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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
女神降臨編
48/428

会食の席で

 通された客室はなんだか調度品が多く、あまり落ち着かない一室。その癖、ベッドはシーツが皺になっていたりもする。


「きっと、急場に用意したんだろうな」


 ベッドを見ながら呟いているところに――ノックの音。応じると侍女が現れ、会食するとを告げられた。俺は頷き、彼女の先導に従い部屋を出た。


 案内されたのは広い食堂。きっと視察に来た首都の人間なんかを迎え入れるために用意された場所だろう。会食用の長いテーブルに、奥行きのある部屋。

 使われていたのは、入口から見て奥側。席には領主と思しき人物と、横にはパメラ。二人に向かう会う形でロウとケイトが座っていた。


「おや、準備万端のようね」


 続いて後方から声。振り向くと侍女に案内されてやってきたアミリース。


「行きましょう」

「……ああ」


 俺は頷き、席へ。着席したのは、ケイトが座る右隣。そして俺の右にはアミリースが座った。


「すまないな、バタバタとしてしまい……私が、この地方を治める、マザーク=リンカルスだ」


 向かい合う男性――領主であるマザークの太い声が聞こえた。そこで俺は相手を観察し始める。

 パメラと同様の銀髪に、堀の深い顔。ロウやケイトと同年代の娘を持つにしてはやや年齢を重ねており、領主としての威厳をしっかりと兼ね備えている。


「……この度は、お招きいただきありがとうございます」


 まずは定型句の挨拶。マザークは小さく微笑み、


「私としては、あなた程の勇者と出会えたことに感謝したい」


 そう答えた。俺はすぐさま頭を下げ、礼を示す。

 顔を上げると領主は笑みを絶やさないまま視線を転じ、今度はロウへ声を掛けた。


「ロウ君も、おめでとう」

「は、はい……」


 ロウはガチガチに固まり、見ているこちらが苦笑したくなるほど。こういう時はおそらく、隣のケイトが(いさ)めるはずなのかもしれないが、雰囲気に呑まれたか無言を貫いている。

 ここは、ある程度フォローを入れた方がいいかな……少なくとも、俺は場数を踏んでいるし、主役でもないので余裕がある。


「女神から武器を賜ったこと、是非とも話してくれ」


 マザークは告げると、手を鳴らした。直後、侍女が動き出し俺達の前に料理を並べ始める。

 そして食事が始まった。ロウやケイトは食がほとんど進まず、マザークの問い掛けにどうにか応じているだけ。一方の俺は主役でないためか出された料理を食べ進める。隣にいるアミリースも同様だ。


 ……というか、女神も食事するんだなと少し驚いていたりもする。まあ魔王だって食べるのだから、よくよく考えるとおかしくはないのかもしれないけど。


「……そこで、セディ殿が現れたと?」


 ふいに、話の矛先がこちらへ向けられた。俺はナイフとフォークの動きを止め「はい」と答える。


「とはいえ、私は手出ししなかったせいでパメラさんに怪しまれてしまいましたが」

「いえ……そんなことは」


 首を振りつつ、パメラ。するとマザークは笑い、俺へ優しげな視線をやった。


「おそらく、手出ししなくても大丈夫だと判断できたのでしょう……それでセディ殿、話は変わってしまいますが、この周辺に魔族がいるのをご存知ですか?」

「魔族?」


 反応し、俺は聞き返す。同時に心の中で来たか、と呟く。


「はい。ここから北に一つ山を越えると、魔族の居城があるのです」

「現在、この村が危機に晒されていると?」

「はい。噂によると、首都攻略の手始めに周辺の村を襲うという計画だそうです」


 ――その噂の信憑性云々もあるが……まあいいか。話が進まない。


「魔族は現在魔物を周辺に散らし動向を窺っている。私達は襲われないようただ祈るしかなかったわけですが、ようやくこちらも反撃に移る時がきたようです」

「反撃、ですか」


 俺はマザークの次の言葉を予想しつつ、横にいるロウとケイトを見た。両者は硬い表情で村の領主へしかと視線を送っている。

 たぶん、事前に言われたんだろうな……思いつつ、マザークの言葉を待つ。


「はい。この村にとうとう勇者が顕現し、さらには魔王軍幹部を討滅したことのあるセディ殿が訪れた……これは天命であり、魔族を倒すべきだという、女神の思し召しだと思います」


 どこか熱を込めてマザークは語る。俺は彼を見ながら、勇者二人を前にして魔族を倒せると気が逸っているのがわかった。


「……マザーク殿、確かに仰ることは理解できますが」


 対する俺は声を発する。意味は無いと思うが、一応言っておかなければ。


「問題は、その魔族が持つ魔物の規模です。魔族自体の力量は不明ですが……私が戦ってきた魔王軍幹部と比較して、上ということはないでしょう。ならば倒せる可能性はある……ただしそれは、私自身が完全な状態であった場合です」

