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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
女神降臨編
51/428

幹部との接触

 以後、散発的に魔物と遭遇したが全てロウ達で倒せるレベルであり、怪我をすることも無かった。


 改めて思うのは、彼らの技量はなり立ての勇者の中でも結構な部類に入るのでは、ということ。ロウは女神から授かった剣により攻撃力が増し、悪魔とも十分に戦えるだろう。そしてケイトも魔法の制御に秀でているため、ロウのサポートを上手くこなしている。パメラについては特に語る必要がない程の力を持っている。

 経験不足や悪魔を見て臆する点だけはマイナスだが、場数を踏めば問題ない。おそらく俺が登場せずともいずれこの砦へ向かい、自らの足で魔族と戦っていたのは間違いない。


「だいぶ近づきましたね」


 息をつきつつロウが呟く。またも魔物と交戦し、彼はケイトとの連携で蛇型の魔物を倒したところだ。


「砦に近づくにつれ数が増すような気がしていたんですけど……そういうわけでもないようですね」

「砦の中にいるのかもしれないな」


 俺の発言にロウは神妙な顔つきとなり、砦を見据えた。

 もう目と鼻の先だった。砦の門が見え、侵入者を固く拒んでいるのが見える。


 現状は砦から魔物が現れることはなく、山岳地帯でウロウロしている魔物がこちらを見咎めて襲ってくるケースばかりだった。


「では、進みましょう」

「ああ」


 ロウの声に俺は応じ、移動を再開。ここに至り彼も緊張が解けた――いや、戦いに思考がシフトしたせいだろう。

 ケイトやパメラも同じような雰囲気。そんな中アミリースだけがニコニコとしており、三人へ視線を送っている。


 武具を授けた勇者の行く末を見守っている様子……思いながら歩を進め、いよいよ門の正面へとやって来た。

 外観は、無骨の一言。扉や城壁、建物の外観まで全てが灰色。山に溶け込もうとしているのかもしれない。


「さて、どう入る?」


 ロウ達へ尋ねる。けれど意見は出ず、沈黙が周囲を支配した。

 一行の様子から、俺は思案を始める。大いなる真実を知る魔族が相手なので、どのような形でも危険はないのだが――ロウ達に怪しまれないよう動かなければならない。


 正面から入るのも一つの方法だし、抜け道なんかを探すという手もある。けど後者はあるかどうかもわからないものを探すため精神的な疲労が大きい。俺はともかくロウ達が疲れ切ったら戻らないといけなくなるだろう。

 攻略自体は期限を設けているわけではないので戻ってもいいのだが……マザークが納得するだろうか。ロウ達はともかく俺がいる以上、何らかの成果を出さないと色々言われそうだ。


