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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
女神降臨編

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勇者の住む村で

 しばらくして、俺は青年達が住む村へと行くことになった。ちなみに一番後方で尻もちをついていた男性だけは「事情を説明しとくよ」と言い先に向かった。

 で、未だ放心状態から脱していない青年を諭しつつ、村へ。その途中で自己紹介も行う。


「ロ、ロウといいます」


 口火を切ったのは青年。彼は俺におどおどした態度を見せており、なんだか苦笑してしまう。


「そんな緊張しなくてもいいのに」

「い、いえ……」


 彼は首を横に振る。どうやら俺の話を耳に入れているらしく、始終こんな調子だ。

 けれど話しは進めないといけないので、他の女性陣に顔を向ける。


「私は、ケイトと申します」


 続いて黒髪の女性。彼女はさらに残る銀髪の女性を手で示し、


「彼女は、パメラといいます……」


 と、彼女が語った時パメラが小さく礼を示したのだが、瞳がどこか警戒する様子を見せている。


「……えっと」


 ケイトはそれに気付いているのか、俺に申し訳なさそうな表情を送った。


「ああ、気にしないで」


 対する俺は態度を変えないまま、手をパタパタと振った。


「ほら、俺は茂みに隠れて様子を見ていただけだから、不審に思っているんだよ」

「いえ、そんなことは」


 銀髪の女性が否定する。けれど瞳の色は強さを変えないまま。


 うーん、最初からこんなに訝しんでいる……大丈夫だろうか。きっと、偽物とかを警戒しているのだろう。

 無理もないとは思う。ロウやケイトが怪しむ様子を見せないので、代わりに注意している面もあるかもしれない。


 その辺は、何かもう一押し必要だろうか……とはいえ、手が思い浮かぶようなこともない。おいおい考えるべきだろう。


「えっと、セディ様」


 考えていた時ケイトの声。呼び掛けられたのだが、俺は様付けが気になり、


「そんな丁寧じゃなくてもいいよ」

「と、言いますと?」

「様付とかじゃなくても。あと、砕けた口調でいいよ」

「さすがに、そこまでは……けれど、頭には入れておきます」


 ケイトは真面目に応じつつ、改めて話しを切り出した。


「それで、なぜこのような場所に?」


 尋ねられ、俺は頭の中でどう説明するかを思案する。

 仲間や知り合いが来た時のために、つじつまの合う話をしておくべきだろう。幸い、少し前までジクレイト王国にいたので、それなりに整合性も……いや、数日でここに来たというのは、違和感があるか。


 けれど、ひとまずはそれしかない――意を決し、口を開く。


「えっと、ジクレイト王国にまつわる事件は知っている?」

「事件?」


 ケイトから聞き返される。まだこの辺に話は伝わっていないらしい。


「かいつまんで説明すると、古竜が出現し、騎士団と共に戦っていたのが数日前」


 語ると、ロウ他、パメラまで驚いた。古竜については知っているようだ。


「その戦いが終わって旅を再開。で、仲間がいたんだけど……その人物を事件後すぐにとある場所に送り届けて……ここに来たというわけ」

「そう、ですか……」


 ロウが応じる。相変わらず剣を抱えたままで、なんだか窮屈そうに見えた。


「その剣、どうするの?」


 なんとなく質問してみると、彼は体を大きく震わせ、


「ど、どうしましょうか……?」


 聞き返された。まだ状況が飲みこめていないのだろうか。


「これ、本当に現実なんでしょうか?」


 そんなことまで言い出す。心が浮ついているようなので、一応注意しておくべきかと思った。しかし、


「ロウ、もうちょっと自覚しなよ」


 先にケイトから非難が飛んだ。


「あのね、見たでしょ? あれはどう考えても女神様だよ、め・が・み・さ・ま」

「い、いや……それはわかっているけど」

「選ばれたんだから、もうちょっと――」

「直に理解できるようになるさ」


 俺が逆にフォローを入れる形となる。途端にロウは口をつぐみ、ケイトはその姿を見てこれ見よがしにため息をついた。


「……まったく、相変わらずというか」


 ――なんだろうか、両者の関係が以前の俺と幼馴染に見えてきたんだが。

 彼もまた俺と同様色々と決断を遅らせるタイプなのかもしれない……思うと、ちょっとだけ親近感が湧いた。


「ほら、パメラもなんか言ってやってよ」


 そうして今度は沈黙を守るパメラへ言った。当の彼女はケイトの言葉にやや驚いたが、


「……仕方ないと思います」


 小さな声で答える。直後、ケイトががっくりと肩を落とした。


「今後、大丈夫なのかな……?」


 そう不安を漏らす彼女。これからの未来を多少なりとも不安に思っている様子。

 いよいよ女神から武具を授かった。おそらくこれから激しい戦いが待っているはずなので、大丈夫だろうか――そんな風に彼女は考えているのだろう。


 そういえば、俺が勇者として名が知れ渡り始めた時、義理の妹であるカレンが似たようなことを思っていたと以前語っていた。名声が高まるということは、それ相応の頼みが回ってくる。女神にまつわる武器を手に入れた以上、ロウも間違いなく大仕事が控えているはずだ。

