表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
女神降臨編
52/428

勇者VS勇者一行

 ――で、俺はフラウからもらった仮面を被り、城内を移動していた。ちなみにもらった物は右半分が黒。左半分が白で目元だけ僅かに見える白黒の仮面。

 被ることで視界が多少なりとも遮られる……と思ったのだが、想像していたよりはずいぶんとマシだった。なので、通常通り戦闘はできそうだ。


 ちなみに装備も擬態の魔法で見た目を変えてある。全部が全部漆黒に統一し、ついでに握る剣も真っ黒にした。そして魔力についてはさすがに誤魔化しようもないのだが……そこには一つ見立てがあった。

 気配隠しの魔法に気付けたパメラが一番問題なのだが、彼女は魔力を感知していたから気付けたはず。ならば、外部に魔力を発露しなければバレることはないというのが、俺の予想だった。

 加えて髪の色は真紅な上やや長くしているので、顔さえはっきり見えなければ正体がバレることもない……はず。


 懸念としては魔力を抑えるため全力で戦えない点か。けれど彼らの技量を見る限り、俺との差はまだある。たぶん、この状態でも戦えるはず。


「あ、そういえば声も変えないと」


 ふと呟きつつ、軽く咳払いをしてからなんとなく声を出してみる。


「……よく来たな、諸君」

「何やっているの?」

「うおっ!?」


 背後からの思わぬ声に俺は跳び上がる。立ち止まって慌てて確認すると、フラウだった。


「い、いつのまに?」

「転移してきたんだよ。この砦内ならどこにでも移動できる」

「そ、そうなのか……」

「で、何をしていたの?」

「いや、ほら。魔族って勇者と出会うとまず声を掛けるじゃないか。でも、俺は声を変化させることはできないから、どう誤魔化そうかと」

「喋らなきゃいいじゃないか」


 ごもっとも。けれど、それでいいのだろうか。


「君は前座なんだから、別に声なんか出さなくていいと思うよ」

「……酷い言い草だが、事実だからな。わかったよ、喋らない」

「うん。僕は草葉の陰で面白おかしく観察しているから、頑張って」

「……はいはい」


 適当に返答した後、移動を再開。やがて、正面に扉が。近づいてそれを開けると、真四角の空間が現れた。

 事前に言い渡された説明によると、ここは玉座への通り道であり、魔物を密集させ勇者を待ち構える場所らしい。けれど今回は特別に俺だけが立つことを許されている。光栄だと思っておこう。


「さて、そろそろだね」


 後方からフラウの声。同時に扉の閉まる音が聞こえ、静寂が部屋を支配した。背後を一瞥すると、彼の姿は扉によって見えなくなっていた。

 そして――今度は正面にある両開きの扉奥から靴音が聞こえ始める。俺は視線を戻し静かに剣を抜き、じっと佇むことにする。


 少しして、扉がゆっくりと開いた。奥から現れたのは四人。ロウ達だ。

 これまで魔物と散発的に出会い、交戦していた。けれどそれらを女神の剣を使ったロウや、パメラの強力な魔法を使用し跳ね除けている。


 けれど多少なりとも疲労の色があるのを、俺はしかと理解した。


「……何だ?」


 ロウが呟く。扉の前に俺一人しかいないことを訝しんでいるようだ。


 俺は続いて他の面々を確認。ケイトはロウ以上に警戒を見せ、早くも腕をかざしている。パメラも緊張した面持ちでこちらを見据えているが、俺であるとバレている様子は無い。第一関門は、クリアだ。

