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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
女神降臨編
50/428

勇者一行の実力

 目的の転移場所は村から少し進んだ、森の中。俺達はパメラの魔法に従い、速やかに移動を行った。


 次に見えたのは、山の中腹。木々や草も非常に少ない荒れた山肌があり、視線の先に――


「あれか……」


 ほぼ真正面に、黒い城壁に囲まれた砦が一つ。大きさは、ベリウスと戦ったものとそれほど変わらない。


「結構、近いわね……」


 ケイトが目を見開きながら呟く。態度から相当緊張しているように思われる。


「ここから進むのですが、まだ距離はあるはずです」


 パメラは砦を指差しながら解説する。

 直線距離ならばあっという間だろう。しかし山肌を歩くとなると、予想以上に時間が掛かるはず。


 そこで一度ロウ達の表情を確認。ロウとケイトは砦を見て顔を強張らせている。パメラは左手で胸元を抑え、やや不安げな表情をしていた。


「さて、ここからは俺が先頭になる」


 固唾を飲む一行に対し、俺は口を開いた。


「魔物が来た場合に備え、一つ確認しておきたい。三人は、前衛と後衛で言えば、どちらになる?」


 大体予想できるのだが、念の為確認。まず手を挙げてロウが声を発した。


「俺は前衛です」

「……私は、後衛」


 続いてケイトの発言。そして最後、パメラだが――


「私は、どちらでも」


 決然と言い放った。

 声を発した瞬間、取り巻く気配が変わる。俺はそれに気付かないフリをしつつ、三人へ「わかった」と答えた。


「それじゃあロウ君。君は俺と共に先頭に立って魔物と戦う。で、ケイトさんが援護」

「はい」

「わかりました」

「で、パメラさんは両方できるというのなら、状況に応じて戦ってもらうべきだと思うけど……判断、できる?」


 尋ねると、口をつぐんだ。戦闘経験が少ないため、自信がないのかもしれない。


「ならアミル」


 ならば、と俺はアミリースへ指示を出した。


「戦況判断くらいは、できるよな?」

「ええ、もちろん」

「なら、彼女にアドバイスを頼む……あ、パメラさん。アミルの護衛も頼んでいいかな?」

「わかりました」


 ぎこちなく頷く彼女。マザークは戦力だと言っていたが、異質な魔力がなければ信じられないような所作だ。


 果たして、無事生き残ることができるのだろうか――小説における勇者の物語ならば、そんなモノローグが出てきそうな状況。けれど俺の場合、あいにく今回は八百長しているので、対して緊張感がない。

