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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
女神降臨編
43/428

女神の訪問

「……準備、完了と」


 魔王城にある自室。その中で魔族ではなく人間となって佇む俺は、部屋にある姿見で自分の格好を確認していた。

 人間時の、いつもの黒髪に黒い瞳。本来ならば衣装も黒一色なのだが、今回は来客ということで青く色を変化させている。


「異常はなし、と」


 呟きつつ、上から下を確認。なんとなく腰に差してある剣の向きを調節し、


「行くか」


 声を発し、姿見から離れ部屋を出た。


「準備できたようだね」


 そこで声。扉を開けた真正面に、リーデスが廊下の壁にもたれかかりながら立っていた。


「リーデス、おはよう」

「おはよう……さて、そろそろ来るらしいから、一緒に行こう」

「どこで待つんだ?」


 訊いた俺に、リーデスは小さく笑う。


「それはもちろん、玉座だよ」

「玉座、ねえ……」

「どうしたの?」


 眉をひそめる彼に対し、俺は頭をかきつつ答えた。


「いや、もし事情を知らない人が見たとすれば……とうとう神々が魔王の下へ! みたいな想像をすると思ってさ」

「ニュアンスは多少違うけど、大体あっているんじゃない?」

「確かにそうだけど……いや、やめとこう。話が進まない」


 答えてから、歩き出す。その横をリーデスは進み、笑い掛けながら会話を続ける。


「もしかして、緊張しているのかい?」

「そりゃあ、まあ……なんたって相手は女神だからな」


 呟きつつ、俺は今回会うことになる相手――女神という存在に少しばかり気後れする。


「人間の俺からすれば雲の上の存在だから」

「陛下の場合は?」


 どこか不服な様子でリーデスが言う。俺はそんな彼に首を向けつつ答えた。


「エーレの場合は、そもそも最初が敵同士だったからな。そんな感情を抱くような暇もなかった」

「なるほど、立ち位置の問題なわけか」


 リーデスは口元に手を当て、何やら考える仕草を見せる。それで沈黙してしまったので、俺は顔を戻し、

 前方にシアナとファールンがいるのを発見した。


「あ、シアナ」


 呼び掛ける。彼女達は気付き、こちらに小さく手を振った。


「セディ様、おはようございます」

「おはよう。今から行くところ?」

「はい」


 頷く彼女。姿は漆黒のドレス姿でいつもの格好。そして傍らにいるファールンも黒の鎧を着込んでおり、侍女めいた様子は鳴りを潜めている。


「では、行きましょう」


 シアナが玉座方向に手をやり告げる。俺は無言で頷き、彼女と隣同士となって廊下を進み始めた。


「緊張なさっているようですね」


 途中、シアナの声。俺はリーデスに続き指摘されたため、苦笑する。


「見た目でわかってしまう程なのか?」

「ジクレイト王国で女王に会っていた時と同じようなご様子なので」

「なるほど。確かにそんな感じだな」


 彼女の言葉に同意する。言われてみれば、勇者として王様に謁見していた時と似たような感覚だ。


「その辺も、もう少し是正しないとね」


 後方からリーデスの言葉。俺は「そうだな」と同意しつつも、結局緊張は解れずそのまま玉座へ向かうこととなった。






 ――ジクレイト王国で古竜討伐を行い、俺達は魔王城へ戻って来た。ファールンと女王との再会の翌日、俺はレナに別れを告げ、魔王城へ帰還。そこから改めてエーレから女神来訪の知らせを聞き、翌朝の今日こうして迎えようとしていた。


「お、来たか」


 玉座の間に入ると、そこにはいつものようにエーレの姿。深紅のドレス姿も見慣れたものだが、今回は玉座に折り目正しく座っている。


「エーレ」


 そんな彼女に、俺は感想を述べる。


「座り方、もうちょっとどうにかならないのか?」

「これが一番楽な姿勢なのだ」


 そう返された。綺麗なその座り方が楽な姿勢とは……相当作法を叩き込まれているのかもしれない。


「私の父はああだったが、作法に関してはとやかくうるさかったからな」

「……その父親がどういった存在なのか、俺はよく知らないんだが」

「ん、そうだったか? まあ、その話はやめよう」


 あっさりと打ち切るエーレ。俺はちょっとばかり聞きたそうに視線を送ってみるが……彼女は無視するように口を開いた。


「さて、今からアミリースがやってくるわけだが……今回、彼女は複数の目的を携えている。その中の一つ、一連の騒動について、まず私達で話しあう」


 騒動――間違いなくグランホークやジクレイト王国の事件に関することだ。


「魔族の中で何かしら動いている……これはできれば私達だけで対処したいところだが、神側も情報共有だけはしたいとのことだ。ただ、助力を請うような真似にはならないはずだ」

「そういうケースって、あったのか?」


 俺はなんとなく疑問を投げかける。すると、


「協力するようなことはなかった」


 エーレはきっぱりと答えた。

 まあ、当然だろう。魔族と神々が共に世界の管理をしているとはいえ、両者が協力等している姿は、大いなる事実を知らない者達には奇異に映る。


「セディも推察していると思うが、基本的に私達魔族と神々は並び立たないようにしている。そもそも管理を行う分野も違うので、出会うようなこともないのだが……例え大いなる真実を知る幹部であったとしても、共に動くようなことはしない」

「見られないように、という思惑が強そうだな」

「そうだ。スキャンダルもいいところだからな」


 俺の言葉にエーレは同意しつつ、こちらに視線を送った。


「で、もう一つの目的だが、管理に参加することになった人間を見定めに来るそうだ」

「……おい」


 思わず呻く。それはつまり、俺に会いに来るということか?


