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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
世界覚醒編

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輝く道

 結局、カレン達との話し合いでどうするかについては一致したので、エーレへその旨を報告。彼女も納得し、俺達は一度魔王城を離れることになった。

 そして向かったのは、故郷……里帰りというわけで、俺達の活躍を聞いていた村の人達は勇者クロエが故郷へ戻ってきた時のように沸き立った。


 そして故郷に滞在してから少しして、俺達は旅を始めた……故郷についてはいつでも戻れるし、それほど後ろ髪を引かれるような思いもなかった。

 で、その目的だが――


「しかし、こうしてまた街道を歩くとは」


 フィンが空を見上げながら呟く。現在俺の周囲にいる仲間はカレンとミリーとフィンの三人。勇者として……魔王を倒すべく活動していた時のメンバーだ。


「ま、大いなる真実なんて知った以上、この旅にも色々な意味があるはずだ」


 ――休暇、というわけだがそれで自堕落に過ごすつもりはなかった。俺がエーレに提案したことは、今後世界を管理していく上で、この世界のことを……勇者として、もっと知ることだった。

 そのために、まず俺は自分がエーレと出会うまでの旅路を再びなぞることにした。全ての町や村を訪れるわけではないにしろ、もう一度同じ場所を巡ることでも何かしら得られるものはあるだろう。大いなる真実……魔王と主神と顔を合わせ、勇者ラダンとの戦いを経た俺にとって、同じような旅でもまったく異なる表情を見せるに違いない。


「外面上は今までと同じなのに、ねえ」

 と、ミリーが苦笑を交え話す。まあ確かに。ただ魔王討伐のために旅をしているのと形の上では一緒だ。けれど、

「カレン達も、色々と考えてくれよ。大いなる真実を知ったからこそ、疑問に思うことや知っておくべきことがある」

「それを勇者として見るため、こうして旅を再開したわけですね」


 カレンの言葉に俺は頷いた。


 ――俺はこの世界の真実を知ったわけだが、それがどのようなものか、完璧にわかったわけではない。それに、エーレやアミリースといった面々ではわからないこともある……将来、世界を管理していくのであれば、俺の見方は価値の出るものになるだろうし、何かしら得たいわけだ。


「兄さん、特に期間は設けていませんが……その辺りはどうするのですか?」

「んー、特段いつまでということは決めていないんだよな。エーレも何かあれば招集を掛けるということらしいし」

「それに、もしこうした旅ならクロエさんを呼んでも良かったと思いますが」

「他ならぬ本人が断ったんだ。無理矢理誘うわけにもいかないさ」


 クロエについては、自分なりに考えることがあるとして俺達とは別行動をとった。彼女なりに今回の戦いを通して知りたいことがあるらしかった。だから俺は「わかった」と素直に引き下がった。

 彼女は彼女の考えがある。もしこの旅が終わって魔王城で顔を合わせることになったら、話を聞かせてもらおう。


「しばらくはこうして旅を続けることになる……俺達の旅路は大陸東部だけだったけど、西部に足を伸ばしてもいいな」

「ずいぶんと長い旅を想定しているようね……ま、付き合うけど」


 ミリーが楽しそうに笑う。最終的にこうした形に落ち着いて、ずいぶんと心が軽いらしい。


「本格的に仕事を……というのは、ずいぶん先の話になるのかな?」

「どうだろうな。エーレの方が準備できれば旅を中断して……ということもできる。ま、その時になったら考えればいいさ」


 脅威がなくなった以上、焦る必要はない……人間にとって時間は有限とはいえ、この旅も無駄になるってわけじゃないんだ。少しずつ進んでいこう。


「でも、なんというか勇者として称えられることは少なくなるかもね」


 さらにミリーは続ける。


「魔物と戦うにしても、魔王に挑むために頑張るなんて機会は少なそうだし……」

「その辺りどうするかは、エーレに都度相談すればいいさ」

「……いずれ名を残すことになっても、セディの名がこれ以上現代で広がらないというのは、少し寂しいかも」


 そんな言葉が彼女の口から漏れた。俺は「そうか?」と応じたが、フィンやカレンなんかも同じらしく、


「俺としてはセディが有名になっていくことも一つの楽しみだったんだが」

「私は兄さんの名が知れ渡ることで、とても嬉しく思いました」

「そうか……俺としては今のままで十分だとは思うけどな……ま、人間達に害するような存在がいれば戦うわけだし、今までと比べて名声を得る機会は少なくなるかもしれないけど……評価はもらえるさ」


 俺は別に名誉のために戦っていたわけじゃないし……このくらいが丁度いい。


「さて、話を戻すか。新たな旅が始まったわけだけど……当面の目標を決めようか。期間も特に設けられていないし、なおかつ今までの旅路をなぞるものだけど……こへ着いたらどうするか、みたいな目的地は決めておこう」

「それなら兄さん、ジクレイト王国はどうでしょうか?」


 カレンが提案。お、それは良さそうだな。


「そこがいいわね」

「俺もそう思うぞ」


 ミリーとフィンも相次いで同意。ならば、


「勇者ラダンとの戦いも終わったし、挨拶はしておきたいかな……女王は既に知っているだろうけど、顔は出しておこう」

「なら、決まりですね」

「ああ。目的地はジクレイト王国……それまで、真実を知るが故の旅をやろう」


 そうして俺達は街道を進んでいく……これから待ち受けるのは平坦な道ではない。場合によっては、勇者ラダンと戦った以上の苦難が待ち受けているだろう。

 けれど、それを乗り越えた先に……良い未来があると信じて、俺はただ突き進んでいくしかない。


 厳しい道のりではあるが、不安はなかった。周囲には俺を知る仲間がいる。そして因縁の相手と思われていた魔王も、途轍もなく遠い存在だと考えていた神々も、今は俺の近くに立っている。

 彼らと共に、進んでいく……それだけで、後押しされているような気がした。今はまだ未熟だけれど、いつか……自分一人で立てる日が来るまで、頑張り続けよう。


 俺達は談笑しながら街道を歩む。その道の先は、光り輝いているように見えた。


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