最大の急所
正直、俺自身思い浮かんだ考えが正しいかもわからない。しかし、無策で突撃するよりはよっぽどいいし、直感でいけるのではと考えた。よって俺は、ラダンへ仕掛ける。
「さて、どこまで抗えるのか」
ラダンが声を発すると同時、俺の剣を受けた。相変わらず強固であり、彼に傷一つつけられない。
「とはいえ、後がつかえているからな。策もなければ私もそろそろ終わりにするぞ?」
俺は何も答えずさらに剣を振る。それにラダンは応じて剣を受けた。
「君はこの時まで、間違いなく最強だった……しかし、それも今日で終わる」
「それは、どうかな?」
不敵な笑みを浮かべ俺は応じた。ラダンはどこまでも嘲るような笑みを作り、
「やせ我慢もここまで来ると大概だな……では、終わりにしようか」
彼が剣を弾き飛ばす。衝撃で大きく後退した俺に対し、ラダンは前に出た。
呼吸を整える。ミリーやフィンも援護するべく迫ろうとしているが、おそらく止めることはできないだろう。もしここで俺がラダンの剣を受けきれなかったら、負けだ。
「さあ、終幕だ!」
ラダンの刃が俺へ迫る。驚異的な速度であり、少しでも回避のタイミングが遅れていたら、頭に叩き込まれていたことだろう。
だがエーレと戦った時のような圧倒的な雰囲気はない。それと同時に俺は内心で悟る。ラダンは『原初の力』を掌握しているが、それはまだまだ未完成。俺との戦いで、制御するために色々とやっているのだ。だからこそ、わざわざ交戦している。
それはラダンからすれば、これから始まる戦いの準備運動程度のものか。しかし、
「――はああっ!」
声と共に俺は剣を一閃した。ラダンの持つ剣とかみ合い、金属音が天高く響く。
「まだそんな力が残っていたか!」
ギリギリと鍔迫り合いになりながら、俺は魔力を高める。正直、通用するかわからない。そもそもぶっつけ本番で新たな技を決めようとしている。だが、ここでやらなければ、俺は負ける。
だから――反撃に転じるまでの一瞬に、様々なことが思い浮かんだ。それは泡のように浮かび上がっては消えるもの。走馬灯――そんな風にも思えたが、現れては消える記憶達が、俺に勝てと呼び掛けた。
思い出せ、エーレと戦った時のことを。思い出せ、世界を管理するという名目で戦い続けた経験。思い出せ、主神と戦い認められたことを。
今負ければ、全てが消える。だから――俺は、あらん限りの力を込めて、叫ぶ!
「――ああああああっ!」
その一瞬だけは、ラダンの顔が驚愕に満ちた。ただそれは、無様にやられるだけの存在が、まさかここまで抵抗するとは、という雰囲気に満ちたもの。
よって、続けざまに放った俺の一撃も、ラダンは回避することなく受けた。いや、彼からすればこれを受けて今度こそ心を折ろうと思ったのだろう。
だが、その考えが――ラダンは距離を置く。援護に回ろうとしたフィンとミリーも異変を察し、立ち止まった。
「……貴様」
俺へ驚愕の声を投げるラダン。先ほどまでの余裕は、完全に消え失せた。
「貴様……何をした……!?」
「答えは言えないな。自分の身に起こったことだ。何をされたか当ててみればいいじゃないか」
俺は駆けた。ラダンに肉薄し二撃目を加えようとした。だが彼はそこで後退した。この戦いで初めて、彼が消極的になった。とはいえそれは、あくまで自分の体を確認しようという思惑だ。
「何を……一体……!?」
だが答えは出せない。そこへ俺が迫る。ラダンは即座に迎撃しようとしたが、今度は力が上手く扱えなかったか、俺の剣を受けるとすぐさま押された。
「な、に……!?」
驚愕し、声を振り絞りながら応じるラダン。俺の策は間違いなく成功している。とはいえ、まだ終わりじゃない。
状況を理解できたら、彼はすぐさま対応策を実行するだろう。とはいえ、それが果たして可能なのか微妙なところだ。正直、策を講じたらそれだけでラダンにとっては命取りになるかもしれない――俺が狙ったのは、そういう急所だった。
俺の剣を受けきれず、ラダンはさらに後退する。だがその隙に生じてミリーの剣が、ラダンの脇腹を抉った。それは傷を負わせることはできなかった。しかし、俺がさらなる剣戟を叩き込むだけの余裕を生んだのは確かだった。
容赦なく、追撃の剣をラダンの身へ入れた。相変わらず防御力は維持したままで、彼の体に傷はない。だが彼の顔は明らかに動揺していた。そして、
「貴様……私の……力を……!」
「そういうことだ……まあさすがに、一発で策が成功するとはビックリだけどさ」
単純な話だった。ラダンは『原初の力』を利用して俺を倒そうとしていたわけだが、ここで疑問が生じる。ラダン本来の力と『原初の力』は一つになったわけだが、それは完璧に融合したのだろうか?
答えは否……いや、最終的にそういう形へ持っていこうとはするだろう。けれど今はできない。というより、もし力と一つになったら『原初の力』の方が圧倒的に勝つ。下手すれば自我を失うだろう。
だから形式的に、ラダンは身の内に宿した『原初の力』を自らが持っている本来の力……つまり人間の魔力によって制御している。生来の力を利用し『原初の力』を道具として利用しているわけだ。よって、それを操作することができなくなれば、制御が困難となりラダンは自らに宿した力に食い殺される可能性が出てくる。
そう思い、俺は方針を変えた。直接『原初の力』と戦うのではなく、勇者ラダンが持っている力を狙って魔力を削る……意識を集中させれば二つの力に差違があるのはわかった。けれどラダンの力を狙って斬るというのはやったことがない……だがこれは土壇場で、それを成功させた。
「このまま力を暴走させたら、お前は『原初の力』に飲み込まれて消える……だろ? あるいは、自我が崩壊するか?」
「私も……試したことがないからわからんが……まともな結末でないことは確かだな」
返答の直後、俺は追撃を放つ。だがラダンはそれを大きく距離を開けることで回避した。剣で防がなかったのは、精密な動きができなくなったためか。
これならいけるか……そんな風に思うと同時、ラダンが俺を見据えていることに気付く。多少の沈黙が生まれ……やがて、彼が口を開いた。