 そして残るアミリースだが……三人に見えないところで忍び笑いをしている。彼女は気付き、魂胆がわかったのだろう。


「敵、だよな」


 疑わしげに、ロウは剣を構えながら呟く。ここで声でも出せれば良いのだが、それをやるとバレるので、代わりに足を一歩踏み出した。


 途端に体を震わせ反応するロウ達――こんなこと言うのもアレだが、反応が結構面白い。

 恐怖を与える悪役の視点は、こんな感じのようだ……ふむ、魔族が人に恐怖を与える理由が、少しわかった気がした。


 変な所で感心していると、ロウが先陣を切った。間合いを詰め、同時に敵意の眼差しを向ける。


「はああっ!」


 掛け声と共に、こちらへ一閃。対する俺は剣戟を軽く受け流す。


 女神の剣を握っているとはいえ、技量面は俺より下。一騎打ちなら油断でもしない限り負けることはないと言っていい。

 ロウは負けじとさらに剣を振るう。けれど俺は手玉に取るように攻撃を捌き続け、彼の顔に焦りが見えた。


「くっ!」

「ロウ!」


 そこへケイトの声。すかさず右腕をかざし、左手で補助するように右肘を握る。


「炎よ!」


 そして発動したのは火球。手の先から放たれ、俺達へ真っ直ぐ突き進む。


 俺の目の前にロウがいるので、このままだと彼に直撃――しそうになった時、軌道が変わった。ロウを避けるように右へ逸れ、半円を描くように、俺の横手から飛来する。

 さらにロウの執拗な攻撃が続く。図ったわけではないと思うが連携となっている。しかし、俺にとっては苦でもない。


 火球が届く寸前、俺はロウの剣を勢いよく弾いた。それにより彼は数歩後退し、その間に迫ろうとしていた火球へ向け薙いだ。

 結果、火球は俺の剣によって爆発することもなく消滅。これにより、ケイトの顔が険しくなる。


「これまでの魔物とは違うわね」


 限りない警戒を込め、彼女が呟く。ロウも強敵と悟ったか一度後退し、俺の様子を窺うように切っ先を向け剣を構える。

 二人は攻めあぐねている様子。だとすると、次にパメラのことが気に掛かる。俺は視線を転じ彼女の様子を見ることにした。


 仮面で覆われているので、こちらの目線はほとんど見えないはず。けれど彼女は何かを察したのか、視線を向けた瞬間目つきをやや鋭くした。


「二人とも、私がやります」


 パメラが決然と告げる。直後ロウがさらに後退し、


「一気に片を付ける――」


 パメラは呟くと、魔力を収束させた。

 大気中の魔力が手先に集まり始め、それがやがて一本の槍状に形を成す。俺はすかさず彼女を注視し走ろうとする。


 パメラはそれを見て攻撃に移る。同時に、俺は一つの確信を抱くた。それは――


「やあっ!」


 彼女は気合の声と共に投擲する。細腕で放たれたとは思えない速度でこちらへ向かい、間近に迫る。

 対する俺は、剣を振ることで応じた。先ほどの確信……それは、魔力を閉じている状況でも、防げるということだった。根拠は収束した魔力の量だ。


 これはパメラの技に関する最大の欠点と言ってもいい。彼女の戦法は魔力の収束具合によって、威力が大体予想できてしまうのだ。ちなみにこれは明確な数量などを理解できるわけではなく、勘と経験だ。