 果たしてそれがいつになるのか……噂なんかが広まり次第そうなると思うので、あまり時間はないかもしれない。しかもここは勇者も少ないだろう土地。なおさらだ。


「ま、どうにかなるものだよ」


 けど過度に不安をあおっても仕方がないので、楽観的に告げる。ロウは頷いたのだが、ケイトは不安を拭えないのか険しい顔をした。


「ですけど……」


 なおも突っかかる彼女であったが――ふいに言葉が止まった。正面に、村が見えてきたためだ。


「あそこが君達の暮らす村?」


 尋ねると、ロウ達は一様に頷いた。


 ひとまず外観を確認する。俺から見て右側と奥に森。左に畑がある、そして周囲は、山に囲まれた盆地。

 入口から村の真ん中を突っ切るように一本道があり、さらに村から上、森を隔てた場所に藍色を基調とした大きな屋敷の上部が見えた。この辺一帯を治める領主の屋敷なのだろうと推測しつつ、豪勢な建物だと思った。


 そして、気付いたことはもう一点。村の入り口近くで人が固まり、その中には先ほどの戦いを見ていた人がいる。


「あ、こっちに気付いた」


 俺が声を発した――直後、出迎える様な歓声が周囲に轟いた。


「すっかり広まったわね」


 腰に手を当てつつケイトが言う。俺は頷いてからロウを見ると、絶句していた。


「ほら、さっさと称えられなよ」


 そこへケイトは、言いながらロウの背中をバンと叩いた。彼はおっかなびっくり頷きつつ、村の入口へと進む。

 歓声が、一際大きくなる。誰もが勇者の誕生を祝福し、称えているようだった。


「本当に、大丈夫かな……?」


 そんな中、俺はケイトが呟くのをしかと聞いた。ロウが頼りない様子を見せているため、そうした言葉が出るのだろう。

 俺も勇者になりたての頃はあんな感じだったか……なんだか自分の過去を見ているようで気恥ずかしさすら感じつつ、彼が輪の中に入っていく様子を眺める。


「まあ、落ち着いたら彼も理解できると思うよ」


 俺は心配そうなケイトへ告げる。けれど彼女は一切表情を変えず、


「きっとグダグダになるに決まっています」


 あまつさえ、そんなことまで言い出した。これはかなり手厳しい。

 ロウへ目を向けると、なぜか胴上げされていた。村人がああした反応をするのは無理もないが、やられている方は剣を抱えつつ棒のように硬直している。


「……止めてきます」


 ケイトが見るに見かねたか、声を発しそちらへ駆け足。結果、残されたのは俺とパメラ。


「……これから大変だろうな」


 俺は二人になった直後そんな風に呟き、話の矛先をパメラに向ける。


「えっと……ケイトさんはしっかりしていそうだから大丈夫だと思うけど、できるだけ彼のフォローをしてあげてくれ」

「……はい」


 やや沈黙を置いて、返事が聞こえた。そこで俺はふと、彼女の横顔を確認する。


 無表情に近かったのだが、ほのかに口の端が上がっているのを見逃さなかった。少なくとも目の前の光景を祝福しているのは、間違いないようだ。

 さらに俺は、硬質な態度が薄れた彼女から、どこか浮世離れした雰囲気を抱く。魔法を使った俺に気付けたこともあるし、やはり何かしら特殊な力を持っていると考えてよさそうだ――


 考えながら目を戻す。胴上げが終わり、今度は俺達を指差していた。


「行こうか」


 提案しつつ歩を進める。パメラは無言でそれに従い、二人して騒ぎの中心近くに赴いた。


「あんた、勇者セディなんだって?」


 先んじて村人が問い掛ける。俺は小さく頷きつつ、


「えっと、旅の途中で……」

「ああ、お知り合いの方が会いたがっていたよ」


 え、知り合い? 途端に俺はドキッとなり、思わず尋ねた。


「え、ここにいるんですか?」

「ああ。女性で、この村に度々来る人だ」


 女性? ここに来る? 

 頭の中で疑問符をいくつも生じ――少しして、人ごみをかき分けるように進んでくる人物が見えた。


 そして、相手が明確に姿を現す――


「セディさん、久しぶり」


 ――髪を黒く染め、なおかつ灰色のローブを着込んだアミリースだった。え、ちょっと待て、何をしているんだこの女神。


「あ、もしかしてお忘れ?」


 彼女はどこか不満げに――確実に演技だと思うが――俺に近寄ると手を取った。


「話を合わせて」


 そうして誰にも聞き咎められないくらいの小声で俺に言った。


「アミルですよ。憶えていますよね?」

「……あ、ああ……久しぶりだ」


 俺はすかさず頷き、手を離すと頭をかいた。


「ごめん、いきなりの再会でちょっと驚いたんだ」

「そうなの……ところで、他の方々は?」

「あ、別行動だよ」


 質問に適度に返しつつ俺は周辺を見回す。相変わらずロウは村人に持てはやされ、取り巻いている人の中でケイトやパメラが彼を見守っている。


「……これから、どうするんだ?」


 小声でアミリースへ尋ねる。すると彼女は微笑み、


「あの銀髪の女性について、多少調べないといけないかな」

「……わかった。ひとまず村人に話を聞くことにするか」


 俺は返答すると、近くにいる村人から事情を訊くことにした。

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