「破壊、しましょうか?」


 ふいに、パメラが静寂を破った。俺を含めた一同が視線を注ぐと、彼女は扉を指差す。


「あの扉なら、魔法具の力でどうにかできます」


 彼女の力か……どのような方法なのか少し気になる。

 俺は一瞬だけアミリースへ目をやった。彼女は小さく頷いており、是非見てみようという魂胆が窺えた。


「わかった。パメラ、頼むよ」


 ロウが指示を出す。加えて俺に目で確認を取った。こちらが頷くと、彼は再度パメラに視線を送る。


「とはいえ、結構分厚そうだけど」

「問題、ないはずです」


 パメラは答え、両手を高々と天へかざした。刹那、手の先に大気中の魔力が収束し、渦を巻くように回転し始めた。

 それが呼び水となったか、魔力がどんどん集結し、やがて白い光の塊となる。


「これだけの魔力の塊をぶつけたら、さすがに破壊できるだろうな」


 俺は呟きながら、扉を見る。そこで――


「おっと、ストップ」


 パメラを制止した。


「あ、パメラ」


 ケイトも気付き、声を上げる。俺達の声によりパメラも察し、魔法を解除した。

 いきなり、門が開き始めたのだ。


「魔力を察知し、開け放ったということでしょうか?」


 ロウが剣を構えながら尋ねる。俺は「だろうね」と答えつつ、こんなことをした理由を思い至った。

 門を破壊されたくなかったのだろう。あれだけ重厚な扉である以上、修理するのも大変そうだし。


「お金のかかることは、極力避けたいだろうからな……」

「何か言いました?」

「いや、何も」


 ロウの質問に俺は首を左右に振り、手で砦の中を示した。


「俺が先頭になる。迎え入れてくれる以上、罠は気を付けよう」

「はい」


 ロウの返事を聞きつつ、戦闘態勢となり進攻を開始した。内心ここにいる魔族、フラウはどう出るのか気にしつつ門を抜けた。


 まず砦の内部をぐるりと見回す。石畳の道が真っ直ぐ存在し、先には城内へ通じる扉が一枚。道から外れた場所は土と僅かな雑草が生える程度で、ひどく荒涼としていた。

 他に目を見張るものは、何もない。魔物の気配もないため、なんだか不気味だ。


「罠……ですよね」


 閑散とした風景を見て、ロウは呟く。俺は「かもしれない」と同意し、さらに足を動かす。

 パターンとしては全員が城内へ入った時門が閉まり、罠が発動、といったところだろうか。とはいえ気配が皆無なので、外に伏兵がいるというのも考えにくいのだが。


「全員、周囲の警戒を怠らないでくれ」


 俺はロウ達へ呼び掛ける。とりあえずフラウの出方を見る――思いながらさらに先へ進み、

 いきなり、右足が沈んだ。


「え?」


 突然の挙動に驚き目を向けると、石の道が右足によって僅かに窪んでいた――認識した直後、俺の足元に魔法陣が出現する。


「罠――!」


 声を発し慌てて下がろうとする。しかし、右足は動かない。見ると、魔力によって形成された鎖が足を拘束していた。


「セディさん!」


 途端、後方から声。俺はすぐさま振り返り状況を確認する。ロウ達は罠にかかっている様子はない。

 その間に、魔法陣が大きく発光した。おそらく、どこかへ転移するタイプのもの。


「えっと……」


 どうしようか思案する。右足の鎖だが、見かけ上魔力を足に込めれば用意に破壊できそうだった。なので、鎖を引きちぎって後退するのも有りだとは思うのだが――

 考えている間に光が強くなる。慌ててロウが駆け寄る姿が見え、アミリースを除く二人も声を上げようとした。


 そこで、俺は決断。声を発する。


「俺は、大丈夫だから!」


 彼らにすれば根拠などない言葉かもしれないが――次の瞬間、後方で扉が閉まる光景が見え、視界が白く染まった。

 目を(つむ)り、光に耐える。それがゆっくり収束し始めた時、目を開けた。室内らしく、魔力の明かりが視界の端に見え――その時、


『ようこそ、セディ=フェリウス』


 背後から、重く反響する声が。


 振り返る。まず視界に捉えたのは絨毯一つない大理石のような白い石床。そして俺の正面には三段の階段を挟み玉座が。

 そこには全身を真紅の鎧で包んだ、鉄仮面の騎士が鎮座していた。


『我が魔法によって、ここに連れてこられたが……気分はどうだ?』


 なおも続く、腹を打つ声。演出的には勇者と魔王軍幹部との決戦、という雰囲気なのだが、


「フラウ=ヴィステルだな?」


 俺は確認。相手――フラウは肩を少しコケさせた。


「張り合いがないなぁ」


 声も変わる。重く恐怖を与えるものではなく、少年っぽいあどけない声に。

 フラウは玉座から立ち上がる。身長は、俺の倍とまではいかないが高い。その姿で黒いマントを翻し姿を隠して――


「もうちょっと乗ってくれてもいいじゃんか」


 現れたのは、打って変わって俺よりも身長が低い金髪の少年だった。

 魔族、という雰囲気は唯一真紅の瞳によってだけ現されている。中性的な顔をしたその魔族は真紅の戦闘服と黒いマントに身を包んでいるのだが……着られてる感がものすごくあり、無理矢理背伸びした格好をしている子供にしか見えない。