「そう緊張する必要はない。私があなたを迎え入れている以上、神側が反論するはずもないからな。ただ……」

「ただ?」

「今後管理をしていく上で、神側の仕事を人間にさせるべきかどうか……その辺を見定めるつもりかもしれない」


 ――相当、重大であるような気がする。俺は思わず身構えた。

 対するエーレはこちらの様子を見て笑う。


「だからそう緊張しなくてもいい。普段どおりしていれば」

「普段どおりって……」

「なんだか混乱しているね」


 横からリーデスの声。俺は心の中で同意しつつ、どうすればいいのか思案しようとして――


「ああ、いいから。セディ、あなたは私と接するような態度をしていればいい」


 エーレから助言がきた。俺はどこか流されるように頷く。


「彼女は直に到着するだろう。それまでに指令を与えておこう」


 次に、彼女はシアナへと向き直った。


「シアナ。現在までに判明している、クーデタに関する情報を集約、解析を頼みたい」

「わかりました。資料はどちらに?」

「私の書斎だ。アミリースと話し合いの後、渡すことにする」

「はい。わかりました」


 承諾の言葉を聞くと、エーレはリーデスやファールンへ顔をやる。


「リーデスは、ひとまず城の中で待機」

「はい」

「そしてファールンは継続してシアナの護衛を頼む」

「了解いたしました」


 端的な指示が終わる。続いてエーレは再度俺に目線を送り、


「さて、残るセディだが……アミリースの言動により状況が変わるだろうから、指示は一端保留とする」

「可能性として、俺は何をするんだ?」

「見定めると言っただろう? ただその前に、神や女神がどのようなことをするのかを見ることも必要だ」

「……それって、つまり」


 女神の仕事を実際に観察するということか――口を開こうとした時、エーレは意を介したか深く頷いた。


「そういうことだ」


 彼女が告げた――直後、後方から突如気配が生まれた。

 反射的に振り返る。廊下へ繋がる大扉はきちんと閉ざされている。しかし、扉の奥には間違いなく気配があった。


 そしてそれはどこか穏やかであり、温かいもの。


「気が付いたか」


 エーレが言う。俺は体を反転させ見返すと、彼女は微笑んでいた。


「神や女神は意識的に気配を発している。普段ここに来る時そうした素振りは見せないのだが、今回はセディがいるということで見せたのだろう」

「いきなり出現したよな……転移魔法は使えないんじゃないのか?」

「彼女の魔力については許可している。そうでもしなければ、こちらとすぐに連絡をとれないからな」


 エーレは言うと、指をパチンと鳴らした。直後、後方から扉が開く音が聞こえた。


「神々は人間にとって安心できる気配を放つようにしている。加えて人間がすぐ気付くことができるよう配慮され、さらには武具を授けるために降り立った女神や天使であるとわかるようにする効果があるのだ」


 解説する中、俺は再度扉へ目を移す。扉の隙間から当該の相手が見え――


「こんにちは、エーレ」


 幾分線の細い――それでいて玉座に響き渡るような、ひどく澄んだ声を耳にした。

 姿が見え、じっと相手を観察する。目を見張るのが金縁刺繍が成された純白のローブと、足にはヒール。そして、深い緑色という色合いをした、ウェーブがかった髪。


 手には何も所持していない。代わりに両腕に金色の腕輪が一つずつ身に着けられ、そこからも魔力を感じられる。

 なおかつ顔立ちはエーレと比べてかなり温和。母性を兼ね備えた黒い瞳。濃いピンク色の綺麗な唇と、小顔。


 思わず見とれてしまう程の女神は、俺に視線を送るとにっこり微笑んだ。


「あなたが、セディ様ですね?」

「え、あ、はい……」


 半ば呆けていた俺は、少し狼狽えながら頭を下げる。


「セディ=フェリウスです」

「始めまして。私の名はアミリース=ニーメルシア。神界で、執政を勤める者です」


 答えに、さらに体を硬くする。エーレ達から聞いている情報などと照らし合わせ、彼女は間違いなく神の中でも上位に位置する存在。

 魔族側の長である魔王と対等に話す俺からすれば滑稽に思われるかもしれないが、女神を前にして奇妙な緊張が生まれていた。包み込むような母性が心を安堵させながら、それでいて神という存在が俺の体を芯から強張らせる。


「……これが人間の本能という奴かな」


 横でリーデスが呟く。俺は反応し首を向け、


「本能?」

「今アミリース殿は意識的に魔力を出している……けど、それがなくとも神という存在は人間に一定の畏怖を与えるということ。僕ら魔族に恐怖を覚えるようにね」

「慣れてしまえば問題ない」


 今度は後方からエーレの声。直後玉座から立ち上がったのか音がして、コツコツと靴音が響き始めた。


「よく来た、アミリース」

「ええ、久しぶりね、エーレ」


 にこやかに目の前の女神――アミリースが応じる。


「色々と用があって来たのだけれど……まずは再会を喜びましょう」

「ああ、そうだな」


 答えた時、エーレは俺の横まで到達した。


「で、改めて紹介するが、彼がセディだ。管理についてはまだ勉強中という身であるため仕事には参加させていないが、実力は折り紙つきだ」

「ええ、聞いている」


 アミリースは答えるとこちらへ視線を送りつつ、緩やかな動作で俺に右手を差し出した。


「今後、私達と協力することもあるでしょう。よろしくお願いしますね」

「は、はい……」


 応じながら俺は右手を出し、握手をする。そして手を離した時、エーレが再度口を開いた。


「さて、アミリース。セディへ尋ねたいこともあるだろうが……ひとまず生じた問題について話し合いたい」

「ええ、いいわよ」


 アミリースは即座に承諾し、声を聞いたエーレは一度ぐるりと見回した。


「では、場所を移そう。議題は、一連の事件に関する対策についてだ――」

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