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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
国家潜入編
42/428

事件の終わりと女王の願い

 その後、古竜を討伐したことにより女王は帰還命令を出した。そこでようやく女王は騎士達に事のあらましを話し、彼らもケビンが女王の命を狙っていたと理解した。

 ケビンは拘束されながら、一足先にガラファへと送られることとなった。そして女王は念の為行きと変わらぬ護衛や警備体制で移動を始め――


「本当に、感謝せねばなりませんね」


 移動を始めて一日目の野営時、俺と女王は二人きりのテントの中で話しあいの席を設けることとなった。椅子に座る女王に、俺は立ったまま向かい合って話をする。


「此度の戦い、セディ様の援護がなければ甚大な被害……そればかりでなく、私の命すらも危ういところでした」


 告げると、女王は笑った。


「何か、ご要望などはありますか?」

「いえ、特には――」


 と、答えたところで今回の顛末について疑問がよぎる。なので、俺は女王から返してもらったペンダントを懐から取り出し、


「……このペンダントから、ケビンの魔力を感じ取り、犯人だと断定したんですよね?」

「はい。私の身につける魔法具には魔力を判別するものがあります。ケビンも悪魔達に指示を送るために、自身の魔力を加える必要があったのでしょう。これを見つけて頂いたことも、感謝せねばなりません」


 そこまで言うと、女王は思い出したように声を上げる。


「ああ、セディ様に一つご報告しておかなければなりませんね」

「どうしました?」

「ケビンの動機についてです。少しばかり魔法を使い、事情を話していただきました」


 女王の言葉に、俺は顔を強張らせ言葉を待つ。


「彼の目的は、私から部屋の鍵を奪い魔法書の成果を盗み出すことでした。そうした情報を欲していた何者かと繋がりがあったようで、情報を横流ししようと企んでいたのです」

「なぜ、そんなことを?」

「力を得るため、だそうです」

「力……」


 答えに、グランホークのことを思い出す。


「力を手に入れるため……魔族に加担を?」

「ええ。彼は騎士としての腕前ではなく、側近としての役割が非常に優れていました。けれど、彼は力を欲していた。それを必死に押し殺しつつも、どんどん肥大化していき……やがて、力を手に入れこの国を奪おうと考えるようになったようです」

「無茶苦茶ですね」

「もしかすると、何者かと出会った時、そう考えるよう頭に植え付けられたのかもしれません。実際、彼の言動は支離滅裂なところがありますから」


 女王は語ると、どこか寂しそうな表情をした。


「本当に、残念です……表向きは非常に優れた騎士でした。私自身も彼のことを信頼し、部屋に入れようかと考えていたところでした……非常に、危なかった」


 そこまで言うと、女王は顔を戻す。


「次にここまでの経緯をご説明します。彼は裏で繋がった何者かに吹き込まれ、私から鍵を奪おうと画策します。そして魔物を生み出す技術をもらい、私を襲撃しました。そして護衛が必要だと進言し、ケビンは私の部屋に入り鍵を奪おうと考えたようです……また、この技術については私の予想した通り実験の意味も含まれていると、相手から教えられたとのこと」

「なるほど……それで、古竜との関係は?」

「活発に動き始めたのは偶然だった……しかし、襲撃を繰り返しても上手くいかなかったケビンは、古竜を利用しようと考えた。そして何者かの協力を得て古竜を洗脳し、傀儡とした。断続的に城内で仕掛けつつも、私を外へ誘導し、古竜を使って鍵を奪おうとしたようです」


 女王はそこで一拍置き、ゆっくりと息をついてから、改めて話し始める。


「ロシェは私のことを危惧し嘘の報告をしていたようですが、ケビンは計画のため正確な報告をした。私は狙われていても、古竜と因縁があったため、出陣しようと決めていた。その折、レナやセディ様が現れた」

「そして、俺達が女王の護衛を……」

「はい。予定外の動きだったため、彼はセディ様を殺そうと画策した……けれど、通常の魔物や悪魔では刃が立たず、あまつさえ古竜すら追い返してしまった。ケビンは動揺し、あの総力戦が行われることとなった」


 ――どうやら、俺は相手の見立てをことごとく跳ね返していたらしい。


「悪魔を集結させ、伏兵を仕込んだ……その中で、何者かが強力な悪魔を司令塔として一体融通した。ですが結果として古竜は敗れ、裏切りがバレてしまった……これが、事の顛末です」

「……わかりました」


 俺は神妙に頷きつつ応じた。

 今回主導的に女王を狙っていた人物が捕まった以上、一連の事件は収束するだろう。けれど、根本的な部分は解決していない。


「女王、ケビンと繋がっていた存在とは?」

「そこは本人に訊いても魔法使いとしか答えませんでした。おそらく、ケビンも正体が何者か知らないのでしょう」

「真実は、闇の中というわけですか」


 十中八九魔族の仕業なのだろうが――ガージェンの言った通り、尻尾を掴むことはできないようだ。しかしケビンが事情を知らない以上、大いなる真実について露見するようなことにはならなそうだ。

