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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
女神降臨編
47/428

領主について

 村はジェントという名前で、東側の山を一つ越えるとセリウス王国の首都に到達する、という位置にあるとのことだ。


「首都には行かなかったのかい?」


 話し掛けた中年の男性からそんな問いがやってくる。俺は苦笑しつつ、


「道に迷ってしまいまして」


 そう返した。適当な理由が思いつかなかったとも言う。

 で、村人は笑う……うん、どうやら信用してくれている様子。


 ――ひとまず、俺とアミリースは共に行動することにして、色々と事情を訊く。村の入口にあった人だかりは解散しており、ロウ達は村の奥へと引っ込んでしまった。

 できればそれに追随したかったのだが、勇者だとしても部外者である以上、声が掛からない限り下手に動かない方が良いので、この場に留まっているのが現状だ。


「しかし、今日は驚くことばかりだな。ロウが女神様からとうとう認めてもらった上に、現役で活躍する勇者様が出てくるとは」

「はあ……どうも」


 すんなり信用してくれているようで、何より。場合によっては俺自身が勇者セディであると信用してもらう必要があったのだが……大丈夫みたいだ。

 信用する事情を訊いた方がいいのだろうか――と、考える間に男性の口がアミリースに向いた。


「アミルさんも、こんな展開は予想していなかったんじゃないか?」

「そうね」


 にっこりと、アミリースが答える。やり取りからすると、ずいぶん親密であるように見える。

 そこで思い至る。これはもしや――


「アミリ……アミルはこの村と関わりがあるのか?」


 本名を言い掛けつつ俺は尋ねる。彼女はしっかり頷き、


「山に薬草を取りに行くのだけど、その都合から立ち寄らせてもらっているの。半年くらい前からね」

「天女が降りて来たかと思ったくらいだったよ」


 男性が茶化すように言う。対するアミリースは小さく笑った。


 なるほど。彼女は大分前からこの村に潜入し、調査をしていたようだ。そうした彼女の口から俺は知り合いだと言われたら、彼らだって信用するだろう。

 勇者を選定する場合はこうした事前調査を行うのかもしれない。実際魔族だって真実を知らせるのにずいぶんと審査を要していた。勇者だって認めるのに、色々と考慮するのだろう。


 ただその役目を女神そのものが担っているのは、想像できなかったが。


「それで、ロウ君達は魔物の討伐に行っていたの?」


 アミリースが問う。男性は深く頷き、


「ああ。商人が山越えしようと旅立った直後、魔物の遠吠えが聞こえたんだ。慌ててロウ達が様子を見に行って、襲われていたらしく戦った。で、女神様が現れて武具を授けて下さったわけだな」


