉の開く音が聞こえ――


『死ね』


 フラウの発する重たい声と共に、火球が彼の手から生じた。それが俺の前方に突き刺さり、爆発。俺は爆風で後方にすっ飛ばされ、床に転がりながら扉の前まで戻った。


「――セディさん!?」


 そして、ロウの声。視線を転じると、扉を開けて顔を出している彼がいた。


「逃げろ! 今すぐ!」


 俺は叫んだ。途端にロウは動揺し、絶句する――


『逃がさんよ』


 フラウの声。余裕を多いに含んだ雰囲気と共に、右腕を掲げる。

 鎧に反し、彼は武器を持っていない。しかし手先から魔力が溢れ、次に生じたのは破裂音を伴う雷撃だった。


「くっ! 防げ――女神の盾!」


 すかさず俺は結界を構築する。直後青白い雷撃が俺達へ迫り、結界の向こう側で凄まじい轟音と衝撃をもたらした。


「くうっ!」


 苦悶の声を俺は上げる。一応これは予定通りなのだが、雷撃の威力が半端じゃない。結界を少しでも緩めれば突き破られ、こちらを一網打尽にする威力だ。

 完全に殺しにかかっている……手を抜いているようではパメラに気付かれる恐れもあるので、こうするしかなかった。


「セ、セディさん――」


 ロウがさらに声を上げる。彼は雷撃と俺を交互に見比べ、手をこまねいている様子だった。

 その間に雷撃の発動が終わる。残ったのは圧倒的な気配を放つフラウと、結界を解除し自然体となって彼を睨みつける俺。


「……ロウ君、正直君じゃ荷が重い」


 俺は静かに言った。同時に扉の奥でケイトとパメラの姿が見え――双方、先ほどの雷撃に息を呑んでいた。


「辺境の砦であった以上、魔族のレベルもそれなりだと思ったが……どこぞの魔王軍幹部と引けを取らない強さだ」

『ほう、ベリウスのことを言っているのか?』


 次に声を発したのは、フラウだった。


『我々魔族は、貴様ら人間と同様進化し続けている。お前がベリウスを倒した事実は知っているが、過去の遺物である奴が最強などと思わないことだ』

「なるほど。成長という言葉は俺達だけの専売特許じゃないわけだ」


 皮肉を込め呟いた後、ロウ達へさらに話す。


「三人とも、明らかに奴は強い。時間は稼ぐから、砦から出てくれ」

「え……しかし――」

「さっきも言った通り、相手はかなり強い。もっと修練を積んでからじゃないと倒すのは難しいよ」

「……セディさんなら、倒せますか?」

「全力を注げばどうにか……けどこちらも罠以降連戦続きでね。疲労が溜まっていて接近するのは無理そうだ。君達が退却した後、速やかに逃げるさ」


 俺の言葉にロウは沈黙した。玉座の前で超然と立つフラウと俺を交互に見比べ……やがて、


「……セディさん。倒すことはできるんですね?」


 一つの問い掛け。質問に俺は眉根を寄せ、聞き返す。


「何をする気だ?」

「敵の攻撃を俺達で食い止めることができれば、その隙をついてセディさんの攻撃を当てられるかもしれないです」


 どうやらここで、決着をつけるつもりらしい。彼の瞳は固い決意を秘めている。先ほどの攻防で絶句していたが、ここまでの戦いである程度慣れたのか、すぐに狼狽は収まったようだ。

 こういう場合のプランは一応ある。けれどフラウに仕掛けるとなると、ロウ達に対する攻撃も手荒になってしまう。場合によっては怪我を負わせてしまう可能性も。


 どうするか……思考しつつアミリースへ視線を送る。彼女は口を堅く結び、俺の決断を待っている様子。こちらの一存ということだろう。

 なら――ロウ自身戦う意志がある以上、無下にするのはよくないと思い、


「わかった。しかし、できるのか?」


 賛同するように俺は告げた。


「俺一人では無理です。しかし、力を結集すればあるいは――」

「わかった。それじゃあ頼む。君達が攻撃を食い止め、敵に隙が生じた時、俺が仕掛ける」

「はい」


 ロウが頷く。会話の間ケイトやパメラは無言だったが、同じような意見なのか結局口を挟むことは無かった。


『作戦会議は済んだか?』


 フラウの言葉。それに俺は不敵に笑みを浮かべ、


「ずいぶんと、余裕を見せるじゃないか」

『なぜ私が、貴様らの不意を突かなければならん?』

「……その言葉、後悔させてやるさ」


 決然と応じる。すると今度はフラウが嘲るように笑い、


『ならば――死ぬがいい』


 右上を掲げ、魔力が胎動した。

 先ほどと比べ明らかに魔力量が多い――大丈夫なのかと俺は疑問に思っている間に、ロウ達が俺の前に進んだ。


「行くよ!」


 ケイトが叫ぶ。同時にロウが先頭に立ち、一歩後ろにケイトとパメラが立つ。

 その所作は、ずいぶん慣れたもの。どうやらこのような戦い方を幾度となく経験してきたようだが――


「女神の剣だし、制御するのは難しいかもしれないけど――」


 ケイトが叫んだ次の瞬間、雷撃が迸った。直後ロウの声が聞こえ、同時にケイトとパメラが何事か叫んだ。

 生み出されたのは、俺やアミリースすらも取り巻くような結界――発動後すぐさま理解した。ロウの持っている剣の魔力を利用し、ケイトが結界を構築。それを外部から魔力を吸収するパメラが補助するという、三人揃っての結界魔法だった。


