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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
世界覚醒編

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果てなき旅路

 ここから先の物語は、ひどく地味で終わりのないものになった……いやまあ、現在進行形の話なんだけど。

 俺の行動をエーレは評価してくれたみたいで、仕事を行う以外は旅をして見識を広めることを認めてくれた。だから俺はエーレからお達しがない場合は仲間達と旅を続け、もし指示が来れば魔王城へ……という生活となった。


 それは傍からすれば不安定のようにも見えるけど……そもそも魔物を倒す勇者なんて、そういうものである。大抵勇者という称号を得た人達は、どこかで見切りをつけてどこかの国で剣術指南などを行って生活していく。剣を一度手放してしまえば傭兵稼業を続けることは不可能だし、こればかりは仕方がない。

 では俺の場合はどうか……なんというか、エーレからすれば仕事は山積みになっているとのことだ。少なくとも向こう十年は忙しなく動き回ることになりそうだ。


「セディのことが気掛かりではある」


 魔王城で仕事の話をしていた最中、ふいにエーレはそんな風に言った。


「気掛かり? 何が?」

「勇者と呼ばれた者は、最終的にどこかに腰を落ち着けるだろう? そうなったらおそらく家庭を築くだろう」

「まあ……そうだな。場合によっては息子娘が勇者となるべく剣を握ることになるな」

「セディはこういう生活をしている以上、魔王城に腰を落ち着けているわけだが……これでは家庭を築くことなど無理だ」


 いやまあ、確かにそうかもしれないけど。


「そこはまあ、今は考えなくてもいいんじゃないか? 時折旅をして、仕事をして……もうすぐ一年くらいになるけど、そこまで考慮する必要あるか?」

「こういう問題は、気付いた時に片付けておくに限る。まして他ならぬ勇者セディのことだ。優先すべき事項かもしれない」

「おいおい……といっても、具体的にエーレが何かをするのか?」

「そうだな、私としてはシアナを改めて紹介するという形で」

「お前なあ……」


 頭を抱える。最初の頃、色々あったわけだけど、結局シアナとは進展がない……というかまあ、彼女は彼女で仕事を抱えていて、そちらに熱中していると言えばいいだろうか。

 言わば仕事が恋人状態である。俺がこの一年の間に魔王城に幾度となく来て、シアナの仕事量がドンドン増えているのだ。しかもそれを彼女は楽しそうに処理している始末。


「シアナ、完全にワーカーホリックだよな」

「それは否定しない。私としてはもう少し抑えても良いと言っているのだが……」


 心配そうなエーレ。なんというか、彼女の事を話す今だけは、魔王も姉妹の関係になっているようだ。


「まあ、それについてはまた今度で」

「今度やるのか……? そもそも、魔族としては許すのか?」

「誰も文句は言わないだろう。少なくとも大いなる真実を知る者達は」


 俺がやって来たことにより、か……。


「ともあれ、だ。セディの将来に関しても後々考えていくべきだな。まだ大丈夫、まだ大丈夫などと言っている内に手遅れになるぞ」

「……まあ、考えておくよ」

「その言い方では考えないな」


 ああ、なんとなくわかる……俺も仕事の話ばかりで邁進しそうだからなあ。


「もしその辺り不安であれば紹介するぞ?」

「それ、シアナ限定だろ?」

「まあな」


 ――ここでふと、俺はあることを考えた。俺が思いつくくらいなのでエーレだって想定しているのだろうけど、なんとなく問い質してみたくなった。


「……なあ、エーレ」

「どうした?」

「もし、今ここで俺がエーレのことを嫁にしたいと言い出したらどうする?」


 ――魔王、固まる。


 時が止まったように硬直した。俺の言葉を処理できていないらしく、今までにない反応だったので内心でかなりビックリしている。

 即座に冗談だよと言えばそれで済む話だったのかもしれないが、こっちもこっちで沈黙してしまったので、エーレは本気だと受け取ったかもしれない。俺は沈黙しじーっと見据えていると、その顔が少しずつ紅潮してきた。女性らしい反応である。


「……さすがに、魔王相手に冗談とは思いもよらなかったぞ」


 と、ここでようやく態勢を立て直しコホンと彼女は咳払い。顔が熱いのか右手でパタパタと顔に風を送り、


「セディ、さすがに冗談も大概に――」

「その場合、断るってことでいいんだな?」


 問い掛けにエーレは再び固まった。というか、当然だとか返答がないってことは、脈があるのかもしれない。


 ――別に俺は冗談でここまで追及しているわけではない。ただ、俺自身も判然としない面があるのだ。少なくともエーレに対し俺は特別な感情を抱いている。だがそれは、恋とか愛とか呼べるものなのかわからない。

 その辺り、正直に話すべきかな……俺は頭をかき、


「はっきり言うけれど、エーレに対し特別な思いがあるのは事実だよ。もっともそれは信頼関係上のものなのか、それとも別の何かかは不明だ」

「……だからといって、冗談っぽく言うことではないな」


 ようやく落ち着きを取り戻したかエーレは応じる。怒りだしてもおかしくないのだが、俺の言葉を聞いてそんな気力も失せてしまったらしい。


「私に対してどう思おうと自由だ。しかし、それは茨の道だぞ?」

「魔王が相手だからか?」

「そうだ。例えばの話、シアナが相手ならばまだ話も通しやすい……が、さすがに現職の魔王ともなれば、どうなるか」

「そうだな……なら、その辺りのことを踏まえて今後、考えていくか」

「本気、なのか?」

「もし俺の気持ちが定まったら改めて言うよ。少なくとも、数年以内には、さ」


 その言葉にエーレは微笑を浮かべた。


「わかった。ならば……その時が来るまで、私もあなたの言葉に応じられるだけの答えを準備していることにしよう」

「わかった」

「……しかし、本当に驚いたぞ。まさかそんな奇襲が来るとは思わなかった」

「予測しているかと思ったんだけど……」

「さすがに予想外だ……あー、ビックリした」


 一瞬だけ素のエーレが出た。視線を送るとエーレは肩をすくめ、


「さて、それでは仕事だ」

「ああ、わかったよ……内容は既に聞いているけど、タフな仕事になりそうだ」

「そうだな。しかし大きな案件であるのは確か。期待しているぞ」


 その言葉に俺は頷く……この旅路の果てがどこに行き着くのか。俺のことも、エーレのことも、仲間達のことも。

 ともあれ、今はまだ旅の途中……少しずつ考えていこう。そんな風に思いつつ、俺は未来へと突き進んでいく――


完結となります。ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] セディの正しく勇者たる冒険譚が読み応えのあるボリュームで描かれた点。どうなるのかなと思っていた、エーレとの関係が進みそうなラストであったこと。 [一言] 完結おめでとうごさいます。 蛇足か…
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