「人手がいるということですか?」

「はい」


 マザークの質問に、俺は頷いた。


「より正確に言えば、これまでの戦いは必ずと言っていいほど協力者がいました。私個人を慕ってくれている仲間の存在もありますが……国からのバックアップも少なからず」

「とすると、首都にいる部隊と協力する必要があると?」

「ええ……しかし、この国の軍隊規模は多少なりとも理解しています。首都の防衛を考慮すれば、戦力を割くというのは難しいでしょうね」


 そこまで意見した時、マザークは深く頷いた。


「うむ、確かに……軍の規模が少ないがために魔族を野放しにしてきた面もあるので、首都に訴えかけても援護が来るとは思えない」

「はい……それとマザーク殿、確認ですが二人に魔族討伐の依頼を?」

「ええ」


 はっきりと頷いた。この人、勇者という存在をまったく理解していないな。

 俺はロウ達へ一度視線を送る。二人は会話の成り行きを見守るだけでなく、俺へどこかすがるような目をしていた。ロウだけならまだしもケイトまで同じような反応なので、困惑しているのがはっきりとわかった。


「……マザーク殿、もう一つだけ言わせてください。二人に魔族討伐をさせるのは、まだ早いのでは?」

「早い、とは?」

「女神から武具を授かったからといって、すぐに使いこなせるわけではありません……女神はおそらく、彼の将来性を買って武具を渡したのだと思います。すぐに魔族と戦え、というわけではないでしょう」

「言っていることはわかります。しかし、事は一刻を争うのです」


 マザークはさらに語る。時間がないということらしいが――


「いつ何時魔族が襲ってくるかもわからない。平穏を手に入れるには、この時しかないのです」


 ――どうも、話を聞く分に根拠は彼の中にしかないのかもしれない。明日にでも魔族は襲ってくる……それはある意味事実ではあるのだが、彼の場合は被害妄想に捕らわれている雰囲気だ。


 魔族に恨みを持つ人間がこうした態度を取るケースは結構ある。魔族、という存在を直接的に見ることがないため、どのような相手なのか想像しかできず、勝手な解釈を加え恐怖を抱く。本来は恐れるだけで魔物が来ないよう祈るしかないのだが……彼は権力者であり色々と行うことができる。

 その結果の一つが、横に座るパメラだろう。


「……私としては、確かに戦うべきだとは思います」


 俺はさらに続ける。途端、ロウ達は体を震わせたが、


「しかし、現状の戦力で向かうのは無謀です。勇者が現れたことは非常に喜ばしいですし、マザーク殿が討伐に向かうべきだという言及も一理ありますが……私としては、様子を見るべきだと思います」


 こちらが言えるのはそのくらいだ。対するマザークは目を細め、何事か考え始めた。


「ふむ……そうですか」


 さらに口元に手を当てる。加えてパメラやロウ達へ視線を送る。

 頭の中で計算しているようだ。けれど、そもそも魔族側の戦力がわからない以上、皮算用にしかならないはずだが――


「……セディ殿、一つよろしいか?」

「どうぞ」

「仮に、軍隊に匹敵しうる戦力があれば……対抗できるということでよろしいでしょうか」


 何……? まさかそんな返され方をするとは予想外だったので、驚き言葉を失くす。

 そんな中、マザークはなおも続ける。


「人を集めるという方法は、おそらく無理でしょう。しかし、魔族に対抗しうる手段ならば、保有しております」

「対抗しうる手段、ですか」


 きっと横にいるパメラがそうなのだろう。金に物を言わせ魔法具を大量に持たせる……やり方としてはアリだが、それで魔族に対抗できるかと言えば正直微妙だ。


「それは私が保証しましょう……一晩、時間を頂けないでしょうか」


 一晩でどうにかできるというのか? 俺は半信半疑となりつつ、考えた。

 彼の言い方は、戦力が整えば俺が行くと確定しているような口上……まあ、ここで断るのも変なので、彼の言葉通りになれば行くしかないだろう。


 そこで、なんとなくパメラに視線を移す。彼女はなんだか困惑していた。暴走気味の父親に何か言いたい様子だが、口にできないのか沈黙を守っている。

 今度は横にいるロウ達へ視線を送る。勝手に話が進んでいく状況で、どうすればいいかわからない様子。


 次にアミリースを確認。彼女は「行くべき」という顔をしていた。

 どうやら調査のために色々とやりたいらしい。こうなると、俺も戦う必要が出てくる。しかし、ロウ達は大丈夫なのだろうか。


「……マザーク殿、私は魔族と戦うことに何ら異論はありません」


 なので、俺はまずそう口を開いた。



「ただし、あくまで戦力が整っているというのが前提……加え、無理強いで誰かを連れていくのは、同意しかねます」

「ふむ、ロウ君達を連れていくのは、難しいと?」

「彼らの意志を尊重すべきです」


 ――正直、彼ら自身に選択を委ねるのは酷かもしれないと思ったのだが、アミリースが行くべきと言っている以上、仕方ない。


「なるほど、あなたの意見はわかりました」


 マザークは意を汲んだか深く頷く。そして、


「ではロウ君、ケイト君。どうするか考えてもらいたいのだが……良いかな?」

「は、はい……」


 承諾するロウ。声がややうわずっている。相変わらずカチンコチンのようだ。

 隣のケイトは黙って頷く。ひとまず、この場の意見はまとまったようだ。


「では、今日はここまでとしよう。セディ殿、今日はゆっくり休んで下さい」

「はい。ご迷惑をおかけします」


 俺は頭を下げた。そして顔を上げた時見えたマザークの表情は――狂気を含んだ笑みのような気がした。

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