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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
女神降臨編
44/428

女神という存在

 案内された部屋は、玉座からずいぶんと離れた場所。俺の部屋がある反対側くらいに位置する、大きな会議室だった。


「幹部達を呼んでも使えるように作ったのだが、活躍するケースはほとんどないな」


 エーレが部屋を見回しながら告げる。俺は声を聞きながら高い天井を見上げ、改めて部屋の全容を確認する。

 扉から見て左右に長い部屋で、中央には幅に準ずるような長い会議用のテーブルが一つ。さらに椅子が綺麗に並んでおり、その全てが漆黒の色合いをしているとなると、中々の迫力がある。


 エーレはツカツカと足音を立て、左横の隅――議長が取りまとめるような場所の椅子を引き、着席した。


「リーデス、ファールン。両者は外で見張りをしていてくれ」


 エーレが言う。廊下に残っていたリーデス達は無言で了承し、ゆっくりと扉を閉めた。

 残ったのは俺とエーレ。そしてシアナとアミリース。その中でアミリースが歩き始め、突如足元に魔法陣が出現した。


 短距離転移――認識すると同時に彼女は光に包まれ、机を越えた反対側に出現する。


「アミリース、運動不足になるぞ」

「どうも」


 エーレが指摘すると、アミリースは微笑み答えた。


「ご心配なく、普段は色々と動き回っているから」

「転移に頼ると物臭になるからな。気を付けるべきだろう」

「相変わらず気を遣うのね、エーレは」


 世間話めいた言葉に俺は多少驚きつつ……シアナに袖を引っ張られ、動き出すこととなった。

 やがて全員が着席。俺の席は左にシアナ、そして真正面の席の左隣にアミリースがいる形。会議室の広さを思えばずいぶんと寂しい。


「さて、まず本題に入る前に」


 最初に口を開いたのは、エーレ。


「アミリース、セディについては普段通りの口調でいいぞ。気を遣うと逆に緊張する性質だからな」

「あ、そう?」

「何でエーレが言うんだよ」

「いつまで経っても態度が変わらないからだ。管理の都合上神側との折衝もある。早く慣れてもらうための処置だ」

「私は構わないわよ」


 アミリースが丁寧に答える。ニコニコしており毒気が抜かれ――ながらも、体の奥底では緊張が走る。


「ほら、そういう態度だ」


 決して見えていないはずなのにエーレが言う。俺は半ば認めるように「わかったよ」と答え、


「話を進めてくれ」

「わかった……さて、アミリース」

「ええ」

「ここまでの経緯は報告を行ったため知っていると思うが、おさらいのためにもう一度説明しておこう」


 前置きして、エーレは語り始めた。グランホークの一件に始まり、ジクレイト王国で起きた事件。特に相手は魔王を倒すことをあきらめていないのでは、ということを長々と伝え――