『何!?』


 フラウは予想外だったのか驚き――魔法が衝突した。雷撃と結界がせめぎ合い、ロウ達は雷撃に負けないよう踏ん張る。

 俺から見ても、ハイレベルな応酬だった。フラウの放った雷撃は俺が受けた時よりも強い。それを三人掛かりではあるが受け止め、耐えている。


 それらを見ながら、この結界魔法の真価に気付く。パメラの魔力収束だ。結界に魔力がさらに加えられ、どんどんと厚みを増し始める。攻撃を受け続ける間も尻上がりに強度が増加し続ける。なるほど、これは戦う相手からすればこの上なく厄介だ。


『くうっ!』


 俺の心情を裏付けるかのようにフラウが苦悶の声を上げた。このままでは受け切ってしまう――それはそれでいいのだが、フラウとすれば結界を叩き壊すか、相殺くらいには持ち込みたいのだろう。なんというか、この辺は魔族としてのプライドが関係している気がする。

 考える間にも俺の目の前で閃光が弾け、やがて結界が破壊された。最終的にはフラウが押し勝って、本来防御しきったと思われる結界を無理矢理破壊した、といったところか。


「――よし!」


 と、今度は俺が声を発し、一足飛びでフラウへ走る。防いでしまった以上、ここでフラウへ攻撃しなければ怪しまれる。正直ノープランなのだが、出たとこ勝負でいくしかない。


「これで、終わりだ!」


 俺はありったけの魔力を刀身に注ぐ。加減すればやはり怪しまれる可能性がある……のだが、フラウが僅かに身じろぎするのが見えた。

 どうやらこのレベルの攻撃を受けると危ないらしい。けれど引っ込めることはできないので、そのまま振り下ろす。


「はああっ!」


 以前ベリウスやエーレと戦った時使用した、覚醒の力だった。対するフラウは避けられないと悟ったか、両腕で結界を構築し防ぎにかかる。

 そして生み出された結界を一目見て、俺は確信する――これ、衝突したら間違いなく結界を突き破って倒してしまう。


 いくらなんでもまずい……なので、剣の軸を僅かに逸らした。これで避けてくれれば――思いながら振り下ろした剣戟は予測通り結界を破壊し、フラウに触れそうになる。


「――ごめん、助かった」


 そこで、フラウから本来の声が聞こえた。どうやら俺の魂胆が理解できたようだ。

 直後、斬撃がフラウに入る。抵抗があったので大丈夫か不安になったのだが、そのまま両断し、


『見事』


 重いフラウの声が室内に響いた。


『しかし、言ったはずだ。我々も進化し続けていると』


 さらに告げるフラウ。刹那、俺は斬撃が掠めるようにしか入っていないことに気付く。紙一重だった。


『貴様の剣は、既に見切った』


 勝ち誇ったようにフラウは告げ……俺の体が宙に浮いた。

 風の魔法だと理解したのは数瞬後。俺はロウ達の立つ場所まで弾き飛ばされ、床に転がった。


「セディさん!」


 ロウが叫び、俺は素早く立ち上がる。

 直後、再び雷光が生じた。


『死ね』


 そして、ありったけの殺意を込めてフラウが雷撃を放った。すかさずロウ達は結界を生み出す。防ごうという構えを見せたのだが、


『無駄だ』


 フラウの声が響いた直後、結界が破壊され俺達へ雷撃が迫った。


「っ――!」


 誰かの短い悲鳴が聞こえる。さらに雷撃が俺の横を掠め、僅かだが体を痺れさせた。

 けれど同時に、結界を破壊し威力が大半殺されていると悟る。フラウはその辺を上手く調整して、雷撃を放ったのだろう。


「っ……!」


 そして、後方からアミリースの声。見ると、その場に崩れ落ちる彼女の姿。食らっているかどうか怪しい所だが、演出のつもりだろう。俺もそれに倣い、片膝立ちとなった。

 再度、視線を戻す。ロウ達はその場に倒れ視線だけはフラウを向いてはいたが、動けない様子だった。


『ここまで戦ったのは、見事だった』


 加えて、フラウから放たれる称賛の声。


『しかし、最早戦えまい……今なら武勇に免じ、一度だけ退くことを許そう』

「何……?」


 ロウが、呻きながら聞き返す。以前、俺がベリウスと戦った時行なわれたやりとりそのものだった。


『貴様達勇者というのは大変難儀でな……お前を殺せば、さらに別の勇者がここにやってくるだろう。私は貴様達を支配するべく動いているとはいえ、面倒極まりないことは避けたいのだよ……貴様達も戦う力は残っていないだろう? ここはひとまず、手打ちといこうではないか』