 ただ、その辺はしっかり隠さないと……思いつつ、俺は一番初めに足を一歩踏み出した。


「進もう」


 言って、砦へ向け移動を開始。ロウ達も従い足を動かし始め――


 やがて、狼の遠吠えの様なものが聞こえた。


「魔物のようね。早速お出ましか」


 アミリースが呟く。俺は小さく頷きつつ、ロウ達を一瞥。

 ロウやケイトは両の拳に相当力が入っているのか、足と手が同時に出そうな雰囲気。初々しいと感じつつ、どう落ちつくせようか悩む。


「えっと、二人とも」


 頭を回転させながら、声を発した。


「一度、深呼吸とかしようか。体が相当固まっているようだし――」


 告げた直後、横手から気配。首を向けると、多少の窪地を挟んで俺達が進む場所と同じくらいの山があり――


「魔族の手先ね」


 アミリースが発言。視界には窪地を駆け、果敢にもこちらへ向かう狼の姿があった。

 数は全部で十頭ほど。山肌をバラバラに進んでいるが、目標がこちらであるのは明白で、中には吠え威嚇する姿もあった。


「前哨戦、といったところかな」


 俺は言いながらゆっくりと剣を引き抜く。そしてロウ達へ視線を送り、


「まずは遠距離から迎撃を――」


 指示しようとしたところで、彼らの様子が変わっていることに気付いた。


 ロウは緊張が霧散し剣を抜き、静かに呼吸をしている。さらにケイトは詠唱を始め、右手に魔力を収束させていた。

 そしてパメラは両腕をかざし、魔物達へ攻撃の態勢を見せる――なるほど、魔物との戦いについては場数を踏んでいるため、緊張することもないというわけか。


 考える間にも、まずケイトが右手をかざし、叫んだ。


「炎よ!」


 叫んだ直後生まれたのは火球。やはり威力自体は低いようだが――

 火球が彼女の手から離れ、高速で狼へ向かう。一直線上に魔法は突き進み、狼達は左右によけた。しかし、


 突如火球は方向を変え、手近にいた狼を捉え、直撃。狼は悲鳴を上げ、一気に塵と化した。

 なるほど、威力ではなく軌道などを変えることができるのか……ケイトはどうやら威力ではなく魔法のコントロールなどを得意としているようだ。


 そして、今度はパメラの攻撃が始まる。大気中の魔力が震え――ちょっと待て。


「おい……?」


 俺は彼女が行動に移す寸前呼び掛けるが、遅かった。彼女の周囲だけが冷気でも発したかのように冷たくなり――空中に光の刃が出現した。

 一瞬で、しかも数は百以上ありそうだった。俺は瞠目し、パメラを凝視――


「パメラ、普通より多くないか?」


 ロウの声を聞いた。口上から、今回は気合いを入れているようだが、普段からこうした攻撃方法を取っているのがわかる。


「出力が上がって少し気合を入れすぎました」


 パメラは答え、かざした腕を上げ――振った。

 直後、光の刃が四散する。ケイトとは反対に制御できている様子はないが、数で押し潰すような攻撃だった。


 狼は即座に回避に移る。しかし数が多いため攻撃が当たり一体、また一体と形を失くす。なんという力技……俺は呆然とその光景を眺めるしかない。

 そして攻撃が終わる。結果、広範囲に拡散しすぎたせいで二体仕留め損じる。む、ここは俺がでないといけないか――


「ここは俺が!」


 そこへ、ロウの声。見ると彼は剣を両手で握り、先に魔力を集中させていた。

 狼はそんな彼に目標を定めたのか、一気に走り込んでくる。しかしロウはじっと佇み、狼は間近まで迫り、


「ふっ!」


 飛び掛かろうとする距離まで近寄って来た狼達に、剣を振り上げ地面に叩きつけた。

 剣先が大地に触れると地面が破砕し、青い衝撃波が狼達を飲み込むように襲い掛かった。俺が古竜との戦いで見せた魔力を込めた剣戟に近い攻撃だった。


 完全に攻撃態勢に入っていた狼は回避することもできず、残った二体は青に吸い込まれ、見事倒すことができた。


「よし……!」


 ロウが呟く。そして、ケイトへ目を向けた。


「前よりも威力が上がっているよ」

「当然でしょ。女神様の剣なんだから」


 ケイトの指摘に「それもそうだな」と答えるロウ。うん、どうやら彼らにとってみればこの程度の相手は楽勝のようだ。

 どうやら思っていたよりもレベルが高い様子。その中で一番なのは、光の刃を生み出したパメラ。


 しかも、攻撃の瞬間大気が震えた。とすると、あの攻撃は大気中の魔力に干渉して生み出されたもの……そういう結論に達する。

 これは、かなり珍しいが、魔法具で大気の魔力を収束させる物は存在しているし、彼女もまたそうなのだろうと最初は思った。


 けれど、少しして疑問がよぎる。先ほどの攻撃、彼女が身に着けている装身具が反応しなかった。あれだけ強力な攻撃なら、大気中の魔力を集めるため魔法具から魔力が生じてもおかしくないはず。


「セディさん」


 考えていた時、アミリースからの声。


「まだいるみたい」

「ん?」


 周囲を見回す。お、確かに――


「あ、悪魔……?」


 途端に、ロウが呻いた。さらにケイトも驚き硬直する。一方のパメラは敵意の眼差しを向け始めた。

 彼らの視線の先には、一体の黒い悪魔……人型かつ、背中に漆黒の翼を生やした、かなりの巨体。


「砦のいる魔族の部下で、狼を消し掛け様子を探っていた、といったところかな?」


 俺はなんとなくそう推測し――悪魔の咆哮が山中にこだました。


「ど、どうします?」


 ロウが戸惑いながら訊く。視線を巡らせるとケイトもこちらを見て判断を仰いでいる。唯一パメラだけは悪魔を注視し、どこか決意を秘めた顔つきでいた。

 もし放っておけば、パメラが戦いそうな勢い……思いつつ、俺は左手で自身の胸に手を当てた。


「ここは俺に……みんな、下がっていてくれ」


 全員に告げた直後、ロウやケイトはお願いしますとばかりに引き下がった。態度から悪魔と交戦経験がないのはわかる。

 俺はゆっくりと前に出て切っ先を悪魔へかざす。相手は気付いたかどうか知らないが、反応を示した。首を回した後、ゆっくりと翼を広げた。


「……遠距離から、仕留めた方がよさそうだな」


 接近されるとロウ達に危害が及びかねない――いや、あれはフラウの手勢だと思うので大丈夫だとは思うが、念の為だ。

 刹那、刀身に魔力を収束する。ロウから見れば、非常に洗練された魔の凝縮――という風に見えるかもしれない。


 対する悪魔は両手を広げ、再度吠えた。こちらの魔力を完全に察し、前傾姿勢となり、


「ふっ!」


 攻撃に移るより早く、俺は剣を振った。


 地面に触れた瞬間、剣の幅程しかない白波が発生する。以前古竜や悪魔に使用した技であり、目の前の悪魔もこれで十分だろうと思った。

 距離はあったが、白波は窪地を一瞬で進み悪魔へ迫り――相手が次の行動に移る前に、斬撃が衝突した。


 轟音が周囲に響き、さらには悪魔の断末魔も聞こえた。やがて手先から塵へ化していくのを確認する。

 そして足元を見る。地面に軽く斬撃の走った跡が生まれたが、まあ不可抗力だろう。


「これで、終わりだ。ひとまず先へ――」


 そしてロウ達へ言い掛けて、ぎょっとした。アミリースを除く三人が目を丸くしながら俺を凝視していたためだ。


「す、すごいですね……」


 震えた声でロウが発する。心底驚いているようだが……何の気なしに力を使ったので、俺も彼らに様子に戸惑う。


「あ、ああ……えっと……ほら、ロウ君もすぐにこのくらいはできるようになるさ」


 ロウに言う。彼は自信なさそうに俺が作り上げた地面の亀裂に目をやり、


「そう、でしょうか」

「大丈夫だ。俺だって最初、狼型の魔物を倒すのも一苦労だったんだから」


 そうやって声を掛けつつ、気を取り直し砦のある方角を指差し、歩き出す。


「先へ進もう。立ち尽くしていると、襲われかねない」

「あ、はい」


 俺の言葉にロウは我に返り、歩き出す。ケイトもそれに追随し、パメラも顔を引き締め二人の後方を歩き始めた。

 そして一番後方にアミリースが控え――全員、砦へ移動を再開した。

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