「この事態は、重く見るべきね」


 説明を受けたアミリースから発せられた。


「話から、敵は大いなる真実を知る者……しかしその姿はまだ隠れており正体は掴めていない……か。エーレ、対策はどうするつもりなの?」

「現状出ている情報をシアナがまとめる予定となっている。そこから敵を導きだすのは難しいとは思うが、もしかすると裏切っている魔族の存在が浮かび上がるかもしれない」

「わかったわ。私も賛成」


 アミリースは賛同し、なおかつうんうんと何度か頷き、


「こちらには実害が出ていないけれど、大いなる真実を脅かす存在であるのは間違いない。できる限りの協力をするわ」

「ありがとうアミリース……とはいえ、現状魔族側の騒動であるため、表だって何かをする必要はない」

「そう……それで、私達は今後どうすれば?」


 問うと、エーレは視線を俺へ向けた。


「事件で色々とうやむやになっている節があるのだが、現在セディに管理手法などを学ばせている。以前も言ったかと思うが、その辺りは協力してほしい」

「わかったわ」


 即座に承諾。俺は二人のやり取りを聞きつつ、神側の仕事を記憶から引っ張り出す。

 確か、大気中に含まれる魔力の管理と、勇者に武器を渡すことだったか。


「で、俺は今から何を勉強するんだ?」

「私が答えるわ」


 エーレに尋ねたのだが、声はアミリースからやってきた。


「私達が主に行っている魔力管理については神界に行かなければならないから、まずは武器渡し辺りから」


 ……ある意味一番裏側を知りたい部分からだ。俺は大いに興味を抱く。


「えっと……具体的には?」

「候補となる勇者の選定はある程度できているの。私がその方の前に現れ、武器を授けるというわけ」

「人間側から見たら、歓喜する状況だろうな」


 エーレが頬杖をつきながら語る。


「勇者選定については、魔物の調査をしている魔族側からまず候補を選ぶ。そして神側が武器を得るのに大丈夫かどうかを精査し、実行に移す」

「精査……というのは?」

「いくら武勇に優れているからといって、盗賊や殺人鬼に渡すような真似はできないということだ」

「あ、なるほど」


 人格的に大丈夫かを調査してから行うわけか。まあ、中には武具を手にして増長した結果、色々と問題を起こす事例もあるのだが――


「以後については、セディもきっと予想できているだろう」


 そこでエーレはふうと息をつく。


「武具を手にして使命感を覚え魔物を倒すようになるケースが大半だ。しかし逆に、好き放題やり始める存在もいる……例え心を読む魔法を使ったとしても深層心理に関わる部分である以上、探りようもない」

「暴れる勇者を是正するとかは、しないのか?」

「しないな」


 言いながらエーレは歎息した。


「その辺りの対処は主に人間側の役目だ。問題児となった時、各国の王と連携して無難なやり方を模索し、実行する」

「無難なやり方って?」

「例えば召し抱えて貴族にし、飼い殺しにするなど」

「嫌な結末だな……」

「まったくだ。そうならないようこちらも細心の注意を払っているのだが……ゼロにするのは無理だろうな」


 エーレはそこまで解説すると、アミリースへと目を移した。


「あまりにもひどい時……王などから要請があった場合、神側が対処する。あくまで、特例の話だが」

「天罰……とか?」

「そうだ。とはいえ無闇に天罰を落とすようなこともしない。私達は品性高潔な者を求めているわけではない。あくまで管理上魔物を倒してくれる者に援助をしている立場。基本、武器を渡した以後のことは関知しないようにしている」


 色々と面倒だな……まあ無闇に魔族や神が出てきても面倒事になりかねないので、現状の形なのだろう。


「というわけで、セディ。あなたにはひとまずアミリースの仕事ぶりを見てもらうことになるな」

「よろしく。ちなみに今日から早速やろうかと思うけど、いい?」

「大丈夫です」


 俺は応えつつ温和な彼女を見返し……一点気付いたことがあった。


「俺はこのままでいいんですか?」


 自分の姿を示す。すると、


「いや、魔族の格好でいてくれ。で、気配消しの魔法が使えたな? それを使って隠れるよう行動してくれ」


 エーレから返答が来た。


「……何で?」

「気付いていないのか? 人間の姿だと強制送還や転移魔法が使えないぞ? もしもの時すぐ退避できるようにしておいて欲しい」

「あ、なるほど。わかった」


 俺は納得し声を上げた時、エーレは静かに立ち上がった。


「では、話し合いも一区切りついたのでここらで一度解散しよう」

「ああ、エーレ。個人的な用件で伺いたいことがあるのだけど、いい?」


 アミリースがふいに呼び止めた。エーレは即座に頷き、


「いいぞ。ひとまず私の部屋に」

「わかった」

「で、俺は?」


 再度の確認。エーレは出入り口を指差し、


「部屋に戻り準備をしていてくれ」


 そう答えた。






 自室に戻り、エーレに言われた通り準備を始める……といっても、アミリースと会うために大体済ませていたので、やることもほとんどない。容姿を魔族のものに変えるくらいだ。