 冷厳としたフラウの声が、室内に響く。反面、ロウは悔しそうに奥歯を噛み締め、立とうとしていた。


『ふむ、まだ戦う意志はあるのか』


 フラウは感嘆の声をロウへ向ける。


『しかし、どうする? 手は残っていないだろう?』


 話す間に、ゆっくりとロウは立ち上がる。けれど動くは鈍く、限界だと一目でわかった。


「……ロウ、さん」


 そこへ、今度はパメラの声。彼女もまたゆっくりと立ち上がり、フラウへ視線を送る。

 俺は二人に退くべきだと告げようか一瞬思案した。けれどその前にパメラの体がゆらりと揺れる。


「ロウさん……剣を掲げてください」


 パメラは指示を出す。ロウは彼女を一瞥し――言う通り、その剣を真上に掲げた。


「一度だけ、私の力を全開放します……声を放ったら、あの魔族へ」

「……わかった」

『ほう? まだ続きがあるのか?』


 フラウが言った――直後、パメラは自身の右手を胸元に当てた。途端、魔力が生じ、

 部屋が、軋んだ。


「っ……!?」


 俺は呻き、周囲を見回す。違う、部屋がおかしくなったわけじゃない。そう錯覚させるほど、一瞬で魔力が発生した。


『何……?』


 事態の変化に、フラウもまた驚愕の声を発する。パメラの体と周囲には、濃密であり大量の魔力が生じていた。

 しかも……その魔力は明らかに通常とは異なる気配を漂わせていた。それは、言うなれば――


『天使の……魔力だと!?』


 フラウから答えが提示される。初めて力の内容が明かされる。これは天使の発する力らしい。

 パメラの見た目は変化していない。けれど、その膨大な魔力とフラウの言葉から、背中に羽でもあるような気さえしてくる。


 考える間にパメラは右手をかざした。直後、彼女の腕全体に魔力が凝縮した。

 さらに大気中に存在する膨大な魔力がロウの握る剣へと収束を始める。一連の魔力から俺は一つ確信する。間違いなく、二人の攻撃はフラウを倒せる。


『……ちっ!』


 それを自認したかどうかわからないが、フラウが動いた。新たな雷撃を、ロウ達へ向け放った。

 威力は、先ほどとほぼ同じだと認識できた。直撃すればロウ達は死ぬであろうその一撃に、パメラが応じる。彼女は左手にまとう魔力の形状を変化させ――結界を構築した。


 雷撃と結界がぶつかり合う。雷光がチラつき思わず目を瞑りそうになる。だが次の瞬間、お返しと言わんばかりにパメラの持つ結界が発光し、雷を覆い尽くすような魔力を生む。

 そしてとうとう破壊されずに雷撃が終わる。同時にパメラの右腕の魔力が解放されて、槍状に変化した。



「ロウさん!」


 そして、彼女は叫ぶ。

 ロウは剣を振り下ろし、白い光弾とでも言うべき魔力の塊を放った。凝縮した魔力の大きさから途轍もない威力だと理解でき――さらに速度もあり、フラウに回避する余裕を与えなかった。


『くっ!』


 フラウは呻き、両手で結界を構築し光弾を防ぎにかかる。双方が衝突してせめぎ合い、フラウは身動きが取れなくなる。

 そこへ、パメラが駄目押しで槍を放つ。真っ直ぐ光弾を受けているフラウの下へ到達し――二つがフラウの結界を、破った。


 瞬間、轟音と光。俺は思わず叫びそうになりつつ、手で目を隠し耐えた。そして光が消えた後も真正面から爆発による粉塵が生じ、視界を覆い尽くす。


「……ロウ君!」


 その中、俺は叫んだ。ゆっくりと立ち上がり、ロウ達が立っていた場所へ視線を送る。


「こ、ここです!」


 正面からロウの声。そちらへ歩むと、床にへたり込んでいる彼がいた。


「大丈夫か?」

「は、はい……ですけど、体がほとんど動かなくて」

「剣に魔力を注ぎ込みすぎたな……立てるか?」


 言いながら、肩を貸して半ば無理矢理立たせた。続いて周囲に目を向ける。横手にロウと同様へたり込んでいるパメラがいた。


「大丈夫か?」

「……どう、にか」


 パメラは肩で息をしつつ立ち上がる。疲労している様子だったが、ロウほどではないようだ。


「魔族は……」


 彼女が呟き、俺は前を注視する。煙が晴れつつあり、玉座付近が見え――

 フラウは、どこにも存在していなかった。


「倒した、か……」


 倒してしまった、と表現すべきだろうか。最後はロウとパメラ――特に、パメラの力押しによって、魔王軍幹部を倒してしまった。


 俺はパメラへ目を向ける。先ほどの力は天使……魔王軍幹部を倒せる程の力を持つ人物である以上、喜んでしかるべきかもしれない。

 けれど、俺にはそう思えなかった。管理の障害となる可能性を孕んでいるためか、それとも他の要因なのか――とにかく、言いようもない不安が胸の中に残った。

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