 その女神は目の前にいるよ――思いながら俺は「わかりました」と応じる。大体の事情は飲み込めた。


「お話、ありがとうございました」

「いや、大丈夫だよ。それじゃあ」


 頭を下げた俺に男性は笑うと、その場を去った。残されたのは俺達と、未だ興奮が冷めやらぬざわめき。


「……で、これからは、あの女性を調査?」

「そうね」


 問いにアミリースは即答した。


「神々の魔法に気付いていた様子……生身の人間でそんなことができる人はほとんどいない。何かしら、特別な素質があると見ていい」

「素質があったら、どうするんだ?」

「彼女にも目を掛け、戦ってもらう必要があるかも」


 彼女も勇者に……ということか。武具を渡すのは一人じゃない事例もあるし、不自然ではない。


「あの女性の詳細は知っているの?」

「ええ。名前はパメラで、上にある館……つまり、ここの領主の娘さんね」

「へえ……領主の」


 驚きつつ、俺は直線状にある館を見上げた。森に囲まれているせいで上部しか見えないが、結構な大きさであるのはわかる。


「あ……ところで」


 俺はパメラのことを知っている点から、一つ疑問を(てい)した。


「アミリースが半年間、ここを調査していたのか?」

「ええ、そうよ。勇者を見定める……それもまた仕事だから」

「仕事……そうなのか。ちなみに、武器って神界で作られた物なのか?」

「ええ、そうよ。魔力を付与して、人々に授けている」


 なるほど……概要を理解しつつ、俺はさらに口を開いた。


「で、これからパメラについて調べるわけだが……一応、シアナに連絡しておいた方がいいよな?」

「そうね。実を言うとこれから別所に行く予定だったのだけど、こちらを優先するわ」

「わかったよ。けど、領主の娘だろ? 調べるのは難しいかもしれない――」


 そこまで言ったところで、村の奥から執事っぽい人が歩いてくるのが見えた。


「……あれは、もしや」

「執事のザイレンさんね」

「俺達に、用があるみたいだな」


 その人物は眼鏡を掛け執事服を着た、背筋がピンとなった白髪の男性。

 彼はキビキビとした動作で俺達に視線を送り、近づいてくる。


「勇者ということで屋敷に招待されるのかもな」

「でしょうね。それを機に色々調べるべきね」


 アミリースがコメントした時、ザイレンが俺達の下へとやって来た。


「勇者セディ殿、ですね?」


 丁寧に尋ねる。小さく頷くと、彼はうやうやしく一礼した。


「私は領主マザーク=リンカルスの執事をしております、ザイレンと申します。あなたの御武勇、聞き及んでおります」

「はあ、どうも」

「つきましては、領主マザークが是非話をしたいとのことでして、屋敷へご来訪いただきたく思い、参りました」

「……どうも」


 ――こういう招待は勇者として名が売れた以降幾度もあったのだが、面倒事ばかりという記憶があるため、正直な所行きたくない。

 ま、今回は調査ということで行為に甘えさせてもらうが……まさか「娘を嫁に」などと言い出さないだろうか。


「……取り越し苦労かな」

「何か言いましたか?」


 呟きにアミリースが反応。俺は首を左右に振りつつ、ザイレンへ承諾の意を告げる。


「わかりました。お受けします」

「は、ありがたく思います。では」


 言いつつ、彼は手で屋敷への道を示した。


「私についてきてください」

「はい」


 ――かくして、俺とアミリースは屋敷へ行くこととなった。






 屋敷へ向かう途上で、俺はザイレンから色々と話を聞くことができた。


 まずロウという人物について。彼はこの村の出身者で、剣を学び魔物を倒すようになったとのこと。偶然にも傭兵をやっていた人物がいたらしく、その人から剣を教わったらしい。ちなみにその人物は亡くなっているとのこと。

 そして彼が戦う理由だが、村周辺は魔物が跋扈する場所であるため、小さい頃から戦いたいと考えていたそうだ。その理由なら武具を渡すのも頷けるし、応援したくなる。


「それで、あのケイトという方は?」


 俺は前を進むザイレンへと問い掛ける。彼は「ふむ」と小さく呟き、


「ロウ様の幼馴染とのことです。具体的な関係は私にもわかりかねますが、彼女は一度村を離れ、魔法使いとなって、ここに舞い戻ってきました」

殊勝(しゅしょう)ねえ」


 アミリースが呟く。俺は内心同意しつつ、カレンやミリーが合わさったようなポジションかな、と心の中で推測してみる。


「そうして二人は戦うようになり……その中にマザーク様のご息女、パメラ様も参加することになりました」


 そこまで語ると、ザイレンは背後にいる俺達に首を一瞬だけ向けた。


「……一つだけ、事情をお話しておかなければなりません」

「事情?」

「はい。マザーク様の奥方について」


 やや声が重くなった。


「奥方は数年前に亡くなっております。ご家族で狩猟に出かけられた時、魔物によって殺されました」


 ――なるほど。色々と訳ありのようだ。


「マザーク様は今もその話をすると錯乱する場合があります。なので、奥方のお話だけは控えて頂くようお願いします」

「わかりました」


 二つ返事で応じる。ザイレンは「お願いします」と再度告げ――村を離れ森の中の道へ足を踏み入れた。


 木漏れ日の道、という感じだが歩くには一切困らないくらいには光がある。加えて道は、なだらかな坂となっている。

 さらに道は曲がりくねり、これは結構遠いと高をくくった。


「そういえば、パメラ様はどのような力をお持ちなのですか?」


 ふいに、アミリースからザイレンへ質問がなされた。彼は歩きながら僅かに顔を上げ、


「奥方が亡くなられた直後から、マザーク様はパメラ様に魔法具を与えるようになりました。護身用にと渡したのが始まりのようですが……パメラ様は、それで戦うことを決意されたそうです」

「魔法具を……ということは、ロウ君やケイトさんのように修練したわけではないと?」

「ええ……パメラ様から言い出したことで、戦闘経験がない以上屋敷の者はお止めしたのですが、マザーク様は賛同され戦うようになりました」


 ――俺から見れば、無謀だと言わざるを得ない。領主が買い与える魔法具である以上強力な物には違いないだろう。しかし、何の訓練も積んでいなかった人物がそれらを手に取った瞬間、戦えるとはとても思えない。