 俺は外部に魔力が露出しないレベルで防げると思い、フィンからもらった魔法具とシアナの魔法具を組み合わせ、剣へ表層に露出しない程度の魔力を集め、斬撃を繰り出した。


 俺の剣と槍が衝突する。僅かにせめぎあい……やがて俺の剣戟が勝利し、槍は見事に消し飛んだ。

 途端、パメラが反応。まさか真正面から戦って勝てるとは思っていなかったのだろう。息を呑み、僅かに硬直する。


 ロウやケイトも同様の反応。そこで、俺は一転して攻勢に出た。無言で突っ走り、まずはロウへと間合いを詰める。


「っ!?」


 ロウは咄嗟に反応し、俺が放った剣戟をどうにか防ぐ。しかし衝撃で数歩後退し、体勢を崩した。


「光よ!」


 そこへ、ケイトの援護が入る。右手から光弾を放ち、俺の頭部目掛けて射出した。

 おそらくロウが体勢を整えるまでの時間稼ぎ――対する俺は向かってきた光弾を剣の柄をかざし相殺した。


「なっ!?」


 ケイトは驚愕し、動きが止まる。その間になおもロウへ迫り、剣を振った。

 ロウは一撃目をどうにか防ぎ切る。しかし、続いての攻撃に耐えることができなかった。


 二撃目。俺の横薙ぎを真正面から受け、彼の体は宙に浮く。


「っ!?」


 ロウが短い声を漏らした時、剣を防いだ体勢のまま後方へすっ飛んだ。僅かな時間滞空した後入口付近で着地したが、バランスを崩し倒れ込む。


「ぐっ!?」

「ロウ!」


 ケイトが叫ぶ。すぐさま俺は彼女を標的と見定めようとする。しかし、

 次に生じたのは魔力の集結。再びパメラの攻撃らしい。


 目を移し、彼女を見る。そこには両腕に魔力を収束させ、白い光を生じさせている姿があった。


「――食らいなさい!」


 どこか怒りを含んだ声音と共に、腕から光が放たれる。長剣くらいの大きさであるその光は、真っ直ぐ突き進み俺を襲う。

 しかも、彼女は断続的に魔力を集めている。一撃ではなく連続で攻撃する方向にシフトしたようだ。


 俺は剣で薙ぎ払うことで対応する。光と剣が衝突すると一瞬で消滅。抵抗もほとんどない。

 けれどパメラは仕掛け続ける。何を狙っているのか――と、俺はロウ達を一瞥した。そこには態勢を整え今にも躍りかかろうとしているロウの姿。

 なるほど、時間稼ぎだったのか……最初はそう思ったのだが、パメラの攻撃はなおも続いている。先ほど見せた憤怒の声から、連携ではなく感情に任せた攻撃のようだ。


 そうした攻撃はひどく直情的で、通用するはずもなく――俺は光を全て防ぎ切った。


「っ……!」


 十数本打ち終えた時、彼女の動きが止まる。同時に肩で荒い息をし始め、さらには頬に一筋の汗が流れる。

 強い――瞳が、そう語っている気がした。今の攻撃は彼女にとってかなりのリソースを放り込んだらしい。けれど俺は易々と防ぎ切った。


 ふむ、パメラの能力は強力ではあるが、フラウを倒すには至らないとは思う……いや、待て。

 パメラはどこか焦りの表情を見せつつ、右手で胸元を押さえた。魔法を使用し続けたことにより疲労が出たのか――そう思ったのは一瞬で、彼女から魔力が噴き出した。


 もしかして、まだ奥の手があるというのか。心の中で驚愕しそれを確認しようか迷う。


「――やああっ!」


 その時、ロウの声。しまった、パメラに気を取られてしまった。

 視線を移す。ロウが間合いを詰め、剣を振り下ろすところだった。


 慌てて右腕を振ろうとして、瞬間的に間に合わないと悟る。対応があまりに遅すぎた。エーレから受け取った衣服を着ている以上大事には至らないと思うが、ここで怪我をして後々怪しまれるのもまずい――

 俺は半ば反射的に左手を剣へかざした。本来結界は声を発さないと使えないのだが、局所的――例えば手の先に小さいものを生み出すとかなら、話は別だ。


 魔力を込めた結果、手のひらを覆うくらいの小さな結界が生み出される。それとロウの剣が衝突し、せめぎ合う。

 ロウは苦しい顔を見せつつ押し切ろうとしたが、俺は剣を振ろうと動く。ロウはこちらの攻撃を察知したかすぐさま退き、俺の間合いから脱した。


「っ――!?」


 瞬間、パメラが呻いたのを悟る。あ、しまった。今ので気付かれたか。

 目を向けると訝しげな彼女がいた。ぐ、これはまずい。最悪俺のことがわかってしまった可能性も。


 その時、まるで図ったかのように足元が発光した。見ると、六芒星の魔法陣が生じており、俺を包み込むように光が垂直に上がる。


「何!?」


 ロウが驚愕の声を発した直後、俺の体は完全に包まれた。そして次に見えたのは、真正面に存在する玉座。


「はい、ご苦労」


 続いてフラウの声。彼は玉座に座り、労うような笑みを浮かべていた。


「大体戦力の分析もできた。で、ちょっと危ないところで退散させてもらったけど……良かった?」

「……ああ、とりあえずは」


 俺は頷いたのだが、不安が残った。先ほどのパメラの顔。大丈夫だろうか。


「ん、あの銀髪の女性は何かに気付いたようだね」


 フラウもまた言及する。なので、俺は仮面を外しつつ、


「もしかすると、俺のことがバレたかも」

「いや、それは大丈夫だよ」


 フラウは答えると、指をパチンと鳴らした。直後俺の目の前の空間が歪み、ロウ達が円になって話し合っている姿が映される。


『――つまり、この砦にその人物がいるというわけですか?』


 パメラの声。それにアミリースは深く頷いた。


『ええ。私も噂程度しか情報はなかったけれど、確信した……魔王は、神々の武具を持つ勇者を尖兵にしようと動いているらしいの。先ほど戦った黒ずくめの戦士だけど……パメラさんは、セディさんと同じような気配を感じたのよね?』

『はい、そうです』


 げ、やはり勘付かれていたのか。このままでは危ない気がすると思ったのだが、


『セディさんの持っている物と同じような魔法具は、この世界に結構あるの。そうした物を所持していた人物が、噂通り尖兵となっている……そういうことだと思うわ』


 彼女の言葉により、他の三人が納得の表情を浮かべた。アミリースが上手く説明してくれたようだ。俺はほっと息をつき、歪んだ空間の奥側にいるフラウに目を向ける。


「ひとまず、大丈夫みたいだ」

「だろ? 彼らは魔法具の知識も少ないだろうし、誤魔化しようはいくらでもあるさ」


 にっこりフラウは応じると、静かに立ち上がった。


「さて、問題はここからだ。このまま魔物をけしかけて追い返すという方法もある。実際連戦続きで疲弊していると思うし、引き上げるかもしれない」

「なら――」

「けど、懸念がある」


 フラウは俺の言葉を遮るように続けた。


「彼らは疲れていて、手元が狂う可能性もある……魔物に攻撃させる場合、その辺を見極めて加減するようなことはできないから、誤って殺してしまう可能性もゼロじゃない」

「とすると、フラウが直接戦うのか?」

「そうだね。君も戦力分析はできただろうし、目的は達成されたということで僕の力を見せつけ退場願おうかな。それでいいよね?」

「いいんじゃないか? 最初の戦いで幹部のところまでいった上、魔物もかなり倒した。戦果としては十分だろう」


 魔族については今のロウ達では敵わなかった――なおかつ、俺が討伐困難だと報告すれば、マザークだってロウを向かわせるのは二の足を踏むだろう。


「なら、その方針で行くとしよう」


 フラウは言うと軽く伸びをして、俺を改めて見据える。


「で、ちょっとばかり協力して欲しいんだけど」

「協力……?」

「そんなに難しいことじゃない。彼らを退かせる上手い理由を作りたいだけだ」


 語るフラウは子供が悪戯をする時に見せる笑顔を作る。俺はなんだか胡散臭さを感じながらも、彼の提案に乗ることにした――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