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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
世界覚醒編

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強さの果て

 俺はラダンを見据え、考える。どうすれば、現状に対し抵抗できるのか。だが思考する間もラダンの攻勢は続く。執拗に俺だけを狙う剣戟。というより、俺さえ仕留めれば後は問題ないということか……事実、その通りだろう。


「さあ、もう一度攻めてくるか!? 次はもしかしたら通用するかもしれんぞ!」


 咆哮のような声と共に、ラダンは俺へ剣を振る。力を得たことによる高揚感なのか、それとも力の余波か、その口調も荒々しくなっていく。

 このまま暴走でもしてくれれば隙など生じる可能性もあるが……現状を踏まえるに、俺が力尽き方が早いかもしれないな。


 俺は距離を置こうとするのだが、ラダンはそれに追随して仕掛けてくる。フィンやミリーが援護に入るのだが……その全てを一太刀で防ぎ、吹き飛ばす。

 そもそも俺の攻撃も通用しない現状を考えれば、三人で猛攻を仕掛けても効果がない。ならばどうすれば……悩み続ける状況下で、いくつか候補を浮かび上がらせる。


 一つは、現状を維持し援護を期待すること。エーレ達はこの戦況をつぶさに理解しているはずで、どこかでクロエが来る可能性がある。彼女の剣戟が通用しなければ終わりだが、何かしら対応策を持って登場するかもしれない。

 もっともそれは魔王や主神によって作り出された策だろうと予想できるため、通用するかは未知数……ラダン自身、奇襲を妨げるために結界を構築したはずで、虚を衝くことができればという望みはある。ただ、それをするにしても俺自身ラダンに決定打を与えることができない。失敗すればそれで終了である以上、厳しいし連携を取るのも難しいため、成功率は限りなくゼロに近いだろう。


 次の策としては、ラダンの暴走を待つこと……苛烈に攻め立てるラダンの表情が、時折喜悦に染まる。たぶん力を掌握したことにより精神に影響が出始めている。俺と交戦することで、何かしら高揚感などが増幅しているかもしれない。

 彼が『原初の力』を完璧に使いこなせるかはわからない……というより、力そのものを手にしたのはこれが初めてのはずだ。文献などで調べてはいたはずだが、その身に宿すのは今回が初めてということで、予定外の事象が発生する可能性がある。つまり暴走だ。


 ただこれは、暴走したからといって事態が好転するかどうか賭けだ。ラダンが豹変してそれこそ無差別破壊のような行為に走ったら、彼の目的である世界を変革などというのは夢のまた夢だろう。しかし、その暴走状態により破壊活動が始まる……犠牲が生じる危険性を考慮すればとりたくはない選択肢だ。

 では次の策……力が消失するのを待つか。けれどこちらが消極的になったらラダンとしても動き方が変わるに違いない。『原初の力』のありかをおおよそ推察できる状況になっているため、ラダンは逃げるということはしないだろう。けれど、俺以外に標的を向ける可能性だってある……これも犠牲が出るに違いない。厳しい答えだ。


 なら、もう一つ――とはいえこれは策でも何でもない。ただそれをやらなければ勝てない、という結論のようなものだ。

 俺は反撃に転じる。全力でラダンの剣戟を弾くと、彼の体に一撃加える。相手は避ける素振りすら見せない。俺の心を砕こうとしているのがわかる。


「君の技量は惚れ惚れする。間違いなく勇者……最高の勇者だ」


 称賛の声を発すると、ラダンへ俺の剣を弾き飛ばした。


「君以上に剣術を極めている勇者はたくさんいる……魔法技術に卓越した人間も多い。しかし、君はそのどれも上回るだけのポテンシャルがある。相手の技量を真似る能力。そして絶対にやられないという不屈の精神。何より魔族や魔物との戦いに裏打ちされた経験。君以上に強い勇者はいるにしても、君ほど対峙して危険だと思わせる人間はいなかった」

「褒めてもらって恐縮だが……別に俺は最強なんてものを目指しているわけじゃない」

「そうだろうな。君は純粋に、世界を救うため……魔王を討つために修行を行っただけだ。強くなりたいというのはあくまで手段であり目的ではない。君が求めるものは、強さの果てにある」


 ラダンは一度構えを崩した。けれどやはり隙だらけといった状態ではない。


「そういう明確な指標がある故に、君は強い。信念、と言い換えても良いかもしれない……その結果、君はどうやら明確な選択をしようとしている」


 ラダンは笑みを浮かべる。俺の出そうとしている答えを確信し、それを馬鹿にでもするかのように。


「逃げることはできない、待つのも望みは薄い。ならば前に進む……だからこそ君は、私と戦うことを選んだ。自らの力を信じ、戦いの中で強くなり私を倒そうという決意だ」


 正解だ……戦いの中で成長する。策とは言えず、無謀だと断言できる。

 だが、それを果たせなければ俺はラダンを倒せない……呼吸を整える。ではどのようにしてラダンを倒すのか。


 俺が持っている手札は少ない。有力と言えるのはラダンから神魔の力を模倣した能力だが、今は『原初の力』を得てしまった。これが通用するかはわからない。

 しかし……俺はここで一つ頭に思い浮かべる。それは光明か、それとも単なる勘違いか――


 俺はラダンへ仕掛けた。一閃に対し相手はやはり避けることはなかった。剣が直撃したが、ラダンは表情一つ変えない。


「いかに君とて、『原初の力』を模倣するなどということはできまい!」


 叫び、ラダンは反撃に転じる。鋭い剣に俺はどうにか対処するが、受け止めた両腕も使っている剣も悲鳴を上げる。やはり、それほど長くはもたないか……!

 それが数度繰り返され、俺はもう一度距離をとった。フィンやミリーは動けない。カレンも魔法を撃つタイミングを逃し棒立ちのような状況。打ち手無し……そんな風に見える。


「これで終わりか? 絶望するのは早かったが……」

「……いや」


 俺は否定し、剣を構える。同時にいくらか自分の能力を振り返り、どうすべきか戦術を組み立てる。


「まだ、終わりじゃない」

「ほう、反抗するか。ならばどうする? この状況下でいくら打ち合ってもみても、何ら意味を持たないぞ?」


 ラダンは余裕の構え。俺の剣をあえて受けている状況……ならば、


「まだ、終わらない……終わらせない!」


 叫び、突撃を敢行する。それに対しラダンは、どこまでも醜悪な笑みを見せ続けた。


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