 一応、安心できる結果。けれど、これは絶対に解決しなければいけない。なぜなら――


「女王、一つだけお伝えしたいことが」

「何でしょうか?」

「見つかったペンダントについてです」


 前置きをして、俺はグランホークに関する簡単な概要を説明する。


「その魔族も、似たようなペンダントを所持していました。つまり、その件と今回の件は根っこの部分で繋がっているというわけです」

「そうですか……魔王を倒そうとする勢力……」


 女王は口元に手を当て、何やら考え始める。


「わかりました。もし何かあれば、私もご協力致します」

「ありがとうございます」


 頭を下げる。途端に、女王から笑い声が漏れた。


「本当に、不思議なものですね」


 顔を上げる。そこには満面の笑みを浮かべた女王の姿。


「今回の件で私も痛感しました。管理の中で、セディ様のように人間側で優れた力を持つ方も必要だと」

「……それは、どうしてですか?」

「古竜については私の都合も含めているので割愛しますが、ジクレイトのように閉鎖的な場所では、大変重要な役割を担うでしょう。緊急事態において速やかに連絡することや、魔族の方々ではどうにもできないことに関して、迅速に対応できる」


 ――言葉の瞬間、俺は高揚感を覚えた。


 どうしてなのかと頭の中で考えると、人間……しかも女王という立場の存在に、役割を認めてもらったからだと理解する。


「……ありがとうございます」


 だから再度一礼した。個人的なお礼のつもりで述べた言葉であり、女王はしかと意を汲んだようで、


「はい。改めて、よろしくお願いします」


 女王は優しく告げた。


「これからセディ様はこの件を追うことになるでしょう。忙しくなるかと思うので、お体の方、ご自愛ください」

「はい」


 応じて、これからのことを考える。ひとまず任務は終了となるので、後は――


「シアナをどうするかについてですが……」

「それなら連絡が来ています。ケビンが捕まって以後魔物の出現も無くなったそうで、城を出たとのこと。あ、念の為魔法陣も全て破壊したそうです」

「そうですか、なら俺はガラファへ到着する前にお別れになりますね」


 仲間のこともあるので、街には戻らない方がいいだろう。合流したら魔王城に戻ろうと決意する。


「シアナが来たら、退散させて頂きます」

「わかりました……」


 と、女王は一度目を伏せる。先ほどまでと表情が変わったため、俺は首を傾げた。


「どうしましたか?」

「……セディ様」

「はい」

「一つだけ、確認させてください」


 そう言って、女王は俺に尋ねた――






 二日目の野営時、俺は隊を脱し森の中を進んでいた。


 道中で街道を進んでいたリーデスと遭遇し「シアナ様とも合流した」と連絡を受け取っていた。だからこそ、俺はこうして一人歩を進め――


「ファールン」


 やや開けた場所に到着して、呼び掛けた。途端に、鼓動がほんの少し速くなる。


「はい」


 そうして現れたのは、漆黒の衣装に身を包んだファールン。

 前と同様木の枝から降りる姿を見て、ふと疑問が浮かぶ。


「もしかして、普段は木の上にいるのか?」

「誰かが現れても、見えにくいですから」

「ああ、そっか」

「そんなケースは少ないですけどね」


 次に、森の奥からシアナの声。真正面から茂みを進む音が聞こえ、漆黒のドレスを着た彼女が姿を現した。

 隣にはリーデス。これで、メンバー勢ぞろいとなるわけだが――


「どうしたの? 夜帰るのは不自然じゃない?」


 リーデスが尋ねる。俺は「そうだな」と応じつつ、一度大きく深呼吸をした。


「どうしましたか?」


 態度に気付いたかシアナが問う。俺は彼女を一瞥し、


「……大事な話がある」

「話、ですか?」


 首を傾げる彼女。そこで俺は――


「いや、俺じゃない……この人だ」


 そう言って、俺は『繋いでいた』右手を離した。


 瞬間、横手に新たな人物が出現する。それは、


「……え?」


 俺を覗く全員が相手を見て驚愕する。当然だ。

 その人物は――女王なのだから。


「ファールン……」


 当の女王は名を呼び視線でファールンを射抜く。対する彼女は、硬直し動けない。


「別に俺の独断で連れてきたわけじゃない」


 そこで俺は、シアナ達へ解説する。


「最後の戦いの時……ファールンが伏兵の悪魔と交戦した時、魔力に気付いたらしい」


 一日目の野営で告げた女王の言葉は、それだった。訊かれた時心臓が止まりそうだったのだが、その後続いた言葉によって、俺は女王とファールンを引き合わせることを決意した。