 けれど……俺は先ほど神々の魔法を見破った彼女を思い出す。もしかすると魔法具によって秘めた力が活性化され、領主はそれを認めたため戦うことを承諾したのかもしれない。さすがに魔法具の力だけで俺の存在を看破するとは思えないし。


「この辺りは要調査ね」


 小声で、アミリースが呟く。こちらが小さく頷くと、彼女はさらに質問を重ねた。


「それで……女神によって武具を授かったロウ君は、今後どうされるのでしょうか?」

「それほどお変わりはないでしょう。ロウ様は元々この村を守るために剣を握った方ですから……ただ」


 と、ザイレンは何やら不安げに声を上げる。


「実はロウ様も屋敷へ招いているのですが……マザーク様は、よからぬことを考えているかもしれません」


 よからぬこと……? 俺としては「ロウと娘のパメラを結婚させる」とかそういうのを想像したのだが、


「もしかすると、近隣にいる魔族の討伐要請を行うかもしれません」

「……おいおい」


 俺は思わず呻いた。魔族って。


「マザーク様は魔物、ひいては魔王や魔族をひどく憎んでおられます。私の目から見て、ずいぶんと無茶な行動をされることもありましたので、その可能性も十二分にあるかと」

「……わかる範囲でいいんですけど、勇者ロウに魔族との戦闘経験はあるんですか?」

「なかったかと」


 俺の質問にザイレンは即答した。


「そもそも、近くにいる魔族はこちらよりも首都を視野に入れている、という面が強いですから」

「その魔族は、どこにいるんですか?」

「この村から北、山を一つ越えた先に」


 山を越える以上、結構遠いような気がする。また、この王国にだって勇者はいるだろう。そちらに任せるのが適任のはずだが――


「ある時、マザーク様はパメラ様の魔法具を用いて、山を越え魔族の本拠地に近い場所に転移方陣を作成したとおっしゃっていました。つまり、討伐する場合山を越えるのはすぐ……今日にでもその場所に行くことができる」

「……なるほど」


 納得の声を上げつつ考える――当のパメラは勇者ロウと共に戦う人物。これ以上のお膳立てはないだろう。


「領主様が憎んでおられるのなら、そう言う可能性は高そうですね」

「……でしょうな」


 俺のコメントに、ザイレンは一つため息をついた。


「それで、セディ殿。もしそうした場合……一つ頼みが」

「協力して欲しいと?」

「はい……というより、マザーク様があなたを招待したのは、それが理由かもしれません」

「はあ、そういうことですか」


 ここの領主の憎しみは骨の髄まで達しているようだ。確かに奥さんを殺されたのならば、わからないでもない。

 けど、話を聞く限りずいぶんと暴走しているようにも思える……通用するかどうかわからないが、(いさ)める必要があるだろう。


「ふむ……」


 考えていると、アミリースが声を発した。視線を送ると口元に手を当て何やら考えている。


「どうした?」

「ん……いえ、何でもないわ」


 返答するが、顔にはありありと思案している様子が。


「領主についても、多少調べているのか?」

「いえ、そちらは」


 問い掛けに彼女は首を振る。だとすると、魔族に固執する領主に対する懸念だろうか。

 女神なりに色々考えることがあるのだろう……なんとなく言及できず、俺は沈黙することとなる。


 以後、いくつか世間話めいたものはあったが、重要な情報は出てこなかった。とはいえ、ここの領主の考えはある程度理解できたので、頭の中でその解答を考えておく。

 一番問題なのは、魔族討伐についてだ。ここはシアナに連絡してどうするべきか協議するしかない。大いなる真実を知らないとすれば、ちょっとばかり面倒なことになりそうだ。


「どうするかな……」


 俺は聞き咎められない程度の声で呟く。調査に際し、難題ばかりのような気がしてくる。

 ため息をつきたくなってくるが――なんとか堪えザイレンの背中を見据えた時、森を抜けた。


 正面に、見上げるくらい高い屋敷が現れた。木造でありながら藍色に塗られた建物は魔族が構える要塞くらいに迫力がある。


「どうぞこちらに」


 ザイレンは手で真正面にある玄関を手で示す。俺とアミリースは無言で従い、彼の案内により屋敷の中へと入った――

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