「女神の、降臨か……」


 姿見で格好を確かめた後椅子に座りつつ俺は呟く。

 勇者として活動していた時……女神に関する話を耳にした記憶はある。ある街の剣士の下に女神が降臨し、武具を授けたという話や、実際女神から武具を受け取った人の話も聞いたことがある。


 その時点で俺は今身に着けている魔法具を手に入れていなかったため、単純に羨ましいと思った。だから魔物との戦いに打ち込み、女神から認められてもらおうと――という時期もあった。

 けど、最終的には遺跡で魔法具を見つけ、それを使うことで魔族達と渡り合えるようになった。もし女神から武具を手に入れていたら、魔王城のこの部屋で魔王と協力するようなこともなかっただろう。


「良いのか悪いのか……まだ、わからないな」


 さらに呟き、天井を見上げる。


 俺が管理手法を学び始め――この結果が最終的にわかるのはずいぶん先の話。今は闇雲に手を伸ばしながら色々とやるしかない。

 まあ、現状より良いものに変えていくのが責務であり、そのために今がある――そんな風に思った時、ノックの音が聞こえた。


「はい、開いています」


 短いいらえを返しつつ俺は立ち上がる。同時に扉が開き、


「どうも」

「……どうも」


 アミリースが顔を覗かせ、少しばかり体が引き締まる。


「そう緊張しないで」


 笑みを浮かべながら彼女は部屋に入る。けれど俺としては自然となってしまうので、上手く是正できない。


「ああ、えっと」


 さらにどう声を掛けていいかわからず躊躇う始末。そんな時、


「セディ様」


 今度はシアナが廊下から顔を覗かせた。


「シアナ? どうしたんだ?」

「お見送りに」


 端的に応じた彼女は、アミリースの隣に立ちさらに続ける。


「今回はいつもの転移魔法陣ではなく、アミリース様主導の魔法なのでお姉様は立ち会わないとのことです」

「あ、そうなのか……で、転移する場所は?」

「ここで大丈夫」


 柔和な声と共にアミリースが答えた。


「では早速ですが、向かうとしましょうか」


 そして提案。俺は流されるまま頷き、席を立とうとした。


「セディ様」


 次にシアナの声。彼女はこちらに近寄り、おずおずと何かを差し出した。


「ん? これは……?」


 シアナの手には黒い石が埋め込まれた指輪が一つ。


「連絡用の魔法具です」

「連絡って……以前シアナがエーレに使っていたような?」

「はい。定期的な連絡が欲しいので」

「わかった」


 俺はシアナから指輪を受け取り……少し思案して左手の人差し指に身につける。魔法系統なので、こちらの方が得策だろう。


「ちなみに私に繋がるようになっています」

「シアナに?」

「はい。もしも前のような事象に遭遇した場合……私の方に情報が集まれば解析も進みますから」


 俺の報告を含め情報の集約先をシアナにしたいらしい。まあ、詳しい解析を彼女に任せたのだからやり方としては間違っていない。


「なので、よろしくお願いします」

「わかった。きちんと報告はするから安心してくれ」

「はい……あの」


 シアナは上目遣いとなり心配そうな顔を見せる。俺は首を傾げ、言葉を待つ。


「……無茶だけは、しないでくださいね」

「ああ、大丈夫」


 彼女の言葉を聞いて、俺は深く頷いた。


「大丈夫よ、シアナ様」


 そこへ、アミリースからの声が飛ぶ。


「いざとなれば、天使の兵団がセディ様を守るので」

「滅茶苦茶頼もしい援護ですね」


 俺はちょっと驚きつつアミリースへ応じると、彼女は微笑を浮かべ、


「シアナ様の婚約者ですからね。当然です」

「ぶっ!?」


 吹いた。ちょ、ちょっと待ってくれ!

