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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
世界覚醒編
422/428

最高にして最強の勇者

「本当に、素晴らしいな勇者セディ。君の力はまさしく天下を極めたものだ……まさか『原初の力』でさえも、勝ってみせるとは」

「別に『原初の力』を直接相手にしたわけではないが……な!」


 俺は追撃を掛ける。暴走しているのは明白。ここで仕留めることができれば、勝利になるはず――

 しかしラダンは俺の剣を受けた。そればかり押し返し、距離を開ける。こちらはすかさず斬り込もうとしたが……隙のなさを理解し、動くのをやめた。


「ほう、さすがに気付くか」

「まだ、何かあると?」

「いやいや、あくまで手があるように見せかけているだけだ。実際は、これ以上手はない」


 だがラダンの語った言葉からは、まだ何かあるような雰囲気が見え隠れする。

 あるいは、そうこちらへ感じさせるほどに芝居が上手いか……実際、経験については彼の方が圧倒的に上だ。俺は比較にならない。何せ相手は、伝説の勇者だ。


「……ふむ、能力に優劣を付ける気はないが、一つ語ろうか。勇者としての格は、間違いなく君の方が上だ」

「何?」

「当然だろう。私は確かに、人の歴史に名を残すような勇者となった。多大な貢献を成した。しかし魔王という存在を倒せた以上、君が紛れもなく最高の勇者であり、最強の勇者だ」


 俺としては微妙な気持ちだった。ただそれは、大いなる真実を知り、魔王が敵でないことを知っているからだろうか。


「人々なら誰もが夢想した偉業を君は成し遂げた。誇るようなことはないだろうが、君は間違いなく最強だ。歴史に名を刻むのは、これからの話であり、私の名よりも君が上を行くことになるのは間違いない」

「……俺の戦いは、決して語られないものだぞ?」

「大いなる真実を白日に晒す時が来れば、君の功績が刻まれる。世界の真実を知り、世界の成り立ちを変えた存在……第一人者だと」


 ラダンは笑みを浮かべた。それはこれまでの嘲笑したものではなく、皮肉を込めたもの。ただその対象は、俺ではなく自分自身のようだった。


「まったく、私は世界を変えるために力を手にした……しかし、世界をどうするべきかをまったく考えていなかった。勇者セディ、まさしく君の言う通りだ。私が例え『原初の力』を完全に手にして世界を作り替えても……おそらく自滅するのが答えだろう」


 認めた――時間稼ぎか? いや、ラダンが何かをしているような素振りはない。


「だが、私にはこれしかなかった……認めろなどとは言わん。だが、こういう勇者がいたのだと、理解しておいてくれればいい」

「……あんたは」


 俺はここで、一つ問い掛ける。胸に秘めていた疑問を、ぶつけたかった。


「あんたは仲間を手に掛けたのか?」

「ほう……? なぜそのようなことを聞く?」

「あんたの仲間だった人間の手記を見た。妄執に囚われた姿……それを見て、止めなければならないと」

「……そういえばアイツを始末した時に、ゴタゴタして紛失したな」


 やはり仲間を……沈黙しているとラダンは肩をすくめた。


「なに、その時の私は邪魔な存在がいたと思った程度だ。もし阻むのであれば、例え仲間であっても許さない……私はそう警告した。そして相手は、自分の正義に基づいて動いた」


 ラダンは笑う。同時に彼の体から魔力が漏れる。

 それは明らかに人とは違う『原初の力』……彼は身の内で暴れている力を必死で制御している。もし手放せば、たちまち大気へ拡散し、消え果てるだろう。


「ただそれだけの話だ……彼は未来のことをどう考えていたのかわからない。だがもしかすると、こんな結末を予期して止めようとしたのかもしれないな。今の私には悲しさも、怒りもない。ただ、そうだな……寂しさはあるな。様々なものを犠牲にして得たものが、これだからな」


 ラダンは無理矢理抑え込む。まだ彼は戦おうとしている。


「私の力を滅したのは大正解だ。これ以上力を手放せば、制御できず『原初の力』は消え失せる」

「なら、仕留めさせてもらう」

「ならばこちらはできる限り応じよう」


 ラダンが先に仕掛けた。その動きに驚きながらも俺は剣を構え、応じる。

 火花さえ散る剣閃が交差する。持てる力を降り注いで俺を仕留めようとする。だが、内なる力を抑えている反動か、動きがずいぶんと直情的だった。これなら読むことも難しくない……!


 ならば――俺は一瞬の隙を突いて、剣を入れた。傷を負わせるような威力でなくていい。魔力を削り、ラダンが持っている『原初の力』を霧散させるために、動けばいい。

 だが、俺の剣は……入ったが、変化はなかった。魔力が削れない。いや、これは――


「盾にしたのか……!」

「そういうことだ!」


 ラダンは叫び、攻勢を掛ける。簡単な話だ。ラダンは『原初の力』を操るために自らの魔力を前面に押し出していた。ならば逆――『原初の力』に自らの力を入れ込むことで、盾にした。

 これでは魔力を削るにも、狙うことができない。ただ彼の力はある程度表層に出しておく必要はあるだろうから、間隙を縫うような剣戟で魔力を減らすこともできる。


 あるいは、ラダンは魔力を制御するために自分の力を使っている以上、長期戦は難しいはず。ならばこのまま持久戦に――とはいえ、彼の剣は鋭く、少しでも力を抜けば当たりそうだ。もし一撃当たればそれで勝負が決まってしまう。動きが直情的でも、俺は全力で戦わなければならない。

 フィンやミリーについては攻撃が通用するようになったわけではないので援護がキツイ。そうなると……この戦い、体力勝負という形になる。


「気付いたようだな!」


 ラダンが叫ぶ。


「まだ私に勝ちの目はある。君を仕留めれば、同じように戦える者はいないだろうからな!」


 確かに、俺の技術はこの場で編み出したもの。カレンがそれを再現することは不可能だろうし、ましてこの場の誰かがそれを習得する可能性は低い。

 だが……俺は足を前に出した。少しでも後退すれば押し負ける。そう確信したからだった。


「最後の最後で力勝負か……これだから、戦いとは面白い!」


 好戦的な笑みを見せ、ラダンは叫ぶ。実力は伯仲。世界を賭けた最後の戦いは、その終局はずいぶんとシンプルな様相を呈しようとしていた。


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