「雰囲気、ずいぶん違うな」

「そうだねー。こっちが本来の姿だから結構無理しているんだけどさ」


 頬をポリポリとかきながら、彼は言う。うん、この状態で人前に出てはいけない。


「で、改めて訊くけどフラウか?」

「そうだよ。そっちはセディで間違いないね?」

「ああ」

「シアナ様から報告は聞いているよ。あ、仲間達の状況を見る?」


 問い掛けに俺が答えるより早く、彼は手を振り俺の横手の空間を歪ませた。そこから見えたのは、驚いて立ちすくむロウ達。


「あと確認なんだけど、あの黒髪の女性、アミリース殿だよね?」

「知っているのか?」

「城勤めしていたからね。見たことある」

「そうだ。元々女神の仕事を見聞するため、ここに来たんだが」

「わかっているよ。その辺もシアナ様から聞いている」


 言うと彼は跳んだ。玉座の前にある階段をすっ飛ばし、俺の眼前に着地する。


「さて、ここからなんだけど……どうしようか?」

「何で俺に訊くんだ?」

「いや、僕の考える次の演出は砦の中で悪魔をけしかけることなんだけど……あの勇者達が危なくなるかもしれない」

「加減がわからないということだな」

「そうだねー。で、どうすればいい?」


 指示を仰ぐフラウ。彼なりに苦慮しているようなのだが、少年の容姿と悪戯をしそうな雰囲気から、本当に思案しているのかちょっと疑いたくなる。

 ここはある程度指示しておいたほうがよさそうだな……少し思案し、俺は口を開いた。


「えっと、散発的に魔物をけしかけてくれ。目的は勇者じゃなくてあの銀髪の女性を調査することだから、多少なりとも能力を確認したい」

「彼女か。確か狼をけしかけて無茶なやり方で切り崩した子だね」

「そうだ。しかも門まで破壊しようとしていた……」

「彼女は何者なの?」

「領主の娘。魔法具を使用していると彼女の父親は言っていたが……ちょっと疑わしいな」

「ほう、君にもある程度推測できているのか」


 感嘆の声をフラウは放つ。ん、向上から何か気付いている雰囲気だが。


「ま、遠目から見ていてもある程度わかったよ……あれは、特殊な力だ」

「詳細まで把握できているのか?」

「詳しくはわからない……けど、門前で魔法を使用していた気配からすると、神側の魔力であったのは確かだ」

「魔法具の力か? それとも、彼女の本来の力……?」

「その辺は、もう少し調べないといけない」


 言って、フラウは妖しい笑みを見せた。


「そうだ。セディ、戦力を把握するなら一番良い方法があるよ」

「良い方法……? 教えてくれ」


 要求すると、彼は無邪気に語った。


「君が直接戦えばいいじゃないか」

「……は?」


 思わず、間の抜けた声を上げる。


「魔族化できるんだろう? 人相を変えられないのであれば、仮面くらいは貸してあげるよ」


 ……そういう手もあったな。思いつきもしなかった。


 確かに俺がやるのが一番手っ取り早い。顔さえ隠せばバレるようなこともないし……太刀筋とかでバレないだろうか。いや、出会って俺はまだ一撃しか見せていない。大丈夫だろう。


「わかった。やってみようかな」

「え、やるの?」

「ん? 何でそんな返し方するんだ?」

「九分九厘冗談で言ったのに」

「……おい」


 思わず呻くのだが、彼は手をパタパタと振り、


「ああ、でも言ったのは理由がある。こっちが滅ぶという不慮の事故を避けるには犠牲……じゃなくて、協力が必要なわけだよ」


 ……本音が見え隠れしている。


 とはいえ、グチグチ言っても仕方ない。俺の中では良い案だと思ったことだし、やってみよう。


「よし、それじゃあ俺が行くよ」

「助かる」


 フラウは返すと肩をすくめ、


「あ、バレないように仮面他装備は適当に見繕ってあげるから」

「変なのはやめてくれよ」

「例えば?」

「ピエロのお面とか」

「ちぇっ」


 舌打ち。そのつもりだったのかこいつは。


「じゃあ、ちょっと待っていてくれ」


 彼は言いつつ、俺とすれ違い部屋の外へ歩き出した。

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