 シアナを見ると真っ赤になっていた。そしてアミリースへ体を向け、


「ち、違います!」

「え? 親愛の儀を行ったというのはそういうことではないの?」

「あ、あれは作戦で……!」

「けれど解消していないし、さらに言えばシアナ様が十分セディ様を想っているのは私も知っているし」

「え、あ、う……」


 沈黙し俯くシアナ。そして俺はというと、何も言えず背中に嫌な汗が伝う。

 意表を突かれた……いや、エーレの親友ということで予想してしかるべきだったかもしれない。けど、女神にすら伝わっているとは、予想の範囲外だった。


「それに、セディ様もきちんとシアナ様の意を汲んでいるそうじゃない」


 なおも続けるアミリース。口上から間違いなく全部伝わっている。

 ――もしかして、エーレは既成事実を作っているのか? だとしたらとんでもなく性質が悪いのだが。


 ついでに言うと、面白おかしく語るアミリースも同罪のような気がする。神様が聖人君主だと俺は思っていなかったが……なんというか、こういう面があるから人の前に出ないのではと感じた。


「あ、そうだ」


 さらにアミリースは、シアナの両肩に手を置く。


「シアナ様にこれだけは言わないと」

「……え?」


 ややトーンの落ちたアミリースの言葉に、シアナは顔を上げた。

 俺もまた沈黙する。なぜなら、何かを語ろうとする彼女の視線がひどく真剣であったためだ。


 何か重要な事柄があるのか――シアナも姿勢を正し、表情を戻しアミリースの言葉を待つ。


「いい、これだけは憶えておいて」


 そして、シアナの目を離さず彼女は告げた。


「殿方を満足させるには、まず自らが率先して――」

「何を話そうとしているんですか!?」


 思わず叫んだ。同時に意を介したシアナがまたも赤くなる。


「あ、え、えっと……」

「これは非常に大切なことです。いいですか――」

「ちょ、ちょっと待って下さい!」


 すかさず制止する。対するアミリースは俺に首を向け、


「セディ様、私に敬語は不要なので。あと呼びつけで結構なので」

「いや、そうじゃなくて!」

「これはセディ様にとっても大切なことよ?」


 ――その言葉を聞いた瞬間、俺はがっくりと肩を落とした。ここに至り、神が人間のところに現れることがない理由を確信した。


「あ、あの……アミリース様」


 続いて顔を赤くしたままのシアナが声を発する。


「セディ様が困っていらっしゃるようなので、ここはとりあえず……」

「ん、そう? わかった」


 アミリースはあっさりと承諾。しかし、


「この続きは、また今度ということで」


 終わらないのか、マジか。


 なんというか、つくづく人間味あふれる神様――いや、俺達人間が勝手にイメージを持っているだけで、実際こんな感じなのかもしれない。魔王城が財政難であったように、イメージを保とうと頑張っているのかもしれない。


「では、改めて」


 色々と想像する中、アミリースは俺へと声を上げる。


「セディ様、行くことにしましょうか」

「……はい。あ、俺のことは別に様付けでなくてもいいので」

「ええ、わかった」


 にっこりと語るアミリース。先ほどの言動と相まってその顔が俺をからかうように見えてしまう――


「緊張は、ほぐれたようね」


 次に発せられた言葉に、はたと気付いた。

 もしかして、緊張をほぐすため色々とやっていたのか? 会話の内容は相当アレだったが……いや、そういう話題だったからこそ、


「シアナ様、今度ゆっくりお話しするので」


 前言撤回。俺への配慮半分、冗談半分といったところか……配慮が半分もあるかどうか疑わしいが。


「……はあ、わかった。行こう」


 俺は疲れた声で応じる。先ほど敬語不要だと言っていたのでタメ口で。なんというか、敬語を使うのも馬鹿らしくなった。


「で、アミリース。どこに行くんだ?」

「調子、戻ったみたいね」

「そりゃあ、まあ……で、目的地は?」

「これから案内するわ」


 楽しそうに告げる彼女。まとう雰囲気は間違いなく女神そのものなのだが、先ほどの会話でイメージが変わったので、最早なんとも思わない。


「き、気を付けて」


 シアナが告げる。俺は「ああ」と答えた時、足元に魔法陣が出現した。


「行ってくる」


 最後にシアナへ告げる。彼女はそれに微笑みながら頷き――視界が白く染まった。

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