 やり方としては、俺が見張り当番の時ミリーから借り受けた気配を断つ魔法を使用し、女王を案内する。


 正直、結構無理をしている気がする……のだが、どうしても女王は会いたかったのだ。


「シアナ様。私がどうしてもと言ったので、セディ様を責めないようお願いします」


 女王はフォローを入れる。対するシアナは頷くだけ。言葉を失っている。

 そうした中で、女王はゆっくりとファールンへと歩み始めた。


「アスリ……様……」


 ファールンは呻くように女王の名を告げる。女王に見つめられ、石化したようになっている。


「……ファールン」


 再度女王は呼び掛け、ファールンの前に到達し――

 唐突に、女王は彼女を抱きしめた。


「っ……!?」

「……本当に」


 女王はさらに語り、そこで言葉を失くしたか一度口を固く結ぶ。対するファールンは動けず、ただ女王の動きに身を任せるしかなかったが、やがて――


「……良かった」


 涙の混じる声で、女王が言葉を漏らした。


「ずっと、後悔していた。ファールンがいなくなって……私のせいで、ファールンがいなくなってしまったから……」

「アスリ、様」


 ファールンが名を呼ぶ。すると女王は体を離し、一度袖で涙を拭った。


「ごめんなさい……取り乱してしまった」


 そう言って笑うと、今度はシアナへと首をやる。


「シアナ様、セディ様より事情は伺っております」

「……申し訳、ありませんでした」


 シアナは深々と頭を下げる。けれど、女王は首を左右に振った。


「いえ、あなた方の責任ではありません。全ては、ファールンを止めることのできなかった私により引き起こされたもの。けれど」


 言って、女王は再度ファールンへ視線を送った。


「こうして、ファールンと再会することができましたから、感謝せねばなりません」


 女王の言葉に、シアナは顔を上げ黙したまま。けれど、その瞳には多少ながら安堵の色が窺えた。


「……女王」


 そこで、今度は俺が声を上げる。


「レナが護衛から戻るまでの時間ですが、しばしお話しても――」

「いえ、もう戻りましょう。長居していては怪しまれます」


 女王は答え、ファールンへ背中を向ける。


「ファールン」


 けれど、最後に一つだけ質問をした。


「また、会えるわよね?」

「……はい」


 問いに、ファールンは穏やかに答えた――






「悪い、驚かせるような真似をして」


 俺は女王をテントへ戻し、レナと交代し改めてシアナ達と話をすることにした。


「女王がどうしても会っておきたいと言ったから」

「いえ、露見してしまった以上、いつかはこうなるわけでしたし」


 俺の言葉にシアナが返答する。


「それと……なんというか、私達も配慮が足らなかったと知ることができました」

「配慮?」

「人の気持ちは変わっていく……私達は女王が取り乱していた様子を見て、隠すべきだと判断し今日まで過ごしていました。けれど気持ちに変化に気付き、女王が後悔していることを知っていたら、もっと早く解決できたかもしれません」


 シアナは少しばかり落ち込む。隣に控えるファールンも同じように感じているのか、やや俯いている。

 けれどリーデスは、小さく肩をすくめた。


「ま、それがわかる術がなかったのが、一番の問題かな」

「……というと?」


 聞き返すと、リーデスは目を細めた。


「今回は魔物の不祥事により、ずっと隠していたわけだけど……そうした問題を解決できる存在が今までいなかったということさ。今回はセディが人間で、しかも勇者だからこそ踏み込むことができた。きっとセディの立ち位置が魔族だったら、こんなにも円滑に解決はしなかっただろう」


 ――彼の言う通り、最後の戦いでファールンの魔力に気付けても、俺が魔族であったならば話すのに二の足を踏んだかもしれない。


「人間と魔族の溝は深いからね。その境界を少しでも取り払うことのできる存在が必要なのは、今回の事例から明白だ。今後の課題だね」


 リーデスはそう言葉を結び、今度はシアナへ目をやった。


「さてシアナ様……明日セディと共にここを離れるわけですが……今後の予定は?」

「あ、はい」


 話題転換にシアナは反応。すぐさま俺達を一瞥し、


「魔王城に戻る……のですが、どうやら来客があるとのことなので、ひとまず任務ではなくそちらの対応をすることになります」

「来客?」


 魔王城に来客なんてあるのか……考えていると、シアナは俺に顔を向けた。


「お姉さまは、その相手をセディ様にやってもらいたいようです」

「それは、管理的な意味合いで?」

「はい」

「事件の方は大丈夫なのか?」

「ある程度情報をまとめない限り、動きようもないです」

「そっか。で、相手って?」


 どうやら任務を外れ、少しばかり精神的には楽なことができそうだ――そういう風に思った時、


「女神、アミリース様です」


 シアナはとんでもない名前を出した――

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